月の支配者 -月光の元、天にもっとも近い街より一人の吸血鬼が現れた。その携える銃の名は宿命と言うた。
〜ダーククイーン陛下と遊ぼう!〜

前編】【中編】【後編
n a v i g a t o r

(ルビを使用しているため、IE5.0以上での補完がお勧めです)



Chapter I: Nites of Prophecy
-預言の夜


 M○●Nには一人の高名な占い師がいる。見た目通りの老婆だとも、妙齢の美女に化けるとも言われる謎めいた老婆だ。だがヘルガの占いは災いを呼び寄せるとも言われ、同時に悪名も高かった。
 今夜の客は長身の女と連れの少女の二人連れだった。ターバンの下に表情を隠し、大きなトランクを引きずったダンサー。連れのソニアも一応ジプシー風の格好をしてはいたが、布の隙間の額から金色の髪の房が覗いている。白い肌も却って目立っていた。
「ばあちゃんは、ヒルコのこともよく知ってるんだっけ?」
「もちろんじゃとも」 老婆は面白そうに下手な変装中のソニアを指差した。
「おまえさんたちは地下街へ行くんじゃろう。そう定めが出ておる。
 ‥‥そうさのう、一月ぐらい前からかのう。あそこにはずいぶん蟲の数が多くなってのう。誰かが手引きしたのかもしれぬ。中でも奇形の小虫が目に付くそうぢゃ。手足の数や眼が倍ほどもある蜘蛛や百足が這っておるぞ。黒の猟犬どもの昔の巣の辺りが特に酷いそうな」
「やはりあそこか‥‥」
「トランクの姉ちゃん、あたしたちあんな気味悪いとこに行くの?」
 冷静なダンサーに対して、ソニアの驚きようは対照的だった。
「ヒルコといっても小さな蟲とは限らんぞ。こーんなに大きな、それこそウォーカーでもちぃーっとも敵わないような化物もおるのじゃぞ。ヒヒヒ」
「ふーんだ。本業の方が強いもんね」
「見慣れない人間たちが地下街に出入りしていたとも噂になっておるな。ククク、千早かBIOSか、企業が絡むと話もややこしくなるのう」
BIOSなんて、真っ二つにしてやるよーだ」
「‥‥おや。ほー、こりゃ美男子の登場だねぇ」
 二人の客の後ろから現れた黒衣の美影身を認めると、老婆は感嘆の声を上げた。
「あたしがもう五十年若かったら、放っちゃおかないさね」

 ソニアが振り返ると、そこには黒銀の瞳の貴公子が立っていた。夜の光を浴びてすらりと立つその姿は美しくも妖しく、そして星幽の世界に近しいソニアには同時に本能的な危険をも感じさせるのだった。チャイナタウンの繁華街が似合いそうな端正な若者だったが、何かが違う。
「奇遇だね、ここで逢うなんて」
 貴公子はダンサーに向かって手を振った。その時、女戦士の体がびくりと動き、ターバンの下の表情に劇的な変化が生じたのだが、まだ人生経験の浅いソニアは気付かなかった。

その蔦薔薇は冬の力

 少女と女と若き吸血鬼は悪名高いM○●N地下街へと降り立った。うかつに迷って奥底に迷いこんでしまえば、そこはもう菌類と昆虫と分類不能な何かの世界だ。
「(うわー、ヤバい人だ‥‥)」
 ソニアはちらちらと華人の青年を見ながら歩いていた。ルイ・タンと名乗った彼とダンサーは知り合いのようなのだが、この美青年が何を言っても彼女は黙っている。
「怖がらなくていい。君の名前は?」
 何となく不安になったソニアはダンサーの大きなトランクを盾にすると答えた。「ソニア。ソニア・キロスニフ」

ルイ、カイン人の貴公子、ファタリーテの主

「大丈夫だよ」 青年は瀟洒な物腰を崩さずに言った。
「10代の娘の血は、あれ以来吸わないようにしているんだ」

 その途端、ダンサーが突然速度を速めて一人歩き出した。軍用ブーツの重い靴音と共に引いていた鋼鉄のトランクも後に続き、ソニアが不死者との間に取った十分な高さの遮蔽は意味をなさなくなってしまった。ヴェールの陰でダンサーが真っ赤になっているのも、ソニアには知る由もなかった。

 思い出したくない男に遭遇してしまった衝撃から立ち直り、一足先に地下街を進むダンサーは、よく情報屋に使っている馴染の乞食を見つけた。
「大凶のばあさんに聞いたんだ」
いつの間にか皆が呼ぶようになったヘルガの仇名を告げ、指の間にカッパーを挟むとちらつかせる。
「ハウンド基地の周りのことを教えてくれ」
「奇形の蟲が多いことかね。あの辺に近付くと耳鳴りや頭痛が起こるってもっぱらの噂でさあ」
 乞食は擦り切れた上着の中に大事そうにクリスをしまいこんだ。
「ポケットロンも調子が悪くなるそうですぜ。ありゃあ、ぜってえに胞子のせいじゃないね」
「企業の人間が来ているというのは本当なのか?」
「ああ、おグリーンの連中が来てたのもだいたいその頃でさあ。なんかの薬を撒いてたようで。ありゃあ、きっとBIOSだね。ハウンドも本腰いれて来るそうだし、あぶねえあぶねえ」
 ダンサーは外套をはねあげ、コートの胸に無造作に留めていたM○●Nブラックハウンドのバッヂを見せた。
「私も今はそこへ出向中だ」 ヴェールの陰ではしばみ色の瞳が不敵な光を放った。「逃げるなら、早めにしておけ」


こうさくいん「ダンサーとルイ様の間には何があったのでしゅか?(゚o゚)」
ボス「う、うむ‥‥。さてアクトの円滑な進行や互いのキャストの認識の為に行う事前のキャスト間コネだが、特にSSSのような短いアクトだとあまり使わずに終わることも多かろう。小粋にエレガントPLAYなこのシリーズでも結局使わなかったり、冗長を避けるためにレポートではあえて描写せずに済ませたりしていることも多い。なんにせよ今回もソニアたん→ダンサーぽん→ルイ様→アレックスぽん→たこ焼きツァンイェ→ソニアたんと5人で一周するようにコネを結んでいる。
 でだな、ダンサーからルイ様へのコネはハート。ジツは初めてのオトコだったという設定なのじゃよ‥‥。まだおフランス方面にいた小娘だった頃、きっとあの美貌にコロッといってしまったのだろう」
こうさくいん「なんでしゅと〜!Σ( ̄口 ̄;) 一挙にオトナの世界へと突入でしゅよー! どうするんでしゅかー(>ω<)」
ボス「まぁそう興奮するな。ダーククイーン陛下じきじきの御所望だったのだ。ほれ、我々としても逆らえないではないか(ごーりごーり)
 ちなみに彼女は本名不詳なのだが、この追加設定のせいで本名を考えねばならなくなったらしいぞ。なっはっは!」





