Schickzal über Mond und Sonne - 月と太陽のさだめ
小粋にエレガントボア
〜月と太陽のさだめ〜

開幕】【前編】【中編】【後編】
-太陽の道案内-
(王女殿下のお達しによりIE5以上で見られたし。)



第九章 湖岸逍遥


 一方そんな騒ぎは露知らず、ヒルデガルド姫は自室で本を読んでいた。父王ヘルマンはその後病状は安定したものの寝込んだままであり、王妃マルガレーテの疑惑についても第三者による工作の疑いが新たに出ており、決着をみていない。
 王女は王宮(パラスト) 書庫 (ビブリオテーク)から持ってきた魔術(マギー)の解説書を眺めていた。サルモン老師のお墨付きの良書であるその本に書いてあることはやはり、先日の頼りなさそうな新任講師の独創的極まりない理論とはだいぶん異なり、ヒルダはまたしても首をひねるのだった。

 ばたんと本を閉じ、伸びをすると、ヒルデガルド王女は部屋を出た。戸口からちょこんと顔を出すと、誰もいない長い廊下が広がっており、先日危機を救ってくれた勇敢なオウガの警護隊員(ヴァッヒェマン)が一人で番をしている。
「ねえ、暇なんだ。ちょっと中に入らないか。今なら、誰も見ていないぞ」

ヒルデガルド姫、エステルランドの太陽


「‥‥いえ、持ち場を離れるわけにはいきません」
 オルゲルは王女(プリンツェッシン)の意外な申し出にやや驚きながらも、斧槍(ハルベルト)を持ち直して答えた。ようやくアンセル王子の口から真実を知り、本物の王女も無事なこと、自分の前に顔を出している王女が影武者(ドッペルゲンゲリン)であることは聞いている。だが影武者の名までは聞いておらず、例え聞いていたとしても、オルゲルにはその女騎士の名に覚えがないのである。
「そうか」 天真爛漫な王女殿下は少し考え、次の案を出した。
「そうだ。ちょっと遠駆けに行かないか? 抜け道を知ってるんだ」


 かくして変装したヒルデガルド王女は白いポニーに跨り、お付きの警護隊員(ヴァッヒェマン)オルゲルは魔物と見間違えるような大きな荷馬に跨り、王都を抜けて駆けてゆく。街を抜け、ゼーを見下ろす緑の丘の上で止まると二人は休んだ。
 王女にまたも請われ、オルゲルは不確かな記憶(エアイネルング)の中から旅の話を語って聞かせた。どうしても名前が思い出せぬ麗しい女騎士のこと、旅の途中で出会った人々のこと。闇の鎖に捕われた者がいる一方で、地上をより善き方向に導こうと努力している者もいること。そんな者たちの中には使徒の祝福を受けた者がいること。
「正直、私は生きていて良いものか分かりません。だが、この身に悪しき者‥‥尖った者を打ち倒す力があるのだから、そのために生きようと思っているのです。大層な大義はなくとも、あの時の騎士のように、弱き者を守るために自分の意志で武器を取ろうと。
‥‥そして、あの者たちも同じなのでしょう、」
 最後にふと、黒騎士の使いと名乗った 魔糸使い (ファーデンマイスター)の青年と選帝公(クアーフュルスト)の指輪を携えた喘息持ちの貴族のことを思い出す。
 王女に化けた何者かが反応してはくれないかと密かな期待を込め、オルゲルは王女の横顔を見た。だがヒルデガルド王女は神妙な顔つきで、オルゲルの旅の話をじっと聞いているだけだった。
 オウガのかつての英雄はじかに聞いてみようかと考えてから気を取り直し、王都の方を見やった。 新国王宮殿 (ノイエケーニヒスレジデンス)が見え、ガイリング一世の時代から続くグンデル塔と横の礼拝堂が光っている。
 だがその中の司祭たちは今、欲に目がくらんで愚かな王子の戴冠を認めそうになったことを一心に懺悔しているのだ。

太陽のさだめは昼の輪舞
ヒルデガルド姫、エステルランドの太陽

 その日の夜。兄王子に呼ばれたヒルデガルド王女は、静かなクローエマルク 離宮 (ルストシュロス)へと赴いた。燭台(ロイヒター)の上でちろちろと炎が燃える中、アンセル王子に出迎えられる。
「ヒルダ。お前に話がある。いや、ローリエ、君にだ」
「はい、兄上。‥‥あ、い、いえ、殿下」
 王女の影武者は頬を染めて恐縮した。


「ヒルダが助かったことは前に話したね。司祭から連絡があった。回復は順調だそうだ」
「よかった‥‥。救世母マーテル様の御慈悲に感謝します」
 王女の姿をした騎士(ライテリン)ローリエは安堵の息をもらし、小さく天に祈りを捧げた。
 続いて王子は幾らかを語った。玉座(トローン)に相応しくない者を排すためにシュラーフブルグ領からの使いが来ていること、国外のブリスランドの人間ながら 選帝公 (クーアフュルスト)の資格を持つ者が来ていること、王女を襲った犯人があるじから解かれ、既にこちら側に付いて警護隊(ヴァッヘマン)の一員になっていること。
 そして現在マルガレーテ王妃に掛けられている疑惑はどうやらカール王子に近しい第三者の仕業であり‥‥フード(カプーツェ)で人相を隠した小柄な賊が、どうやら王宮(パラスト)内に忍び込んでいるらしいこと。
 本物の王女が密やかに寝かされている庭園(ガルテン)の奥の寝所を聞いたローリエは、今度はヒルダを守って欲しいという願いに頷いた。服の下に隠した 幻影 (ビジオーン)のペンダントをすぐさま外そうとした彼女を、王子が押し留める。まだヒルダ王女は君なのだと。
 はつらつとした太陽のような姫君の姿をしたまま、鏡の盾のローリエは頭を下げた。
「殿下。数々のご無礼をお許し下さい」
「いや、いいんだ」
 蝋燭の明かりのもとで非運の王子(プリンツ)は束の間、自らを縛る全ての重圧を忘れたように、そっと微笑んだ。
「それに、ぼくも少し楽しかったよ」
「は、はあ‥‥」
 ――わたしも、本当は、少しだけ楽しかったです――などという想いは、果たして人形(マリオネッテ)の女騎士の心に浮かんだのだろうか。可愛らしい王女の仮面(マスケ)を被った影武者は、困ったように目を落とすのだった。

