
〜 ホーリィ†グレイル 〜
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-聖杯への道-
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| 第3章:: 遠い日の約束 |
+Date:: A Few Years Ago
+Lokation:: Tokyo NOVA: A University Labo.
予算の贅沢な多国籍企業お抱えのラボには負けるものの、大学付属の研究所もかなり設備には恵まれている。
その研究所で美作唯博士とその後輩の月代あやめは研究を続けていた。遺伝子工学の腕を買われてM○●Nの巨大企業BIOSへの誘致に応じ、入社も迫っていた美作博士は、既にこの頃から自らの研究にとり憑かれ、しばしば常軌を逸した言動も目立つようになっていた。
「構わないわ。檻の中のを全部使いましょう。どうせモルモットなんて、幾らでもいるのだから」
「博士」 邪魔にならぬよう黒髪を後ろで結わえ、白衣に身を包んだあやめは言った。
「私たちも科学者のはしくれです。あまりに非人道的なことは、慎むべきではないでしょうか」
「関係ないわっ」 美作博士が声を荒げる。「どうせ幾らでも買えるのよ。こんな不完全な生き物など、死国に幾らでも這いずり回ってるわ。企業に頼めば、幾らだって売ってくれるのよ」
檻の中では、わざわざ取り寄せた珍種の小さなテングやヒルコたちが、人間には理解できない声で鳴いていた。
月代あやめは手袋を外すと、本棚へ向かった。一番端に置いてある電子映像の収められたアルバムを手にとる。写っているのはまだ表情も穏やかな美作唯博士と、その横で微笑む妹の麻耶。学生になったばかりだったあやめも一緒に写っている。美作姉妹は互いに似ていたが、面白いことに姉の唯には左目の下にほくろがあり、妹の麻耶は右目の下にほくろがある。そして妹の麻耶の方は黒髪を金に染めていた。
あやめは妹の麻耶とも親交があった。なんでも仲の良かった二人は、昔姉妹で交わした約束のために、共に研究者として大成することを決意したのだという。
「変わりましたね、博士‥‥」
「この研究さえ、この研究さえ完成すればいいのよ。そして、私は日本へ‥‥」

+Date:: Prezent Day
+Lokation:: Tokyo NOVA: Ayame'z Personal Labo.
月代あやめは追憶を振り切り、入手したガーデンタワーのセキュリティの映像に目を戻した。破壊されなかったカメラに、666研究室の顛末の一部が残っていたのだ。
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『あ、あなたは‥‥み、美作博士?!』 |
次に起こった光景は万魔殿で悪魔の研究を見慣れている研究者たちにもさぞ異様だっただろう。美作博士の右腕が爆ぜ――本当に爆発したとしか言いようがなく――そしてその中から巨大な鉤爪が現れたのだ。人間の体にどうして繋がっているのか理解できないほどの巨大な爪は室内に暴風を巻き起こした。研究者達を血祭りに上げ、一撃で適確に巨大なトロンや研究設備を破壊していく。そして巨大な影がカメラを覆い、画像はぷっつりと途絶えた。
BIOSの知らない事実をひとつ、あやめは知っていた。美作唯博士の研究室はガーデンタワーの地下深くのセントラル・ドグマだけにあるだけではない。かつては使われていたラボが、トーキョーN◎VAにも残っているのだ。 |
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ボス「このシナリオも一部過去と現在のシーンがが交錯するものとなっている。特にレッガー役はアイザックとの過去の思い出の場面が多くなっているな。イベントの多い中で美作唯博士のシナリオコネがあるBIOSのクグツorタタラ導入が一番着実に情報を集めていくようだな。あやめ女史も博士の後輩だったという設定を生かして一人調査を進めているぞよ」 |
| 第4章:: 旅路の果て |
+Date:: Prezent Day
+Lokation:: UK of G.E.B.: London: To Castle of Earl Adnis
速度が出ない代わりに風情のある前近代的な馬車に揺られ、美作麻耶とアレックス・タウンゼントはロンドン郊外を進んでいた。メガ・プレックス中心部を離れると、景色に湖や森林が混じり出し、古き良き田園風景が広がっている。
「ずいぶん珍しい知り合いがいるんだな」
「ええ。本当に‥‥偶然だったんです。パーティの席で知り合って。そうでもなければ、あんな五百年以上も続く名門貴族の御老体と知り合う機会はそうそうありません。ふだんは人嫌いで、とても気分屋の御城主なのですが、聖杯の契約を今になってご破算にするようなことはなさらないと思います」
「ふふ。御老体ね」
かつて自分に様々な技を授けたある御老体を思い出し、アレックスは苦笑いする。
やがて馬車は森の中の小道へと入る。霧が行く手に満ち、風景がニューロエイジらしからぬ神秘の趣を増した時、目の前に数世紀の時を経たのであろう古城が姿を現した。
跳ね橋を抜け、正面で止まると執事の案内で中へ。社交界にもほとんど姿を現さないアドニス・ウィンザー伯の使用人とメイドたちが一斉に礼をする。
「二階の奥の部屋でご主人様がお待ちです。どうぞ‥‥」
執事に案内されて長く暗い廊下を抜け、城の中を進む。調度品も年代物、廊下に飾られた絵画も災厄前の画家の手によるものばかりだ。
カーテンの閉められた大部屋には光が差し込まず、暖炉の炎と豪華なシャンデリアの灯りで照らされていた。どこかひんやりした空気の漂う室内で、黄金の
深い森の中のフェアリー・リングから作られた妖精の粉のお守りが俺に危険を知らせた。黒銀の鞘に収まった剣があの時のように微かに震え、目の前の
アドニス・ウィンザー伯爵は10代の美少年の姿をしていた。金髪に白く透き通った肌、高級なスーツ。女性ならさぞこの麗しい姿には心惹かれることだろう。この少年も“夜光蟲”と同じ‥‥夜の世界に属する生き物の、その中でもかなり歳経た
