Schickzal über Mond und Sonne - 月と太陽のさだめ
小粋にエレガントボア
〜月と太陽のさだめ〜

開幕】【前編】【中編】【後編
-太陽の道案内-
(王女殿下のお達しによりIE5以上で見られたし。)

 さてN◎VA Revisedの間違い探しのような変更点探しも収まったある日にゲーム。某聖地に行く途中でもうRRをモリモリやってるのかと思ったらそうではなかった雅寿丸の姐御と遭遇。
「今日はレボリバですか?」「今日はエレガントの日なんですよ(きら〜ん)」と、ナゾな会話をしつつ某聖地でアクトは始まるのでちた。


Und, Sie in Bühne des Schicksals kommen ...

Name: クロイツェル・ヘルラント
Arkana: コロナ=デクストラ=オービス
Rassen: 人間(ワイト人) Alter: 28 Geschlecht:
 読書女王パトリシア二I世治めるブリスランド王国の貴族の出。錬金術師の家系だった家を出奔する際に自動人形を一体だけ持ち出しており、マントの下に折り畳んで隠している。
 有事の際に動き出す人形は薄物を纏った少女の姿をしており、主の代わりに果敢に戦う。彼女こそヘルラント家に代々伝わる、使い手の業により強さを増すという究極の戦闘人形なのだ。そして彼自身の指に輝く孔雀石の光こそ鳳の指輪。まことの王を選ぶ選帝公の指輪は巡り巡って今はこの人物の指にあるのだ。
Player: 最果 【FI-5
▼西から帰ってきてふっかちゅしたPsykaぽんです。今回は萌えキャラならぬ燃えキャラです。途中で変更したものの、最初はスタローン系の熱いオトコで不精髭とか言ってました。何かあったのでしょうか。ここにいるのは偽者でしょうか?(酷)
 はっ、やはり本物は西の小太刀右京宅でアブダクションされて(ガクガクガク)

Vita brevis, ars longa. - 人生は短く、芸術は長い。

Name: “断罪の糸”ヘルガ・ホルハイム
Arkana: ディアボルス=グラディウス=フィニス
Rassen: 人間(ヴァルター/ワイト人) Alter: 26 Geschlecht:
 長身に金銀妖眼(ヘテロクロミア)の瞳、獲物を自在に切り裂く魔糸デュンケルハイトを携えた謎の青年。その正体は伝説として諸侯に恐れられるハイデルランドの永遠の監視者、“黒騎士”ヴォルフガング・ホルハイムの手の者であった。黒騎士の代行者としてハイデルランドの玉座を監視し、忍び寄る魔を切り裂き既に数十年。永生者でありその姿も力も衰えず、ただ黙々と任務を続けている。いつの日かハイデルランドの玉座に相応しき真の王が現れた時、忠誠を捧げるともいうが‥‥?
Player: X
▼久々に同志Xノフもふっかちゅです。ハイデルランドはどこまでも洋風ですがやはりXノフコズムはここにも健在、なんのそので剣士系です。魔糸デュンケルハイトはマーダーチェイン相当の糸でちょっと秋せつら系。LoGの因果律『ハイデルランドの監視者』を持っています。背は村雨ですが中身の基本ボディはシベリア鉄道の夜明けに出てきた御門忠明らしいですぞ!

Memento mori. - 汝もまた死すことを知れ。

Name: オルゲル・オルガルド
Arkana: アルドール=クレアータ=フルキフェル
Rassen: オウガ Alter: 24 Geschlecht:
 額に角を持つオウガの若者。かつて力の試し、心の試しの試練をくぐり抜け、部族最高の戦士として巨人の力帯(リーゼンギュルテル)を授かると世の闇を打ち払う旅に。
 だがまことの騎士の旅はその途上で終わった。人間の王国エステルランドの王妃の手勢に敗れたオルゲルは致命傷を負い、王妃マルガレーテの命で錬金術のからくり仕掛けを体に埋め込まれて命を取り止めたのだ。過去の記憶を失ったオウガのまことの騎士は王妃に忠実に仕える人形として、黙々とその暗殺指令を実行し続けてきた。その体の聖痕は地に落ちた星の欠片の同胞を見るたびに、きしんだ泣き声を上げて主の不運を嘆き続ける。
Player: しろみけ 【無機化学的心理研究室
▼と思ったらPL不在で僕っ娘のフィンたん登場ならず。このままではアクト開催自体が危うし!(゚o゚) という危機を直前に救ってくれたのはゲ同勢のみけ殿でした。
 レボリバでは遂にパーソナリティからポニテが全滅して嘆いているみけ氏、今までに目撃したキャラクターだと全方位萌えなトーキーの来恵須たんや巫女の殺たんやその間でひっそりと煙草を吹かしている希少種の紅蓮のガルバーニが思い浮かびますが。本日に因果律『鏡の中の人形』に合致するPCとして持ってきたのはなんと意外にもオウガ。「これはマニアックにオウガのダブルポニテの美少女なのか?」(酷) とGMと一緒に勝手に予想していたら違いました。ガルバーニ並に希少種の男でしかも(E)のです。ミケズムは萌えだけではなかったのだぁ!(酷)
 とかやってたらぎゃ〜、この日の日記になんか書いてある〜(゚o゚)