Gloria virtutem tamquam umbra sequitur. - 栄光は影の如く美徳につき従う。



第十章 月影公女


 さめざめとした 月光 (モーントシャイン)庭園(ガルテン)を冷たく照らし、夜のエステルランド王宮は昼とは違った趣に満ちていた。噴水の音だけがちろちろと流れている。
 その中で二人の人物が対峙していた。一人は痩せぎすに不精髭の、貴族らしからぬ貴族。もう一人は王宮内でその存在を噂されていた賊――フード(カプーツェ)で人相を隠した小柄な娘だった。クロイツェル・ヘルラントは自らが宿した星の欠片に導かれ、同じ星を帯し者を見つけたのだった。そしてその賊こそ、フェルゲンまでの道中を彼自身が共にしてきた、ミリシアという娘。
 ミリシアはゆっくりとフード(カプーツェ)を取った。月光の元に明かされたのは深い金髪の娘の顔。哀しそうな(ロート)の目、(モーント)のように冷たく冴え渡った雰囲気を除けば、その美しい顔はエスエルランド第三王位継承者ヒルデガルド・フォーゲルバイデ王女の顔そのものだった。
「‥‥私がもし、この顔に生まれなければ、私は普通に暮らすことができたのに。
私がもし、この顔に生まれなければ、彼らの身にも何も起こらなかったのに。
私がもし、この顔に生まれなければ‥‥
でも、いいの。あのヒルダ王女さえいなくなれば、“私”は私になれるの」

 静かに呟く彼女の背後で耳障りな音が響き、物陰から巨大な(シャッテン)が姿を現した。いびつな四肢を伸ばし、奇妙な形の刃を携えた、奇怪な傀儡(くぐつ)人形だった。
「この顔は変わらなかった。だから周りの世界を変えることにしたの。
月のままでは、世界の半分しか変えられないのだから」

「変える力はあったんだよな」 クロイツェルは表情を厳しくすると冷たく告げた。
「だったら、自分で顔を削ぐぐらいのことはしてみろよ」
 互いの聖痕(スティグマ)が輝き出した。少女の小さな体に幾つも宿る星の欠片が輝き出し、クロイツェルの右手の甲と左の掌のしるしがそれに答えた。こめかみに刻まれた破壊の使徒デクストラの聖痕から血が溢れだし、顔を伝い、黒い外套の中に消えていく。
「あなたは世界を変える力があるのに、それを使わない。私が周りの世界を変えていくためには、聖痕がまだ足りないの。だから、その力は私が貰うわ」
「俺が負けたら、どうせそうするんだろ」
 クロイツェルは外套の右の裾を広げた。いかなる業によってかその中で折り畳まれていたものが動き始めた。

 さらに物音がし、少女の脇に控えていた人形(マリオネッテ)が警戒の声を上げた。
 茂みを割って現れたのは大きな影だった。巨体を覆う鎧に飾りのついた鉢巻、鬣のような茶色の髪の間の一本の角。手には相変わらず長い斧槍(ハルベルト)を。
「かつては密偵として仕えた身。このような姿でも王宮内を密かに移動するなど、造作もない」
 王宮警護兵(パラストヴァッヒェマン)にしてオウガのかつての騎士(リッター)、オルゲル・オルガルトは言った。
「尖った心を持つもの、ここで見過ごすわけにはいかない」
 その身に記された三つのしるしは、過去を失ってしまったオウガ族最高の英雄(ヘルト)の不運を嘆くように、きしむ鋼のように泣いた。
 星の欠片の光に導かれ、現れた人物はもう一人いた。月の光(モーントシャイン)と同様にひときわ冷たい風が流れ、精悍ながらどこか奇妙な雰囲気を月下に漂わす青年が現れたのである。その右手の先では断罪の糸が、月下の庭園よりもなお暗い色をした(ファーデン)が踊っていた。
「百年が経ったが、この風だけは変わらぬ。風は昔のままだ‥‥少し寒いな」
 その長いシャッテンが死の仮面の使徒のしるしを描き出し、ヘルガ・ホルハイムは永生者(フィニス)のしるしの刻まれた妖瞳の左目を少し開いた。
 青白い月光が星を帯し者たちを照らした。殺戮者ミリシアの背後に幻影(ビジオーン)が浮かび上がった。顔を持たぬ人形がもっと大きな糸吊り人形(マリオネッテ)を操る不思議な幻影だった。少女は口を開き、(モーント)の如く澄み渡った声で告げた。
『捧げよ、聖痕。殺戮の宴は月の宿命。今こそ昼夜を、ひとつの光の元に!』

月のさだめは夜の円舞


こうさくいん「最初にちょこっと出てきたミリシアが‥‥悪者だったのでしゅか‥‥(゚o゚)」
ボス「ええぃ他におらんではないか。さて彼女はLoGの因果律『月の宿命』を持ち、不吉な予言から幼い頃に王家と引き離されたヒルダ王女の双子の子ということになっているのだ。まあ実際は全国のキャラクターの数だけ王女の双子がいるのだろうがな(笑) さて解説せよ」
こうさくいん「ラジャーでしゅー。ミリシアたんはデクストラ=アングルス=オービス。《精緻なる技》《傀儡製作》《剣人形》‥‥のたくさんの特技でクリーチャーのクレアータの人形を製作。本人は《加護》《魔力消散》のアングルスぱわーで回避も十分。さらにオービスの《隠者》《死神》を初めとする秘儀魔法で人形の攻撃をサポートするのでしゅ。一般特技の《苦痛耐性》が5Lvもあるでしゅ〜美少女なのにHPが50以上でしゅよ〜麿でしゅよ〜(ガクガクガク)」
ボス「来たな、アングルスの強力な特技を活かしたヒロイン中毒なまってヘロイン中毒! PCの場合は禁じ手にしている方もいるようだ。そして人形の方が《牙突針》に《増腕》《触覚》《複数攻撃》などなど様々な強化がされている実際の戦闘担当という訳だ。
 まったく同じ戦法を使われてクロイツェルぽんは驚いていたな。Expが初期レベルゆえ防御が薄かったヘルガぽんも苦戦したようだ」
こうさくいん「というわけで対決フェイズなのでしゅ!(>ω<)」



