
〜 ホーリィ†グレイル 〜
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-聖杯への道-
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| 第12章:: 黄金の血と聖杯探求の成就 |
+Date:: 24th, Desember
+Lokation:: NOVA->AXYZ on the see: Upper dekk of "Titanik II"
トーキョーN◎VAを離れること南西200km。赤道直下の新星都市を後にタイタニックII世号は航海を続け、夜の海の上を滑るように進んでいた。 |
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アイザック・ヴィクトリアである。そして、雪の積もる甲板、彼女の側に、何かが放られた。アイザックは振り返ると傘を認め、そしてトレンチコート姿のマフィアの姿を見上げた。
「忘れ物だ」
カンツォート・ガルバニーは言った。2年ほど前のあの夜と同じだった。
「どうして、どうして来たの‥‥」
「どうしたもこうしたもない。俺は自分勝手でね。俺が来たいから来ただけさ。初めて会った時も、こうだったな」
「だって、私は貴方を殺さなきゃならないのに‥‥」
消え入りそうな声で、アイザックは訴える。
「お前はそれでいいのか?」
少女の目に涙が溢れた。
「‥‥本当は、本当は戻りたい‥‥。でも駄目なの。私は貴方を斬らなきゃ‥‥」
「アイザック」 渡世人は煙草を吹かした。
「斬りたければ斬らせてやるさ」

二人の再会を中断させたのは、カンパニー・マンの群れを引き連れた、背の高い女性の登場だった。
「積もる話は済んだかしら? 私の愛しい娘に、余計なことを吹き込まないで欲しいわね」
昂然と胸を張り、美作唯博士は二人を見た。後ろに控えるクグツたちはBIOSか千早か、しかしながら一様にその顔には生気がない。虚ろな目で雪の降る甲板を見つめ、博士の命にただ従うだけだった。
「でも感謝してるわ‥‥たった一年とはいえ、アイザックの面倒を見てくれたのだから。さあアイザック、こちらにいらっしゃい」
「‥‥うん」
最強の遺伝子を備えた少女は、感情のこもらない声で頷いた。
アイザックを招き、恭しく聖杯を包みから出す美作唯博士。その甲板へ、白のロングコートに身を包んだ女性が現れた。
「やっと解析が終わりましたわ、美作博士」
後ろを壇紙で結んだ長く艶やかな黒髪と、ロングコートの裾が微風に揺れた。月代あやめだった。
「今のクローン技術では、脳の完全な複写にはまだ至っていないはず。クローン体として作ったあなたの2番目の体は、アイザックというあの子のデータ、同じ遺伝子情報を元に造っているはずよ。では‥‥神の子の聖杯に捧げるのは、あなたの体でもよいはず」
「面白い推理ね。では――さしずめ、私は世に混沌を撒き散らす悪役というところかしら」
からからと笑い、美作唯博士は余裕の表情で腕を組んだ。
「美作博士」 |
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こうさくいん「うわーい。つ、遂に。巫女服なのでしゅよ!o(≧▽≦)9゛ しかもスダリオン相当!w」 |
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「おいッ! どうして2つも持ってやがるんだ! 俺がこの前奪ってきたやつまで! ‥‥カーライルから盗んだのかッ?」
「そういうことじゃ。返してはくれぬか」
激昂するスキンヘッドから距離を置き、あまり気乗りしない様子でティナ・レオンハルトも姿を現す。
「あらあら‥‥ばれたからには、見逃してもらえなさそうね」
だがそれでも、美作唯博士の余裕の態度は揺るがなかった。虚ろな目をしたカンパニー・マンたちが、何も言わずにその後ろで控えている。