Fortes fortuna juvat. - 運命は剛き者を助ける。

Name: “鏡の盾の”ローリエ・リルケ 【Profil
Arkana: クレアータ=アダマス=マーテル
Rassen: クレアータ Alter: 外見25 Geschlecht:
 蒸気の息を吐くからくり仕掛けの白馬に跨り、磨かれた無紋の盾を携えて旅を続ける銀の髪の女騎士。アイスル司教領で老錬金術師に最後の作品として生み出されたが仕えるべき主君を失い、アーの導きの元に旅を続けている。かつてエステルランド王国第一王子アンセル・フォーゲルバイデに救われたことがあり、その王子の願いに答えるため、今また王宮を訪れることに。
▼シナリオ用にLoGの因果律『竹馬の友』が指定されていましたがそこを少し変え、アンセル王子と知り合いということになりました。まさか王子殿下があんな頼みをしてくるとわ(ガクガクガク)

Gloria virtutem tamquam umbra sequitur. - 栄光は影の如く美徳につき従う。

Der Spielmeister: (はた)×弐
▼元は「哀しみの双月」という名だったシナリオを持ってきてくれました。一心不乱のはたコズムが健在!(笑)


 さて各プレイヤーキャラクターを結ぶ因縁という値ですが、魔糸使いヘルガ→クロイツェル:世直しの旅の同志、秘儀術師クロイツェル→ローリエ:過去に貸しがある、銀の騎士ローリエ→オルゲル:かつてオウガの騎士と共に闇と戦った、オウガの密偵オルゲル→ヘルガ:記憶が消えたが、過去に冒険を共にした、となりました。

 なお、この物語にはBoAオフィシャル設定の中のいわゆる有名NPCというのが何人か登場し、あちこちにっていうか沢山ツッコミ所があります。「ボクのノエルたんはこんなんじゃないやい」とかそういうのはまあ、正しい姿を夢想するなりしてください。(笑)
 なおサプリメント『ランド・オブ・ギルティ』をよーく見ると、エステルランド王国のアンセル・フォーゲルバイデ王子が住んでいるクローエマルク離宮は王都ではなくアイスル司教領にあるという記述があります。また王族の中で唯一外見記述もなくほとんどダメキャラ決定の第二王子カールもザイオン伯の称号を持っており、領地を与えられて離れて暮らしていることも十分に考えられます。とすると、ヘルマン国王とマルガレーテ王妃と一緒に住んでいるのはヒルダ王女だけ‥‥?という推測も成り立つのですが、この物語では皆一緒に暮らしていることになっています。(2ndのパーソナリティーズの説明だと一見一緒に住んでいるようにも見えますね。)



Schickzal über Mond und Sonne - 月と太陽のさだめ
〜月と太陽のさだめ〜



序章一 舞踏開幕


 エステルランド王国首都フェルゲンにある新国王宮殿(ノイエケーニヒスレジデンス)は、かつてこの地をガイリング一世が治めていた時代のアウアーバッハ城を一部改築して造られた宮殿である。礼拝堂(ゴッテスハウス)を始め幾つかの建物は、今となっても当時の面影を残していた。
 そんな 王城 (ケーニヒシュロス)謁見の間アウディエンツザールにて。真紅の絨毯に深深とかしずく臣下を前に、煌びやかな玉座(トローン)から立ち上がろうとする人物がいた。齢六十、もはや落ち窪んだ目の奥には瑠璃(ラピスブラウ)色の光は薄く、王冠(クローネ)を縁取る髪は全て白髪。未だ虚栄心の炎のみにて玉座にしがみつく、この国の老王である。
「励めよ。さすれば恩賞は‥‥思うがまま‥‥ぞ‥‥グ、ゴフッゴフッ」
「ヘルマン陛下?」
「陛下っ!?」
 押さえた口元からは濁った血が溢れ、王の衣装を汚す。居並ぶ家来たちが一斉に駆け寄った。

 エステルランド王国国王(ケーニヒ)ヘルマン一世の容態急変の一報は、嵐のように城内と王都フェルゲンを駆け巡った。国王崩御の後の立ち回りを考えている者も、この国の未来を憂いている者も、国王の命が残り少ないであろうことを今一度認識するのであった。

月のさだめは夜の円舞


 自前の荷馬車に揺られ、そんな王都フェルゲンにやってきた奇妙な二人の旅人がいる。一人は目深に頭巾を被り、その顔の造作を隠した十代の娘。もう一人はいかにも長旅の果てといった風情の黒い外套の男だった。
 ヴァルター人とも西方のワイト人ともとれる金髪に蒼い目、だがくせの強いぼさぼさの髪と手入れのされていない不精髭は、単に旅の途中という以上に貴族らしき本人の気品を損なうものだった。年の頃は二十代後半、痩せぎす、胸を患っているようで時折咳きこんでいる。どことなく尖った雰囲気は悪人のように見えなくもない。
 その名はクロイツェル・ヘルラント。ヴァルター人の偽名を名乗った、西のブリスランド王国は錬金術(アルケミ)の一家を出奔してきた貴族。フレスコ絵画の書き手にして秘儀術師。その外套の下とその指先には、秘密が隠されている。
 連れの娘は名をミリシアといい、諸国を旅の途中のクロイツェルと出会い、道中の道連れとなったのであった。

