
〜 日、堕つる国の旅人 〜
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-日、堕つる時への道-
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| 第8章:: フラッシュフォワード |
+Date:: April 29th, A.D.2003
+Location:: Japan: Tokyo: East Shinjuku, front of ALTA
気が付いたとき、わたしたちは見知らぬ場所に立っていました。クラウスさんと、シェルヴィッツさんと、来恵須さんも無事。でも肝心の昴さんの姿だけが見当たりません。
災厄終結祭の会場はどこにもありませんでした。御門さんも、たくさんの人たちも、空を飛んでいたヘリも、あの狼王も。同じなのは快晴の空だけ――でも、空の色さえも、なんだか少し違うような気がします。
N◎VAとはずいぶん違う街でした。面白い形の車が煙を吐きながら向こうの道路を通り過ぎ、目の前の道路を行き交う人の服装もちょっと違います。それに、歩く人たちがみんな、わたしと同じでIANUSを入れている様子がありません。それに日系人ばかりです。
道路の向こう側の大きな建物では、壁の中腹の大きなスクリーンの中でコメディアンらしきサングラスの人が観客の笑いをとっていました。でも、わたしがいつも見ているtwiLiteのホログラフのスクリーンに比べたら、ずいぶん旧式に見えます。
左手の橋のようなものの上を、大きな音を発てて何かが通り過ぎていきます。あれはリニアに似たような列車なのでしょうか。でも全てが地下に造られたリニアと比べるとずいぶんごちゃごちゃして、列車の上を電線が走っています。その向こうには幾つものビルが遠くに並んでいました‥‥でも、N◎VAに比べるとずいぶん背が低いビルばかりです。
壁にはホログラフではなく紙に描いた広告が並んでいました。しばらく眺めてからようやく、それが映画の宣伝だと分かりました。雑誌の『SLASH!』に出てくるような古めかしいスーパーヒーローが並んでいます。その横の宣伝では男の人の掛けたサングラスの緑の光の中で、クグツの人たちが宙に舞っていました。

「おい、どけどけ!」
呆然と立ち尽くしていた4人は、人込みの中で我に帰った。N◎VAでも、世界中のどのメガプレックスでも見ることのないような不思議な光景だった。
「なんだか、ずいぶん
自分たちがなんとか安全であるのと回りの状況をようやく理解し、来恵須が呟く。
「まァ、街頭DAKでも探して検索してみれば済むことです」
いつの間にか息を吹き返していたクラウスが、煙草をくわえながら歩き出す。だが歩き出そうとした彼は愕然とした。どこにでもあるはずのDAKコンソールが、見渡す限りひとつもない。しばらく行ったところにあったガラスで覆われたスペースの中に、妙な緑色の機械が置いてあるだけだ。
「おかしいですね。この電話、アストラル界を通しても通話ができるのに‥‥全然通じません」
琴音がミリオン・ライト社員に貸与される制式携帯電話を試してみるが、これも使えない。
ノーバディは我知らず、首筋のバーコードに触れていた。彼女だけは何故か、この風景に親近感があったのだ。
4人はしばらく考え、見回し、そしてしばらくして推測から結論に達した。来恵須がマリオネットで見た大昔の資料を覚えており、霊感の強い琴音が通常と異なる時の流れの中にいることを悟ったのだ。もしや、ここは、災厄前の世界ではあるまいか‥‥??
途方に暮れている四人の前に、一団が現れた。特務警察ブラックハウンドともSSS等どこの企業警察とも違う、どうやら警察らしい制服を着た男たち。彼らを率いている男が先頭にいた。くたびれた茶色のコートに茶色のつば付き帽子の、刑事らしき中年の男。 |
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「なんだぁ?? オレは警視庁刑事部、銭丸幸二である! ‥‥そこの二人は外人か? パスポートを見せろ。まさか不法入国者ではあるまいな? ‥‥ふぅ〜む、残りのお前たちもずいぶん妙な格好だな?」
武器は完全に隠していたのが幸いしたものの、脊髄にスロットのある人体制御システムを始め反射神経増強に皮下装甲、様々なサイバーウェアを埋め込んでいるクラウスとノーバディはよく見れば不審である。
ニューロエイジでは珍しかった完全ウェットの琴音と来恵須はその点で助かったが‥‥銭丸幸二氏の注意は主に来恵須に向けられた。珍しいダブルのポニーテールの髪は真珠青、そんな色の髪をした少女は、この時代ではゲームの中ぐらいにしかいなかったのだ。
「こ、これはロケですよロケ! それで、こういう格好をしてるんです」
「‥‥なんだお前、けっこう可愛いじゃないか」
銭丸警部は部下の視線に気付き、咳払いした。「それはともかく、だったらプロデューサーを呼んで来い!」
彼らがスタッフなのだ云々と説明しながら、来恵須が目配せする。クラウスと琴音は頷き、責任者を呼びに行くと偽ってその場から逃げ出した。隠密に優れたSPOONコートの力を借り、ノーバディもいつの間にか人込みの中に姿を消す。
来恵須と銭丸警部はその場でしばらく待った。人が行き過ぎ、カラフルな文字で Studio ALTA と描かれたビル壁面のスクリーンで様々な映像が流れていくが、当然ながら誰も戻ってこない。
「う〜〜む、あの連中、いつになっても来ないじゃないか。お前には署まで来てもらう必要がありそうだな」
来恵須を見下ろすと銭丸警部は煙草に火をつけ、部下に命令をくだした。
「よ〜し、あの外人二人を容疑者として広域指定手配だ。な〜〜に、抵抗したら構わん、腕の2、3本へし折ってやれ」
「警部!」 この世界でも部下が律儀に誤りを訂正する。「腕は、2本しかありませんが‥‥」
「うるさい! さっさと行きやがれってんだ!」
だが明確な犯罪の証拠があるわけでもなく、来恵須は証拠不十分ですぐに解放された。行く当てがあるわけでもなく、半ば迷うように新宿の街をさ迷う。馴染み深い NOVA の文字を看板の中に見つけたこともあったが、どうやら関係ないようだった。看板の下では、ピンク色をした妙な兎が踊っている。
ふと見るとデパートの壁の旧式のスクリーンに、TVらしきものが写っていた。
【‥‥2時のワイドショーはこの後CMすぐ! 埼玉県所沢高校・驚異の霊感少女現わる!】
旧世界の学生服を着た黒髪の娘が映し出された時、来恵須ははっとした。その娘の名は御門忍と紹介されていたのだ。