Chapter II: d e v i l f i s h
-悪魔魚


 俺の眼とパンサーの眼が捉えていた画像、月華院大学付属中学校の出入りの記録を千早に洗ってもらったところ、狙撃犯の身元が割れた。大槻製薬営業三課、天城圭一。目標の直接奪取や暗殺に通じたエージェント。BIOS社長の天津昂一郎の腹心の部下。篠原郁の直接殺害まで狙い出したところを見ると、自らの偽装はもうそれほど重要ではないのだろう。
 大槻製薬は健康食品の開発や販売、特許で利益を上げているという中小企業だ。あまり聞かない名だった――恐らく、BIOSのダミー会社のひとつだろう。
 厳重なセキュリティに護られたM○●N千早本社では、襲撃の危険も減る。俺はツァンイェと名乗った“3班”の男と一緒に、新ファーサイドへ赴いていた。

危機に挑むものが勝利する -GEB陸軍第22SMF連隊徽章

「ここはいわゆるFAZって言い訳が通用する場所でしてね、何が起こってもおかしくない。ほら、あそこのテントで堂々と武器が売られてるでしょう。ありゃあ、30mm機関砲だ。やれ、難儀なところですな」
「本当の危険度は、口径の大きさではないぜ」
 二人の男は新核酸市場を通り抜け、屋台が並んでいる一帯へとやってきた。ツァンイェは慣れた様子でその中のひとつに近付いた。車輪のついた移動式の屋台の上で、商売道具一式を広げると男がたこ焼きを炙っている。ねじり鉢巻き、いかにも怪しそうな四角いサングラス――M○●Nの食通の間では有名な、黒沼ゼンだ。
「ここの明石産のやつが旨くてねぇ」 リウマン出身のエージェントはポケットから小銭を探った。「アレックスさんもどうです」
「いや、遠慮しておこう」
 ブリテンからきた男はやんわりと辞退し、成り行きを連れに任せる。
「そうですな。西洋人は食べないんでしたな」
 肩を竦めるとツァンイェは主人に声をかけた。
「へい、らっしゃい」
「黒沼さん。今日は特注のたこ焼きが欲しいんですよ。ここには毎日毎日いろんな客がやってくる。あんたなら知ってるかと思いましてね。そう――『NWO』って愉快なホラ本を出した連中のことを教えてほしい」

 前世紀の格闘技の団体か、それとも科学魔術を操るM.I.B.の秘密結社の夢想か。NWO――New World Order、即ち新世界秩序。それは『プロジェクト・コンクエスト』との類似性の高さが千早の目を引いた一冊の本だった。
 同書は日本の技術力の高さ、日本の軍事力の強大さ、日本人のもつ遺伝的な優位、日本に関する全ての側面における優越性を独断と偏見と一面的な視野に基づいて記したものだった。その後は前世紀の神国大日本帝国や総統の夢想したドイツ第三帝国のように、世界は最もすぐれた人種によって統治されるべきだと論旨が展開し、世界に覇を唱えるべく軍を派遣した際の、仮想敵国の処理方法まで書いてある。
 作者の美作唯(みまさか・ゆい)博士は日本本国が鎖国体制に入った後、入国許可を得た珍しい人物だった。生物工学、歴史、人類学に通じ、特に遺伝子技術の他分野への応用に詳しい。同書に書いてあったようにCFCの研究所勤めを経て、その後でM○●NのBIOSへ引き抜かれていた。その後は経歴情報が消えており、この街で名うての情報屋である黒沼ゼンでも何の噂も知らないという。
「どうも、助かりますよ」
 明石産のたこ焼き10個入りのパックを買うと、ツァンイェは店主に別れを告げた。
「じゃあ、再見(ツァイチェン)

「デビルフィッシュのお味はどうだい」
 合成プラスティックの楊枝でたこ焼きをつつく後方処理課員に、黙って見守っていたカブトは声を掛ける。
「ええ、旨いですよ。これは明石産といって、格別でしてね。明石ってのは昔の日本にあったタコの棲んでた海の名だ。有名な海なんですよ」
 サングラスの奥に本当の呪眼を隠したまま、ツァンイェはたこ焼きを突き刺すとアレックスの前に示した。
「ところが今じゃ、その海は干上がってる。この中に入ってるのが陸地を歩くようになった賢いタコなのか――それとも全然別の生き物なのか――私は知らないんですけどね」
 大陸から来たエージェントはうまそうに悪魔魚を頬張った。

金の死眼 銀の妖眼



Chapter III: stand by, stand by
-襲撃待機


 ハウンドの現存戦力による旧BH基地突入作戦の時間になった。ダンサーは簡易型の防毒マスクを付け、バックアップとして建物脇に控えていた。出向中の戦力として別行動を取ること、若干の連れがいることも本部に連絡済だ。大津波の際に半壊した基地は、現在はその半分以上が地下に沈みこんでいる。
 解析によると、M○●NBASEにハッキングしてきた10本脚の蜘蛛は、侵入時の自己増殖型ウィルスのルーチン同時起動数、最適変数の再計算と再起動速度、侵入バイパスの微調整の頻度が、人間の処理能力を超えていたという。分かりやすく言うと人間技ではないということだ。だが、行動原理が今もってまったく分かっていない。
「変な蟲が増えてきた後にハッキングがあったんだから、犯人も蟲の連中の仲間ってことも考えられるよね」
 子供用のマスクを付けて本部を監視していたソニアも、分かったようなことを言う。
「俺は人を守れない。よろしく頼む」
 一人マスクをつけずに待っているルイは、左腰のホルスターで眠る魔力ある古風なリボルバーにそっと触れた。マスクをつけない理由をソニアが怪しんでも軽く誤魔化すだけだったが、ダンサーは知っている。かつて彼女がまだ純情な娘だった頃にのぼせ上がったこの美青年は、不死者となってからは既に呼吸をしていないのだ。

『こちらムーンベース。各班、最終状況報告の後に突入に移れ』
 ダンサーが持っている内部用無線機に受信があった。
『ケルベロス1、突入準備を完了。突入』
『こちらケルベロス2、突入準備完了。突入』
『ケルベロス3、突入準備完了。突入』

『ムーンベース。4班、報告を』
『こちらケルベロス4。準備を‥‥おい、どうした? うわぁぁっ!!』
 断続的な銃声と、その背後に聞こえた何かが這い回るような不気味な物音。
『こちらムーンベース。4班、交戦状況を報告せよ』
『ムーンベース。‥‥4班、反応を!』
 ソニアが何か言いたげに仲間たちを見る。ダンサーは茶色の瞳を落とし、厳しい顔で頷くだけだった。
 沈黙がしばらく続いた後に、無線が再び反応した。
『こちらケルベロス1。現在位置、中央制御室。2班と合流、地域安全を確保した。エリア内に敵性目標なし。移動した模様。捜索に移る』
『ケルベロス2、1班と捜索中。‥‥あっ? 《エキドナ》が‥‥ギガトロンが有りません?!』