「どうしたんだい? ふふっ、僕の顔に何かついているかな」
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「‥‥これは失礼しました、サー・アドニス・ウィンザー。しかしながら我々は、御老体と伺っていましたので」 |
「せっかく久方ぶりにミス・美作に会えたというのに、ディナーもご一緒できないとは残念だね。例のものはハミルトンが地下室から持ってくるところだ。極上のロマネコンティも用意させるよ。しかし‥‥よりによって聖杯を巡って騒ぎが起こりそうだとはね‥‥」
しばらく会話した時、せわしなく扉が開くと息を切らせた執事が入ってきた。鋼鉄の箱とワインの瓶を抱えている。
「ご主人様、確かにロマネコンティをお持ちしました‥‥が」 執事は汗をぬぐった。
「大変で御座います。いつぞやの皆様がまたしてもお見えになりました。いきなり押し入ってきまして、聖杯を渡せと‥‥」
若き伯爵は物憂げにため息をもらした。「あ〜あ〜、カーライルの連中、まだ諦めてないのかぁ。もっと高く買ってくれる人ができたから、こっちに売ることに言ったのになぁ」
「はい、わたくしも丁重にお帰り願ったのですが‥‥や、やや!?#&@!」
続いて起こった出来事は、古城での永遠の生に飽いたウィンザー伯にとっては十分刺激的な出来事だったろう。勢いよく扉が開くと、闖入者たちが入ってきたのだ。揃いのダークスーツの子分を引き連れた、逞しい体をブラウンのスーツに包んだスキンヘッドの大男。そしてその後ろからやや距離を置くように、お付きの青年を従えた金髪の娘が姿を現した。

+Date:: Prezent Day
+Lokation:: UK of G.E.B.: London: Castle of Earl Adnis: Dark Saloon
「おおぅ、伯爵様よう。約束の品を受け取りにきたぜェ。こっちは100億で話がついてたなぁ?」
「これはこれは、僕の城へようこそ。え〜〜〜っと、ダックじゃなくて、スワロー‥‥でもなくて、え〜と‥‥」
「チキン・バーンズだっっっ!」
カーライル・シンジケート最高幹部、円卓の騎士第十一位のチキン・バーンズは既に体温を著しく上昇させ、頭の上に炎が実体化する寸前だった。
「ああ、そうそう。思い出したよ。そのにわとりさんが何の用? 今からこちらのレディに、聖杯は200億で譲ることにしたんだけど」
「ああん? てめェ、昨日まで100億でイイって言ってたじゃねェか? どういうつもりだ?」
「でも言ったよね、もっと高く買ってくれる人がいるかもって。僕の持ち物をどうしようと、僕の勝手だからねぇ☆」
のほほんとしたウィンザー伯は爆発寸前の鶏を前にしても少しも態度を変えず、くすくすと笑いを漏らす。
「まあ、契約があった訳でもないからの‥‥正当な取引じゃろう。わらわだったとしても、すぐさま100億は用意できるわけはない」
1メートル後方からやりとりを眺めていた円卓の騎士第十二位、ティナ・レオンハルトが声を掛ける。
「おい嬢チャン、てめェ金貸しだったな。だったらとっとと出さねェか!」
「無理なものは無理じゃ。わらわが持っておるのは全てがカーライルの金ではないゆえにな」
「ったく、連絡ぐれェよこすだろうがフツー。おいお前ら、ヤるぞッ!」
| 第5章:: サー・ティナと鶏の騎士 |
+Date:: Prezent Day
+Lokation:: UK of G.E.B.: London: Castle of Earl Adnis: Dark Saloon
ドクター麻耶が俺の後ろに隠れ、俺はそろそろと位置を変えた。連中が喋っている間に13mmダズルを抜き、スキンヘッドのマッスルマンにポイントする。
ニューロエイジのテクノロジーも進歩を続けている‥‥義眼に入れた距離測定デバイスが即座に結果を弾き出し、視界の隅に表示すると同時に“パンサー”に微調整信号を送る。もうひとつ、スマートガンの視界で見る前から大男の力が見えた。あのマッスルマンも俺のように元力使い‥‥
照準をボスから移し、後ろで控えている若い企業人らしき娘に合わせた時。高級スーツに身を包み、右手に銃、左手にジェラルミンケースを携えた金髪縦ロールの娘は、俺の射界に向かって口を開いた。
「よせ。弾の無駄じゃ」
「‥‥ここで何をしている?」
ティナ・レオンハルト。俺の企業人の顧客が前に世話になったとかで知っていた。犯罪結社との繋がりがあるのは明白だが、10代のあの若さで会社を持ち、マネーコンサルタントを営んでいるという。銃の腕だけは信用できる娘だった。腕をサイバーに換装しているとも見えないのに、どういうわけか女の腕で重ライフルを片手で扱うのを得意としている。

「はっはァ! 邪魔すると火傷じゃ済まねぇぜェェェ!」
腕を振り上げたチキン・バーンズの右手から、サイバー化して格納されていたヒート・ウィップが飛び出した。元より高熱を発し、さらに元力使いの宿す炎の力を纏った鞭は大きく翻り、室内を跳ね回る。同じ元力の闇の力をまとったシールドが実際の盾の位置より数センチ手前でウィップの直撃を受け止めた。だがあまりの勢いにアレックスは数歩後ずさり、舌打ちする。勢いあまったヒートウィップは室内を踊り狂った。高級な調度品が砕け散り、直撃を受けたものは即座に溶けた。ふかふかの絨毯は黒焦げになり、その下の数世紀を経た床まで溶け出している。駆けつけてきた使用人たちが悲鳴をあげ、ウィンザー伯がやれやれと天を仰いだ。
ダークスーツの男たちが続いて得物を抜き、さてボスに続いて一暴れという時。面々の耳に霧の向こうから響いてくるサイレンの音が響いてきた。悪漢たちの出現を嗅ぎ付けたスコットランド・ヤードが城に駆けつけてきたのだ。途端にチキン・バーンズの表情が凍りついた。
「ところで、入国手続きはどうしたのだ?」
円卓騎士団第十二位のティナ・レオンハルトが、サイレンの音に動きを止めた円卓騎士団第十一位チキン・バーンズに問い掛ける。
「ンなモン、やってるわけねェだろ」 能力のお陰で冷や汗をかかない“燃える鶏”は真顔で答えた。「これ以上はヤバイ。おいお前ら、退くぞッ!」
手を一振りするとヒート・ウィップが見る間に手首の中に消えていく。