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こうさくいん「ま、まさかっ! ここはもしかしてもしかして西暦2003年の東京なのでしゅかっ!ヽ(@▽@)ノ」 |
+Date:: April 29th, A.D.2003
+Location:: Japan: Tokyo: Chiyoda City: Metropolitan Police Department HQ
首都東京の平和を護る、ピーポくんが目印の警視庁。千代田区にある本部の大会議室の中では、警官たちが刑事部の銭丸幸二警部の話を真面目な面持ちで聞いていた。
プロジェクターに映し出されているのは、在日米軍から脱走したという凶悪なテロリスト容疑者の顔写真だった。
手配されたのは男女2名、いずれも外国人。縁なしの眼鏡に無精髭をうっすらと生やしたドイツ系青年と、薄い金髪をポニーテールにまとめたアイルランド系の娘。冴えない昼行灯のような男ものんびりした娘もどちらもテロリストにはあまり見えなかったが、テロリストに見えるテロリストなどこの世にいないのだ。
参考人として上げられたのが3人――ブラウンの髪を短めに揃えた女性はどこか中性的で、明らかに兵士や傭兵と同じ種類の雰囲気を漂わせている。どうやらロシア系、ソヴィエト連邦崩壊後のロシアといえばきな臭い話には事欠かない。もう一人の10代の日本人少女は関係なさそうではあったが、真珠青の髪と空色の瞳が怪しい。最後の一人は和服を着た古風な娘で、どう見ても無関係だったが、容疑者であることには変わりない。
「‥‥という訳でだ。公安部からの資料によれば、彼らは在日米軍の刑務所を脱出した凶悪なテロリストである。しかも、軍の武器庫から奪取した、最新の装備を持ち出している可能性があり、非常に危険とのことだ。
発見しても単独で逮捕に当たるのではなく、直ちに連絡を取り指示を待つように。場合によっては機動隊の協力もありえる。よ〜〜し、くれぐれも人命第一で行けよ」
警官たちは緊張したようにプロジェクターの中の容疑者たちを見つめていた。一昨年に起こった合衆国世界貿易センターでの航空テロ以来、世界は東西冷戦に変わる新たな脅威を現実視せざるを得ず、治安のよい部類に入る日本も同じだった。
中東ではイラク戦争が終結に向けて動いているものの、世界は危険に満ちている。“北”の細菌兵器ではないかという噂さえある、世界で猛威を振るい続けるウィルス性肺炎。スカラー波によって世界が滅ぶと主張する、謎の白装束集団の出現。ベテラン捜査官陣の多くはその不吉な姿を、かつて地下鉄サリン事件を起こしたあの教団に重ねていた。
もしもこの容疑者たちが本物のテロリストで東京で事件を起こし、警官の手に負えない事態になったら‥‥オリンピックを機に遂にドイツ製の
「‥‥と。これでいいんでしたっけ? 公安の、あ〜っと‥‥」
説明を終えた銭丸警部は名刺をもらい損ねていた、突然協力を求めてきた男を振り返った。
「土御門、だ」 背広の男は言った。
「ああ、御苦労。なに、そちらの方は奴等の動きを掴んでくれさえすれば良い。確保の方は、我々公安部に任せていただこう。自らの職務だけこなしていただければ結構ですよ、警部どの」
男は慇懃に答えた。制服組の警官とも私服刑事ともキャリア組とも違う、何か異質な雰囲気を纏った男。その暗色のスーツには単なるストライプ以上の、紋様にも見える何かが縫い取られている。公安警察どころかこの世界からさえ浮いているように見えるのは何故だろうか?
「しかし、なんですかな、コイツらは。ずいぶん妙な組合せですが」
銭丸警部は5人の写真を見やった。一度は職務質問をした、秋葉原で売っているゲームに出てきそうな姿の少女といい、本当に妙な組合せである。
「それは、そちらは知る必要のないことだ‥‥」
男は笑った。それは能面のような冷たい微笑みだった。

+Date:: April 29th, A.D.2003
+Location:: Japan: Tokyo: Ginza: 6th street
夜を迎えた銀座の街は黄金週間の序盤とはいえ、いつになく賑わっていた。買い物客やこれから休みに入るサラリーマンが通りに溢れ、高級料亭や宝石店、様々な夜の娯楽の店が客を招き入れる。
その中を、今時珍しい和服を着た娘がとぼとぼと歩いていた。腰まで届く髪も烏の濡れ羽色、大昔の日本では美人の条件と言われたがこれも昨今では珍しい。
高級感のある銀座の街だからか、日本料理店の店員と思われたのか、娘はさほど怪しまれずに歩いていた。怪我をしているのか、片方の足を引きずるようにして歩いている。
娘は顔を上げると辺りの風景を見やり、そしてあてどなくさ迷っていた。超新星の街には遠く及ばぬ街の光が、その上に降り注いでいた。
| 第9章:: スピリチュアル・ピープル |
+Date:: Late afternoon, April 29th, A.D.2003
+Location:: Japan: Tokyo: East Shinjuku, Yoyogi Park
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魔力をもったトワイライト・デッキと、智恵の神グィディオンの護符がわたしを導いてくれました。ばらばらになってしまったけれど、昴さんもきっとこの街のどこかで迷っているに違いありません。 |
【大槻教授も脱帽の霊感少女あらわる!】
ベンチに腰掛けた琴音が新聞を眺めていると、真ん中あたりに写真つきで制服を着た娘が写っている。記事には紛れもなく御門忍と書いてあった。
紙をめくってゆくと最近のニュースが並んでいた。アジア全域で猛威を振るう正体不明のウィルス性肺炎。遥か遠くの国では戦争が起こり、琴音の知る北米連合ではなく、アメリカ合衆国という名が記されていた。
「この時代でも、争いは消えていないのね‥‥」
目を落とした琴音は、挟まっていた号外の紙に気付いた。そこには凶悪度を130%ほどに増したクラウスと180%ほどに増した彼女の似顔絵が、外国人テロ容疑者としてでかでかと載っている。
「‥‥確かにわたしたち、日本人じゃないから正しくはありますけど‥‥」
彼女が顔をひきつらせていると物音がした。新聞から目を上げると、動きやすいパーカーを着た少女が立っている。
「琴音さん、琴音さん。あ、静かにして。驚かしてゴメンなさい」 |
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「この世界の妥当性‥‥アストラルの上の方から探ったんだけど‥‥」
限定的にアカシック・レコードにアクセスできる能力を持つ彼女は目をそらしながら言った。
「ここは紛れもない現実、夢や幻なんかじゃないの。時の流れは違うかもしれないけど、ウェブや星幽界なんかじゃないわ」
「そうですか‥‥。それより見てくださいよ来恵須さん。ひどいんですよこれ!」
マヤカシ同士の会話を交わし、琴音は新聞でテロリストとして手配されている自分の似顔絵を見せた。
「確かに20世紀のアイルランドには