「やめて、姉さん!」
そんな道を違えた姉に向かって、必死に呼びかける妹の姿があった。切り揃えた髪を金に染め、泣きぼくろの位置が左右で違う以外は姉の面影を宿した、美作麻耶である。
「そんなことはやめて、元の私たちに戻りましょう。10年前のわたしと姉さん、10年前の姉妹に‥‥。あの頃の姉さんは、そんなじゃなかったわ‥‥」
だが、クローン体となってもまだ目的のために生き続ける姉は、冷たい目で妹を睨むだけだった。
「‥‥麻耶。いったいお前に何が分かる! わたしはただ日本に戻りたい、そのためにここまで生き延びてきたのよッ!」
息を飲む美作麻耶に、真っ白な袖から伸びた手が差し伸べられる。
「あそこにいるのはもうあなたのお姉さんではありません。下がって」
巫女装束に身を包んだ月代あやめが彼女を制した。朱の巫女はどこに持っていたのか聖別された余市の大弓を構えると、そこに矢をつがえる。
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「まあ、そういうことじゃな。議論の余地はなさそうじゃ。ところで、あのボディガードはどうした」 |
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「なっ!? て、てめぇ、このアマぁ、何をした?」
燃える鶏は自らの肉体の異常に気付いた。燃え盛る炎はそのままに、片膝をつくと喉と頭を押さえながら、甲板の上で悶え苦しみはじめる。
「な、なにを‥‥ぐ、ぐ、ぐぐぐぐうぐ! コケー、コッコッコ!」
それは、粉雪の舞う豪華客船の甲板においてあまりに異様な光景だった。激しく体を痙攣させ、白目を剥いたスキンヘッドの大男は口から涎を垂らし、鳥のような奇妙な声で鳴き始めたのだ。外見こそ人の形を保っているものの、もはや人の理性はどこにもなかった。神の領域に達した天才遺伝子学者は、一体いかなる奇怪な技を用いたのだろうか。
「“円卓の騎士”といえど、さすがにDNAまでは鍛えられなかったようね。せいぜい私の役に立ってもらいましょう!」
かつてチキン・バーンズだったものから木の聖杯を奪うと、美作唯博士は甲板の中央に歩んだ。象牙、真鍮、木の三つの聖杯を正三角形の頂点に置くと、いにしえの
「聖杯の力を見せる時よ‥‥さあ、アイザック」
「‥‥はい」
虚ろな声で、完全なDNAを備えた少女は腕を差し出した。神の領域に踏み込まんとする女性博士は小さなメスを取り出し、鮮やかな手つきでアイザックの指を薄く斬った。赤い血がゆっくりと滴り、血を待つ聖杯の上へと一滴だけ注がれる。完全な血液を捧げられた聖杯は黄金に輝きだした。
「さあ、伝説の復活よ! ニューロエイジの伝説は今、ここから創られるのよ」
三つの聖杯が独りでに自らの器を血で満たしていった。美作博士はそれを容器にすくい上げると、慣れた手つきで医療用アンプルの中へ注ぐ。アンプルはただ立っていただけのカンパニー・マンたちのドラッグ注入デバイスにセットされ、彼らは聖なる血液を浴びた。
クグツたちは目を開いた。その背の演神スロットに嵌め込まれていた、千早重工から盗まれた改造済みの完全人格複写カードが動作を始めた。その中に電子データとして遺伝子情報ごと埋め込まれていたのは、ニューロエイジの伝説――“闇の殺人者”と“狼王”の名をもって知られる恐怖の伝説。
またしても奇怪な光景が広がった。クグツたちの背広が裂け、羽毛を備えた羽根がむくむくと成長しだしたのである。
聖血を血、伝説のDNAを肉とした彼らは聖夜の闇に空中に飛び上がり、奇怪な声で吠えた。それはさながら狂える天使のようであり、歪んだ黙示録のようでもあった。

| 第13章:: 最後の聖戦 |
+Date:: 24th, Desember
+Lokation:: NOVA->AXYZ on the see: Upper dekk of "Titanik II"
