Gray Blood

〜灰色の血〜
同志いふると遊ぼう【前編】【後編】


 喫茶室での大騒ぎが終わり、クスハと燕鑑識官はレドリック・アッシャーと会っていた。
「ふむ‥‥彼らの技術も捨てたものではないな。そのBIOSの研究チームは、Gray Bloodなる死国の妖物を利用した薬品の研究を進めていたと聞いている。月華院大学の東宗司(アズマ・ソウジ)教授を訪ねるとよい」
 美貌の医師はスーツケースを確かめ、不用意に開かないようにと念を押した。開ければ必ず、その中身に誰かが“食われる”ことになるそうだ。だがロックの留め金部分には特殊な仕掛けがしてある。突起の奥の1mm角の正方形に小さな特殊センサーが備えつけられた部分があり、そこに銃弾や高速で射出される何かを正確に撃ち込むことができれば、暗証番号等を知らずとも開くことができるという。
「そんなことができる腕の持ち主がいるのですか?」
 燕鑑識官は思わず尋ねた。ハウンドの中にもそうはいないだろう。
「いるさ。このオーサカM○●Nになら何人もいる」 亡霊医師は見る者を虜にする嫣然とした微笑みを浮かべた。クスハと燕だけでなく、二人の影とクスハの秘幽体までもが、その美しさに心を打たれたかのようだった。
「――だからこそ、この街は魔界都市とも呼ばれるのだよ」
 東教授への紹介状をしたため終えると、レドリック・アッシャーは二人を診察室から送り出した。
「さらばだ、レディ。会えて楽しかったよ」 ちらりと時計に目をやる。
「世の中には患者をベッドに誘う美形医師もいるというが、あいにく私は忙しいのでね」

Gray Blood


 面々が旧ハウンド基地から出てきた時、もうあたりは夜になっていた。穢れた夜空に、さめざめと月が光っている。
「胞子の中でも月は見えるんだな」 イフリートはヴェールの奥から依頼人に声を発した。「あの月が満月になるとき、あんたを殺す」
 ミナギは名刺を差し出し、闇の中へと消えていった。名刺に書かれていたのはM○●N基底部――もう誰もいないBIOS本社施設だ。
 そのまま消えようとするイフリートを、マーチン刑事が慌てて引き止める。BIOSの場所を伝えると、伝説の殺し屋は一瞬で消えた。
 マーチン刑事はポケットロンを取り出し、クレムツ・ケンイチ博士死亡の事件ファイルを呼び出した。情報は最初に現場に到着したブラックハウンドが得たものだった。死体の第一発見者として、知った顔が写っていた。冷たい目をしたきつめの顔が画面から睨んでいる。
「おやおや、あんときのお嬢ちゃんかい。地下街にもいたね」
 マーチンは前にM○●Nに出張した時のことを思い出した。この若い女カブト――クスハとはその時にいろいろあったのだ。

GB cell Kulture Projekt


 夜も更けた。マーチン・ダグラスから連絡を受けたクスハは、燕鑑識官を伴って接触の場所へ赴いた。場所はテンペランス居住区域、ストリートの場末にあるクラブ。
 だがそこは――燕の同僚が手入れに踏みこむような類の、若い女が決して一人では行かないような類の店だった。
 二人を止めてきたスキンヘッドの大男をクスハが眼力だけで退かせ、中に入る。N◎VAの有名な“ヤロール”もかくやの光景が広がっていた。頭上で光が舞い、ステージの上でほぼ全裸の女が艶かしい踊りを踊っている。ボンテージファッションの店員たちが得体の知れない飲み物を運んでいた。客は大戦帰りのようなサイバーパーツ剥き出しのワイアヘッドから狼男のポーザー、クスハと同族のヒルコと思われる者もいる。
 しばらく店内を見渡すと――探しているオーストラリア人が見つかった。ゆったりしたテーブル席で一杯やっている。横にはやけに露出度の高い服を来た金髪の女がしなだれかかり、ご機嫌な様子だ。その手が女の肩から腰に回り、相手が嬌声を上げている。
 冷たい目でクスハが席に近寄ると、勤務態度不良の刑事は何か囁き、金髪女は席を外した。そのでれでれした表情が余計クスハの気に障った。マーチン・ダグラスの周りには鼻につく香水の香りが漂っている。
「安っぽい香水ね。女物までつけるようになったの」
「M○●Nの店の女じゃこんなもんだろう」 バツイチの刑事はそ知らぬ顔でビールを傾けた。「いきなりずいぶんなご挨拶だな」
 店内で出されている飲み物はどれも得体の知れないものだったが、どこから見つけてきたのか、マーチンはAXYZ産の瓶ビールを飲んでいた。少しは安心というわけだ。
 クスハは腰を振りながら歩いている店員の女を呼び止めると、トレイの上から飲み物をひったくるように取り上げた。気持ちの悪い紫色で泡を吹いている。だが元からヒルコのクスハには関係ない。一息で飲み干すとグラスをテーブルの上にどんと置く。
「で、そっちは」
「知り合いよ。博士が殺された時の事件にちょうど来てくれたの」
「ええ。――ブラックハウンドMOONBASE鑑識課、ヨン・フィウォルです」
 どこか超然として控えていた燕巡査が口を開く。相手が黒犬と聞いた途端、マーチン刑事は飛びあがって姿勢を正すと敬礼した。
「おっとっと、こりゃ、ご苦労様です!」
 周りの目を少し気にしながら、燕巡査は席についた。
「気になさらないでください。こちらも個人的な事情で動いています」

 面々は顛末を互いに話した。クスハに謎のスーツケースを託して死んだクレムツ・シンイチ博士。現場に残されていた見慣れない薬莢は日本軍の一部で使われていたものだった。M○●Nに現れた残る行方不明者、クサマ・ミナギ博士はBIOS特別研究チームで、菌類の研究をしていたという。
 元より菌類は分裂して子孫を残し、増えていく。単純な生命体としては不死に近いのだ。特別研究チームが培養に成功した新種のそれは、哺乳類の体内に寄生し、宿主の体に能力を与え、永遠に生きるという。ミナギ博士は公式には既に死亡扱いになっていた。
 レドリック・アッシャーに紹介状を書いてもらった月華院大学のアズマ博士はバイオテクノロジーの権威だ。何か力になってくれるだろう。
 クスハはテーブルの下から問題のスーツケースを見せた。ロックと直結した、例の留め金部分のセンサーが内蔵された1mm四方の部分を示す。
「本当に腕のいいガン・スリンガーなら撃ち抜けるらしいよ」
 マーチンの方を冷たい目で睨む。「ま、アンタじゃ絶対無理だろうけどね」
「まぁ、できる奴も世界に何人かはいるだろうなぁ」 マーチンは煙草の煙を大きく吐き出した。
「そうですね」 燕鑑識官も考え込み、ハウンドのかつての凄腕たちのことを思い出していた。
「ビショップ先輩なら、できたかもしれないけど‥‥」