『こちらムーンベース。状況の詳細を報告せよ』
『メインフレーム《エキドナ》の本体部分が消えています。ケーブルには牙のようなもので噛み切られた跡あり。それから‥‥成分不明の粘液と‥‥糸? これは解析してみないと分かりません』
『こちらケルベロス3。予定経路に予期せぬ障害物発見。このままでは中央制御室に到達できない。現在位置はC-5-2、4班の侵入地点、中央制御室の双方より距離あり。ムーンベース、指示を求む』

『‥‥ムーンベース。1班、2班、協力して捜索の後、最終合流地点へ撤退。3班、現位置でしばらく待機。1班、2班の作業を待って撤退せよ』
『ケルベロス3了解』
『こちら、ムーンベース。バックアップ中の全隊員に告ぐ。ケルベロス4の侵入地点はD-1-2。近い地点にいる隊員は現場へ向かい、状況の把握と生存者の救出に向かってくれ』

「無残だな。俺たちの名が刻まれないよう、気をつけるとしよう」
 ルイは立ちあがり、古き彫刻の刻まれたリボルバーを引き抜いた。その金属部分に精緻に刻まれているのは人にあらざる手による優美なゴシック調のエングレーヴィング。銃身は銀の混じる黒。“宿命”(ファタリーテ)の名を持つこの年代物の銃は、死の王の使いによって授けられた、妖魔の御業によるものだ。相手が人間でも妖魔の類でもないヒルコであっても、そこに込められた強力無比な6発の銃弾は力を持つ。
「刻まれるのは妖女(エキドナ)と獣の名だけだよ」
 ダンサーが静かに答え、3人は旧ブラックハウンド基地の第4通用口に向かった。ケルベロス4が消息を絶った場所までは近い。

踊る人形は彼女の戦友


 基地内は夜のファーサイドよりもなお暗く、砂と埃と得体の知れないもので廊下の輪郭が変わっていた。打ち捨てられた機器や何かの足跡があちこちに散らばっている。
 揃いの黒い突入服に身を包み、ケルベロス4の隊員たちが倒れていた。もう誰も動かない。死体同士の距離はそれほどでもなく、ちょうど統制の取れた隊列で前進していたところから何かに遭遇し、展開して応戦しようとしたところで尽きたようにも見える。
 ダンサーは屈み、長衣の下から手を出すともう力を失った隊員たちの手から銃を取った。こうした室内への突入作戦に標準的に選択されるSMGAP40だ。弾丸も通常の9mm。マガジンはどれもひとつめで、数発撃って応戦したところで終わっている。隊員のボディアーマーにも同じ口径と思われる弾痕が残っている。
「同士討ちだけではなさそうだね」
 死体の傷を調べていたルイが言った。8人の何人かは、首や手首に傷痕が残っていた。鋭い牙によるものだ。
「糸‥‥?」
 若き血族は整った眉をひそめた。ほとんど見えないが、死体や、壁に、蜘蛛の張る糸のようなものが続いている。
 突然、ソニアのポケットロンが鳴った。M○●N傭兵部隊からだった。彼女の愛機、“ドラゴンスレイヤー”が届き、整備も完了したとのことだった。
「分かった。こっちまで持って来るのは時間掛かるでしょ。チェックだけして。あたしが取りにいく」
 強いマヤカシの素質を持ち、自分の力で星幽界への門を開くことのできるソニアは、作戦行動の場へ直接機体を運んでくるという離れ業を演じることができる。
 通信が終わった時、再び物音がした。カサコソと何かが這い回るような音。たくさんの、たくさんの何かが近付いてくる音。
 ルイがファタリーテを構え、暗闇に向かって構える。ダンサーは通路の反対側に向かって振り向き、姿勢を低くした。軍用コートと長衣の下から褐色の手が現れ、細く繊細な指が見えない糸を引く。彼女がいつももち歩いている大きなトランクが独りでに開き、その中から人間よりふたまわりほど大きな奇妙な人形が飛び出した。
 ソニアは懐中電灯を暗闇の奥に向けた。そこにはたくさんの蜘蛛のような大きな生き物がいた。目のあるべきところから背中に掛けて、もっとたくさんの目のような器官があり、ウォーカーのコンソールのように赤い点が光っている。そのヒルコたちの全身像が見えた時、ソニアは何故這い回る音が数割増しであんなに大きく響いたのかを理解した。
「蟲だ! 10本も脚があるよ?!」

その蔦薔薇は冬の力



Chapter IV: Nitefire and Evileye Fire
-夜の炎と邪眼の炎


 黒沼ゼンのたこ焼きを始め、M○●Nにも幾つかの名物や珍品がある。ファーサイドの一角にあるこの喫茶店も同じで、各種のお茶や色とりどりのケーキに並び、牛乳と炭酸水から作ったミルクソーダ、抹茶ソーダ、果ては独創的な組み合わせからなるたこ焼きパフェなる珍品まであった。
 そんな迷メニューを客たちが試している中、奥のテーブルでは似合わない二人連れが向かい合っていた。
 ビジネススーツは着ているがまだ中学生ぐらいの少女。向かい側の30がらみの男は黒いコートを脱がず、時折さりげなく四方に目をやっている。少女の前にはビターチョコをまぶした美味しそうなマロンのケーキとハーブの香り漂う紅茶が並び、男の前にもコーヒーではなく紅茶があった。


 ファーサイドの料亭でさる企業役員と行われた商談は双方の利益に繋がる道を見出し、順調に終わった。還ってきた女、篠原郁はその職務を終え、たった一枚の人格カードの中に眠った。隠された鷹、原田珠代は自らを取り戻し、帰る前にこうして一息ついているのだった。
「わたし‥‥私は原田珠代というふつうの女の子なのに、篠原郁も私。だから、ああいう人たちに私も狙われてしまうんですよね」
 彼女はぽつりと言った。
「私、本当は生まれて3年ぐらいしか経っていないんですよね。でも私はただの中学生で、友達と話したり、こうやって、たまにはケーキを食べたりするんです。不思議なものですよね‥‥」
「‥‥ああ。そうだな」
 言うべき言葉がなく、俺は視線を落とした。ケーキのてっぺんにあったチョコレートで包まれたマロンをフォークで刺し、最初に口に入れた彼女は、その後はフォークを黙って弄んでいた。
 その時、机の脇にあった携帯電話が鳴った。女子学生に人気の“ウォッチャー”の新型だ。中から語りかけてきたのは大正食品のクグツだった。なんでも健康飲料のM○●N千早への納入で、CMのイメージガールに彼女を起用したい件だという。
「えとえと、今すぐ近くにいるので、打ち合わせを進めたいそうです。予定にないですけど、いいですよね?」
「ああ、構わんよ」
 俺たちはしばらく待った。珍しいパフェを試しにきた客たちが帰ってしばらく経った後で、入口の鈴が鳴った。
「どうもどうも、夜分遅くお忙しいところ申し訳ありません。すぐ済みますので、お時間を少しだけいただければと思います‥‥」
 目立たない暗色のスーツを着こなし、ごく標準的な何の変哲もないカンパニー・マンの表情を完璧に浮かべ、その男は喫茶店に入ってきた。
 ニューロエイジは偽りの時代だ。自分の正体を隠し、自分の本性を隠し、仮面(ペルソナ)を被った連中がストリートの奥に、摩天楼の高みに、闇の中に蠢いている。
 糸の様に細い目をしたその腰の低い男は――あの月華院大学前の襲撃で、13mmダズルとスマートリンクした俺の視界が見たあの顔だった。