第十一章 月下円舞


 西方のヘルラント家に伝わる舞踏人形が動き出した。あるじのこめかみから流れ出した血はそのまま外套の中の人形を染め、まるで造り物の目が涙を流しているように見える。長い黒髪、外套の下には薄物の衣装のみ、貴族の娘のような外見をした人形(ドール)の手には包丁のような刃の太い剣と、篭手(ガントレット)鉤爪(クロー)が一緒になったような不思議な武器。人形は爪先立ちで起き上がり、自らの体を広げた。
  魔器 (アルテファクト)である魔糸デュンケルハイトを操り、天性の暗殺術をもってヘルガが攻撃に移る。変幻自在の(ファーデン)の攻撃にいびつな人形は吠え、不埒な人間に向かって反撃を開始した。半月型の大きな刃がが人間の肉を狙い、ぼろ布に包まれた体から不意をついて飛び出した鞭のようなものが追い討ちを掛ける。
 その瞬間に合わせ、少女ミリシアが秘せられた呪文を唱えた。占い師の占い札(タロックカルテ)に象徴される秘儀魔法である。圧倒的な力を帯びた鞭は不意を襲い、ヘルガの体を捕らえた。全く予期せぬ伏兵に革の鎧と心の臓を貫かれ、黒騎士の使いはその場に崩れ落ちた。
「尖った心に支配されては、闇に落ちるだけだッ」
 機械仕掛けの腕で大きな 斧槍 (ハルベルト)を構えると、オルゲルは雄叫びと共に突進した。

Fortes fortuna juvat. - 運命は剛き者を助ける。


  月夜 (モーントナハト)の光は詩人たちの創造の泉となり、詩人でない者にも何がしかの閃きを与える。
 夜の王宮(パラスト)でも外に出る者たちはおり、宮廷雀たちは新しいひそひそ話に余念がなく、ご婦人(フラウエン)がたのある者は道化の語る夜伽話に耳を傾け、ある者は妹と戯れる非運の王子(プリンツ)や突如宮廷に現れた謎めいた白髪の青年を題材に、詩本の構想を練っていた。
 と、そこへ供も連れずに一人現れた少女がいた。まごうことなきヒルデガルド姫その人である。

「あら、これは殿下、ご機嫌麗しゅう‥‥」
「まだ、だいぶ先なのだな‥‥」
 きょろきょろとあたりを見回していた姫は突然、口笛を吹いた。
「ブリーゼ! 何処にいる! 私はここだ!」
 王女が活発なことは誰しも知っていたが、夜の庭の静寂を破り、何をするつもりか。尊い身分のご婦人方が呆気に取られていると、力強い足音が近付いてきた。

ヒルデガルド姫、エステルランドの太陽

 いななき、主の元にやってきたのは月光に映える 甲冑 (ハーニッシュ)を纏った銀の馬であった。否、よく見れば軍装ではなく、馬の体自体が金属でできているではないか。精巧なからくり仕掛けの人造馬であった。
 ご婦人方が扇を手に、まあ、と驚いていると、王女はドレス姿のまま鐙に足を掛け、少々背が足りないながらもひらりと銀の馬にまたがった。王女が少々お転婆なことは誰しも知っていたが、今夜は何をするつもりか。
「無礼を許されよ!」
 ヒルダ姫は爽やかに言うとくつわを引き、馬の頭を向けた。そよ風(ブリーゼ)と呼ばれたクレアータ・ホースは蒸気の息を漏らすと跳ね、背の高い植木のついたてを軽々と飛び越えて夜の中を走っていった。
 ご婦人方はヘルガ伯の詩の構想も何処へやら、顔を見合わすだけだった。

Gloria virtutem tamquam umbra sequitur. - 栄光は影の如く美徳につき従う。


 クロイツェルの呼び掛けに答え、舞踏人形がその手を広げた。右の掌からも鋭く尖った針が飛び出すと、爪先立ちのまま回転し始める。小さく呪文を唱え、ブリスランドの貴族は舞踏人形がそのまま敵の人形に向かい踊るように駆け寄ると、激しい攻撃を浴びせ始めるに任せた。クロイツェルにとっては意外であった。様々な技を持つ錬金術師(アルケミスト)のうちで人形使い(ドールマスター)である彼は、自在に舞踏人形を操り、死神の魔法を初めとする秘儀魔法でその戦いを助けるのを得意とする。だがこの殺戮者ミリシアもまた人形使い(マリオネッテンマイスター)であり、ほとんど同じ戦闘方法を仕掛けてくるのであった。
 傀儡同士の戦いから抜け出してきた敵の殺人人形が突進してきた。人よりも数の多い四肢を振り回し、鞭が飛び、当たるを幸いなぎ倒してくる。
 辛くもそれに耐えたオルゲルがからくりの左腕で増加された力で斧槍(ハルベルト)を振るった。人形の持つ刃を受け止め、憤怒の気合で振り下ろしたその威力は凄まじかった。人形の腕が千切れ飛び、その体をばらばらに吹き飛ばす。
「さすがは王妃子飼いの刺客だわ」
 少女ミリシアの声はまだ(モーント)の如く静かだった。
「でも‥‥これで終わりじゃないのよ」
 その長衣の中で慈愛の聖母マーテルの聖痕が輝き出す。ふたたび、いびつな形の巨大な人形は立ち上がった。