こうさくいん「わわわーここはもしかしていかがわしいBARでしゅかー?(゚o゚) 10代の人や女の人も読んでるのにマズイでしゅよ。ていうか財団のコンテンツでそんなことしていいんでしゅか〜Σ( ̄口 ̄;)」
ボス「さすがは汚れ系のマーチン刑事だ! カック悪Eというのは実にすがすがしいのう。すがすがしくてM○●Nの汚れた大気も芳しく香るようだ。今日は新境地を開拓しまくりだ! カレはRI財団コズムで一際異彩を放っているからのうヽ(´▽`)ノ」
こうさくいん「ていうか放ちすぎでしゅよー(笑) ノリが明らかに違うじゃないでしゅかーいいんでしゅかーΣ( ̄口 ̄;)」
ボス「何を言う。ニューロエイジは灰色の世界で唯一の答えなどない。高潔な魂と内なる正義に従って前に進む星也巡査のような若者がいれば、世の甘い渋いを噛み分けたマーチン刑事のような大人もいる。その両方が舞台に上るからこそ物語が生まれるのではないか。なぁに、どうせいつも出てこないマイナーキャラだしナ!ヽ(´▽`)ノ」
こうさくいん「なに喜んでるんでしゅかー。ううー逝ってよしキャラなんてヒドイでしゅよ〜(>_<)」

Gray Blood


 月が冷たく光っていた。胞子まじりの汚染した夜気を通過し、その光はやや赤みがかって死国の地表を照らしている。
「月も昇ったか」
 伝説が声を発した。長衣の人影が崖から見下ろす下にはBIOS研究所の廃墟があった。
 こんな場所にマスクもせずに来たのか、イフリートよ。
長衣を靡かせ、世界最高の暗殺者は身を躍らせた。月光がその腕飾りを煌かせた時、伝説は姿を消した。

 イフリートは廃墟の中を歩いていた。あちこちに死体が散らばっている。灰色の不定形の生き物が物陰から現れ、新鮮な獲物を吸収しようと襲いかかってきた。だがイフリートは伝説だ。中東を震撼させた“イフリート・ショック”の根源だ。下等なグレイ・ウーズでは倒すことはできない。
「ボロボロだな‥‥」
 戦い終わり、イフリートは腐食したナイフを一瞥した。そこらの壁に投げ捨てる。だが‥‥ナイフが突き刺さった場所は隠しスペースのスイッチだった。廃墟の壁の一部が開き、中から古めかしい装丁の本が出てくる。
 それは研究者の日記だった。G計画が順調に進んでいる、再現率が85%に達した、などと“GB細胞”なるものに関する研究の経緯が記してあった。一番最後には、「もう終わりだ。奴がすぐそこまで来ている、扉の向こうまで‥‥」と乱れた字で定番通りに記してあった。
 日記を閉じ、元の場所にしまったイフリートは隠し扉を見つけた。周りを確認し、中へ入る。

 暗い空間だった。まるで何も存在しない冷徹な宇宙空間のような場所だった。ここが今までいた場所ではないことを、イフリートは瞬時に悟った。それでも前に向かって歩み出す。
 前方にぼうっと人影が現れた。長身に白一色の白衣、長髪に眼鏡の知的な容貌。男は手を後ろで組み、面白そうにフードの旅人を眺めていた。
「やあ、ようやくお会いできましたね。色々と嗅ぎ回ってるそうじゃないですか」
「‥‥放たれた弾丸は軌道を変えない」
 すれ違い様に呟き、イフリートは男を無視して去っていった。暗闇の中を歩き続ける。
 だが驚愕すべき事実に気付き、イフリートは足を止めた。例の男がまた前方に立っている。自分は元の場所に戻ってきてしまったのだ。
「言い忘れていましたね」白衣の青年は微笑んだ。「時空間を湾曲させておきました」
 なんという非常識な能力だろうか。オーサカM○●Nが魔界都市だとしても、このような力の持ち主はおるまい。この神威という青年もまた、魔人なのだ。
「面白い手品だったな。また会うこともあるだろう」
 敵と認めるに相応しい相手を見つけ、イフリートはフードの奥で笑った。歪曲した空間の中で、その姿は闇に消えていった。
 ――亡霊は影と共に消える。
 そう、イフリートはニューロエイジの伝説だ。中東を恐れさせた世界最高クラスのアーティストだ。ああイフリート、その伝説を覆すことはできない。そう、例え空間すら曲げる非常識な能力をもった魔人、日本軍独立特殊部隊ヤマタノオロチの一員である神威をもってしても、覆すことはできないのだ。


こうさくいん「ここは死国でしゅね‥‥でもイフリートはマスクしないでダイジョウブなのでしゅね‥‥(゚o゚)」
ボス「うむ。“伝説”だからな。まったくヒドイ話だな。(笑) さて何やらまたゴイスーな敵が現れたぞよ」
こうさくいん「カムイはタタラ,カブト,チャクラ。ここはカムイが《タイムリー》で時空を曲げつつもイフリートは《不可知》で消えていったのでしゅね〜(≧▽≦)ノ」
ボス「神業を最後まで残さずとも、双方途中でこうして使ってしまうのもよいな。最後が戦闘で終わる時もスムーズになるだろう」
こうさくいん「イメージソースは新宿シリーズの『魔界創世記』に出てきたマド=ドマだそうでしゅよ〜」
ボス「だそうなのだが、総帥が未読の作品ゆえあまり意味がないのだ。なっはっは!」