闇深まる聖なる夜に、異形の聖戦士を従えた神の域に達せんとする者との戦いが始まった。かつてあやめが見たように美作唯博士の右腕が爆発し、ありえないほど巨大な鉤爪が出現する。アイザックも無表情に剣を抜き、チキン・バーンズも妙な声を上げながら近付いてきた。
「トンプソン!」
召使いから銃を受け取ると、ティナは哀れ本物の鶏と同じになってしまった円卓の騎士目掛けて撃つ。だがチキン・バーンズは前かがみの姿勢から、コケコケと奇怪な動きでそれを避けてしまった。
あやめも大弓を大きく引き絞ると気合一閃、破魔の矢を発止と撃ちこむ。だが颶嵐と呼ばれる非合法のジェネティックウェアを埋め込んでいた唯博士は、人間を大きく超えた反射速度と身体能力で直撃を避けた。
「いいこと。とどめは私が刺すわよ」
DNAを変化させた翼を持った空中の異形の戦士たちには、唯博士の声は聞こえたのか。マテリアル“夜叉”、N◎VAの闇に名を残す伝説と同じ能力をもった彼らはオメガR.E.D.を展開し、高周波ナイフを手に、全力で襲い掛かってきた。影すらも切り裂くその刃が何の容赦もなく朱の巫女を切り裂き、巫女装束が千切れ飛ぶ。
だが――偽りの夜叉の群れが残骸から飛び去った時。そこには朱一色の袴も千早の切れ端もなく、見事な一筆で呪言がしたためられた一枚の式神札があるだけだった。
続いてマテリアル“エリス”、不死の狼王、
だがそれでも狂人エリスの群れを越え、渡世人はかつて共に過ごした少女の元へ迫った。
「全てが狂い出したのは10年前‥‥全てはその時に始まったんだな。13人目の力、受け止めてやる。こい、アイザック!」
だが十三人目の騎士、完璧な遺伝子を備えた少女の声は暗かった。初めてガルバニーが出逢った時から持っていた剣を構え、左手には高周波振動ナイフ。そしてアイザックは呟いた。
「‥‥マテリアル“無風”、マテリアル“ブロッカー”、
完璧な遺伝子の持つ内なる力と光が彼女を包んだ。伝説の“エクスカリバー”が使っていたともいわれる剣、振るう技は“銀の守護者”のもの、その刀身を纏うのは“無風”の操る焔の元力。
「この一撃‥‥この一撃だけはッ!」
ガルバニーは隙を狙い、小型レールガンを彼女の体に突きつけようとする。だが伝説の剣の方が速かった。
鋭く突き出された焔の剣は、夜色の炎を宿した剣に防がれた。同じ色のコートがはためき、ガルバニーの前で光が歪む。元力で姿を消していたアレックスである。“銀の守護者”と同等の苛烈な一撃は何とか寸前で押し止められた。
「?!」
「ガルバニー」 必死に一撃を止め、アレックスは言った。 |
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こうさくいん「もう何がどうしてどうなったのでしゅか〜(@△@)」 |
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「コケコー! 大人の戦イを見セテやるワぁ!」
だが“燃える鶏”は人間と鳥類の発声器官の混ざった口で奇怪な声を上げた。大きく傾いだヒートウィップはティナが立っていた階段の下を叩いた。体勢を崩して慌てる円卓騎士第十二位の元へ超高温の鞭が襲い掛かった。
一方美作唯博士も、右手の巨大な鉤爪であやめに迫る。幸い神経加速も戦闘型サイバーウェアも入れていない相手ではあったが、その鉤爪は人間が直撃を受ければ――人型ウォーカーの装備している白兵武器並みのものであった。
「本気で行くぞ!」
隙を窺っていたガルバニーがアイザックに銃を向け、レールガン用専用特殊弾をばらまく。どんな腕の立つ人間でも倒せる射撃――だが、アイザックは最強のDNAと銀の守護者の技量を備えた最高のカタナだった。