「この世界は間違ってるわ。だから、私はそれを変えなければならないの」
 ミリシアはさしてすることもない道中、何度となく繰り返した言葉を発した。
「なぁ。その台詞はもう少し小声でやらないか」
 クロイツェルは掌に聖痕を宿した左手で不精髭を掻きながらあたりを見渡した。活気あるフェルゲンの街が荷馬車の前に広がっている。もう少し進めば、こうした危険な言動に反応する輩も出てくるだろう。
「‥‥あなたにも、世界を変える資格があるのよ」
「資格があるのは、許可にはならんさ」
 聖痕者(エングレイヴド)にとっては意味深な言葉に、クロイツェルは軽く答える。と、喘息の発作が始まり、ブリスランドの人形使い(ドールマスター)は体を折って咳き込んだ。
「大丈夫?」 クロイツェルが大事ないことを示すと、ミリシアは馬車から降りた。「ここで別れましょう。私はこの街でやることがあるの」
 クロイツェルは娘を見送り、ややあって馬の向きを変えた。天慧院長老会座長にしてフェルゲン学芸院名誉院長、昔の恩人でもある老賢者サルモン・フィーストはこの街に住んでおり、彼からの手紙がクロイツェルの元にある。
「やれやれ、先が見えてる人は違うねぇ」
 クロイツェルは呟くと、一風変わった旅人たちに注意を惹かれている通行人を尻目に馬を進めた。

Vita brevis, ars longa. - 人生は短く、芸術は長い。



序章二 暗殺者オルゲル


 その部屋の中は闇夜の如く暗く、この地方では珍しい金属製の(シュピーゲル)が幾つもしつらえてあった。数えて九つにも及ぶ鏡が様々な方向から写すのは、ひとりのやんごとなき身分のご婦人の麗しき姿であった。
「鏡よ鏡、真にこのエステルランドを統べる器を持つ者は誰か? 答えよ」
 未だ三十代初め、一国の主をも魅了して止まない美貌は衰えることを知らず、細くすぼまれた青褐色の瞳の奥には幾重もの策謀の炎を。誰あろう、王妃(ケーニギン)マルガレーテ・フォーゲルバイデその人である。
 王妃殿下の圧力で黙殺されてはきたものの、マルガレーテが元は旅の歌姫の賤しい身分であったというのはあちこちで囁かれる噂であった。ヘルマンに見初められて側室として迎え入れられ、正妃マティルデが死去した後はこれ幸いとその後釜に。三十歳程も年の違う夫の行く末など彼女の目にはなく、あるのは国王崩御の後にどう権力を広げ、この国を我が物にしていくかという込み入った策謀だ。既に王妃の手の者は動いており、策謀の糸があちこちに張り巡らされている。
『王妃殿下。それは‥‥アンセル王子(プリンツ・アンセル)にございます』
 鏡の一枚、正面の“智慧”(ヴァイスハイト)の鏡が答えた。アンセル・フォーゲルバイデ第一王子。妾の子ながら聡明で思慮深く、誰もが賢王の器ありと認める青年。だが王子を称える多くの者が嘆くことに、生まれつき病弱な王子は長く療養生活を続けており、いつアーの御許に迎えられるとも知れぬ身なのだ。
「なるほどな。じゃが、重病のアンセルでは未来もなかろうて。ならば今一度答えよ。アンセルを除いたらどうじゃ?」
『王妃殿下。それは‥‥ ヒルダ王女 (プリンツェッシン・ヒルダ)にございます』
 別の一枚、今度は“寛容”(ナーハジクト)の鏡が違う声で答えた。やんごとなき身分の御婦人は肩を震わせ、手にしていた高価な絹の布に爪を食い込ませた。これが王宮で飼われている猫だったら、きっとくびり殺されていたであろう。
「やはりか、やはりそうか‥‥あの小娘さえいなければ‥‥」
 ヒルデガルド・フォーゲルバイデ王女、愛称ヒルダ。今はなき正妃マティルデの忘れ形見。齢十四になる愛くるしい王女殿下はヘルマン一世の寵愛も深く、将来を期待する声も高い。国王はゆくゆくは彼女を妃にする者に国を託すつもりだとも噂されていた。そしてマルガレーテ王妃にとってはさらに腹立たしいことに、お転婆で天真爛漫なヒルダ王女は本人自身も心優しく、人の上に立つに相応しい人徳を備えており、天上の太陽もかくやに王宮をその笑顔で暖かく照らしているのだ。
 王妃からすれば血の繋がりはないが、相手は娘。ハイデルランド諸国と同じく、これがこの国の王家の影の姿だった。
「‥‥オルゲル、そこにおるか」
「ここにおります」
 ドワーフのフレーグ氏族がその技術の粋を凝らして作った鏡の影から、ひとりのオウガ(リーゼ)が音もなくその巨体を現した。肌の色もそれほど人とは変わらず、野性的な茶色の髪に額には一本の角。その身の丈は人間の青年の一人と半分ほどもあり、屈強な筋肉が覆っている。そしてその左の腕から胸、首筋にかけては鈍い(ブライ)の色が覆っていた。錬金術(アルヒミー)の業で失った手の代わりを得ているのだ。
 厳しい試練をくぐり抜けたオウガ族のまことの騎士、オルゲル・オルガルト。だが旅の途上で彼は体の一部を失い、命の灯火を失いかけ、そしてその使命も思い出も、多くの記憶(エアイネルング)を失った。王妃の慈悲で命を取り止めたオルゲルはただ王妃の命を黙々とこなす忠実な密偵と化していた。さながら“力”(シュテルケ)の鏡の中に控えるクレアータのように。その体に宿った聖痕は鉛色に塗り込められ、主の不運を嘆き続けるのみだった。
「そなたに使命を与える」
 魔が刺したのか、それとも策謀の末なのか、王妃は密偵に背を向けたまま目を細め、この世のどんな母親も口にしないであろう命を下した。
「あの娘を殺してまいれ。ヒルダは明日(みょうにち)お忍びで外出することになっているゆえ、その時を狙うがよい。そなたであれば容易いであろう。よいな」
「そ、それは‥‥いや、御意」
 頭を下げ、暗闇の中に去ろうとしたオウガの密偵は、ふと頭を上げた。
「娘なのではありませんか」
「何を言うておる」 王妃(ケーニギン)は振り向くことすらなかった。「そなたは我が命だけを果たしていればよいのじゃ」
「‥‥分かった」
 オウガの若者の茶色の瞳に、束の間光は浮かんだか。