GB cell Kulture Projekt


 オーサカM○●Nニアサイドはドーム全体が厳重に守られ、ほぼ独立コロニーの様相を呈している。ここには胞子も飛ばず、ヒルコもミュータントもジプシーも傭兵部隊もいない。全体的に治安も良く、N◎VAのホワイトエリア一帯と同じような風景を見ることができる。
 月華院大学はそんなエリアの中に位置していた。N◎VAの新星帝都大学と対になるこの学校には、大企業や金持ちの子女も多く通っている。
 燕輝月鑑識官、クスハ、そしてマーチン・ダグラス刑事は、アズマ博士の研究室を訪れていた。講義は空いていたのか、博士は部屋で応対してくれた。
「クレムツ博士が死んだとはね。あの老獪は死んで当然の輩だったが。この細胞が適合するのは確率的には100万人に一人程度だが‥‥そうか、あの彼女が適合していたというわけか」
 例のスーツケースに指を這わせながら、博士が説明する。BIOS研究所の計画で培養されていた菌は、“GB細胞”(グレイブラッド)と呼ばれていた。増殖するといわゆるスライム状になるこの菌は周りの全ての生命体を食い尽くし、吸収してしまう。
 が、哺乳類に寄生し、宿主がもし適合した場合、宿主に完全な不老不死を実現する。宿主の代謝を代行し、驚異的な再生能力をもたらすのだ。だが1〜2週間で脳が汚染され、宿主は理性を失い、単に生命を維持しているだけの存在に成り果ててしまうという。
 燕鑑識官は熱心にその理論を聞いた。その後ろで、マーチン刑事は分かっているのか分かっていないのか微妙な顔つきで聞いている。分かっていないほうに賭けた方が、テンペランスへの胞子到来時刻を当てるより儲かりそうな案配だった。
「そのトランクの中身はGB細胞への対抗策だ。前に博士に聞いたよ」
BIOS研究チームはそんなものも造っていたのですか?」
 問いかける燕鑑識官。
「これほどの危険な研究なら当然だ。作らないはずがあるまい。ヒルコを実験体に用いた生体兵器、危険な新種のウィルスや細胞の培養‥‥こうした研究は必ず、最悪の場合を考えて備えておくものさ」
 燕鑑識官は東博士の視線に気付いた。横のクスハを見る目は、死国で発見された新種の変異体を強化ガラスの向こうから解剖する時の目と同じだった。この荒っぽいカブトの娘が人間でないことも、既に見抜いているようだ。
「博士。‥‥彼女を、そんな目で見ないで欲しいのですが」
「おっと、これは失礼。で具体的な対抗策だが‥‥」
 博士はさらに話を続けた。GB細胞と同じような生命体が中に保存してあり、開ければ両者が反応して消滅させることができる。だがトランクの中身もまた狂暴な代物であり、中を解放して周囲に影響が及ばない場所は限られている‥‥たとえば、M○●N直下の地下基底部にある、汚染された旧BIOS地下研究プラント跡地など。
「気密服が必要になりますね‥‥」
 厄介なことになりそうだった。燕鑑識官とマーチン刑事には装備が必要だ。横でクスハは平然としている。元からヒルコの彼女には装備もいらないのだろう。


こうさくいん「ああー古い地図が出てきたでしゅよー。確かにBIOSガーデンビルの地下深くにBIOS地下研究プラントがあるでしゅ。ていうかTNRにこんなのないでしゅよーいつのでしか〜」
ボス「な、なんと、ほんまもんの『オーサカM○●N』だぞ。懐かしい。懐かしすぎる。何年前だ? 確かに2ndの頃は袋綴じの中にチャートや地図がいろいろ入っていたからな」
こうさくいん「(読んでいるらしい) 有名ゲストのイラストが全然違うでしゅよ? エルリック&深淵テイストでしゅね? わわーこの一色達彦の重力に逆らった髪形はなんでしゅかー(゚o゚)」
ボス「その絵が一番人気なのだがな。(笑) まあ簡略化され過ぎたシステムやリアリティのなさすぎる装備のイラスト等は評判がすこぶる悪かったサプリメントだったのだが。しかし当時から知っているファンも今では少ないだろうのう。TNRから始めた人との知識の差は大きいのだが‥‥」

Gray Blood


 翌朝のテンペランス、朝早くから市の立つ緑林街。約束の場所で一行は落ちあった。燕鑑識官とマーチン・ダグラス刑事は活動し易い薄型の気密服を用意し、クスハはいつものラフな格好のままだ。
 前触れなく、一行の周りに風が吹いた。それは様々な匂いの混じる猥雑なM○●Nの風ではなく――乾いた砂と無慈悲な太陽の匂いのする砂漠の風だった。
「――日は昇った。狩りの時間だ」
 風が止んだ時、伝説がそこにいた。様々な武器を潜ませた長衣。マフラーと布に隠されて顔は見えない。はためく布の下で狩人の瞳だけが光っていた。イフリートは気密服の用意などしていなかった。世界最高クラスの暗殺者には、そんなものは必要ないのだ。ああイフリート、伝説の前には胞子すらも逃げるのか。
 打ち合わせを終え、一行は地下に潜る事にした。気になるのはクスハたちに接触してきた木村、イフリートに接触してきた神威のことだ。カムイ・ハジメは日本軍所属の曹長。特殊部隊ヤマタノオロチの一員だという。その部隊は第203連隊内の所属ではなかった。つまり、N◎VAで和泉大佐が率いている治安維持軍とは関係ない独立部隊ということだ。
「――では警察公認だな」
 マフラーの奥の目が光り、特務警察ブラックハウンドとSSSの隊員を睨む。
「ええ。今回は特例です。仕方ありません」
 予備のショットガンを確認しながら、燕監察官が答える。
「へいへい。我々シノハラ・セキュリティ・サービスは、通常でない事件には柔軟に対応することにしております‥‥と」
 マーチンはほぼ棒読み同然の口調で言うと、おざなりに敬礼した。

 地下街へ行くと、前にクスハにやり込められたモヒカンのパンクの一団がいた。仲間のサムがまた殺られた、やめておけと言う。だが一行はそれを無視し、先へと進んだ。
 サムらしき死骸はすぐに見つかった。目と鼻から例の灰色の液体を流し、死んでいる。クスハが片手で軽々と持ち上げ、後ろから恐る恐る眺めているモヒカンたちに投げてよこした。