魔法の遊園地の案内役を務める水晶の歌い手が憤慨していると、そこへ散歩をしているのか浮浪者なのか、老人がやってきた。見事な髭を蓄えている。よく見ると占い師のような格好をしていた。
「おやお嬢さん方、どうしたかな」
琴音と来恵須は顔を見合わせた。青い帽子はなかったものの、その老人はある魔術師にそっくりだった。革命が起こるずっと昔から、災厄の街で最強と言われ続けてきたあの魔術師に。
「あの‥‥おじいさん。すごくおかしな質問をしても、いいですか」
「おぅ、構わんよ。なんじゃね」
生命と炎と歌声の女神の加護を受けたクリスタル・シンガーは、意を決して真顔で聞いた。
「あの‥‥おじいさんは、前世を信じますか?」
「おう、勿論じゃとも」 老人は大きく頷くと顔をほころばせた。「わしが、かつてマーリンと呼ばれていた頃はのう‥‥」
「よかった‥‥来恵須さん、この人、本物ですよ!」
琴音は目を輝かせて振り返り、二人は道標となる大賢者の登場を祝いあった。大賢者はいつもの世迷い事を口にし始める。
「うむ‥‥ガンダウルフと呼ばれたこともあったな。おおそうじゃ、あれは中つ国にいた頃の話じゃったのう‥‥」
「あの‥‥ガンダウルフはカードゲームの方じゃ‥‥」
「いやいや、あっちの方が絵が格好いいのじゃよ」
琴音の余計な突っ込みにも、大魔術師は律儀に答えた。
「それで、この世界は紛れもない現実なんでしょ。だったら‥‥この世界であたしたちが行動を起こすことで未来を‥‥真実を変えることはできるの?」
来恵須が尋ね、訝る老人に二人は事情を話した。強力な術の力で時間を超えたこと。仲間と離れ離れになってしまったこと。元の世界へ帰る方法を探し‥‥そして可能であれば、未来を変えたいこと。
「ふむ‥‥随分と難しい質問じゃな。まあ、若いお嬢さん方二人に免じて、ここは助けてやろうかの」
にこにこと調子よく笑いながら老人は占い道具一式を広げ始める。
「こんな人でしたっけ‥‥?」
琴音は小声で来恵須にささやき、ダブルポニテの美少女は首を横に振ると肩を竦めた。

青の魔道師そっくりの老人が言うには、世界が変えたことは変えることはできないが、個人が決めたことは変えられるのだという。そして厳かに瞑想してから、老人は続けた。
「お主らが自らのいた所に帰るためには、3つの条件を揃える必要がある。“時間”、“場所”、そして“能力”じゃ‥‥。この3つが揃わぬ限り、帰ることは叶わぬのじゃ‥‥。ほっほっほ」
二人が困っていると、老人は助け舟を出した。能力を持つのは、強力な時空移送の力を備えた術者、すなわち秋月昴。残るは場所と時間、それは琴音の占いからも求めることができるという。
「な〜に、当たるも八卦、当たらぬも八卦じゃよ。モノは試しとな。ほっほっほ‥‥」
考え込む二人の前で、老人は突然その場を去ると、霞のように消えてしまった。
「あの消え方‥‥やっぱり本物ですね‥‥」
琴音が妙なところに感心し、後には午後の代々木公園の平和な風景が広がっているだけだった。
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こうさくいん「くぅ〜ということで初の現実世界シーンが進んでいくでしゅよっ (っ´▽`)っ」 |
| 第10章:: さまよえる旅人たち |
+Date:: Evening, April 29th, A.D.2003
+Location:: Japan: Tokyo: Iidabashi Station -> Ginza Station
東京の都心部と多摩部の東西を結ぶ中央線は普段から人身事故等の障害やダイヤの遅れが多いことで知られ、今日も上り線の乗客は飯田橋駅で乗換えを余儀なくされていた。
「おい、あの人‥‥」
すれ違った学生らしき一団が、一際目を引く長身の女性に気付きながらも去ってゆく。ブラウンの髪に緑の瞳の東欧系か北欧系かと思わす女性、頬の傷と凛々しく中性的な雰囲気。170を超える長身だったが、スーツと上着越しでも均整の取れた見事な肢体は際立っていた。
ノーバディ・シェルヴィッツである。どうにか電車の乗り方を学んだ彼女は、昴の行方を捜して銀座へ向かおうとしていたのだ。まだ貧弱な来恵須やスレンダーな琴音に比べると、グラマラスな彼女は確かに人目を引く。
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なんとか失敗せずに電車を降りると銀座の街へ。東新宿に比べるとまた雰囲気はやや異なるも様々な人が溢れている。早速彼女の色香に惹かれたのか、いかにも軽薄そうな若者たちが寄ってくると、自分たちの幸運に口笛を吹いた。 |