月のさだめは夜の円舞


 クロイツェルの操る舞踏人形が人の二倍の速さで舞い、二倍以上の速さでその(ソード)篭手(ガントレット)鉤爪(クロー)を振るって健闘するも、ミリシアの操る巨大な人形の強さも凄まじかった。しかもヒルダ姫と同じ顔を持つ少女は絶妙の瞬間に合わせ、次々と強力な秘儀魔法を用いてくるのだ。
 オルゲルが遂に力尽き、まごうことなきアーの御姿が幻となって見えるかという時、彼は視界の端でもうひとつ幻を見た。銀の馬が見えたのである。
 銀の微風(ブリーゼ)(シュトルム)となって突進してきた。その騎手が磨かれた騎士盾を掲げ、いびつな人形が打ち込んだ半円の刃をことごとく受け止める。瞬間、不破の盾の使徒アダマスの印が宙に光った。
 奇妙な光景であった。身構える(モーント)の如き冷たい 人形使い (マリオネッテンマイスター)の少女もその顔はヒルデガルド王女のもの、そして、馬上で鏡のような騎士盾を構えた勇ましい少女もまたヒルデガルド王女の顔をしていたのだ。

 馬上のヒルダ姫はひらりと馬から飛び降りた。賢い馬が背の荷物を向け、王女はその中から大きな長剣をすらりと抜き放つ。同時にその左の手が首に掛かり、何かをひきちぎると投げ捨てた。
「王女殿下は確かにこの国を照らす太陽の光だ。だが、対になる月があろうとはな!」

ローリエ、鏡の盾の騎士

 朦朧としていたオルゲルは目を見張った。そこにいたのは一人の女騎士だったのだ。鎧に手甲ハントシュー、鏡の如く磨かれた無紋の(シルト)に長い(シュヴェーアト)。それほど上背も体格もないのに、重い鎧など着ていないかのように軽々と立っている。その髪も(ジルバァ)、彼の記憶の中にある通りだった。ヒルダ王女に語って聞かせた、どうしても名前が思い出せなかった麗しい騎士がそこにいた。
 瞳の奥のクレアータの聖痕を深紫(ヴィオレット)に輝かせ、ローリエ・リルケが剣と盾を手に前に一歩歩み、巨大な人形が金切り声を上げてそれに答えた時。闇の色をした糸がそれを遮り、人形の肩でうねっていた鞭の先端が千切れ飛んだ。
「‥‥私を倒したかったら、魔神でも連れてくることだ」
 永生者(フィニス)ヘルガ・ホルハイムがその妖瞳を光らせていた。黒騎士の使いは倒れてなどいなかった。

Memento mori. - 汝もまた死すことを知れ。


 ヘルガの魔糸とクロイツェルの舞踏人形が戦っている間にローリエが駆け寄り、オルゲルの大きな体を支えると救世母マーテルへの祈りの言葉を呟く。
「慈悲深きマーテル様、王女殿下にまごうことなき忠誠を示したこのまことの騎士を、お救いください」
 王女に篤い忠誠を示した警護隊員を、天が見捨てることはなかった。命を取り止め、内なる炎をふたたび燃え上がらせたオルゲルは、斧槍を手に立ち上がった。
「オオオォォォォォッ!」
 莫大な消耗と引き換えに(ドラッヘ)をも倒す剛力をもたらす巨人の力帯(リーゼンギュルテル)の魔力など必要なかった。オウガの英雄(ヘルト)は斧槍を振るい、巨大な人形に挑みかかった。苛烈な一撃を受け止めようと交差して掲げられた両の腕ごと粉砕し、いびつな人形の体をばらばらに打ち砕く。木製のその体には主人の手によるものか、力の術師エフェクトスのしるしが刻まれていた。大音響と共に人形の体が爆発し、四散する。傷の痛みを堪えてオルゲルはその主人へさらに刃を向ける。後はミリシア一人だ。
「あの人形を壊してしまうなんて、馬鹿ね」
 ヒルデガルド王女の顔をした少女は哄笑した。
「駄目よ、駄目。私はヒルダなのだもの」
 ひらりひらりと身をかわし、(モーント)の如く美しい少女は笑う。オルゲルの体に刻まれた炎の剣の娘アルドールのしるしが輝き、力を与えた時も、希望の御子アングルスのしるしが、そして少女の体に蓄えられたいくつもの聖痕が次々に輝いてそれを防いだ。大柄なオウガの半分ほどしかないとも思える少女は、猛攻の果てにもまだ立っていたのだ。

月のさだめは夜の円舞


「クロイツェル、もっと早く知り合えていたら、変われたかもね‥‥でも駄目。月のさだめは決まっていたの」
 ミリシアは笑いながら呪文を唱えた。その手の中に白い炎が生まれ、大きくなっていく。秘儀魔法の中に数えられる強力な火炎(フラメ)の魔法である。
 悪態をついていたクロイツェルが冷や汗をかいた。よく戦った舞踏人形は既に傷つき、先ほどの使徒エフェクトスのしるしが招いた爆発で完全に動きを止めてしまった。人形使い(ドールマスター)は仕方なく、黒騎士の使いの糸に加護を与え、自身は鳳の指輪から風の元力を引き出して戦っていたのである。
 魔法の火炎は殺戮者に挑もうとしていた二人を直撃した。銀の騎士ローリエのように盾と鎧に守られていなかったヘルガの傷が大きかった。だがそれでも魔糸が伸び、少女の殺戮者を寸断するべく舞う。
「駄目よ。言ったでしょう、私はヒルダなの」
「む‥‥?!」
 最後の最後で一瞬の迷いが生じたのは、玉座(トローネ)の監視者が将来仕えるであろう相手と同じ顔の人物を斬ることを、糸の姿をした 魔器 (アルテファクト)デュンケルハイトが拒んだのか。
 だがそこへ騎士の剣が迷いなく打ち込まれた。人ならぬ身に人以上の力を宿したローリエは長剣と盾を軽々と操り、盾をも攻撃に用いる。
 人形(マリオネッテ)の騎士の剣が少女の持つ不思議な力を打ち破り、切っ先が長衣の端を捉えた時、彼女自身も予想しないことが起きた。剣先に死の仮面グラディウスのしるしが幻影の如く浮かび上がったのである。
「これは‥‥?」
 ちらりと振り返ったローリエは理解した。重い傷を負ったヘルガがその妖瞳の左目も薄く開き、厳しい顔で頷いていた。その闇色(デュンクラー)の糸の先が剣の先に伸びている。自らが宿した星の欠片の力を、ローリエの剣先に重ねていたのだった。
 盗み蓄えた聖痕の力を使い果たしていたミリシアは、直接送り込まれた死の力に抗うすべをもはや持っていなかった。ヒルデガルド王女と同じ顔をした殺戮者は、ゆっくりと倒れていった。