「覚えておけ! “聖杯”はてめェらに預けておくだけだ。しっかり預かっておくんだなァ!」
大広間の面々を一通り睨むと、スキンヘッドの円卓の騎士は身を翻した。その周りに小さな炎が現れ、火炎使いの周囲に小さな円を描く。
「後は任せる。俺は帰るぞ」
その言葉と共に、円卓騎士団第十一位の騎士の姿は忽然と消えた。術を使って一人だけ退散したのだ。
「(‥‥本気か?)」
ティナ・レオンハルトは心の中でだけ愕然とした。広間は滅茶苦茶になり、執事らは消火器を持ち出して火を消すのに忙しく、怒り狂った使用人とメイドたちが大広間に押し寄せてくる。
「あのう、ティナ様、我々はどうすれば‥‥」
「‥‥う、うむ。好きに逃げろ」
バッドボーイズの力を見せつける予定だったダークスーツの男たちは、ボスを見失い右往左往するだけだった。適当に答えつつ、ティナもそろそろと出口に向かう。
アドニス・ウィンザー伯は城の面々に指示を出すのに忙しく、城の面々は大広間を何とかするのに忙しかった。怒った使用人とメイドたちがボスを失ったカーライルの面々に襲い掛かり、スコットランド・ヤードが来る前から大広間は忙しい。
「ミス・レオンハルト。修理代がかさみそうだが、払えるのか?」
銃をゆっくりと下ろしたデス・ロードが、スキンヘッドの仲間なのかいまいち分からない娘に問いかける。
「後で手配するぐらいならできるだろう。小切手ならわらわも手持ちがある」
ティナは答えた。
「アレックスさん、ウィンザー伯には後で挨拶するとして、聖杯は約束通り譲り受けました。と、とりあえずN◎VAに向かいましょう!」 |
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こうさくいん「アレクぽんが護衛する唯博士の妹のドクター麻耶は《天罰》で聖杯レプリカを買取り、この城で受け取ることになっていたのでしゅ」 |
| 第6章:: 人の造りしもの |
+Date:: Prezent Day
+Lokation:: Tokyo NOVA: Wasted Laboratory of Doktor. Yui Mimasaka
災厄の街トーキョーN◎VAにもBIOS支社はあり、息の掛かった施設も各所に存在している。
かつて美作唯博士が使用していた研究施設は、セキュリティだけが生きていた。そっと中に入った月代あやめは中を探り、照明のスイッチをつける。
高性能のメインフレーム、千早アーコロジー内に家が変えるぐらいの高価な実験機器。まだ学生だった頃にあやめが訪れた時にはなかったはずの巨大な培養層もある。あやめは軽く首を傾げ、まだスタンバイ状態にあったトロンのスイッチを入れた。
自分の研究室のメインフレームから探った結果で、美作唯博士の足取りはおぼろげながら掴めていた。20世紀の偉大な物理学者アインシュタインの名を冠したマシンの性能は高い。唯博士はBIOSから『“
この研究室のトロンからも調査を続ける。厳重なプロテクトが掛けられ、暗号化とクローク処理が施されたファイルがあった。最終更新日は3年ほど前。ラベルとして付けられたタイトルは―― "Holy Grail" 。
息を漏らすと、あやめは長い髪の中に隠したデータチップを再び取り出した。トロンのスロットにさっと差し込む。電子鍵が独りでに動き出し、聖杯の名を持つ秘匿されたファイルの中身がディスプレイ一杯に映し出された。
美作唯博士は人間の遺伝子を集め続けていた。膨大なリストにはニューロエイジ世界の様々な国、様々な人種の、しかも優秀な人間のデータが収められている。バウンティ・ハンター協会やフリーランス、軍人や各種公的機関、過去の剣豪‥‥災厄の街の裏世界では伝説と化したカタナ“エクスカリバー”の名まであるのが注意を引いた。どうやら、博士は優秀な遺伝子を収集し掛け合わせたクローン人間生成を計画していたらしい。
ファイルの最後にはそうして生まれるはずの生命体の各種予想図が載せられていた。完璧な遺伝子を備えて生まれ、育つはずの人間の姿は‥‥10代の少女。心身ともに完璧な均整をもつものの、身長や体格は人間の平均と何も変わらない。
それにはあやめも納得するところであった。遺伝子操作や様々な処置を人体に施す場合、科学的には男性の体より女性の体の方が受け皿には向いているのだ。それに男性より体格がいくらか劣っていても、今の時代はサイバーウェアや各種インプラントが幾らでも使える。
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「‥‥アルティメット・ソルジャー計画というわけね‥‥」 |
「『‥‥
理解できない言葉で記してあった異本を手に取り、月代あやめはふと呟いた。
「どちらにせよ、これは止めなければ駄目ね‥‥」

+Date:: Prezent Day
+Lokation:: UK->NOVA on the see: Cabin of "Titanic II"
「しかしティナ様、こんな試作品のシールド、使うのですか?」
「たわむれじゃ」
悪巧みを思いつき、E&B陸軍からの横流し品を社長の力で手配して届けさせたティナとお付きの青年ジークは、豪華客船『タイタニックII世』号の船上にいた。この船はエール&ブリテン連合王国を出発し、N◎VAへと向かっている。天候不順で飛行機が使えなかった彼らにとっては丁度いい足だった。
「ティナ様、お客人です。ちょっと、なんですかあなたたちは!」
「何用じゃ、そなたら」
「Oh、ドント・ウォーリィ。ミーとユーの仲じゃないですカー」
船室にキース・シュナイダーと、その後からカンツォート・ガルバニーが入ってくる。嘲う死神は勝手に入り込むと、ソファーに座って勝手に茶を飲み始めた。その横の紙袋の中には、軍資金で落札したジャパニメーションの束が隠されたままだ。
同じシンジケートに属する身として、ガルバニーとティナも顔見知りだった。それぞれの顛末を語る。黄金の聖杯のレプリカは入手できず、AGARTAの地下オークションで象牙の聖杯を手に入れたのは稲垣司政官。真鍮の聖杯はオーサカM○●NのBIOSからカーライルの協力者が入手し、4つ目の木の聖杯が残っている。
「しかし、お前もずいぶんあちこちに顔を出してるんだな」