何の表情も浮かべないまま、伝説のエクスカリバーの備えていた剣を右、EDGEナイフを左手にしばし踊らせると、全ての銃弾を正確に弾き返す。剣が一閃すると最後の銃弾は真っ直ぐガルバニーの方向へ跳ね返された。咄嗟にアレックスが遮るも、そのシールドを貫通してガルバニーの体をやすやすと貫く。
「コケー! 嬢チャンは飴でも舐めスベテ焼いてヤル!」 |
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あやめの聖別された巫女装束が美作唯博士の禍禍しい鉤爪から主を守り、そして粉雪の舞う空中からは、数の半減した異形の戦士たちが再び地上の敵に襲い掛かる。
「まだだ」 アレックスは古き魔剣を下げた。“アズュラーンの威令”の名を持つ剣の柄に嵌った石、地の底の光を宿した黒曜石がひととき輝き、そして光を失った。
「では滅べ、地底の都で鍛えられたこの剣によって!」
そのまま切っ先で地に半円を描く。見えない斬撃が地より出で、薄く雪の積もった甲板に降り立った異形の戦士たちを切り裂いた。聖血と人格転写カードによって伝説の力を得た奇怪な戦士たちは、次々と倒れたかに――見えた。
だが、異形の戦士と化したクグツたちはまだ滅びなかった。ふらふらと歩きながら、彼らは一斉に口を開いた。
『まだ‥‥アタシが最強‥‥』
何とも奇怪なことに、それは狼王エリス、5つとも7つも言われる命を持った

こうさくいん「ううーチキン・バーンズも伝説トループもかなりやばかったでしゅね‥‥(((((;゜д゜)))))」 |
異形の戦士たちは滅び、かつてチキン・バーンズだった怪物も倒れた。だが美作唯博士は少しもためらうところなく、アイザックの剣技も少しも衰えない。アイザックはガルバニーの銃弾を全て弾き返し、逆にガルバニーだけが傷ついていた。彼女を前には防戦一方のアレックスが守りに入るも、渡世人の傷は深かった。
「野心におぼれた報いを受けるがよい。女。死ね」
従者からやや旧式のSTW240を受け取ると、ティナは巫女装束のあやめと戦いを繰り広げる唯博士へと銃口を向けた。常人なら倒れる狙撃――だが、クローン体である自らの体にも多数のジェネティック・インプラントを移植していた。
「まだよ‥‥まだよ」
MAD異質筋肉が銃弾を受け止め、“無限”の名で知られる軍事用インプラントが目視で確認できるほどの驚異的な速度で、博士の喉の傷を再生していく。
「ジーク! アサルトを!」
従者が渡した名銃STW330を取ると、ティナはパンサー接続でセレクターを変えた。
「済まぬな。そなたらにも穴を開ける」
傷の深いガルバニー、それを庇おうとするアレックス、両手に剣を構えたアイザック、全てを巻き込んで5.56mm弾の雨が降り注いだ。
効果はあった。二人の男の防弾コートで弾は止まり、アイザックはその剣で銃弾のひとつを弾き返した。だが彼女を包んでいた光、遺伝子を自在に操作できる力が衰えたのである。ふたつのマテリアルは不活性化した。刃をまとう“無風”の焔、“銀の守護者”の鉄壁の守りが少女の中から消えたのである。撃ち返された銃弾はティナと従者のジークの間を抜け、二人は息を飲んだ。
「流石だが、隙ができるな。これで終わりだ」
ガルバニーは少女の元へと迫った。完璧なDNAを備えた少女は左手のナイフを捨て、右手の剣に添えると突き掛かって来る。
渡世人の手の小型レールガンが少女の胸をポイントした。
少女の手の伝説の剣が渡世人の心臓に向かって刺し込まれた。
「ごめんなさい。この刃だけは止めることができないの」
「俺も同じだ。済まないな」
二人の間で時が止まり、そして粉雪の舞う夜に銃声が響いた。
そして――崩れ落ちたのは少女だけだった。
ガルバニーを貫くはずだった刃は、心臓の手前で止まっていたのである。アイザックは剣を取り落とし、そして倒れた。駆け寄るガルバニーに向かい、弱々しく微笑みかける。
「よかった‥‥止められて‥‥」