GB cell Kulture Projekt


 使われていない貨物用エレベータや階段を使い、M○●N基底部へ降りていく。クロームの輝きに覆われた無機質な世界が、徐々に変わってきた。異常に成長した木々の幹が悪夢のようにうねり、クロームの塊にからみついて浸蝕している。空気の色が変わった。四方の壁には様々な色の菌類が繁殖して胞子を吐き、周りを自分たちの世界の色に染め上げ、その領域を広げ続けていた。
 ある一帯の足元には人間の肌と同じ色をしたサナギらしきものが散らばり、その中から生まれたと思わしき極彩色の羽を持つ蝶が羽ばたいている。工場廃液のような色をした小さな泉のわきで蝶たちは戯れていた。あまりに美しく、毒々しい色だった。自然界にはあってはならない、危険で人工的な色彩だった。
 数時間進んだ頃、BIOSの施設と思わしき大きなドームの中に出た。維持装置がまだ動いているのか、汚染が少し退いている。気密服に備え付けのセンサーが空気が正常であることを告げていた。燕鑑識官とマーチン刑事はヘルメットを外し、服の気密を解いた。


 やれやれだね。こんな地の底まで見学しに来る羽目になるとは思わなかったよ。あのターバン野郎は平然としている。生身でここまで潜れるなんて普通じゃないよな。
「ねえアンタ、気密服はほしくなかったかい?」
クスハが予備のマスクをひらひらさせながらからかうように言う。
「――本当の危険はこんなものではない。砂漠の砂はもっと細かいぞ」
 その時、ドームの奥から不意に声がした。
『では本当の危険とは‥‥こんなもののことかしら』
 M○●Nに来てから驚かされっぱなしだ。また何の前触れもなく、あの美人が立っていた。ミラーシェードにスーツ、だが様子がおかしかった。何かを必死に堪えているような様子だ。
 聞き慣れた音がした。ローダーが引かれて散弾が装填される音だ。警察が突入や暴徒鎮圧に使う12ゲージのアサルトショットガンだ。あの鑑識課の姉さんもやるもんだね。きちんと用意してたんだ。この距離では外すはずもなく、散弾はミナギ博士の頭を吹き飛ばした。
 至近距離でショットガンで撃たれた死体ってのは、ランチミートになっちまうもんだ。だが信じられない光景が起こった。ゴムか何かを銃で撃ったようなもんだったよ。肉片となって飛び散りかけた頭が、全部もういちど元いた場所に集まり、見る間に元通りの頭になったんだ。シェードのサングラスだけが粉々になったままだった。ここまでの道中の光景よりも衝撃だったね。
『もう私は、ほとんど自分をコントロールできません。ここに来るのも一苦労でした。ここなら‥‥GB細胞が寄生する相手もそうはいませんから‥‥』
 苦しげに女は言った。早く何とかしないと本格的にまずい。
 合図と共に、クスハが怪力に物を言わせてスーツケースを投げ上げた。あのターバン野郎が何時の間にか拳銃を抜いていた。ただ一射。
 確かに世界の伝説レベルだね。空中を動いてる目標の中の1mm四方の標的をただ1回の抜き撃ちで仕留めたんだ。留め金部分のセンサーに反応し、どうしても開かなかったスーツケースが空中で開いた。中から灰色の――なんともいえないモノが飛び出した。
 一方のミナギ博士にも異変が起こっていた。鼻と口から灰色のものがゲロゲロと飛び出したんだ。美人博士の口から出ていることを考えるとあんまり美しくない光景だが、あれが体に巣食ってたGB細胞という奴だろう。
 空中に飛び出したGB細胞と、スーツケースの中から飛び出したその弟分は、空中でひとつになった。ゲームに出てくるスライムみたいな灰色の塊になると、地面に落ちる。内部で化学反応でも起こっているのか、煙を上げて震えていた。
 やがてそれも収まり、静かになった。近付こうとした私たちは燕鑑識官の警告の声に立ち止まった。
 よく見ると床を覆ってた苔みたいな菌類が動いている。緑色の斑点がゆっくりと灰色の中に飲みこまれていった。
 吸収されているんだ。やれやれ、なんだってBIOSはこんな物騒なブツを創っちまったんだ??

「皆さん、下がって! これを使います」
 何かを探しに行っていた燕鑑識官が帰ってきた。廃墟の中で見つけてきたのか、何かのボンベを抱えている。【Liquid Nitrogen】と大きく書いてあった。なぁるほど、そういう訳だ。どんなに強靭な生命体でも、極低温や極高温の中では生存できない。さすが、黒犬さんは咄嗟でも考えることが違うねぇ。
 心なしか少し大きくなったような気のするスライムのそばに液体窒素のボンベを置き、十分に離れたところから射撃。破裂の後に空気に触れた液体窒素は劇的に反応し、ものすごい煙と音を出した。視界が晴れた時、スライムは床と一緒に凍りついていた。ウィスキーのロックに使うような氷とは明らかに別の、極超低温の氷が回りに張りついている。細胞のひとつひとつまでが凍ってるだろう。
 近付いた燕鑑識官がもう一度ショットガンをぶちこんだ。突入作戦用のハンマーでガラスの彫像を叩き壊すようなもんだ。不老不死のスライムとやらは粉々に砕け散った。


こうさくいん「ここはヨンおねいさんの《タイムリー》なのでしゅよー。クレバーでしゅ〜さすがでしゅー(≧▽≦)ノ」
ボス「うむ! さすがはMOONBASEの腕利きだ。ていうかタイムリーのうまい使い方を久し振りに見たぞ。(笑) あまりタタラがいないからだな。いかんいかん。経験点が多くなるとどうしても戦闘系に目がいってしまうからな」
こうさくいん「1mm角に奇跡の射撃は伝説だから出来たのでしゅか?」
ボス「いちおう必要なのは《クーデグラ》あるいは<ファイアアーム>達成値25となっていたな。イフリート以外でもジツはできたのだ」
こうさくいん
「んんーじゃあマーチン刑事もほんとはできたのでしゅね〜?( ̄ー ̄) 」
ボス「んんー、ほれクスハの言う通り、彼はイメージ的にできなさそうではないか(笑) などと言っている間に真打ちが登場するぞよ」