「Oh。使えるものはファーザーでも使えというじゃないデスかー」
ガルバニーがむっつりと声を掛け、キース・シュナイダーは相変わらず陽気だ。
「じゃあ、俺はもう厄介払いだな」
「ノンノン。そんなことアリマセーン。まだユーには働いてもらいマース」
「で、最後のひとつはどういう手はずになってるんだ」 むっつりとガルバニーが続ける。
「木の聖杯があるのはN◎VAの千早雅之記念美術館だろう」
「Oh、サスガ耳が早いデスね。木の聖杯は前のセンチュリー、冒険家とナチが争って映画にもなった品デース。それは手勢に任せて、ワレワレは真鍮の聖杯を何とかしないとナリマセン。こちらには円卓騎士もいるし、オーケーでしょう」
ガルバニーは見事な縦ロールの髪をした娘、新しい第十二位の円卓騎士に何の感慨もなくちらりと目をやった。
「お前さんもずいぶんと面倒な役目だな。同情はしとくぜ」
「なんなら変わってもよいぞ」
ティナ・レオンハルトも青い目を細め、何の感慨もなく答える。
「いや‥‥もうごめんだ」
ガルバニーは答え、カーライルの面々は調査を始めた。稲垣司政官がN◎VAへ帰った後、象牙の聖杯はN◎VA治安維持軍基地から移される手はずになっていた。近々、千早迎賓館で司政官就任3周年記念パーティがある。どうやら聖杯は、その場でお披露目されるらしいのだ。
ボス「さて何の因果か円卓騎士団に入れられてしまいポカーン状態のまま探索を続けるティナ・レオンハルトだが。なにやらモデルがいるらしいな。おまけの補完をせよ」 |
| 第7章:: さらば、愛しき娘よ |
+Date:: 3 years ago
+Lokation:: Tokyo NOVA: Somewhere
of Street
「危ない。右、よけて‥‥」
深夜のストリートはいつでも危険に満ちている。レッドエリアでは死体は毎日生産され続け、ガルバニーがその仲間に入る可能性も毎日同じだった。
その一言が渡世人を救った。鉛弾を山ほど浴びてもなお動いた敵の刃が空を切り、地面に当たって火花を散らす。
地面に転がったガルバニーが振り返ると、もうその相手は死んでいた。一動作で迫ったアイザックの剣が水平に、正確に心臓を一撃で貫いていたのだ。
最後の一人が両手からサイバーウェポンを展開し、少女に後ろから襲い掛かる。だがアイザックの動きにはどこにも隙がなかった。一瞬で振り返り、右手の剣だけで的確に斬撃を振り払うと、反撃に移る。一分の隙もない、完璧なまでに調和のとれた完成された動き。敵を葬り去るまでほんの数瞬だった。
その剣舞はあまりに美しく、あまりに完璧で、暗く薄汚いストリートにはあまりに場違いな神々しいまでのものだった。ガルバニーはしばらそれに見惚れてしまい、それから落ちた自分の帽子を取った。
「立つ瀬なしだな‥‥」
全員の死亡を確認すると、アイザックはガルバニーの方に駆けてきた。コートから血が滲んでいるのに気づき、剣を落とすとその腕をとる。
「大丈夫? 血、出てる‥‥」
「いや、かすり傷だ、」 帽子を被り、ガルバニーは立ち上がろうとした。普段から感情を露にしないアイザックが感情的になるのは珍しい。
「でも‥‥」
「お前が心配する必要はない」
渡世人はすがりつく少女の顔を見つめた。先程の完璧なまでの剣舞を見せたカタナの顔ではなく、それは瞳に憂いを帯びたはかない少女のものだった。
裏稼業の人間にも家はあり、仕事で染み付いた血の匂いを洗い流す場所が必要だ。 |
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「‥‥お前一人を養うぐらいの金はあるさ」
コートを脱ぎながらガルバニーは答えた。複数の勢力が関係した微妙な仕事で、金は得られなかったことには触れないまま。
「私も、仕事、するよ」
「ガキがそんなことを考える必要はない。家でおとなしく‥‥」
ガルバニーは言葉に詰まった。「おとなしく‥‥、家事でもしてろ」
そのまま二人は会話に困り、しばらくしてから食卓につく。食事中も会話は少なく、スプーンの音だけが部屋に響いた。
「シチュー、おいしい?」
「‥‥ああ」
「味、濃くない?」
「‥‥ああ」
「‥‥もっと、食べる?」
「‥‥ああ」
アイザックは急いで立ち上がるとキッチンに向かい、食卓にはガルバニーが残された。戦っているときの彼女の姿とはかけ離れた姿だった。
ガルバニーはふと思い出した。夜のストリートで見せた彼女の天才的な剣技。どんな人間にも真似できない、舞のような最高の技。それと同等のものを、彼は一度だけ目にしたことがあったのだった。
まだN◎VAに治安維持軍や司政官がやってくるよりずっと昔、災厄の街が箱庭の中にあった頃の話。最強の名を冠するにもっとも相応しい伝説のカタナ、“エクスカリバー”の技。一度だけ見たあの剣舞ならば、アイザックとも同等のものだったかもしれない。
「アイザック‥‥」
シチューのお代わりを注ぎ、ガルバニーの前で食卓についていた少女は、その言葉にはっと顔を上げた。
「どうしたの。‥‥‥‥まずかった?」
「いや‥‥。もうこれ以上、くだらないことはするんじゃないぞ」
「ううん」 悩むガルバニーを見ると、アイザックは心配そうに言った。「私も、そのうち仕事するよ」
「そんなことを言うなら、料理以外の家事も少しはできるようにするんだな」
それが料理は美味かったのだというガルバニーの気持ちであったことは、果たして少女に伝わったのか。会話は途絶え、また二人は静かな食事に戻った。
|
こうさくいん「なんでしゅか〜この二人のラビューンな日々は〜ヽ(@▽@)ノ もうフヌケちゃうでしゅよ〜〜(悶)」 |
初めて会った雪の日と同様、その日も何の前触れもなく訪れた。
鍵を開け、隠れ家のアパートに入った時に感じた違和感。中からは何の気配も、食事の匂いも、キッチンから響いてくるはずの包丁の音もなかった。
アイザック・ヴィクトリアの姿は、完璧で、凄腕で、無表情で、不完全で、優しい黒髪の少女の姿はどこにもなかった。机の上に、合成プラスチック製の紙切れがひとつだけ置いてあった。
| 『今までありがとう、ガルバニー。
‥‥さよなら』 |
+Date:: Prezent Day