ミュータントやヒルコと呼ばれる生物並びに器官は適応力に優れ、環境に適応し自らを造り変えることを可能にする。美作唯博士の右腕で暴風と化していた禍禍しい鉤爪は、さらにその大きさを増した。強靭な筋肉がぬめり、硬質の爪がさらに尖る。
「ええい、まだよッ!」
どのような構造になっているのか、鉤爪は博士の腕から大きく伸び、月代あやめの体を掴んだ。五つの爪が巫女装束を捕らえ、ばらばらに切り裂く。
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かに見えた。だが彼女の体が幻であるかのように、鉤爪はただ行き過ぎるだけだったのである。後ろで結んだ黒髪と千早の袖がはらりと揺れ、粉雪が朱の巫女の周りでしばし舞った。淡い月光があやめの姿を照らしていた。古来より日いずる国を護ってきた女神、冥界を司るイザナミが、神の道を奉ずる巫女を助けたのである。 |
「さようなら、博士」
弦が琴の如く鳴り響き、ただ一本の矢が射ち込まれた。天の領域を犯しかけた天才遺伝子学者の右腕を、破魔の矢が深々と貫く。
「美作博士。クローン体では筋張力に問題が生じます。筋肉の第二十五層――研究で‥‥分かっていたはず」
「どうして‥‥! 再生ができないわ!」
化物じみた巨大な鉤爪が動きを止め、崩壊を始めた。そして美作唯博士も甲板に膝をつき、口から一筋の血を吐いた。クローン体を構成する遺伝子と細胞が異常をきたし、壊死を始める。一度目は妖魅の呪眼を持つ千早後方処理課員の不可解な技、二度目は朱の瞳を持つ朱の巫女の放った破魔の矢の技。妖月都市を震撼させた“女王”計画の首謀者、神の領域を侵した遺伝子工学の天才博士は、薄雪積もる甲板の上で絶命した。

ボス「さて『グランドX』以降の環境で遊んでいる方ならば多くが知っているだろうが。大抵が主人のそばに出現するエニグマには有効な攻撃法があるのだ」 |
駆け寄るガルバニーの腕の中で、アイザックの命のともしびは消え果てようとしていた。
「これで、良かったの。これで‥‥」 アイザックは弱々しく微笑みかけた。それは完璧なDNAを備え、最高の剣技を見せた剣士のものではなく、細い生命の炎が燃え尽きようとしている少女のものだった。
「たった1年だったけど、ガルバニーと出逢えて幸せだった。私にとっては、全てだったから‥‥」
「‥‥俺も楽しかった」
その瞳が閉じられ、一筋の涙が頬を伝った。粉雪がその体を包み、彼女の体が崩壊を始めた。
タイタニックII世号の鐘が、静かに翌日を知らせる。後には何も残らなかった。残ったのはエクスカリバーの名を持つ――彼女の携えていた剣だけだった。

医者でもある月代あやめが傷の重いガルバニーを応急処置し、渡世人はなんとか立ち上がった。
「数日、時間をいただけますか」
「ああ、朱の巫女」 彼女の真意に気付かず、ガルバニーは頷いた。
「あんたなら、こいつをうまく弔ってくれるだろう」
巫女装束に身を包んだ月代あやめは、生と死を司るイザナミに守護された朱の巫女は深々と一礼した。彼女は崩壊した二人の死体へと歩んでいった。
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血だらけのトレンチコートを着たままふらふらと歩くと、ガルバニーは上部甲板の中央に歩んだ。共鳴を起こし奇跡を見せた三つの“聖杯”が粉雪を被っていた。 |
「ガルバニー。死神は公平だ。お前は選ばれなかった‥‥そういうことだ、渡世人」
デス・ロードはその肩を軽く叩いた。渡世人は何も答えなかった。少女の死の衝撃が冷めやらないのか、そのまま踵を返す。世界をさまよってきた渡世人は、裏世界にその名も高き男は、聖夜の甲板からとぼとぼと去っていった。

渡世人は闇の中に去り、月代あやめは唯博士たちの死体を包もうとしていた。背中に羽根を生やした異形のクグツたちとあのスキンヘッドの残骸はまだ散らばっている。雪は何時の間にか止んでいた。