Memento mori. - 汝もまた死すことを知れ。


 ゆらりと倒れていくミリシアの体を、クロイツェル・ヘルラントは支えた。体の大きさも何もかもがヒルデガルド王女と一緒だった。哀しそうな(ロート)の目をした少女の体から、(モーント)の如く冴え渡った雰囲気も、命の炎も急激に消えていく。
「月は‥‥消えゆくさだめだったの‥‥?」
「結局、お前も折れたのか。残念だったな、世界は変えられたかもしれんのに」
 不精髭のブリスランド貴族はその目を閉じさせた。「‥‥おまえのやり方は間違ってた、ってことだ」
 重い傷を負ったヘルガ・ホルハイムはただ殺戮者の死を見守り、力を使い果たし倒れる寸前のオルゲル・オルガルトの元へ、ローリエ・リルケが駆け寄る。
 王女のシャッテンであった少女の体から、使徒のしるしが浮き上がった。十を数える聖痕は強く輝きながら、ゆっくりと天に昇っていった。その光は王女の影が決して成し得なかったように、月下のエステルランド王宮を太陽(ゾネ)の如く照らしていくのであった。

太陽のさだめは昼の輪舞



終章一 舞踏終幕


 国王(ケーニヒ)ヘルマン一世の容態はその後快方に向かい、エステルランド王国の危機はひとまず去った。元より愚鈍である王子(プリンツ)カールは、魔術を操る賊に入れ知恵されて今回の奇行に及んだとされ、しばらく自室謹慎ということで放っておかれた。
  王妃 (ケーニギン)マルガレーテ・フォーゲルバイデが策謀家であることは影で多くが認めることだったが、今回の国王毒殺の陰謀は本当に第三者が被せた濡れ衣であったことが証明され、王妃は晴れて拘束を解かれた。
 そして、強力な魔術(マギー)を使い王室転覆を企んだ賊が何者であったのかについては、その特殊性から多くが秘された。民たちには無事捕らえられ、処刑されたという知らせだけが伝わった。

 王都フェルゲンの近くにある緑の丘からは、湖を遠くに一望することができる。村の外れにあるその丘に簡素な墓を作り終えると、不精髭の貴族に見えない貴族は埃を払った。
「結局、お前も変われなかったか‥‥」
 簡素な墓は、太陽の王女(プリンセス)の影として、月としてこの世に生を受けてしまった少女のためのものである。
「始まりも人形劇、終わりも人形劇だ‥‥そら」
 クロイツェルが指輪(リング)を嵌めた手で指を鳴らすと、その後ろで前触れなく影が舞った。長い黒髪と体を隠す外套を引きながら、舞踏人形がどこからともなく現れたのである。
 既に修理も済んだ舞踏人形が踊り出した。薄物しか纏っていない娘の姿をした人形は奇妙な形の剣を右手に、くるくると回りながら墓の周りを回っていく。
 歓声を上げながら村の子供たちが駆けて来た。軽やかに踊る人形と佇む人形使い(ドールマスター)を輪になって囲む。
「ここ、だれかのおはか?」
「すごい、あのおねえちゃん、あんなにうまく踊ってるよ!」
「おじさん、何やってるの?」
 まだ二十代ながら風貌から実際より年上に見えるクロイツェルに関しては当然の反応だった。踊る人形が束の間、あの月のような少女のような雰囲気を宿したのを見た選帝公権利保有者は少し笑うと、身を翻した。
「変われたじゃないか‥‥そら、いくぞ」
 馬車に向かいながら、持病の喘息が出て少し咳込む。死者への弔いを済ませた人形は慌てたようにその後ろ姿を追い、子供たちも不思議な人形使いの後を追うのだった。

Vita brevis, ars longa. - 人生は短く、芸術は長い。



終章二 亡霊の使い


 女館(ケメナーテ)を改築した離宮、やんごとなき御身分の王 妃(ケーニギン)殿下がさまざまな秘密の考えに耽る私室。美しきマルガレーテ王妃は窓の外を眺めながら、ややいらだたしげに扇子を弄んでいた。
「‥‥にしても、この大事な時にわらわをたばかるとはまこと腹立たしい‥‥はて、これからいかがしたものか」
 操り人形同然であったはずの愚かなカール王子は何を思ったか、入れ知恵されて王妃に刃向かい、奇行に及んだ挙句の果てに今は謹慎状態にある。幾つかの駒が失われ、駒の配置も読みもやり直さねばならなくなった。こんな時、無言でよく仕えてくれたオウガの密偵はもういない。
 白の間に赴き、徳目の(シュピーゲル)の助言でも仰ごうかと王妃が考えた時。誰も近寄れないはずの室内にシャッテンが走った。
「な、何者じゃ‥‥ッ!」
 そのほっそりと形の良い首に何かが巻き付き、王妃は息を飲んだ。その手から扇がはらりと落ちた。
「黒騎士の使いにございます」
 氷よりも冷たい声が響き、王妃は凍り付いた。
「お静かに。ここで首を切るのは赤子の手を捻るのも同然。最後の用がありまして」
 その声が、王家一族の仲睦まじい朝食会を見る光栄に何度か浴した、フライブルク(グラーフ)ヘルガと紹介された青年の声であったことに、王妃殿下は果たして気付いたか。
「な、何用‥‥じゃ‥‥」
「しばらく大人しくしてもらえませんか」
 声の調子は変わらなかった。「いずれブレダよりガイリングが動き出し、私も忙しくなる」
「わ、分かった‥‥」
 王妃が掠れた声を漏らすと、背後の気配が遠ざかった。
「では、これにて」
 その刹那、首の戒めが瞬時に消える。マルガレーテが振り返ると、一瞬の影が見えたのみであった。咳込む口を押さえ、急いで戸口を出ても、誰一人として見当たらぬ。王妃はそれでもしばしの間ほうぼうを探し、見えない 亡霊 (ガイスト)の使いの姿を探し求めるのであった。

