the Centaur Concerto - 人馬協奏曲

〜 人馬協奏曲 〜

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-春への道-



第3章:: 御者座のカンパニー


 サヴェーリー・アンドレーヴィッチ・ヴォルコフ専務は42歳、調査によれば妻は死去。娘と息子が存在。カペラ・カンパニーは軌道(ハイランド)の企業だが、専務は元を辿ればロシア連邦出身。しかも幾つかある手段を用いて軌道に登るほどの財産はなかったという。軌道に上がる際にどこかの会社の援助を受けていたという噂に、アンジェリカ・李のトーキーとしての勘が何かを告げていた。

Lumiere

 アンジェリカはウォーカーショー会場を出て近くにある、木更タタラ街の店にいた。目の前では馴染みの情報屋のひとり、27になる彼女より10歳以上も年上の男が、昼から一杯やりながら煙草を吹かしていた。ずいぶんと短いシケモクである。
「‥‥あそこは、軌道領域専用のヴィークル製造じゃけっこう有名な会社だよ。宇宙コロニーの中でも輸送やら修理やら、いろいろと車の出番はあるってワケさ」
「でも、重力の問題はないの? いきなり地上のウォーカーに乗り出すなんて‥‥」
 白いコートを着たままのアンジェリカは酒は飲んでいなかった。
「いろいろと工夫したんだろうねえ。だが軌道じゃ有名だが、今までウォーカーは全然作ってなかったはずだ」
「まさか、災厄前のアニメじゃないことですしね‥‥」
 華人女性のトーキーが円卓騎士団のにやけた死神と同じ趣味を持っていたのかは、謎である。
「どこでもやってることだが、カペラ・カンパニーも裏じゃエンジニアをあちこちからごっそり引き抜いているって噂だぜ。本格的な市場参入の前触れかもしれんな。‥‥あいよ、ごっそー」
 情報屋は帽子に手を掛けて会釈した。
「あっ、ここの払いは私が」
 アンジェリカは立ち上がると、財布を取り出した。

Double Bind



第4章:: その騎士の名は (リュミエール)


 ティナ=レオンハルトはお付きのジークを引き連れると、今度はカペラ・カンパニーのブースへと立ち寄っていた。戦いを終えた“リュミエール”が中央に展示され、社員たちが客にプロモーションのデータを配ったりデモを行ったりと走り廻っている。
 ジークに命じて名刺を出させると、サヴェーリー・アンドレーヴィッチ・ヴォルコフ専務がやってきた。白髪と銀の混じった金髪にロシア人特有の白い肌、品のよいスーツを着たいかにも壮年の紳士といった男である。
「こちらの取締役様も“リュミエール”に興味がおありのようで‥‥先ほども、あちらのブースへ行かれていたようですな。倉庫は立ち入り禁止でしたが」
 ヴォルコフ専務は蒼い目で、弱冠20歳、金髪縦ロールのカーライル・マネーコンサルタント取締役を眺めた。
「細かいことを言うな‥‥さてそれより、噂は聞いているぞ。何でも、あのクローデット工房の名機ジークフリートを一瞬で打ち負かしたそうではないか」
 パイロットのリリーが聞いたら憤慨しそうなことを言い、女主人の後ろでは侍従ジークが困ったような愛想笑いを浮かべる。
「それは光栄です」
「いわく、地上車両における10年ぶりの革命じゃそうだからのう‥‥ところで発注先は決まっておるのか?」
「いずれ量産化の計画は実行するつもりです」
 その資産と同じぐらい大きな態度でティナは人馬型の機体を眺め、忠実にして有能なる部下に目で合図した。
「ジーク」
「はっ」
 手付け金のクレッドクリスにおまけの菓子折りまでつけて恭しく出されると、ヴォルコフ専務は折れた。特別な顧客用の詳細なカタログが手渡され、部下たちが詳しい説明をする。商談が既にまとまっているのはロシアのウィスナー・カンパニー、ST☆Rのボストーク・カンパニーなど数社だった。
 来客用のソファーにふんぞり返るとティナは何もせず、忠実なるジークが全てメモを取って話を聞いた。

Lumiere

 元々4輪車や無限軌道車では踏破できない複雑な地形を克服した高火力のプラットフォーム。これが軌道戦車のそもそもの思想であり、大抵のウォーカーはクモのような多脚型、あるいは高精度のバランサーを内蔵した上での2脚型を取るのが通例である。人の形をなぞった機械にはロマンがあるのか、設計の定石を外れたような機体が製造されることも時にはあったが、量産される機体にはおおむね守られるウォーカーの常識というものがあった。
 だが、この“リュミエール”は異常な程の高性能を誇りつつも、機体自体がウォーカーの常識から外れているのである。馬のような4脚の下半身に、二本の腕を持つ人間型の上半身が前部に来る珍しい 人馬(ケンタウロス) 型。
大型の尻尾がバランサーの役目を果たしているとはいえ、機体全体のバランスは明らかに前方に傾いている。不安定な均衡を常時トロン制御のラン・バイ・ワイヤで保ちつつ稼動させるのは、優美な機体とはいえ趣味が入りすぎとも言えるものであった。