決着は早くついたが、厳しい戦いだった‥‥。M○●Nの事件の時よりさらにバイオウェアによる改造を重ねていた美作唯博士のクローン体、完璧なDNAと銀の守護者の剣技を持つあの少女、夜叉とエリスの能力を持った有翼の戦士たち。あのまま普通に戦い続けていれば俺たちは勝てなかったかもしれない。あの渡世人の傷はかなり深かったし、俺の盾にも穴が空いていた。剣の柄の宝石も光を失っている。
俺は戦場となった甲板を見渡した。ドクター麻耶は物陰に隠れて無事だった。そして船べりではあの縦ロールの娘が休んでおり――その足元で従者の青年が、散らかした銃弾と強襲銃を律儀にかき集めていた。
それほどの傷も負わず、なんとか下品な鶏を撃退していたティナ・レオンハルトの元へ、夜色のコートがゆらりと揺れた。
「さて、ミス・レオンハルト」 アレックスは言った。
「さっき妄言がどうとか言っていたが、俺も知りたくないことを知ってしまったよ。君もその、妄言の騎士団の一員だそうだな」
「‥‥フン。なってしまったものは仕方がない」
恥ずかしい秘密を知られ、内心は焦っていたのか、それとも何とも感じていなかったのか。豪奢な金髪を振ると、第十二位の円卓騎士は答えた。
「その妄言の騎士団は、後ろからまとめて銃を撃つのが得意なのかい?」
アレックスは後ろに手をやると防弾コートから何かを取り出し、つまむと目の前に掲げた。それはつぶれた5.56mm弾、ティナが男たちを巻き込んでSTW330を射撃した時のものである。
「そなたたちの腕前を信用したまでよ」
「ほう、そうかい」 デス・ロードは危険な笑みを浮かべた。その手の上で夜色の炎が突如燃え上がり、銃弾が消える。
二人がしばらく不毛な会話を交わしていると、大音響と共に突然辺りが明るくなった。タイタニックII世号の高いマスト、広い上部甲板が闇の中で露になる。午前零時を越えて打ち上げられることになっていた花火が、一斉に夜空を照らし始めたのだった。
「ティナ様、クリスマスですね!」
足元で一生懸命に銃を拾い集めていた侍従のジーク青年が、真昼のように明るくなる空を見ると顔を輝かす。
「しかしなんじゃな」 ティナは青い瞳を細めると言った。「こう、一人で迎える聖夜というのも味気ないものじゃのう」
「‥‥なんの話だ?」
男は煙草に火をつけると、娘を一瞥してから一服し始めた。
| 終章1:: 奇跡の価値は |
+Date:: after 24th, Desember
+Lokation:: Canberra AXYZ: A CFC Laboratory
豪州はキャンディス・フーズ・コーポレーションの本拠地であり、本社のあるウィンダム以外の都市でも強い勢力を誇っている。
キャンベラAXYZにあるそんなCFC研究所のひとつ。既に主任であり博士号も取得している美作麻耶は医学設備の整った研究室を借り切り、アポトーシスを起こした細胞群からなる生命体の残骸の前にいた。
今日の研究室にはタタラがもう一人いた。白と朱の巫女装束ではなく白衣、その手には破魔の大弓ではなく鋭利なメス。月代あやめである。 |
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「それに‥‥研究者が生んだ責任は、研究者である私達が取らないといけないですね。あの、ガルバニーさんの為にも」
美作麻耶は答え、ややあって続けた。「なんだかんだで、私は姉とは別離できずに来ました。これからもきっと、姉のことは忘れられずに生きていくんでしょう。でもいいんです。こうするべきなのですから」
二人は頷きあい、あやめは設備の電源を入れると、口をマスクで覆った。神の領域に踏み込む作業が始まろうとしていた。

| 終章2:: 過ぎしの王、未来の王 |
+Date:: after Christmas
+Lokation:: Canberra AXYZ: Kolonial Park: The Tree of Promise and..