 フライブルク宮中伯の紹介で王宮(パラスト)に現れたヘルガなる人物の消息がぷっつりと途絶えたのはその頃であった。急用ができたとかで誰にも暇を告げずに忽然と消え、二度と王宮でその姿を見た者はいなかった。
 詩本の構想を練っていた御婦人(フラウエン)方は、精悍ながら奇妙な雰囲気を漂わせていた白髪の青年が去ったことを嘆き悲しみ、はて、アンセル殿下と釣り合うぐらいに人気の出そうな殿方は何処かにおらぬかと、新たな題材を探して王宮を巡るのであった。

Memento mori. - 汝もまた死すことを知れ。



終章三 太陽の仮面


 危機はひとまず去り、わたしは王子殿下のもとへクローエマルク 離宮 (ルストシュロス)をふたたび訪れていた。幻影(ビジオーン)のペンダントの魔力の強さには助けられたが、わたしの下手な芝居の数々を思い出すと今でもいかんともしがたくなる。
 まだ休息が必要のようだったが、ヒルデガルド姫はすっかり元気になられていた。忍び寄る様々な影を打ち払う太陽(ゾネ)が、この王国には欠けてはならぬことを、天も分かっておいでなのだ。至高神アーよ、救世母マーテル様よ、その深い御慈悲に感謝いたします。
 そして、願わくばアンセル殿下も、姫同様に健やかであられることが叶ったら‥‥

太陽のさだめは昼の輪舞


 銀の騎士ローリエの前には二人の兄妹がいた。病に伏せることの多いアンセル王子も最近は調子がよく妹の無事を祝い、そして、横の長椅子には、ヒルデガルド王女が座っていた。まだいささかやつれているものの、輝くような金髪も、朝露に煙る露草の色の溌剌とした瞳も、まごうことなき本物の愛くるしい姫の姿であった。
「王女殿下‥‥もう大丈夫なのですか?」
「うん。そなたが、私の代わりを務めてくれたのか」
 本物のヒルダ姫は言った。「いろいろと、世話を掛けたな」
 主なき女騎士(ライテリン)はとても大事なことを急に思い出したように、椅子の前で膝をつくと頭を垂れた。

「王女殿下。数々の御無礼を、平に御容赦くださいっ」
 恥じ入るように頭を深々と下げ、続ける。銀の髪がふわりと揺れ、絨毯の上に垂れた。
「そ、その‥‥わたしは役者ではないゆえ、その、民の思い描いている殿下の御姿を‥‥と、いうか‥‥どうしても演じて‥‥その、とにかく‥‥」
 アンセル王子は軽く笑いながらローリエを立たせ、しどろもどろになって困っている彼女を許した。

ローリエ、鏡の盾の騎士
ヒルデガルド姫、エステルランドの太陽

「いいんだよ」
 穏やかな瑠璃色(ラピスブラウ)の目を細め、兄は話が飲み込めずにぽかんとしている妹を見やった。
「それにぼくの見るところ、本物よりも淑やかだったな」
「もう。アンセルお兄様ったら!」
 ヒルダ王女は頬を染めて反論し、兄は朗らかに笑い、その様子に影武者を務めた騎士は表情を緩めるのだった。


「それでは、また誰かの力が必要になり‥‥それが騎士団の諸卿にも明かせぬような願いであった時は、どうぞまたお呼びください。どこからでも、馳せ参じましょう」
「そうだな。 鏡の盾 (シュピーゲルシルト)のローリエ。今度は、きみの盾に役立ってもらいたいものだ」
「ええ」 人形 (マリオネッテ)の女騎士は微笑んだ。
「わたくしも、下手な役者よりは、そちらでお役に立ちたいものです。――では、これにて」
 銀の騎士ローリエは今一度膝を折り、恭しくアンセル王子の手を取った。
「殿下。ヒルダ姫も殿下も、この国にとっては大事なお方です。‥‥どうぞ、ご壮健で」
 細く繊細な王子の手を取り、その高貴な手の甲にそっと口付けすると、銀の髪の女騎士(ライテリン)は頭を垂れるのだった。

Gloria virtutem tamquam umbra sequitur. - 栄光は影の如く美徳につき従う。



終章四 まことの騎士


 オルゲル・オルガルトは王都フェルゲンにいた。振り返り、遠くの新国王宮殿(ノイエケーニヒスレジデンス)の姿を今一度目に収める。  王室転覆を企んだ賊の一件のごたごたで、多くのことがうやむやのうちに解決させられていた。マルガレーテ殿下からは既に任を解かれていたオルゲルは王宮警備隊(パラストヴァッヒェマンシャフト)の手伝いも辞め、国を離れることにしたのだ。
 身柄を拘束されていた王妃は今頃解放され、もしかしたら自分のことを一度ぐらいは思い出しているかもしれないが、もう遅い。あとはほとぼりが冷めるまでこの国を離れていれば大丈夫だろう。
 群衆の中で一際上背の高さが目立つオウガを馬車の側で見送るのは、癖の強いぼさぼさの髪に相変わらず不精髭も剃っていない異国の貴族。クロイツェル・ヘルラントである。
「お前は、恥をそぐために生きよといったな。それで罪を償えるかは分からない」
 かつての王妃殿下の密偵は言った。
「だが、散っていった命を無駄にしないためにも、大切なことを思い出すためにも、俺は生きてみようと思う。この想い出(エアイネルング)が、俺に生きる力を与えてくれるだろう」
 ブリスランドの人形使い(ドールマスター)は頷くと髭をさすった。
「思い出に浸るヤツもいる。今しか頭にないヤツも、未来しか見ないヤツもいる。まぁ、色々だ」
「魔法使いの言うことは難しいな」 オルゲルは笑った。「オレは国を出る。あの二人にも、よろしく言ってくれ」
 額の角の周りを掻き、しばしためらってから続ける。
「その‥‥忘れていた手前、今さら改めて顔を合わせるというのも‥‥少し気が引ける、しな」
  黒騎士 (シュヴァルツェリッター)の使いヘルガ・ホルハイムは既に、王宮から忽然と姿を消していたという。そしてヒルデガルド姫の影武者を務めた人物とは‥‥オルゲルは顔を合わせずに去っておきたかった。
 クロイツェルは了解したように手を上げ、別れを告げると自前の馬車の方に帰っていった。オルゲルも身を翻し、長い斧槍(ハルベルト)を担ぐと人間の街をぶらぶらと一人去っていった。