第5章:: マインドレンデルの決意


 ガイからの助けを求めるメールを受け取った直後にアーベルは返信したが、返事はなかった。彼女の行方は知れず、アーベルは必至に手掛かりを探した。現実世界での住所を割り出し、その周辺での情報を探す。彼女はどうやらブラックスーツの男たちに拉致されたらしい。
 災厄の街はありきたりの色のスーツであり、同時に暗に別の意味も持つ色。彼女をさらったのは稲垣機関でも最近活動が報告されている天津機関でもなく、お馴染み千早重工のさる処理課でもテラウェアのさる特殊工作員チームでもなかった。裏社会の噂によるとそれはバーブチカの連中だというのだ。
 “蝶”(バーブチカ)。カムイST☆Rの混乱に乗じロシアから上陸、カーライルが見過ごせないほどにその勢力を強めたロシアン・マフィアである。“花”(ツヴィトーク)と呼ばれる子供の殺し屋集団を抱えた彼らは、ニューロエイジ世界でもその動向に注意を払われる新興勢力のひとつとなっていた。

бабочка

 決意したアーベルは親戚――自分と父の中に流れる認めたくない血の源流であるレオンハルト家の親戚に連絡を入れた。
『なんじゃ、忙しいのだ』
 金髪縦ロールの女取締役はそっけなく電話に出た。
「忙しいのは秘書の方でしょう」
 アーベルも冷たさを含ませて応える。画面の後ろの方に、確かに忙しい青年ジークも写っていた。
『相変わらず口の減らん男じゃのう』
「ひょっとしたら、あなたに協力できるかもしれないんです。――ロシアの“蝶”が、動いているようですから」
『で、そなたが標本でも作ってくれるのか?』
「‥‥僕は、人を傷つけるのは嫌い‥‥ですから」
 自らに流れる殺しの系譜の血を否定し、ナイト・ワーデンの元で別の生き方を見つけるべく努力してきた自分に言い聞かせるように、アーベルは呟いた。嘲るように笑うティナ=レオンハルトに、友人が行方不明になったこと、そしてその友人の本当の名を話す。
『それが蝶だというのか?』
「‥‥僕はカブトです。護ってと頼まれた人を護りたい。――だから、協力をしてほしい」
 迷いを絶ち斬るように言うと、再度嘲笑ったティナはそれでも了承した。
『但し見返りはもらうぞ。それがわらわの信条だ』

Suicide Solution

 Webネーム“ガイ”であり、初めてアーベルと会った日にも本名を明かさなかった銀髪の娘の本当の名は、ガブレーラ・サヴェリーナ・ヴォルコワ。ロシア人にして軌道人だった。電脳及び機動戦車の操縦には抜群の適性を見せつつも、身体能力は弱い。アーベルと電脳空間上で知り合ったのも説明がついた。
 ロシア式の姓名には法則がある。父親の名が変化してミドルネームとなるのだ。ガブレーラ・サヴェリーナ・ヴォルコワ、サヴェーリーの娘ガブレーラ。すなわちカペラ・カンパニー専務サヴェーリー・アンドレーヴィッチ・ヴォルコフの娘。
 聖告天使、慈悲と復活と復讐の大天使ガブリエルのロシア名を持つあのおとなしそうな娘が、人馬型最新鋭ウォーカー“リュミエール”のパイロットだったのだ。


ボス「さて裏に何かありそうだったサヴェーリー・アンドレヴィッチ・ヴォルコフ専務だったが。星の都のバーブチカも活動していることが分かった。魔王がたくさん出てきてタイヘンなことになったカムイST☆Rに、“蝶”の名を持つマフィアが新たな勢力として出現していることはリアルスペースの皆様もご存知であろう」
こうさくいん「ううーガブレーラたんはどうなっちゃうのでしゅかー。ていうかお父さんは一体何者なのでしゅか〜〜(>ω<)」
ボス「ちなみに綴りは бабочка で、日本語にすると『バーバチカ』の方がより近いようだ。『バーブチカ』『バーブシカ』とすると бабушка で、これは“おばあさん”の意味なのだそうな」
こうさくいんロシアのおばあさんマフィアでしゅかー。それはちょっとイクナイでしゅよ〜(笑)」
ボス「まあこの辺は外国語の難しいところだな。“花”の цветок は日本語の発音でも『ツヴィトーク』で適切なようだ。“花”の構成員は大人の目を欺く少年少女の姿をした殺し屋たちだ。これからのDの時代ではキャストやゲストとして見ることもあるだろう。元よりN◎VA世界には若いキャラクターが異様に多いのだが‥‥これでいっそう‥‥ここにも萌え向上委員会の魔の手が‥‥ヾ(;゚;Д;゚;)ノ゙ 」
こうさくいん「何をいうのでしゅかー。よい仕事はすべて堅実な仕事の積み重ねなのでしゅよー。o(≧へ≦)9゛ 偽装セット相当のアマティのバイオリンケースに銃を仕込んで!(☆w☆)  これは少女の殺し屋と担当官でチームを組んで社会福祉公社ごっこをせよという天のお告 ;y=ー( ゚д゚)・∵. キシュキシュキシュ」
ボス「∴( ’Д`);y=ー そ、そ、そういう流行りものネタはサイレンサー付きのCz75で射撃じゃぁ。だいたいイタリアではなくロシアではないか(笑) さてウォーカーショー会場に戻って話は進んでいくぞよぞよ」