Gray Blood


 倒れたままのミナギ博士を確かめようと近付いた時。一行の足元を数発の銃弾が弾いた。
 三人の男が立っていた。深緑色のコートを靡かせた背の高い中央の男は筋骨逞しく、左目には眼帯が嵌っている。その後ろには拳銃を持った痩躯のにこやかなクグツと、白衣の青年。木村と神威だ。3人とも日本人だった。
「お初にお目に掛かる」 中央の偉丈夫が野太い声で言った。
「本官は日本軍独立特殊部隊“ヤマタノオロチ”副指令、遠山刑四郎一佐である」
 偉丈夫の左目を覆っているのは、黒く灼いた刀の鍔だった。長い髪は獅子の鬣のように後ろに流れ、逞しい体を覆う黒のレザー・スラックスとシャツが黒光りしている。菊の紋章が縫いこまれた深緑のロングコートの前で組んだ手には、革手袋がはまっていた。これより始まる殺戮に明らかにうずうずしている二人の部下を押さえつつ、遠山一佐は続けた。
「貴君らには頼みがある。ここで見たものを全て記憶から抹消し、帰ってくれんかね。無駄な交戦は避けよう」
 地下の穢れた空気さえ退かす野生の風を吹かす不敵な面構え。その背後に控える二人の魔人は、明らかに不服そうな顔をしていた。クスハの右手に鬼の爪が現れ、燕鑑識官はショットガンを引き寄せる。彼女の変異した体はBIOS製のEVEのような発電器官を備えているが、相手に近付かないと威力がないのだ。
「そりゃ、言われれば喜んで帰りますよ」
 マーチン刑事は肩を竦めると、くしゃくしゃの箱から煙草を咥えた。
「こっちはしがない企業警察だ。こんな場所からは早いとこおさらばしたいですからねぇ」
 だがその言葉が、眼帯の副指令官の表情を変えた。
「待て。動いているのはブラックハウンドだけだと聞いたがSSSもだったのか?」
 部下と二言三言交わす。副指令の太い手が強く握られ、黒の革手袋が音を発した。手袋の右手だけは指が覗いている。
「情報が違ったな。本件に関し、部下を叱責せねばなるまい」
 遠山一佐は最後にあっさりと付け加えた。「――うむ。話が変わった。貴君らも今ここで消えてもらう」
 マーチン・ダグラス刑事は、豆鉄砲を食らったAXYZ鳩のような表情を浮かべた。あいた口から煙草が落ちそうになる。
 数瞬の沈黙の後、面々の横で一筋の銀光が走った。全員の注意がそちらに向いた。
「月の夜は――頚動脈が切り易い」
 イフリートだった。円月刀の一閃でミナギ博士を絶命させると、ゆっくりと影は振り返った。依頼人の命は絶たれ、世界最高の暗殺者の仕事はいまここに完遂された。
「駄目だ」 動脈から吹き上がる血が血煙となり、ニューロエイジの姿なき伝説の姿を妖しく彩った。紅く染まった長衣を揺らめかせ、5000人を殺めてきた超一級のアサシンはゆっくりと歩き出した。
「――犬では、私は殺せない」
 マフラーの奥底に潜むその狩人の瞳が、新たな獲物に向けてきらりと光る。
「面白い」 隻眼の副指令の声は、歯応えのある敵に出会えた喜びに満ちていた。その右目は不敵に輝いている。
「この私にそんなことを言ったのは君が‥‥5人目だよ」


こうさくいん「わわーマーチン刑事が言う通り帰ろうとしてたでしゅよー(゚o゚) キャストがそんなんでどうするんでしゅか〜(笑)」
ボス「さすが他のRI財団コズムのキャスト陣とは一線を画しているのう。すがすがしい限りだ!ヽ(´▽`)ノ」
こうさくいん「喜んでる場合じゃないでしゅよ〜Σ( ̄口 ̄;) 敵の解説をするでしゅー。遠山刑四郎副指令はカブトワリ,カゲ,ミストレス。部下を動かしつつ本人はキョーフの業物スクリーマーで<※必殺の矢>付きで撃ってくるでしゅー(゚o゚)」
ボス「イメージソースは魔界都市の“凍らせ屋”こと屍刑四郎だそうな。出たな、名物刑事スパイン・チラー。1/2000秒のドラム抜き撃ちをやってくれるのかのう(期待期待)」
こうさくいん「木村と神威は前に説明したでしゅねー。ブースタ・マスタ相当の中国四千年の針とか<メレー>+<■ブレーク・ダウン>相当の毒手拳とかたわけた事を言ってるでしゅよー男塾よりヒドイ妄想でしゅ〜(゚o゚)」
ボス「うむ。敵は日本軍、魔界都市コズムに相応しい魔人どもが勢揃いしたな。立派立派。(爽) ほれ、イフリートの伝説が見られるではないか」
こうさくいん「経験点10の創る伝説なんて見せかけだけでしゅよ〜(゚o゚) いくらスゴくてもダメでしゅ〜」
ボス「いやいやいや<※血脈:鬼の一族><※畏怖>のあるクスハのエニグマもかなり強いぞよ? ヨンおねいさんは“ナイトアーム”ガントレットで受けつつEVEで電撃スタン攻撃という渋すぎるバックアップもあるそうな。安心安心。あっぱれな魔人たちとの戦いが見られるのうヽ(´▽`)ノ」
こうさくいん「ううーマーチン刑事もしっかりするでしゅよー(>_<)」

GB cell Kulture Projekt

 ――イフリートは伝説だ。
 伝説が疾った。血で染まった長い衣が翻り、SMGの銃口が新たな獲物を狙う。走りながらの不安定な状態からの掃射。だが狙いは少しも揺るがず、三人の魔人の立つ空間だけを制圧する。
 木村が腕を振った。空気の一部が霧に変じ、9mm弾の雨を食い止める。だが止められたのは弾丸だけだった。走りながらイフリートは蜃気楼となって消えた。魔人たちの目ですら捉えることはできなかった。
 ――伝説は闇に消え、滅する。次はないのだ。
 魔人たちの背後に伝説は現れた。宙に舞った単分子ワイヤーが見えざる妖糸となって、魔人たちを切り刻むべく踊り出す。巻きついたのは神威の左腕だった。だが白衣が斬れただけで、太い腕は斬れない。
「中国四千年の技を知っていますか?」
 青年は微笑んだ。その首筋には自分で経絡に刺した針が光っていた。極細の糸が巻きついた筋肉は異様なほど盛り上がっていた。
 5000人を殺めてきたアサシンは笑った。次の瞬間、再び時間が動き始め、伝説は後方に飛び退った。