「まあ、綺麗なヒトの頼みは断れないしなあ」
「そのコ、さっきあの辺にいなかったっけ?」
話を総合すると、『吉野家』というこの時代では有名な店のあたりで、和服を着た昴に似た娘がどこかへ歩いていくのを見たという。怪我をしているのか、地面に血の跡が残っていた。調べた地図によれば、行く先は赤坂というまた別の場所のようだ。
「済まない、先に用事ができた」
ノーバディは無愛想に言うと、黒の上着を翻してすたすたと歩き出した。美人をゲットした幸運から突如見放された若者たちは、後ろで抗議の声を上げると怒りだす。
「おいおい、オレたちと合コンはどうなったんだよ!」
「約束がちげーじゃんかよ!」
追ってきた一団にノーバディがさすがに振り向いた時。さらに長身の白衣の人影が、若者たちを遮るように彼女の前に現れた。 |
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だが、若者は一瞬後に後悔することになった。ニューロエイジ世界の戦場を巡ってきたクラウスの技量とこの世界にはまだ存在しない機械で強化された戦闘技術は、盛り場で暴れる程度の若者では到底敵うものではない。
「脇が甘い。脅しならもっと有効にすることだ‥‥このようにね」
軽くパンチを受け流され、腕を取られるとそのまま捻り上げられて後ろへ。ステップで脇に入り込んだ相手はそのまま腕をへし折るのか、もっと恐ろしい反撃に移るのかと見せかけて‥‥若者の目の前に突如何かの箱をかざした。
「彼女が世話になったようだな」
そのまま箱を放って渡すと肩を叩き、ノーバディと共に去ってゆく。しばらく若者たちは何が起こったのか分からないまま呆然としていたが、やがて箱の中に入っていた見慣れないスニーカーに目を奪われた。
「おぃ、これコンバースの新作じゃねえのか?」
「ちげェよこれ。こんなメーカー見たことねぇぜ!」
「ローラーブレードつきか?」
「でもこれ宙に浮いてるじゃんかよ。マジすげー!」
この世界にはまだ存在していない靴に群がる若者たち。彼らを後に、ノーバディとクラウスはまんまとその場を後にした。
「何か分かった?」
自分が人目を引くらしいことに顔をしかめながら、ノーバディが尋ねる。
「残念だがさっぱりだ。そこの店のシステムはやっと分かったがね」
クラウスは親指で近くの店の看板を示した。『吉野家』という店はあちこちにあるらしい。N◎VAでCFCのチェーン店があちこちにあるのと同じなのだろう。
「ドアを開けて、機械で硬貨を入れて券を買って、それを出すと食事が出てくる仕組みだ」
「‥‥どっちにしろ、このクリスじゃ無理でしょ」
片傷のガンスリンガーは苦笑しながら、N◎VAであればどこでも物が買えるクレッドスティックを懐から出した。

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ボス「電車事故で乗り換えなど現実的な場面が続いたが。さてリアルスペースの飯田橋と言えば神保町も近い学生の街。ジツは今回のPLのどみ殿とみけ殿の行っている某大学もあったのだ( ̄ー ̄)」 |
+Date:: Night, April 29th, A.D.2003
+Location:: Japan: Tokyo Bay: Odaiba Port
夜の東京湾、お台場近く。ひところに比べれば沈静化したものの、夜の道路は暴走族の溜まり場でもある。
通る人も警察のパトロールもいない寂れた道路で、20人余りからなる族の一団が、一人の女性を取り囲んでいた。転がしている間に見つけたのである。この時代の基準で改造し尽くされ、爆音を響かせるバイク、様々な漢字の決め文句の描かれた特攻服。一方の女性は日本人にしては長身だったが、彼らを少しも恐れる様子がない。外套の下のその比較的細身の体に埋め込まれているものは、夜でよく見えなかったのが災いの元だった。
「よぉ、よぉ、ネェちゃんよう。こんな時間に一人で散歩かい? 一人は色々と“危ない”ぜェ〜?」
「そうそう。もしかしたら誰かに襲われちゃったりしてなァー。ひゃ〜はっはっは!」
「いいねぇ、いいねェ!」だが女性は恐れるどころか笑っていた。
「N◎VAじゃあゾクは全部シめちまって、オモチャにすらならないんだ。いいさ、まとめて遊んでやるよォ!」
その言葉に族の面々はどっと笑い出した。これだけの人数を相手に何をするというのだろうか。常識で考えれば確かに狂人に等しい。
「おやおや、ヤる気かい? 地下プロレスで鍛えた俺が相手になっちゃうよォ‥‥」
「それともオレのボクシングが相手をするかァ‥‥」
既にやる気満々の二人がバイクを降りると、一人は軽くウォームアップを、一人は軽くシュッシュッとスパークリングを始める。
「20人相手にやるつもりかよ!」
「腕と足の骨を折ってから、ゆっくりイイことでもしちゃおうかねェ‥‥?」
一人が余興のつもりで、スロットルを開くとバイクに乗ったままウィリーしながら女に突っ込んだ。だが女はよけるどころか、楽しそうに待ち構えている。
鈍い音がした。カウルと燃料タンクの部分が大きく歪んだバイクは、車輪を回転させたまま空中に停止していた。女が片手で止めていたのだ。乗っていた男は遠くに投げ出されると動かなくなっている。
「くすぐったいネェ! 足りないよォ!」
軽々とさらに高く持ち上げ、女は一気にバイクを面々の真ん中に投げ付けた。漏れていた燃料に火花が引火し、爆発して燃え上がる。
休日夜の楽しい爆走を堪能するはずだった暴走族の面々は目を疑った。女は片手でバイクを止めて投げ付けたのだ。そんなことができるのは週刊漫画雑誌のヤンキー漫画の登場人物か、映画の中の殺人サイボーグぐらいなものだ。
「準備運動にすらならないねェ! 退屈なんだヨ!」
雄叫びと共に、女は凍りつく暴走族たちの中に踊りこんだ。指一本で額を弾くだけで、大の男が吹き飛ばされていく。悲鳴と爆音が深夜のお台場にこだました。不幸な暴走族の面々は、その女が“狼王”の名をもつ災いの女神であることを最期まで知らなかった。