第6章:: 二機の騎士(シェヴァーリエ)


 ところ戻り、トーキョー・ウォーカーショー会場。相変わらず人気のカペラ・カンパニーのブースでは、純白の人馬騎士“リュミエール”を見上げている少女がいた。ウォーカーショーの会場には似合わない、そしてパイロットにはさらに似合わない、流れるような銀髪に紫の瞳の娘。少しは怒りも収まったらしいリリー・クローデットである。
「改めて見れば、なかなかに美しい機体だな」
 純白の騎士(シェヴァーリエ)は何も言わずに銀の百合のリリーを見下ろしていた。神話にでも出てきそうな優美なシルエット、鎧のように曲線を描いた装甲。無骨な機体の多いウォーカーの中で異彩を放つ“リュミエール”は、リリーの愛機、クローデット工房が作り上げた世界にただひとつの機体である“ジークフリート”と同種の美しさを備えていた。

 “リュミエール”が際立ったデザインをしているのには訳があった。小人数の兵士や少数の車両で行われる電撃作戦は別としても、ウォーカーが何台、あるいは十台も投入されるような大規模の作戦行動では、戦場全体に与える心理効果や士気高揚が重要な鍵となる。敵の士気をくじくような異様な形をした新型兵器、不沈を印象づける巨大で高火力の重量級ウォーカー、一目で分かるような指揮車両など、そうした目的で建造される車両もあった。
 人口が激減したニューロエイジ世界では戦術、戦略級の大規模な戦闘は珍しかったが、そうした戦いにおいて部隊の旗印として立つべきウォーカーも存在した。そして一際目立つ外観をした人馬騎士“リュミエール”もまた――この目的を最初から狙ってデザインされていたのである。

Lumiere

 そこへ白っぽいコートを靡かせ、長身の女性がすたすたと歩いて来た。アンジェリカ・李である。
「やあ、アンジェリカ。さっきはすまぬ。わたしも気が立っていたようだ」
「ええ、私も御免なさい。試合直後なのに言いすぎたわ」
 普段は素直なリリー・クローデットは、友人の姿を認めるとにこにこと声を掛けた。二人はしばし、勇壮なる(リュミエール)の騎士の巨体を見上げた。
「ねえ、クローデット、このウォーカーはどうしてこんな変わった形をしているのかしら?」
「うん、それなんだけど‥‥」
 リリーは、この機体がウォーカー部隊の旗印、勝利の(リュミエール)をもたらすべくして造られたことを話した。
「だから、もしかしたらカペラ・カンパニーには、特別なデザイナーがいたのかもしれないな」
 アンジェリカはポケットロンを取り出して画像を呼び出すと、少しかがんで少女の頭に顔を寄せた。
「――クローデット。このことで話があるの」
 辺りを見渡してから調査の結果判明した顔写真、ヴォルコフ専務の娘ガブレーラの写真を見せる。
「これ‥‥似ているな‥‥“ブルーメール”に」
 紫水晶の如き瞳を煌かせて困惑の色を浮かべ、リリーは言った。サイドの毛を肩まで伸ばした銀髪に蒼い瞳、ロシア人特有の白い肌の大人しそうな少女。完全没入(イントロン)方式でワイヤードし、ウォーカーを駆っている時の“ブルーメール”の顔写真とは感じがだいぶ異なるが、確かに似ている。
「実は、この話で不穏な噂があるのよ」
 穏やかな緑の瞳を伏せ、AXYZ生まれの女性トーキーは続きを話した。
「不穏な噂だって?!」
 銀の百合のリリーは普段と変わらない大きさの声で答え、びっくりしたアンジェリカは慌てて辺りを見渡した。誰にも聞こえていないことを確かめると続きを話す。サヴェーリー・アンドレーヴィッチ・ヴォルコフ氏が軌道の高みへと昇る際、どこかの勢力から援助を受けていたらしいということ。カペラ・カンパニーもどうやら、星の都のロシアン・マフィア“バーブチカ”と関わっているらしいこと。
「“バーブチカ”?! そうなのか‥‥」
 またしても銀の百合のリリーは普段と変わらない声で答え、アンジェリカは苦笑すると少女を見つめた。

リリー・クローデット

「あの“ブルーメール”、敵だと思っていたが、何か事情があるようだな。なんにせよ、わたしとジークは正々堂々と戦いたいものだ」
 リリーは考え込むように言った。
「でも、向こうはマフィアよ。何をしてくるか、分からないわ」
 アンジェリカが心配そうに両腕を組む。
 だが、その素材だけが人と異なる心に新たな闘志と勇気を燃やしたのか、アヤカシの一族の娘はぐっと拳を握ると言うのだった。
「だったら今度こそ、ジークの本当の力を見せてやるよ」