+Lokation:: Tokyo NOVA: Garvany's Rejidense
カンツォート・ガルバニーは誰もいない家の中を見渡した。そう、アイザック・ヴィクトリアが突然いなくなったのは1年ほど前だったろうか。
「あの頃はしばらくの間、俺もずいぶん腑抜けになっちまってたな」
アイザックと共に過ごした日々をふと思い出し、渡世人は自虐的に笑う。キッチンには無機質な自動調理器、何の応答も見せないDAK。ガルバニーは煙草に火をつけた。
「気まぐれだったんだ‥‥俺には関係ない」

| 第8章:: 杯と指輪の秘密 |
+Date:: Prezent Day
+Lokation:: Tokyo NOVA: A Hotel: Bar "Olivier"
カーライルの連中に円卓の騎士を名乗る一団がいるらしいことは俺も知っていた。暗黒街風情の人間が永遠の王アーサーを名乗るとは‥‥ヤンキー共の出来の悪い冗談にしか思えなかったのだが。その円卓騎士団の連中は円卓の伝説に自らをなぞらえ、かねてからの大願である聖杯入手を今回企んでいるという。どうやらドクター麻耶の姉、美作唯博士も現在協力関係にあるようだ。
アドニス卿の城で襲ってきたあのチキン・バーンズというスキンヘッドも円卓騎士の一人だった。そして――あまり信じたくなかったが――どういう訳かあのティナ・レオンハルトもその一員に入っているらしい。あの娘は、銃の腕だけは信用できたのだが‥‥
タイタニックII世号はN◎VAに寄港し、船上でなく陸の宿を求める客たちには高級ホテルが割り当てられた。
ホワイトエリアにあるそんなホテルの中にある落ち着いたBAR『オリヴィエ』。黄金製の聖杯レプリカをバッグの中に隠し、美作麻耶とアレックス・タウンゼントはその一角で話していた。
美作麻耶がCFC研究所筋の情報を語る。複数勢力が探し求める“聖杯”の力は分子の純度を極限まで高めることのできる高純度作用だった。ある物質をその十億分の一の状態から復活せしめることも可能だ。この原理が完全に解明できれば人類の物理化学、遺伝子工学は飛躍的に進歩する。本当の永遠の命を得ることさえできるだろう。
古来よりイエスの血を受けた聖杯は不老不死を与えるとも言われており、科学が世界を支配するまで多くの学者を惹きつけた錬金術において探し求められた究極の状態、即ち
「‥‥なあドクター麻耶。君は本物の“聖杯”の伝説は信じているかい?」
仕事中なので酒を控え、アレックスが問う。
「ええ。話だけは聞いたことがあります。この高純度作用を持つ聖杯と等しいのかは‥‥分かりませんが」
「俺も聖杯伝説については知っているよ。ブリトンに伝わる異教の伝説、ケルト神話の“豊穣の角”、様々な話がより合わさって聖杯は生まれた。そこにキリスト教が伝来してから、キリストの血を受け秘密の弟子が運んだ聖杯の話が加わり、今に伝わっている」
「そうですね‥‥もしかしたら、別のものなのかもしれません」
「ああ」 E&Bから来た夜闇の魔法使いは言った。
「正直なところを言うと、俺も別のものと信じたいよ。空想上の存在であることが分かっているのだからな‥‥」

静かなBARで考え込む二人の下へ、来客が訪れた。純白のコートと、それに対照的な艶やかな腰まで届く長い黒髪。麻耶博士より少し若い女だった。純粋な日本人の容貌の中で、その瞳だけが穏やかに朱の色を湛えている。
「‥‥月代さん‥‥あやめさん?」
美作麻耶が、姉の後輩であった友人の姿に気付く。運命の天輪の導きか、“朱の巫女”もまた、聖杯を携えた旅人の下へ現れたのだ。
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美作麻耶と月代あやめがひとしきり話し、あやめは二人の側の椅子に腰掛けた。 |
「残念でしたわ」 |
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強力な力を備えた品々はある種の霊気を備えており、それは複製品でも同じ場合がある。星幽界をも見通す“朱の巫女”の瞳は、二人が携えているバッグの中身が“聖杯”のレプリカであることにすぐに気付いた。
「いったい何を持ってきたの‥‥?」
その表情を研究者のものに変え、あやめが問い掛ける。美作麻耶は顛末を話した。本物ならば高純度作用を持った“聖杯”のこと、クローン体となって“女王”計画事件から生き延びた姉のこと。美作姉妹とあやめの3人で仲良く写真を撮った頃は今は昔――姉とは道を違えてしまったこと。
「私がお姉さんの元を去ったのは、失敗でしたね‥‥」
月代あやめは目を落とし、テーブルを見つめた。
「そうかも、しれません」
麻耶はためらいがちに答える。
「これは行くしかなさそうですね。確か司政官就任3周年パーティが今日だったはず」
「ええ。2時間後です。そこに姉さんが来るかもしれません。アレックスさんも、来てくれますか」
「ああ。ドクター麻耶、この“朱の巫女”は信用できる人物と考えてもらっていい。ところで‥‥」 パーティの詳細をポケットロンで調べ始めた美作麻耶に、ボディガードは問い掛ける。「服装はフォーマルかい」
頷く麻耶にアレックスはしばし考え始める。「そうか。少し準備が必要だな」
美作麻耶はしばらくパーティのことを調べていたが、やがて顔を上げた。
「そうそう、ちょっと問題がありますね」
何事かと二人が見返すと、彼女は人差し指を立てて続けた。
「この記念パーティ、連れの男性は私をエスコートする役になるみたいです。既婚の方だと、何かと問題ですね」
デス・ロードは微妙な表情を浮かべると、横目であやめを見た。
「‥‥なあ。変わってくれないか」
「私をですか? それはそれで問題と思いますが」
「そうじゃない。ドクター麻耶をエスコートする役だ」
「あら、女性が女性をエスコートするなんて聞いたことがないですけど」
「‥‥‥‥」
冠婚葬祭よろず承りの“朱の巫女”はさらりと答え、死神の使いは押し黙った。
「ご安心ください」 あやめはにっこりと笑った。「わたくし、奥様の電話番号は知ってますけど、連絡したりはしませんから」