Fortes fortuna juvat. - 運命は剛き者を助ける。


 オルゲルはじっと狩りの時を待っていた。無意識に左手が力帯に触れ、ぐっと握り締めて瞬間を待つ。
 巨人の力帯(リーゼンギュルテル)。かつて名高きドワーフの錬金術師(アルヒミスト)とエルフの魔術師(マーギア)が力を合わせて作り出し、オウガの王へと捧げた魔法の品。王はこの力帯を締め、勇敢にも(ドラッヘ)を倒した。その後力帯は代々伝わり、部族を離れて闇と戦う旅に出る、もっとも強い力と心を持ったまことの騎士に手渡されてきた。だが、オルゲルはその名をもう忘れて久しかった。今は力を請うても、帯は少しも応えてくれない。
 馬車(クーツェ)の音が近付いてきた。護衛の衛兵の一人もいない、簡素な馬車。よもやその中にこの国の王女(プリンツェッシン)が乗っているとは誰も思うまい。オルゲルは斧槍を体の後ろに構えてその前に立ち塞がった。
「許せ」
 馬がいななく中、悲鳴を上げる御者(クーツァー)をただ一撃で絶命させ、馬車の戸に手を掛ける。元より剛力を誇るオウガに敵う人間は少ない。
 暗い室内ではエステルランドの輝く太陽(ゾネ)が震えていた。だが愛くるしい姫は悲鳴もあげず、気丈にも不埒なオウガを見つめ返していた。
「すまん、お前を殺さねばならぬ」
 長い斧槍(ハルベルト)を水平に構え、加減して軽く一突き。あっけなく姫の命は絶たれた。その朝靄に煙る露草のような無邪気な瞳がいつまでも開かれたままなのに気付くと、オルゲルはそっとその目を閉じさせた。
 物音に気付き、オルゲルはさっと退いた。血で汚れた得物を持ったまま、近くの茂みへ。
 近付いてきたのは灰色の長衣でその姿を隠した小柄な人影だった。ずいぶんと背が低く、人間の子供のようにも見える。長衣は引き千切られた戸から馬車の中に入ると、数瞬の後にまた出てくる。長衣の影で短剣(ドルヒ)が輝いたのをオルゲルは見逃さなかった。
「(敵方の間者か‥‥?)」
 隣国ブレダとエステルランドは緊張状態にあり、間者や密偵、内通者の類いも少なくない。一刀の元にその者も屠ろうと飛び出し掛けたオウガの戦士は、今度こそ響いてきた盛大な物音に踏み止まった。
「こ、これは‥‥?!」
「まさか、王女殿下? いや、馬鹿な‥‥」
「隊長。す、すぐ王宮に知らせないと!」
「待て。知らせはしばし待て。騒ぐな」
 武装した数人の衛兵(シュッツェ)であった。もうしばらく経てば話は城じゅうに広まるのだろう。
「(すまない)」
 国の未来を左右する要人を殺めたオウガの密偵は心の中で王女に今一度謝り、頭を下げると、その場から立ち去った。

太陽のさだめは昼の輪舞


こうさくいん「いえーでしゅ〜エレガントボアなのでしゅよ〜(≧▽≦)ノ」
ボス「さてさてそういう訳で一部イラストもといイルストラツィオーンも頂いてお送りするぞよ。前回とは打って変わって舞台はエステルランド王宮、なんと宮廷ものだぞ! 宮廷陰謀ものかどうかはナニでアレなのがミソだな(ニヤリング)」
こうさくいん「っていうか ガーー(゚Д゚;)ーーン!でしゅよー! ヒルダ姫が思いっきり殺されてるじゃないでしゅか〜!Σ( ̄口 ̄;)」
ボス「一時はどうなることかと思ったのう。さてかようにツッコミ所は沢山あるのであまり真面目にならずに読まれるがよいぞよぞよ (´ー`)」
こうさくいん「くぅ〜ヒルダたんといえば! 直球ストライクど真ん中の萌えキャラ代表なのに! オープニングで死んでどうするんでしゅか〜〜(>_<)」
ボス「ええぃヘルマン陛下の具合が悪いことにも少しは反応せんかぁΣ( ̄口 ̄;) それでは駆け足でどんどんゆくのだ」