Siegfired Ameliore

ボス「ちなみに余談だがRLのなま元帥によると。本作に出てくるこのケンタウロス型ウォーカー“リュミエール”のイメージソースは『機神幻想ルーンマスカー』という古い漫画に出てくるスレイプニルという機体だそうな。人様のサイトなのでちとアレだが ここ に写真があるぞよ( ´ー`)」
こうさくいん「ををエレガントな!(☆w☆) でもー。そう聞いて分かったのは面々の中でリリーちゃんの中の人だけだったのでしゅよ〜( ̄ー ̄)」
ボス「ここに世代の差が‥‥いやいやいやそれは《完全偽装》して、ジークフリートのイメージソースもダン●インだったので両機とも実は近いコズムに住んでいる似た感じの機体だったのだな」
こうさくいん「ルーンマスカーの方にもジークフリートがいるでしゅね〜ヽ(´ー`)ノ」



第7章:: カーライル・ホテル


 どこの都市にも裏社会の息の掛かった店や施設の類はあり、様々な活動の隠れ蓑や構成員の仕事の種に使われていることも多い。
 カーライル・シンジケートが使っているそうした施設のひとつ、N◎VAのとある高級ホテルにティナ=レオンハルトと忠実なる下僕は部屋を取っていた。行き交う従業員たちはみなシンジケートの構成員、下の1階で衝動を必死に堪えながらホテルマン稼業に耐え忍んでいるのはみなマーダー・インクの面々といったあんばいである。
 最高級スイートをフロアごとという訳にはいかなかったが、部屋はかなり豪勢だった。大理石と金メッキの広いバスルームで風呂を浴びたティナは高そうなバスローブを羽織ると部屋でくつろぎ、手を伸ばすと忠実なる従者ジークに爪を研がせていた。
 チャイムが来客を告げ、ジークが調べるとドアの外に立っていたのはアーベル青年だった。高級ホテルにはいまいちそぐわない普段のラフな格好である。
「通しますか、それとも処分しますか?」
「通せ」
 レオンハルト家の遠縁に当たる青年は豪勢な部屋に通され、バスローブ一枚でくつろぐ女主人の前でソファの隅に座った。薄いブルマンのコーヒーを出される。

 殺しの系譜の血を引く親戚同士は行方不明の娘の回りを取り巻く事実について語り合った。ガブレーラの父、サヴェーリー・アンドレーヴィッチ・ヴォルコフはやはり、“バーブチカ”の名誉ある男と考えて間違いなかった。娘のガブレーラの他に、サヴェーリーには息子が一人いた。イワン・サヴェーリーヴィチ・ヴォルコフ。眼鏡の優男風のまだ二十歳前の若者。
 だが実の娘であるガブレーラと違い、イワンはロシアの凍れるストリートで拾われた養子なのだという。仇名は“メドベージ”。凍れる北の大地の言葉では“蜜を食らうもの”――とでもいった意味だが、何を表しているのか分からない。

  ティナ・レオンハルト - 第12位の円卓騎士

 コーヒーを飲み終わったらもう退散するといった感じで、アーベルは落ち着かなげにしていた。
「僕は、あまりここにいたくないんですよ」
 目の前の相手の最も効率的な倒し方が突如閃いたり、相手の体の死線が見えてしまう自覚症状に苦しんでいたアーベルは本能的に悟っていたのだ。目の前の女もお付きの青年も死の領域に近しいこと、ホテルの従業員たちも殺気を完全には抑えきれずにいることを。
「くく、親類だというのに嫌われたものじゃの?」
 爪を研がせながら、ティナ=レオンハルトはくつくつと笑った。

Carlyre Money Consultant

「ティナ=レオンハルト。この部屋にいるのであろう?」
 明るい声が部屋の外から響き、面々は振り返った。真鍮の取っ手もきれいに磨かれた大扉がノックされている。
「入ってよいのなら、入るぞ!」
 悠然と入ってきたのは、パイロットスーツではなく上等の服を着たリリー・クローデットだった。元から容貌が特徴的なこともあって、いっそうどこかのお嬢様に見える。階下には仕事がなくて暇なマーダー・インクの面々も沢山いたはずなのだが、どこのご令嬢かと通してしまったのだろうか。
「また会ったな、クローデット」
「ああ。そなたの付き人に用があって来たのだ。えぇと‥‥どこかな」
 バスローブ姿のままティナは新たな客を出迎え、リリーはきょろきょろと部屋を見回した。
 主人の爪を研ぐのに懸命だったのとホテルマンの制服で分かってもらえなかった不幸な青年ジークは慌てて立ち上がり、銀髪の娘に向き直った。
「ああ、オレっすけど」
「なんだ、ホテルの従業員の人かと思ったぞ」
 銀の百合のリリーは歩いてくるとだいぶ身長差のある青年を見上げた。
「そなたも、名前をジークというのだったな。先ほどはすまなかった。ここに詫びよう。これも偶然だな。わたしのジークフリートとそなたなら、よい友達になれそうだ」

「ああ‥‥、オレもすまなかったッス」
 その正体を誰にも知られていない人形の一族の娘は、晴れやかに笑うと手を差し出した。
「わたしの名はリリー。リリー・クローデットだ」
 主に忠実なジークは主人の手を取ったままだったのでおろおろしていたが、ティナが手をつんと離した。無事にジークはリリーの白い手と握手することができた。
「ああ‥‥ども」
 かくして、主にも恵まれず不幸な星の元を歩むジーク青年と同名のウォーカー、そしてそれを駆る少女の間には、友誼が結ばれることになったのである。