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ボス「さあ物語も謎が明かされてきていよいよ佳境。あやめ女史が合流してうまく話が繋がってきたな」 |
| 第9章:: 燃える鶏とホーリー・グレイル |
+Date:: Prezent Day
+Lokation:: Tokyo NOVA: CHIHAYA State Guest House: Party Time
千早迎賓館は政界・社交界・企業界・その他諸々の世界での重要人物をもてなすために用意され、設備は最高のものが整っている。
新星東京市の司政官として為したことはどうあれ、本日は稲垣光平氏が着任して3周年のめでたい日だった。各界の重要人物が着飾って現れ、会場は華やかな雰囲気に包まれている。
「ジーク。粗相をするでないぞ」
「いつもながら、緊張するッスねー」
お付きの青年ジークにエスコートさせ、ティナ・レオンハルトも客の一人として姿を現した。元から金髪の縦ロールに青い瞳、その銃がなければ貴族令嬢の雰囲気を漂わすティナは、カリテスの高級ドレスに身を包んだ今は正にブルジョアの雰囲気である。
そして、客の中には目立つ格好の女性が一人だけいた。月代あやめは清楚な和服に身を包み、西洋風の正装がほとんどの中で際立っている。
美作麻耶博士の側に控えたアレックス・タウンゼントと、キース・シュナイダーと一緒のカンツォート・ガルバニーも別々に、パーティ会場に入り込んでいた。
「HaHaHa、こうも盛大だと、まるでアントの入る隙間もないデス」
正装したキース・シュナイダーは黙っていれば格好がつくのかもしれないが、口調が同じなので何も変わらない。
「あぶりだすつもりかもしれんぞ」
いつものトレンチコートのマフィア・スタイルとは一味違う高級スーツに身を固めたガルバニーは、相棒に何の感慨もなく言った。
「Oh、イエース。ワタシの部下が紛れ込んでいマース。It's パーフェクト!デース」
「ずいぶんと自信満々だな」
「エグザクトリィ。このパーティにはナイツ・オブ。ラウンドがワン、ツー、‥‥スリー、3人もいるんデース。ただごとでは終わらないデshow」
「数も数えられなくなったのかい、“嘲う死神”」
キース・シュナイダーも円卓騎士団の一人、第十二位のティナ・レオンハルトは到着済み。では、三人目とは誰であろうか。
「ノンノン。ワタシは3人と言ったのデース」
キースはにやにや笑いながら指を振っている。
「フン。‥‥あの鳥チキン野郎のこととでも思っておこう」
ガルバニーが答えた時、会場中央の壇上で司政官の挨拶が始まった。
『会場においでの紳士・淑女諸君。今晩、私のめでたいよき日によくぞ集まってくれた。本日は、私、稲垣光平の司政官就任3年目を祝う日であると同時に、一足早いクリスマスを祝う宴でもある‥‥』
来客の中でも一際目を引く和服姿で話を聞いていた月代あやめは、会場の端のほうでぽつんと立っている女性に気付いた。黒が基調の礼服に身を包み、背筋を伸ばすと、回りの客と談笑するわけでもなく悠然と立っている。あやめと同じ黒髪、あやめと同じタタラの硬質の雰囲気を漂わす女性――それは、妖月都市で死んだはずの、美作結博士だった。
『‥‥さあ存分に飲んで食べてくれ。わっはっはっは!』
司政官の声が響く中、あやめは回りの客に会釈して博士の元へ急いだ。
「美作博士‥‥」
「久しぶりね、あやめ」
あやめが頭を下げると、美作唯博士はかつての助手に微笑んだ。
「それで、何をしに来たのかしら。私を説得に、それとも止めるため」
「どちらか言うと後者ですか。やめろ、と言っても聞かないでしょうからね」
「当然よ。最優先事項だもの」
「博士」 和服に身を包んだ朱の巫女は言った。「科学者といっても、超えるべきでない一線があります」
「一線ね。そう、だから――あなたは私を超えられなかったのよ、月代助手」
その言葉に、あやめは見えない雷光に打たれたかのように立ち尽くした。

『‥‥さて、余興というわけではないが、諸君らに見せたいものがある。クリスマスを祝うのに相応しい品物が手に入ったのだ‥‥』
俺はその時、ドクター麻耶が壇上とは別のある一点を見ているのに気付いた。その肩が微かに震えている。
気付くのが遅かった。ドクター麻耶はエスコートせずに済んだが、彼女に気を取られていた。彼女が見つめる先に死んだはずの姉がいた。その前には月代あやめが対峙している。
『‥‥かのキリストの血を受け、アーサー王と円卓の騎士たちが探し求めた“聖杯”を私は授かったのだ。これほどめでたいことがあろうか!』
壇上では司政官が象牙の聖杯を掲げるところだった。会場がどよめきに包まれていた。能力を持つ者の目にはきっと、あの聖杯の持つ霊気が見えることだろう。
その時、物音が一斉に響いた。聞き慣れた音‥‥銃が準備される音だ。客の中にはカーライルのバッドボーイズが紛れていたのだ。どういう手を使ったのか、銃を持ち込んだ奴らは昔の映画に出てくるようなSMGを見せびらかすと、天井に向かって撃ち始めた。
悲鳴が飛び交い、迎賓館の会場は混乱に包まれた。
舌打ちしたアレックスは術を解いた。光を操作して元力で隠していた大弓と矢の筒が現れ、それを放る。
「これを使え!」
和服の裾が舞い、月代あやめは発止とそれを受け止めた。一動作で構えると群集の中で唯博士の姿を探す。
だが大きな物品を隠すには限界がある。アレックスは自分のシールドを持ち込んでいなかった。だがそこへ、ティナお付きの青年ジークがやってきた。主のジェラルミンケースの中にどうやって畳まれていたのか、見慣れない形の盾を「これを」と差し出す。
会場と同様に壇上でも騒ぎが続いていた。
「な、な、なんだぁ!? カーライルの奴らかぁ? ええい、聖杯は誰にも渡さん。渡さんぞぉ! 俺のものだぁぁ!」
壇上で聖杯を引っつかむと、司政官氏はおろおろとあたりを見渡す。
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「ケッ! そーいうわけにもいかねェんだよ!!」 |

+Date:: Prezent Day
+Lokation:: Tokyo NOVA: CHIHAYA State Guest House: Real Party Time!