序章三 妖瞳のヘルガ


 親族殺害を平気で目論む王族がいる一方で、この国には影ながらよりよき未来を求めて他を助ける人々もいる。
 フライブルク宮中伯レオポルドもその一人だった。白髪も濃くなった初老の身にして未だ独身、名将と謳われながらもさきの戦では自ら栄達の道を棒に振って内なる信念を尊んだ勇断の持ち主。ヒルダ王女と同じ露草の瞳を持つ宮中伯は王女の亡き母マティルデの実兄であり、宮内では権力から遠ざかりながらも静かに人望を集めていた。
「よく来てくださった、ヘルガ卿。卿が近くにいてくださって幸いでした。凶事の中の幸いと言うべきか‥‥」
「いかがなさいました」
 レオポルド伯が出迎えたのはどこか奇妙な雰囲気を漂わす長身の青年だった。屈強な体を包む長衣、白過ぎる真っ白(ヴァイス)な髪、(ジルバァ)に輝く右の目と聖痕を隠して閉じられた左目。未来ある若者のようにも、人生に倦んだ老人のようにも見える、整ってはいるが何か奇妙な容貌。
 レオポルド伯は知っていた。ヘルガの(ゴルド)の左目が死を見通すことも、この王家の血を引く青年が誰に仕えているかも。
 伝説の建国王アイルハルトの家来たちによる冬の魔神アグクラス討伐の物語は子供たちでも知っているが、その裏の事実を知る者は少ない。無欲で潔い王兄であった 黒騎士 (シュヴァルツェリッター)ヴォルフガングは魔神の心臓によって辺境シュラーフブルグにて今もなお生き長らえ、その子孫たちを四方に散らせて世の騒乱を導く愚か者たちを監視しているのだ。
 レオポルド伯はその黒騎士の代行者に、まだ宮廷内には明かされていない大事件を語った。お忍びで外出していたヒルデガルド王女を狙った大胆な襲撃である。王女は無事だったとも言われているがそれすらも分からない。そして刺客は今もって捕まっておらず、大柄な戦士だとも長衣で顔を隠した暗殺者(モーヒモーダー)だとも言われる犯人像には不審点が多いと言う。
「ヘルガ伯。ヒルダの外出計画を知っていた者は王宮でもごく少数に限られるはずです。分かりますな」
「ヘルマン一世を除けば‥‥さらに絞られますな」
 ヘルガは鷹揚に頷いた。エステルランド 王国 (ケーニヒライヒ)の内情を知る者ならば、誰でも思いつくことだ。
「よもや疑いたくはないのですが‥‥。王城に紛れ込んで真偽を確かめてきて欲しいのです。私の遠縁の者として紹介しましょう。そう――ヘルガ・フライブルクとでも名乗られるがよい」
「心得ました」

Memento mori. - 汝もまた死すことを知れ。



序章四 銀の髪のローリエ


 城から飛び出した早馬が王都を駆けていったのは、その日の早朝のことであった。大通りを抜け、鶏たちを蹴散らし、比較的路銀に余裕のある旅人たちがよく使う宿の前で土埃を上げながらようやく止まる。
 伝令(ボーテ)の大声は、寝坊している者たちも起こすのに十分であった。
「ローリエ殿! ローリエ・リルケ殿はこちらにおいでか?」
 ややあって、白塗りの二階の壁の窓が開き、手櫛を手に持ったまま外を見下ろした者がいる。寝惚けていた様子は少しもなかったが、女騎士(ライテリン)は流石に驚いたように早馬を眺めていた。
「いかにも、私ならここにいるが‥‥どうしたのだ?」
 流した透き通るような髪は(ジルバァ)、その瞳は遥かブリスランド産の硝子(グラース)を透かした空のように(ブラウ)。両の瞳の奥底に垣間見える 宝石 (エーデルシュタイン)のような光やそのどこか神秘的な容貌は、この女が人間とは何か違うことを見た者に悟らせるものであった。
 伝令の次なる台詞は自由騎士(フライエライトリン)ローリエ・リルケの瞳を丸くさせ、まだ寝惚けていた宿の客たちを飛び上がらせるものだった。
「アンセル・フォーゲルバイデ王子殿下よりの使いで参った。今すぐに王宮に来られたし!」

 わたしの名はローリエ・リルケ。鏡の盾のローリエと呼ぶ者もいる。
 その通り、わたしは人間ではない。わたしの両の瞳の奥に宝玉が嵌っているように見えるのは我が父上の錬金術(アルヒミー)の業によるものだし、それが聖痕であったのを知ったのはアイスル司教領を後にしてからだった。

ローリエ、鏡の盾の騎士

 わたしが仕えるはずだったヴィンケルリート伯ヨハン殿の御令嬢リーリエ殿は、まだ若いというのにアーの御許に召されてしまった。我が父上アンセルムもまた、わたしを送り出した後に帰らぬ人となってしまった。ゆえに我が盾には刻む紋がなく、わたしには主君がない。
 だがわたしとブリーゼは今も旅を続けている。救世母マーテル様は人ならぬわたしの祈りも天に届くことを教えてくださった。だから、わたしたちの行く手を導いてくれるかもしれないのだ。
 最初にこの都を訪れた時より、王子(プリンツ)殿下には何度かお会いしたことがある。邪悪な妖術師の送り込んだ人殺しの人形であるなどというまったくもって謂れなき暴言を浴びせられた時、殿下のひとことがわたしを救ってくださったのだ。その御恩に報いることができるのなら、すぐにでも馳せ参じよう。


 物珍しそうに多くの目が追う中で、二騎は王宮に向かって大通りを引き返していった。一騎は伝令の早馬、もう一騎は騎士の馬。あるじが人形(マリオネッテ)の騎士ならば、その馬もまたからくり仕掛け。蒸気の息を吐く奇妙な銀色の馬と銀の髪を靡かせて走るその主は目立ち、まだ人通りの少ない朝ながらも人目を引くのだった。