太陽のさだめは昼の輪舞


「待ってくれ、オルゲル殿!」
 背後から聞こえてきた女の声と急いで駆けてくる馬の蹄の音に、オルゲルは振り返った。凛とした女の声に、走ってくるのは一陣の銀の風。あれなら噂になるだろうとオルゲルは納得した。蒸気の息を吐く 人造 (キュンストリッヒ)の馬と、それに跨った銀の髪を靡かせた女の騎士は、確かに少々人目を引く。
「オルゲル殿、そなただったのだな。すまぬ、顔が少々違ったゆえ、少しも気付かなかった」
 銀の微風(ジルバァブリーゼ)と名付けられた馬から降りると、ローリエ・リルケは駆け寄り、かつて旅を共にしたオウガの戦士を見上げた。
「なんだ、来ていたのか。‥‥まあ、あの頃とは変わってしまったからな」
 仕方なくオルゲルは改めて話をした。王妃に仕えるようになる前のことがうまく思い出せないこと、大切な思い出(エアイネルング)がいくつも失われてしまっていること。
「‥‥あの時に姫に語った話、女騎士というのはわたしのことだったのか」
 ローリエは恥じ入るように目を落とした。旅の話を願ったヒルダ姫に王宮警護兵オルゲルが語った昔の話のことである。はてさて、エステルランドの太陽の姫の影武者を演じるのに精一杯だったのか、この女騎士はそんなことにも気付かなかったのだ。
 話を聞いた彼女は気を取り直すように言った。
「だが、記憶が戻らずとも、確かなことがひとつある」
 異国の硝子を透かしたような空色(ヒメルブラウ)の瞳に静かな光を湛え、女騎士は続けた。
「わたしと共に戦った貴殿は、まことの騎士であった。それだけは確かだ」
「そう‥‥か。だったら、いつか、そのことも思い出せるといいな」
 オルゲルは答え、手を振ると身を翻した。「じゃあな」
「ああ、もうひとつ」
 今度こそ去ろうとしたオウガの背中を、篭手ハントシューを嵌めた女騎士の手が慌てて呼び止めた。オルゲルが何事かと待っていると、ローリエはしばしためらったのちに口を開いた。

ローリエ、鏡の盾の騎士

「‥‥無礼を許されよ。わたしは役者ではないゆえ、ヒルダ姫が迷惑をかけた」
「なぁに、民や人を思いやる心は、姫もそなたも変わりあるまい。
 それに――儀礼には疎いオレが言うのも何だが、存外似合っていたぞ」
 オルゲルがぎこちなく笑いながら答えると、女騎士は目を丸くしていた。

「如何に騎士とはいえ、そなたも年頃の――」
 そこまで言って、自分にあまり似合わない台詞に気付き、額の角の周りを掻く。
「あー、その、何だ‥‥勇ましいのも頼もしいが、時には淑やかに振る舞うのも良いのではないか」
 銀の騎士ローリエは娘のように頬を染める訳でもなく、どんな反応をすればいいのか困ったように、なんとも言えぬ表情を浮かべてただ立ち尽くしていた。

 オウガの聖痕者オルゲル・オルガルトは微笑み、彼女に別れを告げた。背丈よりまだ長い斧槍(ハルベルト)と少しの荷物を担ぎ、人間の街を肩で風を切って歩いて行く。呪縛は解き放たれ、王妃の人形は自由となった。巨人の力帯(リーゼンギュルテル)を携えて部族を出た英雄(ヘルト)の記憶、まことの騎士の記憶が抜け落ちたままだとしても、いつかまた蘇ることもあろう。

 オルゲルは空を見上げた。目を白黒させていた女騎士の瞳のような澄んだ色だった。
 アーよ、まことの騎士ヴァーレ・リッターの行く手に光あらんことを。

 
 
 
Und, Erzählung von wahreritter enden,
auf die Erde in Hiderland ...


Illustration:

Kronprinz Horino [AXYZ Sonnensystem]


こうさくいん「というわけで、ヒルダたんも復活しておわりでしゅ〜ヽ(´▽`)ノ」
ボス「よかったよかった(安堵) 最終的には全て元通りになった状態で終わったな。これで王女と第一王子は暗殺されて国王崩御で王国瓦解などという終わり方をしたら恐ろしくてコンテンツにできないところだ(冷汗)。 実際ハマの方でやった時は王妃に仕えるからくり忍者の自爆でヒルダ姫やアンセル王子が死んだ時もあったらしいぞΣ( ̄口 ̄;)」
こうさくいん「王宮警護隊でも人気を二分するエステルランドの太陽は不滅なのでしゅよ〜o(≧▽≦)9゛」
ボス「ええいマルガレーテ様やちょびっと出てきているサルモン老にも触れぬかぁぁぁ。まぁよい。最後はオウガのまことの騎士の旅路を祝福しつつ爽やかに終わりなのだ。やはりファンタジーは良い(´∀`;)‥‥(ぽわぽわぽわ〜ん)」
こうさくいん「んんー最後にローリエたんの好感度を上げて去っていくのは何でしゅか〜続編があるのでしゅか〜(笑)」
ボス「オウガ族最高の英雄のはずだが、見送った部族の面々が見たらなんと言うかのう。これがミケズムか(ニヤソ) 姫君はローリエが化けた偽者の方が少し勇ましかったようだな」
こうさくいん「くぅ〜さすがリリーちゃんの転生(ばきゅ〜ん)
ボス「(魔術師から借りた鷹の紋章の雷の杖を置く) さて、何の話だったかな。おおそういえば次回『月の回廊』もボアの予定なのだ」
こうさくいん「(パタ‥‥(゚o゚) )」
ボス「一心不乱の優雅な舞姫クローディア、全ての元力をその右手のみで操るリヒャルト配下の虹の七騎士が一騎アインハンダー、そして本作に続き銀の馬を駆ってさ迷う騎士ローリエ。あとは風の谷の姫様も真っ青のスカイガンナーに乗った天空騎士のまこと緋き妄想ぶり‥‥などが出てくる予定であったがあまりにお腹一杯であったゆえその次に譲ることになったのだ。まあとにかく続きはあるぞよ。きっと暗黒女王迎撃作戦の模様になるだろう。ザルム物らしいがザムエル物と間違えないようにせよ」
こうさくいん「(ふ、ふっかちゅ) というわけで、さらばでしゅ〜(≧▽≦)ノ」