血の気の多いカーライルの手下たちは銃を乱射し、会場の一方の出口からは千早重工の威信に掛け、警護班の面々がやってきた。たちまち迎賓館の中を銃弾やその他諸々のものが飛び交いはじめる。
「ジーク、トンプソン!」
「は、はいお嬢様っ」
一体どこにしまっておいたのか、お付きの青年はジェラルミンケースから大きな銃を取り出す。女の腕で片手でSMGを構えると、ティナ・レオンハルトは思い切り撃ち始めた。防御に優れた千早の重装警護班がしばらく持ちこたえるものの、たまらずテーブルと一緒に倒れていく。
19歳のマネーコンサルタントは弾が尽きた銃を投げ捨てると手を出した。
「ジーク、次!」
「は、はい!」
ここでもチキン・バーンズの動きは速かった。一瞬でタキシードを脱ぎ捨てると、そこには暑苦しさの増したいつもの派手なスーツ姿。一瞬で飛び出した腕の中のヒート・ウィップが、室内を蹂躙する。
たまらず後ずさったアレックスの胸の中で、何かが輝いてウィップの直撃を避けた。
「チィッ! ドルイドの護りの護符か?!」
「ほう。知っているのか」
銃弾が飛び交う中で乱戦は続いた。原初の炎を纏ったサイバー・ウェポンの威力は凄まじく、防戦一方のアレックスが借りた盾は端が溶け出していく。
「ジーク、STW!」
「は、はいっ」
装弾数の少ない旧式ライフルを受け取ると、縦ロールのお嬢様は片手で射撃を始めた。千早警護班が悲鳴をあげて倒れ、机の上の様々な高価なものがばらばらになっていく。
服の下に隠していたレールガンを構え、その横をガルバニーは突進していった。自動火器の中でイレイザーガンの性能は群を抜いている。近寄るものに容赦なく銃弾を浴びせ、渡世人は美作唯の元へと迫った。

着飾った人々が逃げ惑う混乱の中で月代あやめは一人大弓を構え、魔を打ち破る矢を唯博士に向けていた。
「博士、聖杯を4つ集めてどうするおつもり?」
「4つのうちどれかは本物なのよ」 余裕たっぷりの表情で後輩を見返すと、美作唯博士はこの世界の人間の何割かが確実に驚愕するであろう事実を口にした。
「何故なら、本物の聖杯には、キリストの血がついているのだからね‥‥」
伝説に残るキリストの聖血。それをDNA培養し、果てはクローン再生したら何が起こるだろうか。完璧な人間が生まれるのか、聖者の再来か、とにかくこの世界には、キリストの再来を祝う人々もいれば、キリストが存在しては困る人々もいるだろう。
煙の中から、そこへゆらりと現れた影は、カンツォート・ガルバニーのものである。暗い目をした渡世人は静かに言った。 |
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「全ては計画のためよ。私が実験体をどうしようと、勝手でしょう」
美作唯博士は事実を語った。アイザック・ヴィクトリアは遺伝子を調整し、掛け合わされた優れた因子のみを持って人工的にこの世に生を受けたクローン人間だった。だがいかに優れていようとも、人間には経験からしか学べないことがある。自我が薄かったアイザックにはその能力を実地で使う必要があり、唯博士はストリートでの1年間を彼女に経験させた。それは、ガルバニーがあの少女と過ごした1年間だった。
「そうか‥‥そういうことか‥‥」
ガルバニーの目に、一際暗い光が宿った。
「ではアプローチを変えよう。俺はあんたが気に入らない。つべこべ言わずにアイザックから手を引け!」
高い射率を誇る小型レールガンの銃口が、まっすぐに唯博士の胸へと向けられた。
「はっはっはァ! コイツは頂いてくぜェェ!」
その時、スキンヘッドの大男の声がパーティ会場に響き渡った。円卓騎士第十一位のチキン・バーンズの腕から踊るヒート・ウィップが思い切り床を叩き、炎が広間じゅうに吹き上がる。床に大穴が開き、燃える鶏はその中に飛び込むと姿を消した。既に火災寸前まで来ていた迎賓館パーティ会場は完全に炎の中に包まれた。
「ティナ様ぁ! か、火事ですよっっ!」
ティナのお付きの青年ジークが悲鳴を上げて駆け寄ってくる。大弓を携えた月代あやめ、美作麻耶博士を護って逃げるアレックス、従者と共に退散するティナ、美作唯の姿をなおも探しながらも会場を後にするガルバニー。
面々は各々の方法で各々別の場所に逃れ、いずれにせよ背後で千早迎賓館は崩れ落ち、千早アーコロジーは大騒ぎになったのである。

こうさくいん「うう〜哀れ稲垣司政官でしゅね〜( >ω<)」 |
| 第10章:: 運命の黒い糸 |
+Date:: Prezent Day
+Lokation:: Tokyo NOVA: Galvany'z Rejidense
隠れ家に帰りながら、ガルバニーは我知らず、行き交う人々の顔に注意を払い、ストリートの路地にうずくまるスクワッターの顔を時折覗き込んでいた。だがそこにあるのは知らない顔ばかり。すべては1年前に終わった話だ。
アパートに戻ると、DAKのセキュリティが来客を告げていた。登録ユーザーは自分だけのはずだった。
ガルバニーは懐から拳銃を抜き、ゆっくりと中へ入った。住処で待ち伏せして寝込みを襲うのは、マフィアでもよく使われる手だ。
薄暗い室内に少女の姿があった。
ストリートにあるガルバニーの隠れ家には、超新星の街の偽りの光しか差し込まない。だが今夜だけは、窓の外の月光が、その少女の姿を照らし出していた。 |
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「逢いたかったの、ガルバニー。久しぶり。本当に、逢いた、かった‥‥」
「どうして今さら――」
「お別れ、言いそびれたから‥‥」
「今さら、俺が許すと思っているのか?」
アイザックは渡世人の顔を見上げた。その瞳は潤んでいた。