Gloria virtutem tamquam umbra sequitur. - 栄光は影の如く美徳につき従う。


 アンセル・フォーゲルバイデ王子が十数年前から療養生活を続けているクローエマルク 離宮 (ルストシュロス)は王宮の外れにあり、王子は明日をも知れぬ身で病魔と無言の戦いを続けながら生活している。
 王子(プリンツ)は我が身の不運を嘆くばかりではなく、書物を友として多くの知識を蓄えていた。特に歴史には造詣が深く、フェルゲン学芸院名誉院長を務める偉大な老魔術師サルモン・フィーストでさえも、その学識の深さを認めていると言う。
「やあ、ローリエ。ありがとう本当に。よく、来てくれた」
 ゆったりとした絹の服に身を包み、第一王子が姿を現した。長身、細身、後ろで結った薄い金髪に、温和な光を湛えた、どこか物憂げな瑠璃色(ラピスブラウ)の瞳。死病と宣告された病は重く、要職に就くことも馬を駆って戦に赴くことも、妻を娶ることもできず、ただ国の行く末を静観することしかできない身。だが天気のよい日には時折 王宮庭園 (シュロスガルテン)に姿を現し、妹に出迎えられる線の細い美青年といった風情の王子は、宮廷を賑わす御婦人方の間でも密かな人気の的となっていた。
「殿下‥‥またお会いできて、光栄です」
「こちらに来てくれないか。詳しい話はそこで‥‥」
 深々と頭を下げる銀の髪の女騎士を招き、王子は 離宮 (ルストシュロス)の奥へと導いた。その顔を病との戦い以上の、深い悲しみが覆っていた。

 ローリエ・リルケが案内されたのは離宮に秘された地下室(ケラー)であった。物音ひとつしない暗い室内には、布の覆いを被された小柄な娘が寝かせられていた。
 薄暗い部屋の中でも、その顔は見間違えようがなかった。エステルランド王国の太陽、ヒルデガルド王女その人である。
 王子が燭台(ロイヒター)に火を灯し、部屋が明るくなった。アンセル王子は深く息をつくと、最愛の妹が昨日、お忍びで外出していた折に襲われたことを述べた。
「王女殿下、ご無礼をお許しください」
 ローリエは小声で詫び、その布をそっと退けた。傷は酷く、騎士であるローリエですらも息を飲むものだった。大きな剣の類いで一撃、さらに痛ましいことに、小さな短剣(ドルヒ)で何度も体のあちこちを刺された傷がある。その愛らしい顔だけは汚されていなかったのがせめてもの神の御慈悲だったか。(ゴルト)の髪は血に染まり、瞳は閉じられ、息もせず、既にアーの御許に召されたのかどうかも分からない状態であった。
「医者と、蘇生術に通じた司祭を探しているところだ。このことを知っているのはぼくと君、医者、発見した兵士、本当に数名だけだ」
 王子は瞳を伏せ、声を絞り出すように続けた。
「もしこのことが外に知れたなら‥‥このエステルランドはカール王子の、いや‥‥マルガレーテ王妃のものになってしまうだろう」
 マルガレーテは子宝に恵まれず、アンセル自身も第二王子カールも妾の子、そしてヒルダだけが既に世を去った正妃マティルダの子である。正妃マティルダの忘れ形見として、ヘルマン王の寵愛も非常に篤かったヒルダの命が失われたのならば、後継者にはカール王子が選ばれるのが必然である。
 だが――やんごとなき御身分の王妃殿下の圧力で誰も声を大にしては言わないものの、カールが重度の知恵遅れだというのはもっぱらの噂であった。外見は二十を超えたいい年の若者だが、その中身は子供に等しいというのである。
 アンセル王子は真鍮(メッスィング)の飾りのついた小箱を取り出し、ゆっくりと中を開いた。
「頼みがある」
「殿下」 銀の髪の女騎士(ライテリン)は振り返り、線の細い王子の顔を静かに見上げた。
「殿下にはかつて、名誉を救われました。その御恩に報いるためなら、なんでもいたしましょう」

ローリエ、鏡の盾の騎士

 アンセル王子は紫のびろうどの布に包まれた、鎖のついた護符(ターリスマン)を丁重に取り出した。
「君に、ヒルダの代わりをしてほしいのだ」

「‥‥‥‥で、殿下」
 ローリエは空色(ヒメルブラウ)の瞳を白黒させた。
「い、今、なんと、おっしゃいました??」

 王子の考えた一計とは、王家の宝物庫にあったこの幻影のペンダント(アンヘンガー・デア・ビジオーン)を用いることであった。魂の宿った魔器(アルテファクト)の類いと同等の魔力を持つこの護符には錬金術の傀儡製作の秘術が封じてあり、首から掛けている限り所有者に完全に姿を変える力を与える。上背の高さも声も、服も自在であり、魔法の技でも使わぬ限り見破られることはまずないという。所有者が変装の技に長けていれば、さらに確実だというのだが。
 果たして真の王女はアーの御許に召されてしまうのか、それとも祈り叶って一命を取り止めるのか。いずれにせよしばらくの間、王妃の勢力を食い止め混乱を避けるために、 影武者 (ドッペルゲンゲリン)を用意したいというのだ。

