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Question
Answer#1 The Violence 12.4

Answer#1:The Violence  2001/12/4

ここに、クエスチョンと言う名の女がいるのです。
自分の輪郭を問うのです。敢えて、私の愛するこの場所で。


初めてそうしたのはいつのことだったか思い出せないけれど、間違いなく私は加害者であった。
あの朝、塗りたてのニスの匂いが床から立ち上る教室で、全てを煩わしく感じていた。
何よりも煩わしかったのは、隣の席の友人の泣き声と彼女をからかって楽しんでいる男子生徒の笑い声。
この煩わしさを生むものは、勿論、正義感などでないことは言うまでもない。
私は胸にむせ返る…それは嘔吐感に似ていた。今にも流れ出しそうだった。それを抑えながら、私はただひたすら削っていた。

赤鉛筆を。

それは私にしてみれば、ちょっとした手加減のつもりだったのだ。
「赤鉛筆の芯は、普通の鉛筆の芯よりも柔らかい」。テレビか何かで見たことがあった。

電動の鉛筆削りの機械音。削り口に鉛筆を差し込むたびに、振動が腕に伝わった。
それはむしろ、私の胸の奏でるリズムと一緒に鳴って揺れていた。
早く泣き声が止めばいい、そう思いながら削る。でないと、もう止められないじゃないか?
削り過ぎて、何度も芯は折れていた。それでも、嘔吐感を抑えるために削っていた。見る間に短くなった赤鉛筆は、今にも吐きそうになって手を止めた時にはこれ以上無いほどに尖っていた。
私は、ちらりと隣の席を見た。
男子生徒は泣き続ける友達の手をつねりながら、未だに悪ふざけを続けていた。
今思えば、これは単に行為の対象を決定しただけに過ぎないのだろう。彼が悪ふざけを既に止めていて、それでも彼女が泣き続けていたのなら…私は彼女を対象にしただろう。間違いなく。

私は何気なく、ゆらりと手を挙げた。
目の高さにある赤鉛筆の芯は微妙な光沢があって、キレイだった。
そう言えば低学年の頃、詩を書いたことがあった。色鉛筆の芯は光って宝石のように見える…私の色鉛筆入れは宝石箱だと、そんな内容で。さすがにもうそうは考えないけれど、これが嘔吐感を止めてくれるのならそれなりに素晴らしいもののように思えた。

あれ? もう駄目だ。もう良いよね。
躊躇しているうちに、もっと気持ち悪くなってきた…。
早く刺そう。
刺さなきゃ。
でないと吐いてしまう。

私は刺した。
彼の手を、私は刺した。
赤鉛筆で、刺した。

友人の泣き声が、一瞬止んだ。
何秒もかからないうちに、男子生徒が大声を出して泣き出した。
私は逃れようとする彼の手を掴んで、もう一度刺した。
それは誤算だった。泣き声を止めたかったのに、何なんだ? この耳障りな音は?
この存在ごと泣き声が消えればいい、そう思って何度も刺した。
必死だった。

先生が慌てて止めに入り、私は押さえつけられた。握った手のひらを開いたら、ばらばらと芯棒ごと折れた赤鉛筆の破片が床に落ちた。床に目を落とすと、小さな赤い点がいくつも付いていた。あ、そうだ。血だ、これは。てことは結構深く刺せたんだなあと、思った。
間に入った先生と泣き叫ぶ男子生徒を前に、私は言った。
「だって、アヤコちゃんをいじめて泣かせるから…だから怒ったの」
あ、早く私も泣かなきゃ…そう思ったら涙が出た。どのみち少し口惜しかったから、容易く泣けた。

案の定、先生は私を叱らなかった。予想通りだなあと思ったのを、今でもはっきり覚えている。


クエスチョンという女の輪郭を作ったものは何でしょうか。
皆様、もう、お分かりですよね?
最初の答えは、暴力です。

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