| 第11章:: 未来からの告発者 |
+Date:: 20:00, April 29th, A.D.2003
+Lokation:: Japan: Tokyo: Akasaka: front of TBS Center
魔法の占い札と智慧の護符に導かれ、琴音と来恵須は赤坂にやってきていた。時間は午後8時、夜の放送に向けて目の前のTBSビルの中ではまだ明かりが煌々ときらめいている。
「琴音さんの占いによると、御門忍さんがいるのはこの建物なのよね」
「なんだか、マリオネットのビルに似てますね」
琴音は首をかしげると、大きなアンテナを備えた建物を見上げた。
「そりゃ、いつの時代だって放送局のビルは似たようなものよ!」
二人は意を決して中に入った。1階は吹き抜けのロビーのような構造になっており、咎められることなく歩き回ることができた。放送関係者や見学者や記者、様々な人がいる。だが奥には受付もあり、ここから先へは楽には進めそうにない。
制服姿の琴音は振り返ると、動きやすいパーカー姿の連れの少女にささやいた。
「わたしは会社員にも見えますからなんとか大丈夫ですけど、来恵須さんはどう見ても10代ですよね‥‥大丈夫ですか?」
「平気平気! だいじょうぶよ」
確かに来恵須はどちらかいうと見学か、アイドルのオーディションに来たと言った方が似合いそうである。だがどこから入手したのか、彼女は今日のイベント表をさっと取り出した。そのまま受付の方へ向かう。
「あ、すみません‥‥えっと‥‥ここの超常現象の特集をやってる番組の見学に来たんですけど‥‥これが許可証です」
元より出生に大きな秘密を持つ来恵須は、ニューロエイジのWeb世界においてもあるバディから恩恵を受けることができる。彼女専用のサーチシステムは旧時代のプロトコルで動いているこの世界のネットワークにも接続することができ、どうしてか放送局の許可証まで入手することができたのだ。
係員はすぐに納得し、金曜スペシャルの収録が行われるスタジオへの道順まで教えて丁寧に送り出してくれた。
「ユリ・ゲラーに会ったら、サインもらっといてくださいよー!」
まんまと通り過ぎるとエレベーターに乗り、廊下を進む。壁のポスターには番組に出演する予定の人名が記してあった。デビッド・カッパーフィールド、ナポレオンズ、Mr.マリック、二代目引田天功などなど、二人の知らない名前に並び、最後に天才霊感少女という触れ込みで御門忍の名があった。
来恵須は腕にマリオネットの腕章をつけ、琴音も倣ってミリオン・ライトの社章を胸につけた。来恵須が関係者のふりをして堂々と歩いていると、相手が背も低い10代の娘であるにも関わらず誰も怪しまない。それどころかすれ違う人々がみなにこやかに挨拶してくる。
その後ろを控えめについていく琴音は、トーキー魂を発揮するピコ・エクスプレスに感心した。
「でもさすが来恵須さん、その年なのに慣れてますね。ぜんぜん、違和感がないです」
「こういうのは結構何とかなるものだって。おどおどしても怪しまれちゃしね。普通にしていればADあたりだって思ってくれるわよ」
来恵須はダブルのポニーテールを揺らすと振り返った。
「それに琴音さんだったら、アイドルだってぐらい言っても通じるんじゃないかな?」
「もう、何言ってるんですかっ!」
強めの肘鉄が飛んだとき、二人の前には控え室が並んでいた。果たしてその中に、御門忍の名が記された個室がある。二人はうなずきあい、ノックすると中へと入った。

「こんばんは、番組のADですけど‥‥」
来恵須が告げながら、そっと部屋の中へ入る。果たして、鏡台のそばの椅子に、求める相手が座っていた。黒髪に黒い瞳の日本人、整っているがややきつめの印象を受ける目鼻立ち。災厄の街に降り立った19歳の頃よりまだ幾分若い頃だろうか。意志の強そうな目とその身が纏うどこか神秘的な雰囲気は、紛れもなく“過去からの告発者”のものだった。
「誰‥‥?」
知らない顔に緊張する忍。言葉に困った来恵須に代わり、琴音が後を継いだ。魔法の遊園地からやってきた水晶の歌い手は、真面目な顔で言った。
「御門さん‥‥御門忍さんですね。時を超えた世界から、あなたに会いにきました」
常人であればありえない会話。だがしばらく二人を見つめていた御門忍は、納得したようにはっとした。身に流れる血により強力なマヤカシ能力を備えていた彼女は、二人が同じ力の持ち主であることに気付いたのだ。
「よかった、来恵須さん、わたしたち似たもの同士ですよ!」
琴音は振り返ると囁き、間違ってはいない事実を祝いあった。
「‥‥あなたがどうなるかはあたしたちも知っているの。でも、これから起きることは変えられるわ」
来恵須が事情を話し、鍵となる人物を探して欲しいと頼みこむ。忍は精神を集中し、天に祈った。
古来より宮廷に仕えてきた御門一族、強力な異能力者を数多く輩出してきた一門の血が、血が薄まった20世紀においてその血を色濃く受け継いだ一族の末裔に力を与えた。
元の世界に帰るためには、この世界に旅してきた全員の力が必要であり、宿星の指し示す時と場所、そこに全員で集まる必要があること。それは今夜の東京タワー、皆既月食の起こる深夜24時であった。
そして御門忍はその強力な予知能力の片鱗を見せており、未来をたびたび予知していた。恐ろしい災いが起こり、世界が滅んでしまう夢。そして日出ずる国が未来を支配する夢。だが彼女は言った。この時代の日本で生きている人々の全員がそんな世界を望んでいることはなく、ごく一部が何かを計画しているのだと。
会話は唐突に破られた。外がなにやらざわざわと騒がしくなり、見覚えのある声が聞こえてきたのだ。
「警察だ! ここにテロリストが忍び込んだ恐れがあるっ!」
追っ手である。未来からの旅人たちは慌てだした。控え室にドアは入ってきたひとつしかなく、ここから逃げ出すしかない。
「御門さん」 去り際に、琴音は言った。 |
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未来からの旅人たちは控え室を出ると、声の反対方向へ駆け出した。
「いたぞー! なにがロケだっ! よくも騙してくれたなぁぁ!」
早速ピンカートンSSの銭丸幸十郎警部、いや警視庁の銭丸幸二警部が来恵須の姿を見つける。凶悪テロリスト逮捕の使命に燃える警官隊がどやどやと現れた。
来恵須は毅然とした目で行く手の階段と後ろの追っ手を見つめると、一目散に前方に駆け出した。
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「行きましょう。あの階段から屋上に行けるわ。ヘリで逃げるのよ!」 |
真珠青のダブルのポニーテールを揺らして駆けてくる10代の少女、遅れてついてくる白金の髪をポニーテールにしたアイルランド系の娘、凶悪テロリスト容疑者と重要参考人が近づいてくるのを見ると、ヘリの周りにいた人々は仰天して一目散に逃げ出した。二人がまんまと乗り込み、来恵須が計器を適当にいじって適当にレバーをぶっ叩くと、しかもヘリが動き出すではないか。
「さっきも何とかなるって言ったじゃない!」
息を切らせている琴音に片目をつぶると、来恵須は操縦桿を引いた。
マリオネットの少女記者、魔法の遊園地の案内嬢を載せたヘリコプターは、首都東京の夜空に一路舞い上がった。