「どうもどうも、この度は我が社の企画部を通しまして、わたくしが話を進めさせていただきます」
 クグツは丁寧に礼をすると大正食品の社章の入った名刺を二人に差し出した。何のためらいもなく原田珠代がそれを受け取ろうとした時――横から素早く伸びたアレックスの手がそれを遮った。
「おやおや、物騒ですね。私はただ、CMの相談に来ただけなのに」
「‥‥ほう」
 デス・ロードは名刺を指の上でゆっくりと回した。夜の色をした炎がその手の中に突如現れ、名刺が燃え上がった。ワイルド・カードと同型の高性能爆薬を仕込んだ名刺は差し出した本人の前で、爆発することなく内側に吸いこまれるように一瞬で燃え尽きた。
「おやおや、お揃いで」
 ただならぬ雰囲気に気付いた珠代も腰を浮かせたところに、そこへもう一人のクグツがぶらりと喫茶店に入ってきた。テーブルを間に対峙する3人を認める。
「ところで――」 呪眼のツァンイェはサングラスをずらした。「BIOSの工作員がなんでここに?」
 その妖眼から炎が矢の如く放たれた。大正食品を名乗るBIOSのハック&スラッシュ専門エージェントの鼻先を掠め、炎はソファに穴を穿った。見事な後方宙返りで天城圭一は飛び退り、暗殺標的への道を阻む二人の男を変わらぬ表情で見据えた。
「おう、素晴らしい反射神経」
 3班の男は素直に賞賛の声を送り、サングラスを戻した。

危機に挑むものが勝利する -GEB陸軍第22SMF連隊徽章

 立ち上がった珠代を背後に庇い、アレックスはやや退いた。天城との間ではまだソファがくすぶっている。
「死体がイメージガールでは、売れ行きも期待できそうにないな」
 黒いコートの下に隠された黒銀の鞘から剣が引き抜かれ、次第に夜の色を纏う。
「殺すだなんて物騒な」 天城は細い目をさらに細くして穏やかに微笑んだ。「私はただ、脳が欲しいだけですよ」
 地を蹴り、壁を蹴り、テーブルの上を蹴ってBIOSエージェントの体が浮いた。サイバーウェアで加速された神経とよく鍛錬された本人の体術との調和が生み出す、一撃必殺の暗殺空手が宙から繰り出される。
 だが、死神の使いの振るう魔剣の一閃がそれを遮り、必殺の手刀を退けた。その刀身は夜の力を纏い、ひととき霞んでいる。
「私の視線を避けましたね」
 面白そうに戦いを見守っていたツァンイェは再びサングラスに手を掛けた。「でも、次は殺しますよ?」
 ふたたび、その金色の左目が光を発した。BIOSのカンパニー・マンが避ける前にその足先を貫き、その向こうのテーブルを盛大に壊す。
 天城圭一は飛びすさって体勢を整えると、暗色のスーツの胸元に手を入れた。
「2対1では、分が悪いですね‥‥」
 はらりと床に落ちる一枚の名刺。大正食品の控えめな社章の印刷されたそれは、絨毯の上で強い煙の塊と化した。天井からつるされていたお勧めケーキの広告看板が灰色に染まった時、クグツの姿は店内から忽然と消えていた。

金の死眼 銀の妖眼


こうさくいん「わーい珠代ちゃんと夜の喫茶店でぽわぽわ〜んと補完でしゅね〜ヽ(´▽`)ノ」
ボス「Σ( ̄口 ̄;) 全然よくないわぁ! ダメ化されてしまうではないか。さてこの重大な危機を正常なN◎VAコズムに戻してくれる敵ゲストの登場であるぞよ。<※偽造依頼>を予め使っていたために直接接触するまでは別人と思わせられたのだな。BIOSのエージェントを補完せよ」
こうさくいん「ラジャーでしゅー。“コード0”天城 圭一はクグツ◎●,カゲ,チャクラ。アレックスぽんに見破られた爆薬入り名刺はもちろん<※仕込み武器>。たこ焼きツァンイェぽんの邪眼を避けられたのは<※猿飛>してるからでしゅ。<※空蝉>から反撃可能、典型的な戦闘系クグツでしゅね〜」
ボス「戦闘用敵ゲストにはよくみられるタイプだな。キャストでも見たことがあるぞ(笑) というかちと古いが『マトリックス』がヒットした後はみんな創っただろうビシッ! 続編はいつ公開になるのかのう」
こうさくいん「《不可知》して忍者っぽく消えちゃったでしゅねー(>_<) ところでこの喫茶店の珍メニューはテストプレイでは実際に出てきたらしいでしゅね?」
ボス「うむ。ヨコハマ『らいとぽいんたぁ』にはいろいろ内部で世界が広がっているようだ。密告者がいると助かるのう(ニヤソ)」
こうさくいん「戦闘も終わったし、みんなでケーキでも食べて萌えシーンを補完するのでしゅよーo(≧▽≦)9゛」
ボス「ええいするかぁ。Σ( ̄口 ̄;) 次は旧ハウンド基地で絶対絶命なのじゃあ」