リリー・クローデット

Siegfired Ameliore

 リリーはスカートの裾をとってソファーにさっと座った。もう一方の端には長身を小さくして、アーベル青年が居心地悪げにちょこんと座っている。
「や、やあ」
「アーベルじゃないか。この女から借りるほど、そんなにお金に困っているのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど‥‥」
 愛想笑いを浮かべ、アーベルはコーヒーカップを置いた。人間の生気の集中点や一撃で殺せる死線がなんとなく見えてしまう能力をアーベルは備えていたが、知り合いであるどこか神秘的なこの娘には、その現象が一切起こらなかったのである。
 面々は件の家族の写真を見せ合い、アーベルはその銀髪の娘が知り合いであり、行方不明となっていることを語った。イントロンしてウォーカー操縦中の“ブルーメール”、サヴェーリーの娘ガブレーラの普段の姿の顔写真は表情に差があるものの、明らかに同一人物のものであった。“バーブチカ”にさらわれたとしたら、彼女はどうなったのだろうか。そして“リュミエール”のコクピットに搭乗する際には、何か特別なことがあるのだろうか。
 ショート目の銀髪のサイドを伸ばしている写真の中のガブレーラと異なり、完全にストレートの銀髪を長く伸ばしているリリーはしばらく神妙な顔でライバルの写真を眺めていたが、やがて真顔で言った。
「ねえアーベル。もしかしてこの人、アーベルの特別な人なのかな」
 コーヒーカップを口につけた所だったアーベルは思い切り噴き出した。
「違います、違いますよっ! ‥‥知り合いって、言ったじゃないですか」
 口をぬぐい、ウォーカーパイロットである“ブルーメール”の写真に視線を落とす。
「‥‥もっとも、そんなに知ってるわけじゃ、なかったみたいですけど‥‥」
 部屋を汚してしまった親戚にティナが無感動な視線を向け、お付きのジークがおろおろとナプキンに手を伸ばす。
 銀の百合のリリーはそんな様子には一切構わず、深刻そうな顔で写真を見つめた。
「もしそうなら、わたしはとても失礼なことをしたことになるな‥‥」


ボス「さてイワンのハンドル“メドベージ”は медведь と綴る。“蜜を食らうもの”とはロシアの大地に棲むあるものを指しているのだが、いずれ分かろう」
こうさくいん「ううーなんなのでしゅかー。早くガブレーラたんを助けないといけないのでしゅよー。アーベルのピュアな愛の力で救い出すのでしゅよ〜(*/∇\*)」
ボス「Σ( ̄□ ̄lll) ええい本人がコーヒーを噴き出すぐらい否定しているではないかぁぁ。ラヴ疑惑はリリーアイだけなのだぁ。
 さて今回はロシアの人名が個人の名前+父称+家族の名前(姓)になっているのを踏まえていたりと、RLの元帥殿は本物のロシアのことを事前にリサーチしている。こういうのは雰囲気が出たりもするのでよいことだな」
こうさくいん「よっさすが元帥! そういえばロシアといえば。真冬の大地が緋く染まった懐かしの『マローズを越えるとき』を思い出すでしゅね〜(ぽわぽわ〜ん)
ボス「ジツはマローズも本当は真冬のことではなくて、気温が零下数十度に下がる冬の中の一時期の厳寒期のことを指しているのだ」
こうさくいんマローズじいさんという寒さのおじいさんがー。サンタクロース相当らしいでしゅね〜(笑)」
ボス「財団版のプレイレポではキャストの行動ではなくゲストや背景世界に関わる部分では、雰囲気を増すために描写を適宜補完したりすることもある。それが元シナリオにいつの間にかこっそりフィードバックされていることもあるのだが。(笑) あの時はリサーチする時間が足りなかったので、嘘ロシアのままになってしまったと総帥も悔やんでいるそうな」
こうさくいん「そして今ロシアよりの民がふっかちゅでしゅねー。ナノマシンで叫ぶクロノス・ディアは偽者、“本物の”クロノスは今や浄化派のオフィシャルゲストでしゅよ〜(;゚∀゚)=3」
ボス「んんんー(笑) マーダー・インクや円卓騎士団を備えてN◎VA侵攻へ乗り出すカーライル・シンジケートは何となくはっちゃけ集団というイメージがあるが。ロシアの民やバーブチカは凍れる祖国復興の悲願のために立ち上がるというだけで格好がつくからな。敵役としてもイメージが立てやすかろう (´ー`)」
こうさくいん「クライマックスももうすぐでしゅ!」



第8章:: 蜜を食らうもの(メドベージ)