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こうさくいん「場所は現実味溢れるTBS! 2003年でも来恵須たんの<※バックステージ・パス>や<※隠れバディ>ぱわーが炸裂しているのでしゅよ!(≧▽≦)ノ」 |
| 第12章:: トーキョー・バイ・ナイト |
+Date:: Nite, April 29th, A.D.2003
+Location:: Japan: Tokyo: The Tokyo Tower
ビルの谷間を越え、夜の東京の漆黒の空を一路東京タワーへ。だが幸運はいつまでもは続かず、ヘリコプターはやがて燃料を切らして失速しだした。トーキーの少女が華麗な操縦を得意としているわけでもなく、TBS社の所有するヘリは惜しくも墜落してしまった。
琴音が召喚する秘幽体“ブリジットの娘”ことフラムウェンは女戦士の姿をしているが、魔法の力で浮遊することができる。二人は掴んでもらうとうまいこと脱出し、ヘリはそのまま地面に衝突すると爆発炎上した。やがて警察がやってくるが現場には凶悪テロリストどころか死体の痕跡すらなく、彼らは首をひねるばかりだった。
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その夜の爆発による黒煙はよく目立ち、遠くからでもよく見えた。 |
そして、無人の展望台に照明をつけるとそこには、痛む足を抱えてうずくまる和服の娘がいた。その顔には疲労の色が濃い。
「すまぬ。迷惑をかけたな‥‥」
「なに、アフターフォローまでが仕事です」
クラウスは応急キットを取り出すと昴の脚を診た。流れ弾は脚を掠っただけで貫通しており、そう傷は深くなかった。慣れた手つきで包帯を巻き、和服の裾についた血をできるだけ拭き取る。
そんな二人の元へ現れたのは、黒の上着をはためかせた長身の女性である。ノーバディ・シェルヴィッツがたびたび悪夢の中で見た娘、彼女の本当の記憶の扉を開いた娘が、今ふたたび2003年の世界で目の前にいた。
ノーバディは口を開き、何かを言おうとしたが言葉に詰まった。そのまま口をつぐみ、目を落とす。 |
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やがて来恵須と琴音も展望台に辿り着き、未来からの旅人たちが一堂に会する。時刻は深夜12時前、既に月を黒い影が覆い、皆既月食の時間が近づいてきた。
「しかし、喜んでばかりはいられぬのじゃ。何とかして、元いた時代に戻らねば。じゃが‥‥皆既月食の条件が揃ってはいても、わらわの力ではせいぜい一人が限界なのじゃ‥‥」
昴の表情が翳ったのは、銀月の光が弱まったせいではなかった。「‥‥‥‥命をかけて術を行えば、あるいは‥‥」
「他に方法はないの‥‥?」
ノーバディが思わず一歩踏み出す。確かにマヤカシの術の中には、自らの命を代償に、あるいは奉じる神に差し出して初めて行えるような高度なものも存在する。だが、時を超えて宿星の旅人たちを導いてきた娘の命を、ここで絶やすことはできない。
一行は顔を見合わせた。しばらくしてようやく、琴音が思い出した。時を超えた旅が始まる前、銀色に照らされた軌道の星で、星詠み人から授かったものがあったことを。
「あ、そういえばこれ‥‥」
九方星の印の刻まれた小箱を開くと、そこには紫のびろうどに包まれた、聖水によって清められた塩が入っていた。これも、星詠みのアスタロテの預言通りだったのだろうか。
「これは‥‥?? おお、これさえあれば方陣を描くことができるぞ。陣の力によってわらわの術の力を増し、みなを連れて帰れる。喜べ、ニューロエイジに帰れるのじゃ!」
秋月昴は顔を輝かせると、早速広い床に図形のようなものを描き始めた。

差し込む月光が徐々に弱まる東京タワー展望台、清められた塩が床に謎めいた紋様を描き出す。眼下には東京の夜景が広がり、どこからかサイレンの音が聞こえてきた。警官たちの車や声の音も遠くから聞こえてきたが、この高い塔に到着するまではまだ掛かる――はずだった。
「手伝ってあげましょうか‥‥? ただし、その身を引き裂いて、ですが」
不意に淡い光がきらめき、展望台に客人が姿を現した。細かな紋様のようなものが縫い込まれたダークスーツ、能面のような表情を浮かべた眉目秀麗な男。
「そなた‥‥土御門のものじゃな‥‥」
バサラ能力を用いて空間を超えて姿を現した土御門隆将の姿を見た途端、昴の表情に恐れが浮かんだ。
「あなたたちをニューロエイジに帰らせるわけにはいきません。ここで、野垂れ死んで頂きましょう」
「御免被る」
黒の外套を翻し、ノーバディが一歩前へ出る。その手が懐へと伸ばされた。
「まずは、その希望を断つことにしましょうか。出でよ、“冥王剣”‥‥」
土御門がす、と手を伸ばすと、いつの間にかその先には古風な剣が現れていた。そのまま流れるような動作で一振りし、切っ先を地に突き刺すと一気に唱える。
「“天地身命の神に願い奉る。我、この地、東の京の地脈を制する者なり‥‥臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!!”」
素早く結ばれた九字の印が力となり、烈風となると秋月昴が懸命に描いた方陣を、東京タワー全体を吹き飛ばさんとする。だが特殊弾の掃射の方が早かった。黄泉千五百軍の将校は慌てて力を引き戻し、障壁を張って致命的な弾丸を防ぐ。
片傷のガンスリンガーはすらりと立ち、その右手にはいつのまにかイレイザーガンが握られていた。フルオートの連射でも揺るがず、その腕ははまっすぐ陰陽師に向けられていた。月食を間近に月光は既に淡く弱く、だが彼女の背後には何かの光が宿っていた。
土御門隆将はよろよろと体勢を立て直すと、冥王剣を抜いて身構えた。
「ほう‥‥私の術を防ぐとは。名前だけは聞いておこうか」
女は静かに言った。
「私は誰でもない。