Chapter V: Echidna'z Children
-エキドナの子供たち


 それは不気味な光景だった。毛むくじゃらの10本の脚と赤い光点のような10個もの眼のある大きな蜘蛛のような生き物の群れ。壁を突き破って現れた、大昔の恐竜の前足の鉤爪と口だけを大きく歪めたような真っ赤な獣。
そして機動戦車と互角に渡り合えるほど大きな、指揮官とも思える巨大な蜘蛛が後方に控えている。その背は角ばり、自然界にはありえざるような直線の集合からなる何かと蜘蛛の丸みを帯びた体が混じりあったような、奇妙な姿をしていた。回廊は天井も高く横幅も広かったが、それでもその蜘蛛の王の姿は通路一杯だった。
 並の女性であれば悲鳴を上げて失神必死のところを、生粋の戦士であるダンサーはよく戦った。その手が見えない糸を操り、戦人形が果敢に立ち向かう。異国の祭りのような奇妙な面と飾り、布で覆われた体と強い鋼鉄でできた腕。恐れを知らない人形は怯むことなく戦い、蜘蛛の体を引き裂いていった。
 そしてその後ろから、狙い澄ましたルイの射撃が闇に一筋の光明を放つ。“宿命”(ファタリーテ)は定命にあらざる者たちの都で鋼より鍛えられた力ある銃だ。その上に不死者の生者に与える根源的な恐怖を乗せた弾丸はさらなる力を持つ。その一撃は目標のみならず、射線上の全ての蟲たちを塵に変えていった。
 ルイが弾を込め直すために近くのドアから逃げ込んだ時。崩れる前は吹き抜けであっただろうそのホールの中空から、さらなる援軍が現れた。
 基地の外からでは絶対に入れなかったであろう、蒼い塗装に龍鱗の重装ウォーカー。“ドラゴンスレイヤー”を操縦するソニアが、星幽界への門を通って出現したのだ。
 獰猛な爬虫類の如き頭部を備えた蒼の龍騎士が無言の咆哮をあげ、肉でできた蟲たちに襲い掛かる。硬い鋼の格闘用クローが子蜘蛛の歩兵たちをなぎ倒し、踏み潰す。左手のマシンドキャノンが蜘蛛の陣の本陣に容赦なく撃ち込まれた。その背に鋼を抱えた巨大な蜘蛛の王が俊敏な動きで前進し、自分より小さな不遜な龍騎士を仕留めようとした時、かつてレールガンが装備されていた肩が光を発した。続け様に3発発射されたロケットジャベリンが蜘蛛の背にある眼のふたつと何かに食いこむ。最後の瞬間、何かを考えるように動きを止めたあと、巨大な10本脚の蜘蛛の王はその背にある何かと一緒に爆発した。

その蔦薔薇は冬の力

 吸血鬼は概して人間より夜目が効く。夜光蟲(ノクティルーカ)として世界の夜を30年余り泳いできたルイ・タンならばなおさらだ。
ルイは最後の瞬間、巨大な蜘蛛のヒルコが後ろに引いていた糸が暗闇の中で光ったのを見ていた。それはまるで、何かを何処かに伝えようとしているかのようだった。
 爆散した大蜘蛛の死体へ近付く。飛び散った破片の中には明らかに、マイクロチップやコードやその他トロンの部品と思われるものが混じっていた。血の持つ神秘の力をもって体を動かしている不死者の目から見ても、有機物と無機物が融合したその体は極めて珍しいものだった。
「‥‥《エキドナ》とかいうギガトロンが消えていたと言っていたね」
 ダンサーの方を見上げる。女戦士は防毒マスクとヴェールに隠された顔に僅かな嫌悪の色を滲ませ、頷いた。
「ミュータントの中には兵器や動力プラントの類を取り込み、一体化する力を持った珍しい種類もいる」
 彼女がハウンド本部に無線で連絡を取った。すぐにゴーストハウンド部隊が区域内のウェブをトレースし、ルイの予感が当たったことが証明された。
 ドラゴンスレイヤーの前ににあえなく粉砕した大蜘蛛は、ウェブスピナーと呼ばれる電脳接入能力と糸を用いた情報伝達能力、高い知能を備えたミュータントだった。M○●NBASEにハッキングを仕掛けてきた蜘蛛のアイコンを操る犯人は、一世代前のメガトロン《エキドナ》と融合してさらに演算能力を高めた本物の蜘蛛だったのだ。
 そして自らの死の間際に同胞に向けて転送した情報は――生物学的に見た、人間という種に関する調査報告だった。

「奴らにとって予定調和の展開にならないうちに、手を打とう」
 ルイは出口に近いと思わしき通路を認めながら、あの時はまだ少女だった女の肩にそっと手を置いた。「‥‥強くなったね」
「‥‥‥‥」
 ダンサーは顔を背け、手を動かした。見えない糸で操られた戦人形が独りでに動き、トランクの中に収まる。トランクは大きな音を立てて独りでに閉まった。
『あたしたち、またあんな蟲を相手に戦うのぉ?!』
 ソニアは気持ちが悪いのか、ドラゴンスレイヤーのコクピットから出ようともせず、愛機のアームでミュータントたちの死体に触れようともしない。14歳の天才カウガールの悲鳴に近い声が増幅され、誰もいない旧ハウンド基地に響き渡った。


ボス「喫茶店で楽しくお茶だというのにハウンド基地探索組はこっちはこっちで戦闘だ。きらきら〜んとソニアたんの龍騎士も登場するというのに敵は蟲祭りだぞ。ちなみに総帥は蜘蛛が嫌いゆえ自分で書いていて嫌になったそうな(笑) さて敵の解説でもして補完せよ」
こうさくいん「ラジャーでしゅー。肉食恐竜系のジバシリの亜種が真っ赤っ赤のクリムゾンでカタナのトループ。たくさんたくさんいる小蜘蛛はイヌとニューロのトループでしゅ。アンカー&トリモノ相当の糸で<※フリーズ>してくるのと、糸を伸ばして<※SPAM>で直接トロン戦してくるでしゅよ〜Σ( ̄口 ̄;)」
ボス「蜘蛛のくせにやりおるな。後々厄介なために最初に吹き飛ばされてしまったが。脚も眼も10個あるジャイアントウェブスピナーはヒルコ◎,ニューロ=ニューロ●だっただそうだな」
こうさくいん「なんとヒルコの<※融合>でMatrixタップ相当のギガトロンがくっついてたのでしゅよ。演算能力を上げて<※フリップフロップ>状態、1カット目からAR4でしゅ〜(@_@)」
ボス「おそろしやおそろしや。ぐるぐる巻きにされたら大変だな。最期は《電脳神》で人類の調査情報を補完して“女王”のもとに送っていたらしいぞ」
こうさくいん「ううーでもソニアたんたちも頑張ったのでしゅよー。o(≧▽≦)9゛ ドラゴンスレイヤーが加勢してダンサーぽんの人形が戦ってルイ様のファタリーテはダメージ39点でしゅ。恐るべしスクリーマー相当でしゅよ〜大きな弾なのでしゅか〜(ガクガクガク)」
ボス「18mmなどという非常識な口径では拳銃は造れないがな(ニヤリング) 実際にファタリーテの外見のモデルは西部開拓時代に活躍したコルトのシングルアクションアーミー“キャヴァルリー”だそうなのだ。それゆえ口径もきっとふつうの.38から.45の間じゃよ(笑) さすが妖魔の都で鍛えられた魔銃じゃのう」
こうさくいん死の王(デスズ・マスター)ウールムってなんなのでしゅか?(゚o゚)」
ボス「まだ地球が平らだった頃に世を支配した5人の妖魔の王の一人なのだ。興味のある向きはタニス・リーを読まれると良かろう。耽美なファンタジーでよいぞよ。
 でだな、ルイ様を抱擁(エンブレイス)いや仲間にした兄のアルマンはヌーヴの緑卓子(アン・タピ・ヴェール)本拠で今も公子(プリンス)の如くに好き勝手に振る舞い、同族喰らい(ディアブラリィ)っぽく奥義書相当の同族の血を沢山飲んで悪行の限りを尽くしているそうな。ほれ、こっそりとデザイナーズ版キャンベラAXYZのオーガニゼーションガイド2ページ目を見てみよ」
こうさくいん「財団の諜報活動はN◎VA界全土に及ぶのでしゅ!(≧▽≦)ノ をを、よく見るとちゃんと緑卓子の香主にアルマン・タンと書いてあるのでしゅね!(きら〜ん)」
ボス「うむうむ。でだな、ウールム陛下は元は人の子でありながら力をつけすぎた香主アルマンを疎み、ルイ様がいつか復讐を果たすよう、自らの使いを通してこの運命の銃を授けたという超ゴイスーな設定なのだ。本人からだぞ本人から。既に三合会、美形、ヴァンパイアと3拍子揃って完全無敵のお腹いっぱい設定がさらに満腹だ。もうおやつのたこ焼きもいらないぐらいだぞ!(笑)」
こうさくいん「わーい妄想のレッド・ゾォンに突入なのでしゅね〜ヽ(´▽`)ノ」
ボス「ちなみにアレックスぽんの携えている魔剣は闇の公子の名を冠しているだけで、どこで鍛えられたのかは分からないのだ。まあこの辺がレッド・ゾォンの考え方の違いなのだがな。今回は陛下の方にちと合わせて(ごーりごーり)ふたつの業物が互いに引かれあっていることになっているのじゃよ」
こうさくいん「いいのでしゅよー今日は特別に暗黒女王陛下に合わせるのでしゅよ〜o(≧へ≦)9゛」
ボス「しかしアレだな、カーライルの円卓の騎士云々や『ナイトブレイク』の面々の言動といい、どうも近年のN◎VA展開は妄想を助長する傾向があってちとナニだな。言ったもん勝ちの設定で強さを競うのは時として非常に醜いのだが‥‥(笑)」