 特別ゲスト(笑)を招いてうまくいったエレガントボアはしゅーりょー。その後はポストポストアクトで飲みに。最近の漫画の話や次回の話やキャラクターの構想の話から始まってポニテの話や和風の話や洋風の話やコズムの話やその他イロイロ話題に出たり出なかったり。
 最近深夜アニメでやっていた某葉っぱ系作品のヒロインはみんなレイスやメイジや変化妖怪のキツネだとかゆー話を聞いて驚愕。和風コズム的には剣を持ってる子がてっきりツボなのかと思っていたらあれは日本刀ではないので×とか聞いてぽっくんの知らない世界は奥が深いんだなぁと思うのでちた。まる。


〜おまけ〜
(真面目なファンの人スンマソン)


黒騎士(シュヴァルツェリッター)の使いは去りゆくの巻〜

偽ヘルガ伯「しばらく大人しくしてもらえませんか。いずれブレダよりガイリングが動き出し、私も忙しくなる」
偽マルガレーテ王妃「わ、分かった‥‥くッ!」(首が締まる)
偽ヘルガ伯「もうひとつ。御婦人方が作っていた詩本、夏が終わったらシュラーフブルグ領まで一部、届けていただきたい。送料は着払いで結構」
偽王妃「わ、分かった‥‥突発おまけ本とラミカも付けさせよう!」
偽ヘルガ伯「では、これにて(ニヤソ)」

Memento mori. - 汝もまた死すことを知れ。


まことの騎士(ヴァーレ・リッター)、旅の話を語るの巻〜

偽オルゲル「‥‥そうして闇は打ち払われました。その騎士は麗しく、高潔で、この国の 神聖騎士団 (ハイリヒヴァイセリッター)にも劣らぬ腕前でした。なのに残念なことに、私は今もって、生憎とその名を思い出せないのです」

ヒルデガルド姫、エステルランドの太陽

影武者ヒルダ姫「そんな風に、諸国を旅するのも楽しそうだな。私も、自由になりたい」
偽オルゲル「いえ、殿下。殿下には民草を導くと言う重要な使命がございます」
影武者ヒルダ姫「そうだな。私には、果たさねばならぬ務めがある」
偽オルゲル「(*´▽`).。oO(流石は一国の王女だ。これで髪型がだぶるぽにーだったらなぁ‥‥ / ぽわぽわ〜ん )」

Fortes fortuna juvat. - 運命は剛き者を助ける。


〜悲運の王子(プリンツ)の願いの巻〜

偽アンセル王子様「やあ、ローリエ。また、来てくれたんだね」
嘘ローリエ「王子殿下‥‥またお会いできて光栄です(微笑)」
偽王子様「また、頼みがあるんだ」
嘘ローリエ「その御恩に報いるためなら、なんでもいたしましょう。今度は何を?」
偽王子様「(幻影のペンダントを取り出す) ‥‥君に、また、“兄上”と呼んで欲しい」
嘘ローリエ「で‥‥殿下?(ドキドキドキドキ)」

王子様ファンの人ゆるちて・笑



〜おまけのおまけ〜

 さて全国ウン千万のヒルダたんファンやノエルたん派やアンセル王子様命の方々から抗議されそうな話でしたがいかがだったでせうか。

タイトル画像の Schicksal über Mond und Sonne に使われているクラシックなフォントは CloisterBlack BT と言って、ブレイド・オブ・アルカナ 1st Edition のタイトルロゴと一緒です。旧作をお持ちの方は見てみましょう。
いつもはよく各章のタイトルをあちこちの作品名から取ってくるのですが、今回は製作期間が短かったために4文字のウソ熟語風にしてみました。(アル●ラーン戦記チックかよ!)
本作に登場する人形使いクロイツェル・ヘルラントの外見のモデルは月刊サンデー連載中の漫画『新暗行御師』の主人公、文秀。連れている人形のモデルが同作のヒロイン、山道だそうです。確かにこの文秀もワルモノっぽいですね。
黒騎士の使いヘルガ・ホルハイムはあんなことを言ってますが因縁を見ると将来はヒルダたんの下僕として仕える予定だったようです。
 しかし風の噂によると、その後のアクトで殺戮者の前にあえなく命を落としたそうで(合掌) 相手の麿は、『黒風再来』の超巨大ザムエルたんで、しかも死因はドリルだったらしい‥‥(鬱死)
オウガのまことの騎士オルゲル・オルガルトは‥‥んーホントはきっとダブルポニテ好きに違いありません(勝手)
銀の騎士ローリエ・リルケは主人となるはずだった令嬢リーリエ・ヴィンケルリートに似せられて創られたために名前も似ている‥‥という設定ですがもうひとつ、フランス語のローリエ (Laurier) は月桂樹の意です。花言葉は栄光や勝利、名誉でした。(ぽわぽわ〜ん)
 女性のネーミングに花や植物の名前を使うのはよくあることですね。現に華撃団の13人も‥‥い、いや、なんでもないでしゅ。


開幕】【前編】【中編】【後編】
-太陽の道案内-

Sword from BoA Sword from BoA
...... Schicksal über Mond und Sonne ......
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