 高潔な騎士の心を持ち合わせた銀の髪のローリエは、思わぬ頼みに困惑を隠せなかった。
「し、しかし‥‥もっと適役はおられないのですか? 例えば、その、名高き 神聖騎士団 (ハイリヒヴァイセリッター)の諸卿に助けを求めるとか‥‥」
「騎士団では駄目なんだ」 アンセル王子は答えた。
「ノエル・フランシス・エルマーは清廉潔白だが、極めて公平な人物だ。きっと、この事件を公にしてしまうよ」
「そう‥‥ですね」 ローリエはエステルランドの聖盾の護りとも謳われる、うら若き乙女(メートヒェン)の騎士を思い出した。
「団長閣下であれば、そうなさるかもしれません‥‥」


こうさくいん「幻影のペンダントはコロナ=ディアボルス=クレアータ。《伝家の宝刀》に《主我》持ちの魔器なのでしゅ。隠密+《変身》+《魔技》もどき+《鋭き刃》もどきで所有者は変装が可能。さすがアンセル王子様はいろいろ用意しているのでしゅ〜o(≧へ≦)9゛」
ボス「妹が典型的な萌えなお姫様なら兄上はいかにも女性に人気の出そうなタイプの線の細い王子殿下だが‥‥まさか頼みが影武者だったとわ‥‥Σ( ̄口 ̄;)」
こうさくいん「これで!ヒルダたんもふっかちゅでしゅでしゅか?o(≧へ≦)9゛」
ボス「ええい本物は二人の前で死に掛けているのじゃあ」
こうさくいん「あぁーそうだったでしゅ〜早く司祭を呼ぶのでしゅ〜(>ω<)」
ボス「それから大声でローリエを呼んで注目を浴びまくっている伝令殿にも忘れずにツッコマねばならぬぞ(ニヤソ) それではどんどんゆくのだ」

太陽のさだめは昼の輪舞



第一章 仮面戯曲


 一線を引退した偉大な魔術師(マーギア)サルモン・フィーストの邸宅は王都フェルゲンにあり、今でも教えを請いにその門を叩く若い魔術師たちは多い。いずれ劣らぬ魔術師たちの並ぶ天慧院長老会の座長、そしてフェルゲン学芸院の名誉院長の名は伊達ではなく、老師はその深い学識と人望によって、若人たちを導いているのだった。
 そして、今まさにその屋敷を訪れようとしているクロイツェル・ヘルラントもまた、老師に少しばかりの恩を負う一人であった。
「おう、上がらせてもらうぜぇ」
 扉が開いていたことをいいことに、クロイツェルはずかずかと屋敷の中に踏みこんだ。使用人たちが目を丸くしている前で客間の暖炉に湯が掛けてあるのを見て取ると、即座に飛びつく。
「道がいがらっぽくて、喉が乾いてしょうがねえや」
 勝手に(テー)を淹れると一人で飲んでいる。サルモンを師と仰ぐ見習い魔術師たちが見たら、怒って火の玉(フォイアーバル)でも撃ち込んできそうな光景である。
「胸の患いの方は大丈夫のようじゃな。そなた、王都に来てから、おかしな噂を聞かぬか?」
 咳も収まって秘儀術師が落ちついている頃、簾をくぐって別室から屋敷のあるじが姿を現した。真っ白な白髪頭に帽子、丸い眼鏡の奥で皺に隠れた智恵を湛えた目、噂通りの好々爺の老魔術師そのものといった姿。無礼な客人にも平然としている。
 クロイツェルはほうぼうで密やかに囁かれている噂を話した。老王ヘルマン一世がまたもや病に倒れ、今度ばかりは長くないという噂。そしてヒルデガルド姫が何者かに襲われ、重傷を負っているという。サルモン・フィーストの頼みは、その真偽を確かめてこいというものであった。
「どういう調べ方をすりゃいいかによるなぁ」
 カップを置き、喘息持ちのブリスランド貴族は伸び放題の不精髭をさすった。その右手の甲と左の掌には、知るものが見れば分かるしるしが刻まれている。
「そなたの持つ義務の本来の仕事じゃよ」 サルモン老の眼鏡が光った。
「この国を誰が継ぐに相応しいか、見定めよ」
「なぁるほど、指輪どおりの仕事って訳か」
 クロツェルは寝癖のような硬い髪の広がる頭をぼりぼりと掻き、そしてふとその指に嵌っている大きな指輪(リング)に目を落とした。
 嵌めたまま拳を振るえば喧嘩にも使えそうな、大ぶりな指輪。精緻な彫刻に嵌められた孔雀石(マラカイト)の宝石が、その無作法なあるじとは対照的に高貴な(グリーン)の光を放っている。
 そう、鳳の指輪であった。かつてフェルゲンラントはプファルツ方伯ギュスターヴ一世がドワーフの一族に願い、フレーグ氏族イェロヴェリル三世がハイデルランドのまことの王を選ぶ権利を持つ七人の選帝公(クーアフュルスト)のしるしとして造りあげた指輪のひとつ。七つそれぞれは元力使いの操る七つの系統の魔力を備え、他にも秘められた力を持つという。破壊不能の理想金属イオシスの台座を持つ鳳の指輪はその数奇な運命のままに人から人へと渡り歩き、今はこうして巡り巡って、ブリスランドの名家を出奔してきたクロイツェルの手に嵌っているのであった。
「まぁ、この指輪を見せる時は、実力行使の時になるがな」
 嫌な笑い方をすると、クロイツェルは手をひらひらと振った。
「うむ。儂の紹介で何か身分を用意させよう。学芸院の研究員か何かで‥‥」
「あーぁ、変装なら大丈夫だ」
 クロイツェルは長旅を共にしてきた荷物袋を開くと、目的のものを探して中を引っ掻き回し始めた。やがて一番底から無理やり引っ張り出されてきたのは、名高き 天 慧 院 (ウェルス・サピエンティア)の魔術師のみが着用を許された、金糸の刺繍もまぶしい長衣である。だが――よくいえば落ちついた、褪せているような紺の色は何か間違っており、紋章は継ぎはぎのよう、マテラ語の古式ゆかしい文句も綴りが間違っている。
「うわ、虫食ってやがる! あちゃー、これじゃまずいな‥‥」
 ぶつぶつ言いながら埃を払い始めた青年に、老魔術師は少しも動じずに軽く眉を上げただけだった。
「それでは、しっかりな」
「ああ。これくらいで傾くなら、この国もおしまいだよ」
 虫食いの穴に指を通しながら、不精髭の出奔貴族は答えた。