踊る人形は彼女の戦友



Chapter VI: Kindred of the Moon
-月の血族


 夜半を過ぎ、M○●Nを照らす月も心なしか妖しい色彩を帯びたかと思える頃。亡霊医師レドリック・アッシャーの指定した店で一人連絡を待つ美作麻耶の元に、一人の美影身が現れた。
 荒廃した旧ハウンド基地を抜け出したルイ・タンが、再び依頼人の元を訪れたのだ。
「そうですか‥‥そのジャイアント・ウェブスピナーは、生きたバイオトロンに非常に近いミュータントなのです。出現にはBIOSが関与したはずです」
 地下で仕留めた巨大な黒蜘蛛の王のことを話すと、髪を金色に染めたC.F.C.の博士は表情を変え、ぽつぽつと話し出した。
 ウェブスピナーは自らの網をネットワーク・ケーブルのように機能させ、地下道張り巡らせた網で理論的にはM○●Nのウェブすべてを掌握することすらも可能だと言う。特殊な器官から放出する微小生命体の付着、糸を使った物理的な接触によって、ネットワークから完全に切り離されたスタンドアロンのトロンへも侵入できるのだそうだ。それから逃れるには、トロンを完全に密封するなり、遠くへ持っていくなり、空高く運ぶしかない。
 BIOSは他にもヒルコの培養を進めていた。最近M○●Nを行き来するキャラバンや傭兵部隊を騒がすミュータントの襲撃騒ぎには裏があった。日本軍による情報操作によって隠されていたのだ。
 BIOS、日本軍の合同戦力、一説では5000人レベルとも言われる規模の軍事戦力が、密かにある強襲作戦に投入されていた。
 目標はヒルコの一種、ジバシリの生息中心地である集合体(クラスター)のひとつ。最も規模が大きく、もっとも反撃が激しいであろうミスガルズ・スウォーム。自殺にも等しいこの攻撃で多大な犠牲を払いつつ、BIOSはあるたった一体のサンプルを入手したという。噂では、それは休眠期にあったジバシリの“女王”(クイーン)‥‥全ての個体の母体であり、高い知性、驚異的な環境適応能力、精神感応を用いた統率能力をもった稀有の価値のある個体だ。

「失礼、千早の者です。我が社が重大な危機にさらされていましてね」
 店のドアがノックされ、黄色い肌のカンパニー・マンが入ってきた。
「バイオ倫理法違反、世に害を及ぼす可能性の非常に高い危険思想者、現在BIOS内部の何処かにいると思われる美作唯博士には、現在もC.F.C.在籍の美作麻耶という妹がおり、本件に関してフリーランスを雇っている模様‥‥でしたな」
 呪眼のツァンイェは博士の前に立つ美青年を認めて会釈した。

「知っているなら仕方ないな。以後よろしく」
 珍しい中華系吸血鬼の顔を眺めると、クグツのサングラスが光った。
“夜光蟲”(ノクティルーカ)ね。我々華人の間では有名な名だ」
「大陸訛りのないきれいなニューロタングだ」
 ルイは千早のエージェントに完全に溶け込んでいる華人の男に感心した。束の間、永世者の持つ疲れを黒銀の瞳の中に滲ませる。
「‥‥そこまで馴染むまで、俺はずいぶん掛かった」

ルイ、カイン人の貴公子、ファタリーテの主

「‥‥姉は、私とは考えが違ったのです。C.F.C.での遺伝子工学の軍事転用の研究も、最初は自分の評価と名声を上げて日本への入国許可を得るためでした。でもその後、私と会えなくなった後も、姉は日本のバックアップを得てどこまでも研究を進めているらしく‥‥。本当に、“女王”を使って、ヒルコの軍隊を作り上げる気かもしれません」
 不死者を傷付けることもない月光が窓から差込み、美作麻耶が耳につけている緑のイヤリングを照らした。ツァンイェはポケットロンで美作唯博士の顔写真を呼び出すとルイに見せた。なるほど、紫がかった瞳も、肩の上で切り揃えた髪も、よく似た姉妹だった。だが妹の麻耶は髪を金に染めており、姉は左目の下にあるほくろが右目の下にある。
 個体のサンプルと十分な設備があれば可能なことだった。“女王”は自らの体を変異させて環境に適応させ、宇宙空間ですら生存できるという。その強い精神感応はジバシリの個体全てに働きかけ、本能に毛が生えた程度の知能で暴れている彼らを、極めて有能なよく統率された軍隊へと変えることができる。
 さらに、“女王”は次々と生まれてくる新たな子供たちの遺伝子を操作し、率いる群れを環境に最適な形で進化させることができるのだ。そこに軍事的な思惑が入れば、進化したジバシリは自然界での進化の過程では絶対に起こり得ないような、極めて強力な生体兵器へ特化したものになる。人間という種の情報があれば、人間を絶滅するのに最適な戦士たちが生まれるだろう。