「許して、ガルバニー。この体も心も、私のものじゃないから‥‥」
「なぜ言い切るっ!」
だが少女は哀しげに瞳を背け、口を閉ざした。その肩は微かに震えていた。
「いいや。もう行かせはしない」 ガルバニーは少女の両肩を掴んだ。「力ずくでもな」
「ごめんなさい。従わなければならないの。もうガルバニーとは一緒にいられないの‥‥」
だがアイザックはそっとその手を離すと、背を向けた。月光がその肩を照らし、DNA操作で作られた少女は何故だか、とても神々しく見えた。
そして、アイザックは感情のこもらない声で小さく呟いた。
「‥‥マテリアル“無風”、
ちらりと振り返ったアイザックの瞳が金色に輝き、彼女の周りに薄い光が満ちた。アイザックの中から何か別のものが滲み出してくるようだった。そのまま、アパートの部屋の中から姿を消す。
ガルバニーがもっと超常能力に詳しければ、それはバサラやマヤカシのような術者が用いる術に似たものだと分かっただろう。だが今夜は、渡世人の前でただ、淡い月光を残しながら少女の姿は消え去るのみだった。
「あの野郎‥‥」

| 第11章:: 残花有情 |
+Date:: Prezent Day
+Lokation:: Tokyo NOVA: Near Harbor
ティナ・レオンハルトは弱冠19歳にして会社を経営する身であり、部下も多い。そんな部下の女性の一人が――実際にはシンジケートの一員なのだが――N◎VAで待つ円卓騎士団の面々に早速知らせを運んできた。
「レオンハルト様、4つめの聖杯の在り処が!」
4つ目の木の聖杯、千早俊之記念美術館に保管されていた聖杯は、館山港の倉庫街付近からその行方が分からなくなっていた。あの一帯は最近は密輸の取り締まりも厳しくなっている。どうもティナたちが乗ってきたのと同じ、タイタニックII世号に貨物として密かに載せられたらしいのだ。
千早重工としては重要な文化遺産を犯罪結社に奪われるのは阻止したいところであり、一番安全なのは地上の人間の手の届かない軌道上に保管することである。ニューロエイジにおいては地上世界と周回軌道を結ぶ連絡シャトルはあることにはあるが、そう頻繁に使えるものではない。とすると一番確実な手段は豪州キャンベラAXYZにある軌道エレベーター“ユグドラシル”を用いて移送することであり――AXYZはタイタニックII世号の次の寄航先でもあった。
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「おい、見つかったのか?」 |

+Date:: Prezent Day
+Lokation:: Tokyo NOVA: A Hotel: near Entranse
タイタニックII世号がN◎VAを離れる時が近付いていた。予定通り、クリスマスは船上で迎えることになりそうだ。
月代あやめと美作麻耶博士と俺は、ホテルを離れるところだった。メインホールを抜けて無人タクシーでも呼ぼうかとした時。あの男が近付いてきた。
暗色のトレンチコートに帽子、帽子をとると髪はブラウン、目は青。背は俺よりも若干高く、年も少し上だろう。惨憺たる有様となった千早迎賓館のパーティで見た男だ。
災厄前のマフィア映画からそのまま抜け出してきたような男だった。ストリートでは有名な話だった――裏世界にその名も高いあの渡世人には、恩義を持つ者も世界中にいるという。俺は懐に伸ばした手を止め、どうやら知り合いらしいあやめと彼を見守った。
カンツォート・ガルバニーは語った。アイザック・ヴィクトリアが、かつて一時とはいえ家族のように過ごした人物であること。彼女が普通の人間でないことが分かってからも、昨夜別れを告げにきたこと。
「月代、済まない。こんなことを頼む訳にはいかないが‥‥」
紅蓮に身を寄せる渡世人は言った。「俺にはよく分からない。よく分からないが、このままじゃどうにもならないんだ」
月代あやめは吐息を漏らすと、表情を険しくした。ふだんの穏やかな顔から、ある種冷徹な研究者の、医者の仮面をまとう。 |
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即ち災厄の街に伝説だけが残ったカタナ“エクスカリバー”。かつてネバーランドの守護者でありその術の力を認められていた少年バサラ、“無風”。そして革命が起こる前に“銀の守護者”と名を馳せた、N◎VAで五指に入る最高のカブト、ブロッカー。それらの能力を受け継いだアイザックは、今もその名は恐怖をもって語られる伝説のカタナ――エリスと単独で戦っても互角だとさえ予測されていた。
だが、神の領域に踏み込んだ人間の技には限界があった。アイザックの体を構成するひとつひとつの細胞には、医学で言うところのアポトーシスが迫っていたのだ。
「だが‥‥」
専門家の言葉にすがるように続けるガルバニーは、だが悲しげに首を振るあやめの姿に納得した。
「‥‥そうか」
美作麻耶博士の脇に控えた夜色のコートの護衛は、懐の銃に伸ばした手を放し、黙って二人の話を聞いていた。ややあってガルバニーはそちらに向き直り、口を開く。
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「頼みがある。あんたが噂の死神の使いか‥‥話は聞いてるよ」 |
「‥‥」 |
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ボス「さてクライマックス直前のここまで通算18シーン。4人の道はひとつに収束し、運命の天輪は加速する。いよいよ終盤に向かうぞ」 |
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