「ふむ。必要以上の殺生は好まぬのだがな」
 行動とは逆のことを述べる遠山副指令の、菊の踊るロングコートがわずかに揺らめいた。次の瞬間、その革手袋の右手には既に巨大なリボルバーが握られていた。腕をサイバーでブースト・アップした者でないと操れないような、まったくもって非常識な18mm弾用の怪物的リボルバー。ああ、だが一佐は抜く挙動をまったく見せずにそれを構え、右手だけで軽々と操り、続け様に撃ち込んでくるではないか。この指揮官も、もちろん魔人なのだ。
「何ボーッとしてるっ」
 神経の強化が全身に行き渡ったクスハから見ると、マーチンは突っ立ったままのように見えた。彼を抱えたまま横に逃げる。猛獣の如く咆哮をあげた18mm弾がクスハの一瞬前まで立っていた場所を大きくえぐった。芝生のように床を覆っていた苔が盛大に舞った。
 怪力を持つ娘に無理やり抱えられ、半ば転倒した状態からSSSの刑事はうめいた。
「なんでまた、日本軍がこんなとこまでやってくるんだい?!」
「無論、回収だよ」隻眼の特殊部隊副官は答えた。
「不老不死の細胞の研究はBIOSの発案ではない。元は日本本国よりの依頼だったのだ」
 副指令の右手が軽く振られた。怪物的リボルバーの分厚い輪胴がスイング・アウト。一瞬で薬莢が落ち、ほとんど見えない速さで6発の巨大な18mm弾が装填されていく。ああ、その装弾完了までの時間は、弾倉を変えるだけのオートマティック拳銃よりも早いではないか。
「だが、死ぬのは君らだ」 巨大なリボルバーが向けられた先は、円月刀を抜いて魔人たちと死闘を繰り広げる伝説の暗殺者だった。


 クスハは跳んだ。右手と同化した鬼の爪が自分の意志よりも速く伸びる。
 これもまた魔人の技に等しいものだった。遮蔽物すらも破壊する恐怖の18mm爆裂弾を鬼の手で受け止め、そのまま着地すると戦いに加わる。
 クグツの木村の操る空気は燕鑑識官のショットガンの散弾をも防いでいた。針で自らの肉体を強化した神威の右手はどす黒く染まっていた。ああ、これぞ中国四千年の歴史に秘されるとも言われる毒手拳だ。これで突かれたら、いかなる小さな傷でも致命傷となるのだろう。この魔人はその手刀をもって、伝説を殺めようとしていたのだ。
 銀光と秘拳が幾筋か舞った。猛毒を備えた手刀をかわしつつ、隙を見たクスハは攻勢に転じた。人にあらざるその鬼の爪が、神威の頭をがっしりと捕らえる。体は強化していても、その顔は端正な長髪の青年のもののままだった。
「こいつは“死の手”だ。もらったよッ」
 そのまま渾身の力をもって右腕を振り下ろす。鬼の爪は人の頭蓋骨を握り潰せる。神威の首がもげ、下に転がった。
 ああ、だが、相手は秘密部隊ヤマタノオロチの曹長、謎めく光の帝国の兵士なのだ。常識が通用する相手ではないのだ。鮮血が吹き上がる首筋で信じられない事が起こった。にょきにょきと音でも聞こえてきそうな速さで、新しい首が生えてきたのだ。眼鏡こそかけていなかったが、その首は神威の首そのものだった。
 これも中国四千年の技だというのだろうか? 否、それだけではあるまい。奴が魔人だからに違いあるまい。流石の死の手のクスハもこれには目を疑い、一歩退いた。


 一方遠山副指令の向こう、クスハが跳んできた場所では、刑事が立ち上がろうとしていた。
「やれやれ、あんたらの勝手の後始末をいつもどこがやってると思ってるんだ?」
 ぼやきつつもマーチンの手には、しっかりとSSSの9mm制式拳銃が現れていた。響く銃音は一発、イフリートのような本当のプロフェッショナルでなければ、それがほぼ同時に放たれた二発の銃弾だとは分からなかっただろう。まったく同じ場所を狙った奇跡の射撃だとは分からなかっただろう。
 ああ、ああ、だが、またしても理不尽な光景が二発の銃弾を待っていた。相手は魔界都市に集う大蛇の魔人達、常識の通じる相手ではないのだ。上官の危機と見て取った神威が、自分の古い首を拾うと投げてよこした。
 歪められた時空間の中をくぐった生首は、2発の弾丸の弾道のまさにその先に現れた。ご丁寧に口まであけて、2発の弾丸を受け止める。
 ニューロエイジは力の時代、達人たちの技の時代。プロたちはクリスタルの盾で、剣で、銃弾すらを受け止める。だが、だが、自分の生首を盾にするような非常識な輩がいるだろうか。否、こやつしかおるまい。
 マーチン・ダグラスの口から煙草が落ちた。呆気に取られる刑事の前で生首が爆発した。2発の銃弾を飲み込んだ神威の頭は盛大に血を吹き、スイカの如く地面に転がった。4回ほどごろごろと転がった後で、頭はようやく転がるのをやめた。


 遠山刑四郎一佐は自分を救った部下の頭部から視線を左に転じた。そこには腰を抜かして銃を取り落とした、離婚歴ありの冴えない刑事が転がっているはずだった。
 だが刑事の両手が構える先には、いつの間にか別の銃があった。警察の制式拳銃よりずっと大きな、11mm弾用の無骨なオートマグナム。珍しいオールステンレスの銃身が、妖月都市の地下世界の光を浴びてひととき輝いた。
 星々に一番近い街で鍛えられたその銃は、ワイルドオージーズの“ゴアナ”オートマグ。
「“メイク・マイ・デイ”だ」 AXYZから来た男は言った。「ダーティハリーみたいだろ?」
 強力な11mmマグナム弾が2発同時に発射された。1発目が副指令の黒灼きの鍔の眼帯を破壊し、正確にその後に続いた2発目が左の眼窩から脳の中に侵入した。
 ヤマタノオロチ副司令はそれでも最後に、意外な伏兵にニヤリと笑いかけた。次の瞬間、魔人たちの指揮官の頭が弾けた。