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こうさくいん「ううーやっと昴たんが見つかったのでしゅよ〜(=´∇`=)」 |
| 第13章:: |
+Date:: Late nite, April 29th, A.D.2003
+Location:: Japan: Tokyo: The Tokyo Tower: Prospect Room
時はいよいよ深夜に近付き、目を転ずれば黒い空隙がゆっくりと月を侵蝕してゆく。展望台の床には複雑な方陣と“時の行者”の娘、そして4人の未来からの旅人たち。それに対峙するのはやはり未来から来た陰陽師だった。だが、土御門隆将は落ち着き払い、外に目を向けた。
「‥‥さて、最後の役者も揃ったようだな」
どやどやと物音を響かせながら、銭丸警部を始めとした警官隊の面々が駆け上がってくる。
そして、断続的に起こる東京タワーの揺れが、外壁を何かが攀じ登ってくることを告げていた。周期的に起こる、鉤爪か何かを外壁に突き立てるような音。その次に起こる激しい揺れが、重量のある体をもつ何かが登ってくるのを示していた。そして、その音がどんどんと大きくなる。
展望室のガラスが派手な音を立てて割れた。サイバーの大きな手が窓枠に掛かり、何かが室内へと踊りこんでくる。
「よーう、皆お揃いのようだねェ? 100年ぶりってヤツかい?」
それは、ニューロエイジの災いが人の形を取った存在、2003年の世界まではるばる現れた、最強最悪の“狼王”という名の災いだった。
「会いたかったぜェ! 第3ラウンドと行こうか? もっとも、これで最後だけどねェ!」
エリスは手近の柱に近寄ると、膝をついて剛力に任せて一気に引っ張った。
月の光が全て消え去る皆既月食の夜にも、“狂人”エリスの狂気は消え去ることはなかったのだろうか。力任せに引き抜かれた支柱は彼女の腕の中で剣となり、宙で数度回転した。その柱は展望室の柱だったのかそれともタワー自体の支柱だったのか、東京タワーがまたしても身を震わせると今一度傾いた。
呪術機関の将校は自らの秘幽体を召喚した。鉤爪と爪を備えた“蒼龍”の名を持つ鬼が姿を現すと空を飛んで襲いかかる。古来より日本に棲んでいたアヤカシは自らの爪の力と風を止める主人のバサラ能力、両方を合わせて振るう力を有していた。
ノーバディが再び土御門に素早く銃を向けるが、呪の方が早かった。
「我、天地身命の神に願い奉る。鉄を封じれば即ち、撃つことあたわず。“禁”!」
かざした手の前で進むことを禁じられた銃弾が、ぱらぱらと地に落ちてゆく。
集中力を高めるハーブの小瓶を開くと琴音も自らの秘幽体を召喚し、来恵須はどやどやとやってきた銭丸警部ご一行に目を向けた。 |
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大きく咆哮を上げると、最凶の狼王はクラウスへと襲いかかってきた。手の中の棒を捨てると素手で掴み掛かる。だが高い接近戦能力を誇り、その上サイバーウェアで極限まで強化されたエリスはそれだけでもかなりの強敵だ。 |
強敵と見たノーバディが動いた。右手のイレイザーガンは陰陽師に向けたまま、姿勢を崩さずに左手でホルスターのマシンピストルを抜き撃ち。右手と違う方向へ向けられたMP10は狙いあやまたず、意外に細いエリスの体を撃ち抜く。
だがそれでも
「悪いねェ! アタシの命は一つや二つじゃないのサ!」
黒髪を振り乱し、不死の女神の猛攻が始まる。“帝釈天”をベースに改造が重ねられたサイバーの四肢それぞれが別々にクラウスを狙い、さらに口の中に仕込まれたサイバーウェポンが“博士”の喉元に迫る。
だが、喉笛を一気に食い千切るはずだった狼王の牙は別のものを咥えていた。何時の間にかクラウスの肩に止まっていた白い小鳥が何かを落とし、それを銜えてしまったのだ。
「ペッペッ! なんだいコイツは?!」
カードを咥えていたことに気付くと狼王は吐き出し、クラウスも距離を取った。それは琴音の手の中にあったはずの占い札の一枚、くしゃくしゃになった絵の中では哀れな黄色いひよこくんが首を傾げていた。

“蒼龍”の鬼の持つ水雲の元力を自らの冥王剣に纏わせた土御門が、自ら剣を振るった。秋月昴を狙った水の槍を琴音の秘幽体フラムウェンが鏡の盾で防ぎ、一方抗議の声を上げ続ける来恵須の元にはまたも警部から手錠が飛ぶ。
思考トリガーでモードを変えると、ノーバディは大きな鬼と陰陽師にフルオート射撃を浴びせかけた。装弾数にもかなり余裕のあるイレイザーガンの掃射性能は驚異的であり、それがこの銃が珍重される所以だ。
「我、天地身命の神に願い奉る。銃を禁ずれば即ち、貫くことあたわず。“禁”! ‥‥くッ!」
小口径の特殊弾の雨は、陰陽師の呪を打ち破った。全身に銃弾を浴びた秘幽体の鬼が悲鳴を上げて消滅し、土御門隆将の前の中空で呪札が燃え上がると停止した銃弾と共に消える。
動きを封じられた来恵須は抗議の声を上げ続け、銭丸幸二警部はテロリスト確保の命を部下に下そうとしていた。
そこに立ちはだかったのは琴音である。
「この時代の人に分かるか分からないけれど‥‥この札があなたの運命を示しているわ!」
珍しく強気に、彼女は手の中の占い札の一枚をさっと目の前に示した。「バロールの邪眼の印よ!」 |
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“メフィストテレス”の名の刻まれたメスを振るう青年医師と、素手で戦い続ける狼王の死闘は続いていた。だが流石のクラウスも災いの女神が相手では分が悪かったか、徐々に劣勢に回る。口から咥え煙草が落ち、その表情からいつもの余裕が消えていた。
「幾つも命があるのなら、全部奪ってやるさ」
隙を見たノーバディが、イレイザーガンを向けた。カートリッジに残った十数発の弾丸を、狼王に反撃の間を与えずに全て叩き込む。
「不幸だな不死の女王。今日はあと5回も死ぬわけか!」
改造を重ねたその体へ致死の弾丸を。エリスはたまらず後ずさり、ノーバディは姿勢を崩さずに一瞬でカートリッジを交換した。満載された特殊弾の雨を、そこからさらに不死の女王に叩きつける。
よろよろと後ずさったエリスは破壊された窓のところで倒れた。極限までサイバーアップされた体は200kgを越えており、さらに百発余りにも及ぶ小口径弾を浴びた狼王の体は窓の一部と一緒に宙に投げ出された。
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「100年後を‥‥100年後を覚えているんだねェェェェ!」 |