Vita brevis, ars longa. - 人生は短く、芸術は長い。


 中庭を飛び回る小鳥が朝を告げるエステルランド王宮(パラスト)の一室では、王家一族の朝食の時間が始まろうとしていた。脇には給仕や料理長、召使たちが控え、大きな机の上には量は少な目ながらも贅をこらした料理が並び、一見家庭的な雰囲気で王家の面々が食事を続けていた。
 優雅に銀のナイフで肉を切り取るマルガレーテ王妃、今朝は調子が良いらしく果物に口をつけているアンセル第一王子。その向かいではカール第二王子がいくさのように盛大な音をたてながら何事か喚いており、その横ではこれまた育ち盛りのヒルデガルド王女が食事を続けている。その向かいのヘルマン王の席は空だった。謁見の間で倒れてから病状は回復したものの国王の具合はあまりよくなく、未だ寝込んだままの状態が続いている。
 そしてもうひとり、王宮に賓客として招かれている青年が、開いた銀の右目だけで和やかな家族団欒(だんらん)の様子を見守っていた。ヒルダの叔父レオポルドの紹介でやってきた、フライブルク伯ヘルガなる白髪の青年である。
「さて‥‥この場には、王家に似つかわしくない者がいるようですね」
 つとナイフを置き、口をぬぐったマルガレーテ王妃が、青褐色の瞳を突如として光らせた。何故だかヒルダ王女がびくりと反応し、フォークを口に入れたまま一瞬硬直する。
「‥‥カール! どうしてもう少し静かに食べられないのですか! エステルランドの王族たるに相応しい作法を守りなさい」
 王妃殿下の静かな怒りの矛先が向けられたのは、その横、食卓の上でまだ肉の兵団とトマト(トマテ)の北荻のいくさを続けているカール王子だった。若者の体に子供の頭しか持ち併せていない王子の回りには、既にソースやら肉汁やらが飛び散っている。
「だ、だって! あいつ、俺の大嫌いなトマトを料理の中に混ぜやがったんだ!」
 勇ましいカール王子はナイフの剣を振り回すと、控えている料理長を差した。王家に忠実な料理長はただ恐縮するばかりだった。
 やんごとなき御身分のマルガレーテ王妃は深い溜め息をつくと、視線を変えた。
「ところで、ヒルダ」 途端に優しい表情を浮かべると、その横の王女に声を掛ける。「体のほうは、もう大丈夫なのかえ?」
「は、はい、だいじょうぶですっ」
 エステルランドの太陽は慌てたように応え、何かを探すように左右を見渡した。まだいくさの終わらない兄王子に声を掛ける。
「兄上。野菜も食べないと、ダメですよ。こんなに美味しいのに」
「うるさい! 今日は肉とチーズだけでいいんだい。だったらヒルダ、お前が食べろよ!」
 勇ましいカール王子は妹に向かってわめき散らし、お口に召さない北荻の群れを押しやった。

「え、いいの? じゃあ」
 ヒルデガルド王女は素早く銀のフォークを伸ばすとトマトを刺した。盗賊(ロィバー)も顔負けの早業で素早く口元に運ばれ、ぱくりと姿が消える。採れたばかりの新鮮なトマトはたちまち育ち盛りの王女殿下の胃の中に消えてしまった。
 黙って成り行きを見ていたアンセル王子が、驚いた目で咎めるように妹を見つめる。天真爛漫な王女殿下は兄に謝るように恐縮すると、てへ、とばかりに小さく舌を出した。

ヒルデガルド姫、エステルランドの太陽


 やがて食事も終わり、召使たちが食器を片付けて行く。
「フライブルク伯殿、見苦しい所をお見せしてしまいましたな」
「いえいえ」 王妃殿下に会釈すると、フライブルク伯ヘルガは皮肉を慇懃の中に隠して言った。
「皆様の仲睦まじい様子が見れて光栄です」
 病弱なアンセル王子も今朝は調子がよいらしく、元気そうに歩いて行く。ヒルダ姫がその腕を取ると庭園に先導していき、楽しそうに何か話し込んでいた。
「(‥‥おかしい。重傷だったはず‥‥)」
 魔糸使い(ファーデンマイスター)ヘルガ・ホルハイムはそんな仲の良い兄妹の姿に、妖瞳を光らすのであった。

Gloria virtutem tamquam umbra sequitur. - 栄光は影の如く美徳につき従う。


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