Gray Blood


 それは、イフリートがその伝説に相応しく、今少しで魔人たちを倒せるかという頃合だった。遠山一佐が死んだのを見て取った二人の魔人は、あっけなく両手を上げて降参した。
「指揮官がやられちゃあしょうがないですよね。ねぇクスハさん、一緒にパフェ食べた仲じゃないですかぁ〜」
 死闘の後だというのに、クグツの木村はいつものにこやかな笑いを浮かべていた。
「前に言ったな。次はないと」
 冷たく告げ、クスハは右手の爪を一閃させた。眼鏡のカンパニー・マンの体は霧に変じて消えようとする。だがその前に禍禍しい爪が頭を捕らえ、そのまま引き裂いた。死体の欠片とも、霧の欠片ともつかぬ奇妙な黒い跡が床に残った。
 その隙に白衣の青年、神威は、180度方向転換すると一目散に逃げ出した。自らに刺した針はもう抜け、中国四千年の秘術もその体を強化してはいない。全速力で掛けていく彼を追う者はいなかった。
 だがドームから今まさに脱出せんという時。何の前触れもなくその横で砂漠の風が吹いた。魔人の顔色が変わる。
「――お前の上司を殺しにいく。そう伝えろ」
“伝説”がそこに立っていた。フードの奥から殺人者の瞳がそう告げた。ヤマタノオロチの生き残りは、小さく頷くと全速力で逃げ出した。


「こっちはデカだ。あんたみたいな人殺し専門の連中と、一緒にされちゃ困るね」
 マーチン刑事は大きなオートマグを右手に、遠山副指令の死体に近付いた。偉丈夫は頭を吹き飛ばされ、確かに死んでいる。
 恐る恐る見守る燕鑑識官はまだ目を丸くしていた。
「ヒョーウ。当たったよ」
 銃をひらひらさせながら、SSSの刑事は自分の成した技が信じられないかのように、彼女に向かっておどけて肩を竦めた。


GB cell Kulture Projekt


 ブラックハウンドMOONBASE隊長室。牙王隊長は津波時の戦いでバサラ能力を失い、全身をサイバー・アップして復活した後、今なお陣頭で戦い続けている。M○●N傭兵部隊に人員が流れた今となっても、黒い猟犬は妖月都市を守る最後の砦のひとつなのだ。
「ご苦労だった。鑑識課の業務以外のこともさせることになってしまったな。また頼むぞ」
 燕 輝月鑑識官は黙って話を聞いていた。
「それから本件に関してだが‥‥」 隊長はBIOSの秘密計画を記した重要部分を手でなぞった。「この件は、君の心に秘めておいてくれないか」
 疲れたような隊長の顔に束の間浮かんだ複雑な表情に気付き、燕鑑識官は敬礼した。
「ええ。私は沈黙を選びます」
「すまない。礼を言う」
 窓の外には、妖月の照らす時間が間近に迫る、夕暮れのM○●Nの光景が広がっていた。

Gray Blood


 新星の都トーキョーN◎VAの夜は、魔界都市オーサカM○●Nの夜とはまた違った趣を持つ。
 どことも分からぬストリートの一角、銃撃戦にも耐えられる頑丈な公共DAKボックスの中に、見慣れぬ人影がいた。人相を隠す分厚いフードとマフラー、界隈では珍しい中東風の長衣。
 偶然通り掛ったナンブのロボタクのライトがボックスを照らした時、そこにはもう誰もいなかった。だらりと垂れ下がった受話器がゆらゆらと揺れているだけだった。

 中央区の摩天楼の谷間。駐車スペースに入ろうとした高級リムジンが左折しかけのまま停止する。夜の闇に乾いた音が数発響いた。
 ライトは前方を照らし、エンジンは掛かったままだったが、もう生存者はいなかった。暗緑色の制服を着た運転手は額の一発で即死。後部座席にいた高官の男も数発の弾丸を撃ちこまれて絶命。
その胸には地位を表す幾つもの勲章が並んでいたが、もう彼には用済みのものだ。もう日本軍でその権力を振るうことも、もう魔人たちの集う独立部隊ヤマタノオロチに極秘指令を出すこともできない。穴だらけのフロントガラスから束の間、自分たちを一瞥したのが見えない“伝説”であるのも理解できずじまいだった。

GB cell Kulture Projekt


 マーチン・ダグラスもまた、シノハラ・セキュリティ・サービスM○●N支部キース・ハーバー署長の前にいた。マーチン刑事の手際がいいのか、それとも文句のつきにくい報告書を作るのに慣れているのか、報告書は署長にとって満足いくものであった。
 謎の独立部隊の魔人たちの消息はつかめなかったが、SSSの組織力を用いた捜査の手は広がった。N◎VA軍の中で浮かび上がった線の先の情報は、マーチン刑事の手である人物に秘密裏に伝えられた。
「報告書は十分だ。‥‥なあダグラス。こっちに来ないか」
 ブラインドの外に広がる新ファーサイドの午後の光景を見ながら、ハーバー署長が言う。
「よしてくださいよ」 離婚歴あり、勤務態度不良の刑事は肩を竦めた。「私の成績は知ってるでしょう。それに、こんな胞子の飛び交ってる物騒な街はごめん被りたいですな」
「そうか‥‥。SSS M○●N支部はいつでも優秀な人材を求めている。気が変わったらいつでも来い」
 退出しようとするダグラス刑事は、ふと思いついたように振り返った。
「ああそうだ。最後にひとつだけ願いを聞いてもらえませんかね?」
「なんだね?」
「帰りの便はファーストクラスにしてもらえませんね。一度でいいから座ってみたかったんだ」
「分かった。いいだろう」


 そういうわけで、私は今亜軌道ジェット便のふかふかの座席にのびのびと座ってるって訳さ。いいねえ、横もゆったりと広いし、疲れ方が全然違うよ。前方の大きなスクリーンには映画あり音楽あり、きれいなスッチーのお姉さんも控えているし、こりゃご機嫌だね。
 ガキでなくとも、目の前に目新しいものがあるといじりたくなるもんだ。席には新式の個人鑑賞用小型ホロTVがついてた。上手い具合にアームが展開されて、視線を邪魔しない位置にスクリーンが浮かび上がる。
 LIMNET I.S.っていうと北米の企業だったかな? 世界中のニュースやら、シャトルが後にしてきたM○●Nの夜景やらが次々と浮かび上がる。適当にチャンネルを変えていると――ちょうど時刻が19:30になったんだろう。子供向けのロボットアニメが始まった。宇宙を舞台に流れる主題歌には、見覚えがあった。
 『機甲新星紀ギア・ガーディアン』だ。思いだした。先月にエイミーと会った時、マックスのお気に入りの番組だと話していた。今頃N◎VAで見ているかもしれんな。別れても私の息子だ、少しは気になるもんだよ。
 私はスクリーンを閉じると、トレイを押しながら側を通りかかった美人の子を呼び止めた。さて、祝杯でも上げようじゃあないか。