 電気をつけていない部屋の中はほの暗く、窓の外には夕闇が広がっていた。豪華な物書き机のそばには革張りの椅子が引かれ、部屋の中央にソファがしつらえてある。机の上にはミニチュアのウォーカー模型と、様々な資料が散らばっていた。
 父は椅子に腰を下ろすと、机の上で考え込むように両肘を置き手を組んだ。ロシア人特有の白い肌に白髪の混じった金髪の壮年の紳士。サヴェーリー・アンドレーヴィッチ・ヴォルコフである。
「パーパ。本当にいいのかい? ガブレーラ‥‥いや、“ブルーメール”のことは。本当に」
 部屋の中央に立っていたのはその息子だった。イワン・サヴェーリーヴィッチ・ヴォルコフ、茶色の髪に鳶色の目をした10代の若者。だが、どことなく面影が似ているサヴェーリーと娘のガブレーラとは違い、イワンには父に似たところがない。彼は凍れるロシアで親を知らずにさ迷い、サヴェーリーに拾われたのだ。
「仕方、ないことだ」
「でも、あれは僕とは違う。パーパの本当の子‥‥」
「それでも、だ、イワン」 父は言った。「それでもやらねばならんのだ。お前には、済まないと思っている」
「分かった。いいよ。パーパは他の人とは違う。僕のことも大事にしてくれる。他の人に拾われていたら‥‥僕はきっと捨て駒にされていたよ」
「‥‥」
 凍れる北の“蝶”の名誉ある男は無言で、自分の両手をきつく握り締めた。
「でも、それならこう思うんだ。あの子が “青き大海” (ブルーメール)なら、僕はイワンでいてはいけない」
 穏やかな瞳の奥に常人のものではない光を束の間浮かべ、若者は言った。
「だからこの件が片付くまで、僕は “蜜を食らうもの” (メドベージ)だ。アンドレーヴィッチ・ヴォルコフ」
 父にではなく他人に呼びかける時の呼び方を使うと、若者は部屋を出て行った。
「‥‥‥‥すまない」
 部屋には独りの男が残された。

бабочка



第9章:: 父親の責務


 トーキョー・ウォーカーショーは最終日を控え、連日の人出で賑わっていた。アンジェリカ・李は約束をとりつけたサヴェーリー・アンドレーヴィッチ・ヴォルコフ専務と会っていた。まだ客もまばらな、照明も暗い店である。
「あなたのなさろうとしていることは、クリルタイへの侵攻作戦と考えてよろしいのですか?」
「それも選択肢のひとつではある」
 専務は重苦しく口を開いた。
「――我が国の資源が、主に日系企業に流れているのは知っているだろう。祖国を何かも食い潰そうとしている奴等に対抗するのはそう簡単なことではない‥‥。
 しかしこの“リュミエール”が成功すれば、我が社の力も増す。我々ロシアの人民が祖国の資源を採掘し、加工し、日系企業の手を借りることなく輸出することができる。我々ロシアの人民が正当な利潤を得ることができる。侵攻などという武力手段に訴えずとも、平和的に力を得ることができるのだ。もっともいずれは‥‥南下することもありえるだろうがね」
「これを発表どうこうするつもりはありません」
 華人の女トーキーは言った。「でも‥‥“ブルーメール”のことをどうして秘密に?」
「秘密にしているわけではないさ」
「でも、適性があるからと言って、戦場に出すのは‥‥」
 サヴェーリー・アンドレーヴィッチ・ヴォルコフは深く息を吐いた。その顔に、企業経営者ではなく裏社会の人間の表情が束の間浮かんだ。
「――ロシアは、寒いのだよ」
「‥‥はっ?」
 しばらく真意が分からず、アンジェリカは緑の瞳をまたたいた。
「今の私のために、金を出してくれた同胞たちを裏切るわけにはいかんのだ。肉親の情に流され、祖国を見捨てるわけにはいかんのだ。祖国復興の悲願のために、同胞たちは私を後押ししてくれたのだからな」
「でも、娘さんのことは‥‥」 もう遅いことを悟り、アンジェリカは顔をそむけた。「あ、いえ、済みません‥‥」
 ハンドバッグを取り、アンジェリカは立ち上がった。
「ではこれから編集しないといけませんので‥‥貴重な時間をありがとうございました」
「――発表するなり、好きにしたまえ」
 凍れる大地より来た男は、まだ動かなかった。

Double Bind



第10章:: コンサルタントの陰謀


 ウォーカーショーは最終日を迎えていた。街頭のホロスクリーンに流れるニュースに、各社の趣向を凝らしたウォーカーが次々と映っては消えて行く。
【‥‥N◎VA国際見本市で行われている軍事関連商品新作発表会、通称“トーキョー・ウォーカーショー”が本日最終日を迎えました。今回の入場者は実に300万人を数え、軍事関係者以外の入場者も過去最高を記録しています。本日夕刻より撤収作業が行われる予定で、厳重な警備の元‥‥】

 街頭を歩いていたアンジェリカ・李は、突如身の危険を感じた。いつの間にか回りを取り囲まれている。暗色のダークスーツに目元を隠すサングラス。災厄の街の陰で常に暗躍している黒服のお兄さん方(ボーイズ・イン・ブラック)は彼女を両脇から捕えると、有無を言わさず引っ張っていった。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
 行く手にあったのは黒いリムジンだった。千早重工が最高クラスとして売り出した“グローリアス”と同型の、高い防弾性能とエグゼクのステータス・シンボルに相応しい高級感を備えた車両である。
 黒服の面々が後部のドアを開けると、ほとんど放り込むようにアンジェリカを中に入れた。後ろで荒々しくドアが閉まる。
 高級車の例に漏れず中は広く快適だった。悠然と脚を組んで待っていたのは、豪奢な金髪縦ロールの娘だった。その向い側で忠実なお付きの青年が、すまなさそうに会釈している。