キャンベラAXYZ
その最南端、空へと聳えるユグドラシルを本物の世界樹の如く見上げることのできる森林公園タワーのそば。ここには奇跡的に災厄を生き延びたバオバブの老木があり、有名な待ち合わせ場所となっていた。この見事な“約束の木”の下で二人で同じ願い事をすると、願いが叶うと言われているのだ。
今この老木の前には二人の男女がいた。髪を金に染めた日本人女性と、黒コートのその護衛。
「ここは、私と姉さんの思い出の場所なんです。10年前、ここで同じ願い事をしました。共に立派な研究者になって、いつか日本へ戻ろうと」
美作麻耶博士は目を落とした。
「いつしか二人の願いは少しずつ変わってしまった‥‥二人とも変わってしまったから、きっと願いは叶わなかったんですね‥‥」
「では、もう一度願ったらどうだ? 天に昇った彼女のために」
アレックスが言い、美作麻耶博士は悲しげに微笑んだ。
「ええ、そうします」
姉と道を違えた妹は再び、約束の木の前で手を合わせた。天へと続く世界樹が、その姿を見守っていた。
仕事は終わった。ドクター麻耶と黄金の聖杯レプリカは無事AXYZまで来ることができた。あの後タイタニックII世号は大騒ぎになったが、それに紛れて三つの聖杯はカーライルの連中が持ち去ったらしい。それについては俺の預かり知るところではなかった。あの妄言の騎士団に稀代の天才科学者でもいるなら話は別だが。
アクシズ・コロニアル・パークには森林公園の他に英国風の庭園もあり、懐かしい風景が広がっていた。そばの小さな記念館にブリテンの歴史や女王訪問時の顛末、アーサー王伝説を語ったホログラフがあった。伝説とはいえ、俺たちには馴染み深い物語だ。

永遠の王の幻像の前で膝を折り、ブリテンから来た夜闇の魔法使いは小さく祈った。
「偉大なるアーサー王、過ぎしの王にして未来の王、願わくばアルビオンの地に残った全ての民を護りたまえ。そしていつの日か、御身がアヴァロンの霧の向こうより帰らんことを」
ホログラフを一瞥しアレックスが踵を返そうとしたとき。人の少ない記念館に人影があった。軌道の特権階級かと見紛うばかりの豪華な服、綺麗にカールさせた縦ロールの金髪の娘。お供を従えたティナ・レオンハルトである。青い瞳で面白そうに眺めていたティナは口を開いた。
「ほう、あれだけ言っておいて、そなたも伝説の王は信奉しておると見える。あの聖杯、持っていってしまって良かったのか?」
「ふふ。本物のアーサー王の時代は5世紀の大昔だ。ケルトの民の族長か、ローマの司令官か、モデルはいるだろうが架空の人物だ。E&Bの人間ならみな信じていないよ」
ティナは首を傾げると続けた。
「ならばそなたも伝説はしょせん伝説、妄言に過ぎぬと」
「そうでもない‥‥」 相手が妄言の騎士団員とはいえ信用できる人物だからなのか、アレックスは言った。 |
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「なるほどな」 |
夕闇の迫る庭園に出ようとすると、あの青年が待っていた。薄闇の中に佇むその姿は、N◎VAのBARで会った時と何も変わっていなかった。
「ルイ‥‥来ていたのか」
「やあ。クリスマスには間に合わなかったけど、終わったようだね」
「ああ。ドクター麻耶は無事だ。概ね、依頼は果たせたはずだ」
華人の吸血鬼は壁から背を離して歩き出すと、俺を招いた。
「クリスマスを過ぎて男二人というのも寂しいけど、付き合わないかい」
「‥‥夜光蟲が案内する店はぞっとしないな」
「なに、レディを泣かすようなことはしないつもりさ。誰かさんのね」
俺は何も答えなかった。歩き出す二人の前に、AXYZの夜が広がっていた。

| 終章3:: 魔術師マーリンの夢 |
+Date:: Someday
+Lokation:: N.A.: Las Vegas: Hotel Camelot: The Round Table
“キャメロット”の秘せられた地下室、樫の木の扉の向こうに広がる円卓。そこには隠された円卓騎士団の面子が座していた。
「やれやれ、マーリン殿。確かに、あなたの予言どおりになりましたな」
円卓の一番奥、もっとも尊い王の席に座するアーサー・カーライルが言う。