Gray Blood


 クスハが乗り込んだのは、イワサキ重工が独自に運営している特別チャーター便だった。N◎VAに向かい成層圏を飛ぶシャトルの中で、スクリーンにミラーシェードの女性の顔が現れる。彼女の主な雇い主であり――あまり会いたくない、篁綾社長だった。
『今回の件はありがとう。この事実で日本に対するイニシアチブがとれたわ』
「フン。くだらんことだね」
『これからも頼むわ』
「頼むからウチんとこには来ないでくれよ」
 音を立ててスクリーンのスイッチを切る。フリーランスの男どもは、この軌道の女は自分の下着の色まで調べ上げていると恐れている。同性のクスハはそんなことは気にしなかったが、あまり深い縁を持ちたくはない相手である。

 房総南国際空港は世界からN◎VAに渡る人々に合わせ、ナビゲーションも非常に理解しやすく造ってある。手続きを済ませたクスハは、何を買うでもなく免税店の並ぶエリアをぶらぶらと歩いていた。
 世界の珍しい酒が並んでいる店の前で、見覚えのある男がいた。あのうだつの上がらないSSSの刑事だ。マーチン・ダグラスは酒を探しているようだった。
「オモチャは買わなくていいの」
「なぁに、どうせ来月まで会わんよ」
 ショーウィンドウに映った彼女の顔に向かって、バツイチの刑事は答えた。
「そうね。どうせ子供の好みなんてすぐ変わるし、買っても会わせる顔もないか」
 眉を上げる刑事を尻目に、クスハは踵を返すとすたすたと歩き出した。その力強い足音が、天井の高い空港内に響き渡っていった。


 後部座席のN◎VA軍高官はぴくりとも動かない。座席の上に散らばったガラス片もそのままだ。また一つ、姿なき暗殺者の残した伝説が増えた。
 フロントガラスに開いた穴がどんどん大きくなり、その中の暗黒が画面を覆う。暗黒の中の光は一本の蝋燭のみ、座するのはひとりの老人だけだった。
 ――イフリートは伝説だ。闇に生まれ、そして消えゆく。
 老人は蝋燭をふっと消した。辺りは真の闇に包まれた。

 
 
And Here, The kurtain dropped,
in the city under dangerous MOON ...
-XYZ-


こうさくいん「ていうかイフリートの伝説って一体誰のナレーションでしゅか?(笑) 最後の最後に出てくるこの老人って誰なんでしゅか?(゚o゚)」
ボス「うむ、よい質問である。察しがつく通りPLサイドの自作自演だ。特に最後の老人がかなり正体不明だぞ。ああ、何とはっちゃけているのだろうか、この妄想ぶりは。<新宿>広しといえど、これほどの妄想度を持つ者は某ゲ同のスゴイ人しかおるまい。(ニヤリング)」
こうさくいん「新宿だけじゃダメでしゅよ〜じもぴーとして西武線沿線も入れるでしゅよ〜(笑)」
ボス「マーチン刑事のEDも自作自演といえばそうなのだがな。さてそんなカンジで終わりだ。なかなか異色なセッションとなったではないか。記念に菊地秀行氏の作品もきちんともう少し読んでおくとしよう」
こうさくいん「つまらないからヨン・フィウォルおねいさんのヒミツを偵察してきたでしゅ。萌えヨンおねいさんはカジュアルデーの出勤姿だそうでしゅ。上がハウンドの制服、下がパンツで自転車出勤するそうでしゅ。きっと健康的に生足に運動靴でしゅよ〜(>_<) 冷静にタイム計ってるんでしゅねー(ぽわ〜ん) 家で可愛いテングを囲っているのもアリらしいでしゅよ〜ヽ(´▽`)ノ」
ボス「なっはっは。まあ舞台はM○●Nでハードなバイオハザードの話だしヒロインがいなくてもよいではないか。ほれ、登場頻度激レアのマーチン刑事も登場できたぞよ」
こうさくいん「激レアのままでいいでしゅよー。住んでるコズムが明らかに違うでしゅか〜(笑)」
ボス「そうでもないぞよ。10万Hit突破記念に財団はイメージチェンジをするそうな。これからはマーチン刑事がプレイレポートのメインキャラクターとして活躍するそうだ。アレッ●スぽんたちに変わるニューヒーロー誕生。新世紀、2001年はマーチンの年。Year of Martinだ」
こうさくいん「どわわーおいおいマジでしゅか〜?! Σ( ̄口 ̄;)」
ボス「いや、ガゼン嘘だ。安心しろ。さて次回は舞台はキャンベラAXYZ、PCゲーム版いやOVA版、はたまた劇場版のスケールがどでかいまたまたゴイスーな話になるそうな。クロームと軌道の光とニューロマンサーにバキにダイ・ハードに2020コズムに鳩の舞う戦場で二挺拳銃が踊るらしいぞ。よくわからんが期待しつつ待つとしよう」
こうさくいんEYEランドでフィーバー!に出てきたあのブリューナクがロマンスをやるらしいでしゅね〜( ̄ー ̄)」

GB cell Kulture Projekt


お・ま・け

ボス「同志いふる殿よりダメなヨンおねいさんの小噺を寄贈いただいたぞ。さすがは同志Xノフの同志であるだけのことはあるな。( ̄ー ̄) スタッフロールに流れるNGシーンとでも思われよ」

〜その壱〜

(マーチン刑事、旧ハウンド基地にてドアに化けたミミックに驚くの事)

 このドアは有機物で出来ていた。ドアそっくりに擬態した何かの生き物だったんだ。
マーチン:「ハウンドの鑑識さんにも、こういう所が好きな物好きがいるんだろうねぇ。まーったく気がしれないぜ」
燕 輝月 :「個人の趣味に、何か?‥‥」【ローダーが引かれて散弾が装填される音が‥‥】
マーチン:「‥‥‥‥(趣味って、部屋?ドア? それとも両方なのか?)」


〜その弐〜

(月華院大学にて東博士に話を聞く燕鑑識官、クスハをテングと見破る博士に気付くの事)

燕 輝月:「博士。‥‥彼女を、そんな目で見ないで欲しいのですが」
東博士:「おっと、これは失礼。で具体的な対抗策だが‥‥」
燕 輝月:「(だって、わたしが先に目を付けたんだから‥‥)」



前編】【後編】

Bar from V:tM
...... Gray Blood ......

レポートのページへ戻る

dice-jp.com > Iwasi Studio > Report > Gray Blood 2
Back to RI-Foundation TOP > NOVA