Carlyre Money Consultant

「どうしてあなたはいつもそう、荒っぽいのよ」
 黒服の皆様がカーライルの連中だと判明し、アンジェリカは座席に体を沈めると抗議の声を上げた。ティナ=レオンハルトはそれを無視して何やら悪巧みに取り掛かり、電話を掛けた。相手は遠縁であるカブトの青年。調査の結果、バーブチカがガブレーラを拉致して連れて行った先はヴォルコフ専務が臨時のラボとして使っている貸し倉庫であったことを教える。
『‥‥僕が人を護るのは、結局は自分のためなんですがね』
 電話の向こうからアーベルの静かな声が聞こえた。
「ふふ。しっかり働け」
 電話を切ると、今度は別の電話を掛け、同じことを伝える。
「再戦の機会を設けてやってもよいぞ」
『ああ、そんなことだろうと思っていた。今度こそ負けはしないぞ!』
 電話の向こうの元気な声は、新たな闘志に燃える少女のものだった。しばらく間があって、リリーの声が再度聞こえてくる。
『あっと、ところでそなたは何をするのだ?』
「観戦じゃ」
 ティナが傲然と答えると、またも銀の百合のリリーの声が響いた。
『そうか。ならば、そこでわたしとジークの戦いぶりをしかと見るがよい。そうそう、それから、そちらのジークにも来るように伝えてくれ』
「は、はぁ‥‥」
 ティナの向い側の席で気のない返事をしていた忠実なる青年ジークは、主に顎で挨拶されると仕方なくセクレタリを取り、了解の旨を伝える。
『その言葉を待っていたぞ、ジーク!』
 リリー・クローデットの元気な声が響き、電話は終わった。

 アンジェリカ・李はため息をつくと、呆れたようにカーライル・マネーコンサルタントの女社長を見やった。
「まさか、焚きつけるために彼女を?」
「見ていれば分かる」
 悪役ぶりもすっかり板に付いたティナ=レオンハルトは邪悪な笑みを浮かべ、カーライルの懲りない面々と不幸なトーキーを乗せたリムジンは滑るように走り出すのだった。

Double Bind

ボス「さていよいよクラマックスを控えてのおまけ的なこのシーンでは、ティナの中の人のナレ龍様自らが所行を懺悔し悔い改めておるぞよ。わざわざの願いに答えて読者の皆々様にしかと暴露せよ(´ー`)」
こうさくいん「ラジャーでしゅー。千早製の“グローリアス”高級リムジンは購入レート27で意外に高くてティナたんの売買判定では買えなかったのでしゅ。つまり! このシーンに出てくるリムジンはユメなのでしゅよ!(笑)
 それどころかカーライル・マネーコンサルタントの社員はジーク青年だけでトループがいるわけでもなく! アンジェリカお姉様を捕まえるカーライルの黒服軍団も全員ユメなのでしゅ! 妄想が炸裂しているのでしゅよ〜ヽ(@▽@)ノ」
ボス「まあキャスト全員がクライマックスの場所である貸し倉庫に登場する理由がうまくついているので意味はあるのだがな。キャスト全員の中の人が互いに知り合いで信頼しあっているからこそできる展開なのだが。このへんは適度に妄想に歯止めを掛けつつやるとよいだろう。
 さてかくしてティナの《不可触》の使用により貸し倉庫は携帯判定もいらない状態となり、今日のエキストラ警備員は全員がカーライルの手下が化けていることになって面々が突入するに相応しい舞台が整った。なま元帥言うところのセキュリティがアカ状態になっていよいよクライマックスなのだ」
こうさくいん「(くわっ!)アカい! 赤いのでしゅか?(゚∀゚≡゚∀゚) 違う字でしゅか?(きゅぴーん)」
ボス「Σ( ̄□ ̄lll) ななな何を連想しているのだ。さっさとゆくぞ」