「まだだ‥‥私の術はこの程度ではないわッ!」
秘幽体を屠られながらも、未来世界の黄泉千五百軍の呪術将校は最後の抵抗を見せた。だがノーバディの弾丸が禁呪の力を打ち破り、青黒く輝きを見せる長いメスを手に、クラウスも斬り掛かる。材質不明、ファウスト博士を誘惑する地獄の大公の名の刻まれた巨大メスは冥王剣と打ち鳴らされ、陰陽師の力を破った。土御門隆将も遂に敗北を認める。
「ええぃ、オレのボーナスを食らえ!」
まだ頑張る銭丸警部は流れ弾をジェラルミンのシールドで防ぐと、さっと懐に手をやった。
一行は身構えた。ニューロエイジのイヌの中にも、手持ちの硬貨やクレッドクリスを武器として投げつける奇妙な技を用いる輩が、ごく稀にいる。旧世界の空想上の怪盗の3代目を追いかけていた某警部も銭投げの達人の子孫だったが、この銭丸警部もまたそうなのだろうか?
くたびれたコートが翻り、警部の手が伸びた。だがそこから硬貨は飛んでこず、何枚もの紙の紙幣が宙に舞っただけだった。紙幣に描かれていた偉人の絵は高いほうなのか安いほうなのか、一行にはさっぱり分からなかった。
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こうさくいん「ううーまたしてもエリスが追っかけてきたでしゅよー((((;゜д゜)))))」 |
戦いは終わった。展望室には銭丸警部の投げた旧世界の札束が舞い、肝心の警部はひっくり返り、さすがの警官隊も人知を超えた目の前の出来事に後ずさっている。土御門が血を流して横たわり、狼王が堕ちていった窓枠にはガラスの破片の山。聖なる塩で描かれた床の方陣も、それを護っていた秋月昴も無事だった。そして、地上250mに位置するこの展望室を照らす月の光は、刻一刻と弱まっている。
地獄の大公の名を刻んだメスを義手の中に仕舞うと、
「彼らはまだ生きてますからね‥‥仕方ない」
白衣の医師は自らの信念に従った。うめく銭丸幸二警部と土御門隆将の傍らに腰を下ろすと、手当てを施す。二人はなんとか息を吹き返した。
座り混んでうめく陰陽師の元へ、詰め寄ってきた人影があった。土御門隆将が目を上げると、手錠の枷からようやく脱出した来恵須が、瞳に怒りの色を滲ませて立っていた。
「あなたも時を超えてやってきたなら、未来に何が起こるか知ってるのでしょう。どうして知っていながらこんなことを?」
「目の前に利用できるものがあれば利用する‥‥それが賢いというものだ」
未来世界の呪術機関将校は、吐き捨てるように言った。
「隠蔽して私利私欲のために利用できるなら、逆にそれを諸外国に知らせることで、日本は平和に利用できたはずよ」
「それは詭弁だ」 陰陽師は顔をゆがめた。「米国、ロシア、欧州‥‥先に誰が見つけたとしても、確実に同じことを考えて実行に移すだろうさ!」
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「‥‥他人を信じることが出来ない‥‥だからあなたたちは、戦争には勝てたけど、平和は勝ち得なかったのよ」 |
だが、哀しげな顔を見せる彼女とは裏腹に、土御門隆将は能面のような顔に歪んだ笑みを浮かべると呪を呟いた。
「フフフ‥‥私も日出ずる国のコマの一つなのだよ。先に‥‥先に待っているぞ‥‥ッ!」
眉目秀麗な男の顔が徐々に薄れていった。未来の光の帝国から来た陰陽師の姿は星幽界に飲み込まれ、西暦2003年の世界から消失した。

銭丸警部は何とか息を吹き返し、ようやくやってきた部下たちが連れて行こうとしていた。そこへ、凶悪テロリスト容疑者のアイルランド系の娘が近付いて来る。警官たちはぎょっとすると一目散に逃げ出してしまった。
琴音のそばにはまだ秘幽体が控えていた。金で装飾された剣と銀の鏡の盾、ダナーンの戦衣の出で立ちのいにしえの女戦士。フラムウェンの姿は主に似ていたが、白金の髪を結んでいない。
淡い光に包まれたそんな姿が近付いてくるのは、確かに西暦2003の俗世界に生きる人間から見れば幽霊でも見るのに等しいかもしれない。
ひっくり返ったままの銭丸幸二警部、西暦2103年でも刑事として活躍している銭丸幸十朗警部の遠い先祖は放っておかれ、エニグマに後ろからコートの背を掴み上げられてうめき声を漏らした。
琴音は別に殴り掛かるわけでもなく、手の中で魔法の占い札の一枚をさっと立てると示した。かつてダナーンの神々と剣を交えた、邪眼のバロールの絵。
「刑事さん、どうしてこれを知ってるの?」
「ゲームに出てくるんだ‥‥『女神転生』という‥‥」
銭丸警部はうめきながら答えた。
「へぇ、そうなのですか」 |
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時刻は深夜零時直前、いよいよ月は暗黒の空隙に完全に呑み込まれ、その幽玄の光を完全に失おうとしていた。秋月昴が床に描いた方陣が淡く輝きだす。
一行は一人、また一人と結界の中へ足を踏み入れた。最後のノーバディは、束の間自分が本来属していた世界の夜景を振り返る。
「そなたは、この世界でロシアに帰ることもできるのじゃぞ」
呪の詠唱に入ろうとしていた秋月昴が、彼女に声を掛ける。
未来からやってきた片傷のガンスリンガーは何も答えなかった。だが彼女のすらりとした足が、結界の外へと向かうこともなかった。
遂に深夜11時59分。月光は消え、眼下の東京を照らす光はそれ自体の光だけとなった。床の方陣の輝きが増し、昴の顔を一層照らし出す。時の行者はその中で立つと、和服の裾をはためかせながら精神を集中した。
「天に十六、地に八方。我、時の糸を紡ぎ、空の衣を纏う者なり。我らの魂と肉を現世へと誘い給え‥‥!」
傾いた東京タワーの展望台に、束の間強い光が満ちた。


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