「君の姉さんは寂しい女だな。きっと、日本に帰れなかった頃の昔のことを忘れていないのさ」
 煙草を消すと、ルイは話し終わって黙ってうつむいている美作麻耶に声を掛けた。
「面白い。あなたの目には、私の目とは違うものが見えているようだ」
 興味深そうにツァンイェが答える。
「俺は、君のように会社勤めではないからね」
「そうでもない。私は色眼鏡で世界を見すぎなんですよ」
 見たもの全てに死を与える呪眼の主は言った。「お陰で、生きたものを見たことがない」
「そうか」 生と死の間を数十年さ迷ってきた“夜光蟲”は呟いた。
「どうやら‥‥君に必要なのは鏡かも知れないな‥‥」

Noctiluca: The Chinese Vampire



Chapter VII: Moonbeasts
-月の妖獣


 千早重工M○●N支社大会議室。最上階にあるこの大部屋からは、窓の外の千早アーク全景の独特の眺めを見ることができた。席には篠原郁支社長を始め、エグゼクティヴの面々がついている。俺とツァンイェが控える前で、会議は続いていた。
 3次元スクリーンが切り替わり、本格的に動き出した情報部が入手してきたプロジェクト・コンクエストの内部情報が表示される。今度はクリッターのリストだった。遺伝子情報をいじり、神ならぬ人の手が介入して創り出された化物たちの写真、あるいは想像図が流れていく。
 突入型削岩ヒルコ“クリムゾン”と潜伏型局地電子戦ヒルコ“ウェブスピナー”は、ツァンイェから聞いた昨夜の旧ブラックハウンド基地突入作戦の騒ぎで目撃されたミュータントだろう。寄生潜伏型偵察用ヒルコ“ベルゼブブ”は人間の体内に潜み、宿主を食い荒らしながら人間社会の中で任務を果たすという。
 “エアーズロック”というコードネームのついた、巨大な岩の塊のような奇妙な生き物が目を引いた。解説には特別の遺伝子改良技術を注ぎこんだ高々度戦術電子戦ヒルコとある。
 冗談のような壮大な話だ。軍事や諜報に携わる者の間では、北米連合国境警備軍で既に稼動しているという超高性能の多目的対電子戦戦闘フリゲート機《レイストーム》の噂がよく上がる。この化物はそれにすら匹敵するかもしれない。鋼鉄の翼と5基の並列トロンが空の彼方で行っている任務と同じことを、生体バイオトロンを備えた一体の生きた巨大な怪物がやろうとしているのだ。
 そして次に出た超弩級重装甲型戦術水蛭子“ヘカトンケイル”は‥‥6つの腕を備えた悪夢のような巨人だった。外骨格で覆われた体は人間と甲虫の合いの子のようでもあり、全長は50mもあるという。
 世界人口が災厄前の3割に減った今、戦場の主役はより小人数の訓練された兵士、高度な火力と機動力を持つ軌道戦車などの戦闘車輌、進歩した装備を用いた電撃戦、強襲作戦により重みが移っている。その戦場にこれが投入されたらどうなるだろうか‥‥戦車一個師団に匹敵するとも説明される訳だ。

「‥‥このように、この計画の首謀者である美作唯博士のバイオ倫理法違反は明白であり、プロジェクトは我が千早重工M○●N支社に対して、そしてオーサカM○●N全土に対して非常に大きな脅威となります。企業連合各社には既に手配済み。当社の各方面が得てきた証拠を元にBIOSを起訴。この『プロジェクト・コンクエスト』を即刻の廃止に追いこみます。
 これは社長命令であり、私は幹部会議に集合した皆さんの速やかなる同意を期待するものです。質問は?」
 14才の少女の外見をした女社長、あの“死の右腕”のかつての上司の元で、会議はきびきびと進んでいた。不思議な話だ。たった1枚の小さな人格カードの中に封じられた、肉体を失ったエグゼクティヴの魂が、世界有数のメガコープをこうして動かしている。俺の前でケーキを突付いていた少女の面影は、何処にもなかった。
「あらぬ方向を見て、どうしたんですか」
 3班の男が俺を見ていた。ツァンイェの視線は相変わらずサングラスに隠れて見えなかった。
「‥‥考えごとだよ」
「彼女は――社長はやるべきことを知っている」 後方処理課員は言った。「それが強みであり、弱みであるかもしれませんね」

 突然、会議室の大扉が開いた。入ってきたのは白衣を着た背の高い黒髪の女だった。プロファイルを見せてもらったあの美作博士だ。そして後ろにはあの目の細い男が――月華院中学と深夜の喫茶店で襲ってきた、あのBIOSの男が控えていた。
「ご苦労様。だけど、幹部会議の了承を得る前に、このビルは私たちがいただくわ」
 ツァンイェが前に出、俺は咄嗟に社長の元に駆け寄った。ここはM○●N千早中央ビルの最上階だ。彼らはいるはずの警備に対抗しうる力を有し、ここまで堂々と侵入を果たしたのだ。
 重役たちが腰を浮かせ、室内はざわめき立った。突然、一人の女エグゼクが苦しみ出すと机に突っ伏すように倒れた。血と体液が染み出し、書類の上に池のように広がっていく。
 悲鳴が上がる中、空調用の換気穴から何かの振動するような音が響いてきた。ここにいる何人かは影武者だろうが、千早上層部にまとめて大打撃を与えたいとしたら確かに適切な戦術ではある。
 換気穴の覆いが勢いよく外れた。見た者を無力化させるフラッシュ・グレネードでも、神経ガスでもなかった。侵入してきたのは黒い煙――何万匹もの小さな蝿の群れだったのだ。

危機に挑むものが勝利する -GEB陸軍第22SMF連隊徽章


 痙攣していた女性重役の体が割れ、中から人間ではない何か黒いものが、殻を突き破るように這い出てくる。蝿は人間たちに襲いかかり始め、会議室は大混乱に陥った。
 銃を抜こうとしたアレックスは思い留まり、力を集中した。夜の力が黒色の炎となって中空に燃え上がり、支社長を狙った蝿の群れの行く手を阻む。
「ハエの魂は吸いたくないんですがね」 ツァンイェはサングラスに手を掛けた。半円系に放射された焔が何百匹もの蝿を一度に焼いていく。
「ああ、不味い」
 毒づきながら、邪眼の使い手は突破口となる奥の扉を親指で示した。