『さよう。円卓の騎士に相応しくない者が去り、代わりに新しき者が入る。今こそ歓迎しましょうぞ、第十二位騎士ティナ・レオンハルト。ようこそ円卓へ』
青白い光に包まれた帽子の老人が、厳かな声で言う。
「一人しか帰ってこない‥‥そう思っていた訳か? わらわには分からぬ」
ティナ・レオンハルトは未だに目の前の状況がが理解できない様子であった。
「十二番目の席は以前より空いていたのだ。なに、相応しいものが残ったの事。そうだろう、レオンハルト?」
約束の王アーサー・カーライルが、未だ席に着かずに立っているティナに言う。
「伝説どうこうは構わぬ。カーライル、我らがいるのは栄光のためであろう」
ティナの言葉に満足するように、円卓騎士団の主は言った。
「ああ。俺の野望のためだ。俺は“騎士”たちに忠節も礼節も求めない。実力を利用しているだけだ。だから貴公らも俺を利用するがいい。それがカーライル・シンジケートの“円卓の騎士”だ」
円卓騎士の生まれ変わりを自称する妄言の騎士団か、それとも伝説に名をなぞらえただけの組織なのか。
堕ちた大鷲、北米連合はシンジケートを有力な手駒のひとつとして操っているとも、逆にシンジケートが利用しているとも言われる。そしてカーライルの側に控える老人は、果たして徳高き王の側に控えたあの魔術師なのか。災厄の街で最も高名なあの魔術師なのか。それともまどろむ老人が夢に見た妄言なのか。
しかし、約束の王と呼ばれる男はここにおり、その側で青の燐光に包まれた帽子の老人が、釈然としない第十二位の騎士の姿に朗らかに笑い声を上げていたのである。

| 終章4:: きれいな感情 |
+Date:: Someday
+Lokation:: Tokyo NOVA: Galvany'z Rejidense
カンツォート・ガルバニーは、災厄の街トーキョーN◎VAをぶらぶらと歩いていた。
世界を巡り、裏世界に名高い男に恩義ある人々にしばし世話になりながら一宿一飯の旅を続けたこともある渡世人にとっては、この街も他の街と変わらない。灰色に塗り固められた、冷たく無機質なメガ・コンプレックス。情けの入る余地のない、危険なストリート。
「‥‥奴がいなくなってから、料理もしなくなったな」
CFCの広告にふと呟いたガルバニーは、トレンチコートの襟を立てると帰途を急いだ。

アパートに戻ると、DAKのセキュリティが来客を告げていた。登録ユーザーはあの時から増えていないはずだった。
ガルバニーは懐に手をやり、ゆっくりと中へ入った。住処で待ち伏せして寝込みを襲うのは、マフィアでもよく使われる手だ。
キッチンから香ばしい香りが漂ってきた。
ストリートにあるガルバニーの隠れ家には、超新星の街の偽りの光しか差し込まない。だが今日は、誰もいないはずの家の中で、エプロンを掛けた少女が料理を作っていた。黒髪、不思議な赤い瞳、感情が欠落しているようにも、深い憂いを隠しているようにも見える不思議な表情。小柄だが、均整と完璧な調和の取れた体。 |
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「‥‥またそれか」
「だってこれ、ガルバニーが美味しいと言ってくれたから‥‥」
「そんなことは、忘れちまったよ」
少女が作っていたのはビーフシチューだった。ガルバニーと彼女が一緒に暮らしていた頃、よく作った夕食だった。
準備が終わり、二人は食卓についた。あの頃と同じ、会話の少ない夕食が始まった。
「美味しい?」
「ああ」
「‥‥味の方は?」
「ああ」
ガルバニーは少女を見た。「お前はどうだ?」
「私は‥‥」 少女はその瞳に涙を溜めていた。「私は‥‥、ちょっとだけ、しょっぱい」
スプーンを置き、鼻をすすると目をしばたたかせる。
シチューを飲み終わったガルバニーは器を置くと言った。
「‥‥少しは上達したようだな」
その言葉に、アイザック・ヴィクトリアは席を立った。渡世人の体にもたれるように抱きつくと、少女は声を上げて泣き始めた。
And so, the curtain dropped,
under the mysterious legend of Holy Grail .....
-XYZ-

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