金の死眼 銀の妖眼


こうさくいん「篠原郁社長は社会戦の抹殺を行うことを幹部会議で話していたのでしゅね〜」
ボス「うむ。だがしかし“女王”がここで《M&A》を使ってきたのだ。あっという間に社内には蝿軍団が侵入。ワンフロアは女王の“領域”に補完されてしまうのだ」
こうさくいん「ゴッゴイスーでしゅ!(@_@) M○●N千早が侵入されちゃっていいのでしゅか!?」
ボス「見て補完してからのお楽しみだがこの先もっとヒドイことになるぞ。まさに全国ウン万のM○●N千早所属キャストの皆さんスンマソンという感じだな。(笑) 郁閣下に忠誠を誓った親衛隊の皆さんにもスンマソンだな。オフィシャル有名ゲストに仕えるとこういう時に困るのだ」
こうさくいん「そんなの関係ないでしゅよ〜(笑) ううーでもやばいでしゅよー郁社長がやられたら珠代ちゃんもやられちゃでしゅ〜(>_<)」
ボス「アレックスぽんは千早に忠誠を少しも誓っていないのう(笑) まあほれ、N◎VAの後方処理課から来た腕利きのたこ焼きツァンイェぽんもいるではないか。なおあの直死の魔眼を鏡で自分が見たらどうなるのかという疑問を某筋の情報局長が発していたが、諜報活動で補完した結果、自分が見ても影響はないらしいということが判明した。さすが大陸の魔術は強力だのう」
こうさくいん「ううー早く逃げないと蝿がいっぱい来るでしゅよー。(>_<) 魔眼の炎でなんとかして早く逃げて補完するのでしゅ〜o(≧へ≦)9゛」
ボス「ちなみに互いを尊重しあうという原則に基いてコンテンツでは平等に補完しているが、ツァンイェはそのドリィ夢を叶えるために本人は40Exp程度でかなり技能が不足している。ルール的に言うとルイ様やアレクぽんにはジツは何をやっても勝てないのだ(笑) もちろん千早の絶体絶命のこの時にそんなことは関係ないがナ!(ニヤリング)」





Chapter VIII: Shattered Sky
-砕け散った空


【R警報発令。R警報発令。ミュータントがニアサイド内に侵入しました。市民の皆さんは直ちに、地下シェルターあるいは最寄の指定避難場所に避難してください。繰り返します。R警報発令。R警報発令。出現地点はリニアゲート及びM○●N千早重工本社ビル‥‥】
≪こちら、特務警察ブラックハウンドM○●NBASE。実働可能な隊員及び関係者へ。全員、直ちに本部に集合せよ!≫
<<<M○●N傭兵部隊本部! こちらリニアゲート。奴らの攻撃は組織的だ。このままじゃ保たん!至急増援を!>>>
 襲撃は地面の下から始まった。地下での活動能力の高いジバシリの亜種、“クリムゾン”が掘り進んだトンネルから地表に出現。湧き出るように次から次へと現れた赤いミュータントたちは四方へ散り、一部は完全環境型アーコロジーの能力を有したニアサイドの出入り口であるゲートへ向かう。
 同時にテンペランスから押し寄せたヒルコの大群が地に空に、外側からゲートに押し寄せる。多種多様の種が、ふだんは天敵同士の種までが一緒になって、本能ではなく規律で動く軍隊となって侵攻を開始したのだ。傭兵部隊は即対応可能な人員を2.5倍に増員していたが、それでも苦戦を余儀なくされた。

 ニアサイド市内は大混乱に陥っていた。無人タクシーと地下のリニアは全て停止し、街頭のスクリーンはひっきりなしに警報を呼びかける。独自のセキュリティ機構を持つ大手企業ビルにはシャッターが降り始め、鋭い牙と爪を備えた恐竜の親戚である“クリムゾン”の襲撃で死者が出始める。
「‥‥『邪悪なるもの、蝮の子らよ、其の名はレギオン。数多なりて邪悪なるレギオン』か」
 コートの下に掛けている十字架を取り出して握り締めると、ダンサーは呟いた。通りを市民が右往左往し、急ぎすぎたトラックが停車中のロボタクに衝突していた。
「でも、なんでM○●N千早のビルなのかなあ」
 ソニアが見上げるようにして“トランクの姉ちゃん”に問い掛ける。
「とにかく、本部へ戻る」
 束の間神に祈った長身の女戦士は身を翻し、ヴェールを靡かせながら走りだした。慌てて追いかける14歳のソニアは絶対的に脚の長さで負けていることに気付き、ダンサーの引いている巨大なトランクに飛びついた。やがてソニアは、そこに座っているのがとても快適な移動方法であることを知った。

踊る人形は彼女の戦友

「みんな分かっていると思うが、状況は絶体絶命だ」
 集結に成功した隊員たちを見回しながら、牙王隊長は言った。ブラックハウンドM○●NBASEでは、緊急の突入作戦会議が行われていた。
「最終防衛線が破られ、ここがミュータントどもに占拠されるのも時間の問題だろう」
 各々の格好をした隊員の何人かがごくりと唾を飲みこみ、話の続きを待つ。
「現在、M○●N傭兵部隊がニアサイドと新ファーサイドのそれぞれのゲートを最終防衛ラインとし、犠牲を出しつつも侵入を最小限に食い止めています」
 話の後をマダムM○●Nが継いだ。この非常時にあっても、月の貴婦人は冷静さを失っていない。
「既に地下から侵入したミュータントが各所で暴れ始めています。住民の避難は約七割がた完了していますし、あと1時間強持ち堪えられれば、避難はほぼ全て完了するでしょう。
 しかし‥‥千早重工ビルからの避難がまったく進んでいないのです。ありえないことだわ」
 隊員たちがざわめきだす中、ひとりの出向隊員がすっと立ち上がると前に出た。
「聖書曰く、剣によって立つ者は剣によって死ぬのだ」
 顔を隠すヴェールから覗くはしばみ色の瞳に静かな闘志をみなぎらせ、ダンサーは一同を見渡した。ソニアと目を合わせると静かに微笑みあう。
「私がソニアと行こう。だが雑魚が多い。他に重火器を装備した隊員を何人か。あとは守備に回ってくれ」
 数名の隊員が志願した。牙王隊長は無言で頷いた。もう彼女を馬鹿にする者はいなかった。
「ウォーカーがメインのちゃんとした突入部隊にするなら、部隊長が必要なはずでしょ」
 ロシアから来た金髪碧眼のパンツァーガールは、意外そうに自分を見下ろすハウンド隊長を見上げた。
「分かった。非常事態だ。君を隊長に任命する」
 牙王隊長は諦めたように微笑むと14歳の少女に告げた。
「本作戦のオペレーションコードはN。ノアの箱舟(ノアズ・アーク)作戦としよう。連絡はハウンド用回線のチャンネル0を使ってくれ」
「了解!」
 ソニアが機嫌良く敬礼したその時にアラームが鳴り、非常用回線を使った通信が入った。スクリーンに粒子の新い画像が入る。探知機は、発信源が千早重工M○●N支社ビルであることを告げていた。
『こちら、M○●N千早。しの‥‥いえ、えとえと、原田珠代といいます!』
 焦点を結んだ画像に現れたのはいささか場にそぐわない、ストレートの髪を短く揃えた中学生ぐらいの少女だった。後ろに部下らしいクグツと、辺りを警戒するコートの男が映っている。クグツはソニアの知っている顔だった。
『敵ミュータントのコマンダーである、“女王”と呼ばれる存在とたくさんの部下が現在M○●N千早を占拠しています。至急、突入部隊の要請を願います!』

「直ちに突入部隊は現場に急行してくれ」 牙王隊長は言った。
「諸君、God Speed。再び青空の元で会おう!」

その蔦薔薇は冬の力


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...... Ruler of the Moon / Paj.2 ......

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