第11章:: ロシアの蝶


 倉庫街の一角にある目的の貸し倉庫。武器を準備したアーベルが通用口からひそかに入ると、中には兵器とウォーカー部品の山が並べられていた。ロシアの凍れるゴエルロに送るものであろうか。
 中央には“リュミエール”が跪いていた。前脚を折り、上半身の手を床につけ、見えない主に頭を垂れているかのようである。
 その前に男が立っていた。茶色の髪をした温和そうな若者、アーマージャケットを羽織った均整の取れた体には無駄のない筋肉が走っている。
「やれやれ、来ちゃったか」
 “メドベージ”は静かに言った。
「友人がこっちに来てると聞いて、迎えに来たんですよ」
 油断なく近づきながら、アーベルは答えた。
「残念、僕らは軌道へ帰るんだ」
「せめて、別れの挨拶だけでもさせてください」
「いや‥‥もう無理だよ」
 イワン・サヴェーリーヴィッチ・ヴォルコフの様子に、アーベルはただならぬものを感じた。
「どうして? それほど時間がないようには見えませんが」
「――彼女は挨拶ができる状態じゃないからさ」
「どういうことですっ?! 殺したのか?」
 アーベルは一歩詰め寄った。
「‥‥死んでるんじゃない。返事ができないのさ」
「だったら、会わせてくださいっ」
 “メドベージ”は手に持っていた“リュミエール”のコクピット制御装置のボタンを押した。人馬型ウォーカーの胸から頭部のハッチが自動で開き、中のコクピットが飛び出してきた。独立式の脱出ポッドと一体化したような形のコクピットだった。
「‥‥な、なんですかこれはっ?!」
 マインドレンデルのアーベルは青い瞳を見開いた。
 それは重傷者の治療に使われる医療ポッドやクローン人間の培養槽のようなコクピットだった。中は液体で満たされ、その中にガブレーラが浮かんでいた。
 ほとんど何も着ていないガブレーラは胎児のように膝を抱え、瞑想するように、没入(イントロン)状態のように目を閉じて浮かんでいた。耳の周りに垂れていた髪がゆらゆらと浮かんでいる。そして、装置から幾本も伸びたコードが頭、首筋に繋がり、彼女の体に埋め込まれた鋼化神経(ハードワイヤード)と接続している。
「言っただろう、挨拶できないと」
「何考えてるんですかっ。出してあげてくださいよ。彼女は僕に、“助けて”と言ったんです」
 咄嗟に走り出し、イワンの横を駆け抜けると純白色のウォーカーに飛びつく。だが、アーベルにまた会いたいと言って別れた娘は何の反応も示さなかった。
 背後から、“メドベージ”がゆっくりと近づいてくる。
「なるべくなら、平穏無事に帰したかったんだけどね‥‥」
「これを平穏無事だなんて言わない!」
 “メドベージ”が手にしている装置はコクピット用のハッチを開け閉めするスイッチだけのもので、“リュミエール”を制御するためのものではなかった。
「常春の街に住む君たちには決して分からないことだ――」
 温和な若者は静かに、アーベルに向かって素手で構えた。「――僕たちの気持ちは」

бабочка

 その時、頭上に轟音が響き、二人ははっと上方を見上げた。倉庫全体がかすかに揺れている。音の源は倉庫の外に着地し、轟音が幾らか収まる。謎のエーテル機関で稼動するジェットエンジンを響かせ、人形の一族の勇ましい娘が操る灰銀色の騎士が到着したのである。
『“ブルーメール”! どこだ! 出てこないなら、こちらからゆくぞ!』
 スピーカーで増幅されたリリーの声が、倉庫内に響いた。
「だってさ。やれやれ、どうします? アンドレーヴィッチ・ヴォルコフ」
 “メドベージ”が宙に向かって問いかけると、ホログラフの像が形を結んだ。電子的に再構成されたサヴェーリー・アンドレヴィッチ・ヴォルコフの顔が現れる。
『勇ましいお嬢さんたちだ。黙って帰ってもらうのも、手なのだがな‥‥』
 だがそこへ、サヴェーリーと“メドベージ”、両者の下へ突然メールが送られてきた。内容は文字テキストでなく音声。
 カーライル・マネーコンサルタント取締役ティナ=レオンハルトの声は、二人に告げたのである。『残念だが、お前たちに帰る場所はない』と。

 倉庫のシャッターがするすると開いていき、外から日が差し込んできた。今日に限って全員がカーライル・シンジケートの構成員が化けていた警備員たちが、銃を抜きながらぞろぞろとやってくる。
 だが“メドベージ”は臆することなく気を集中すると、気合一閃その手を閃かせた。
「ふんッ!」
「これは‥‥!」
 刃と化したその手から旋風が巻き起こり、倉庫じゅうの警備員に襲い掛かる。アーベルは咄嗟にマグネット・シールドを展開した。ナイト・ワーデンの銀の守護者の下で訓練を積み、自分ばかりか周囲の人間まで防御できるまでに磨かれたカブトの技。だが彼の背後で、偽警備員たちが悲鳴を上げながら何人か倒れていった。

  ティナ・レオンハルト - 第12位の円卓騎士

 その騒ぎの中を何とも思わず、悠然と長身の女が歩いてきた。後ろにはいつもの通り忠実なるお付きの青年が控えている。シンジケートの力で改造した防弾オーダーメイドのパンツスーツ、こちらも改造した防刃アンダーウェア、その上から高そうなガードコートを着込んだティナ=レオンハルトである。
「ふむ、観戦させてもらおうと思ってな」
「うるさいぞ、ヤンキー」
 そう答えると新たな敵を鋭く見据える“メドベージ”に、ティナは外国への偏見に満ちた嘲笑を浴びせた。
「お前たちこそ、ロシア人は暖炉でウォッカでも飲んでおれ。好き勝手してくれるではないか」

「我々は決してこの街に来るわけではない」 ヴォルコフ専務の幻像が答える。
「‥‥もっとも、南下を続ければ、いずれはこの常春の街まで来るかもしれんがね」
「まあ、蝶の標本は見る分には楽しいからの」
 ティナは悪辣な笑みを浮かべ、家来に合図した。ジークが背負ってきた荷物を開け、その中から改造済みの携帯型グレネードランチャーを取り出す。
「まったく、ここで戦争みたいになるなんて‥‥」
 どちらが悪役か分からない対峙の中に、愛用のハンディカメラを携えた女性トーキーもやってくる。アンジェリカ・李だった。
「ヴォルコフ専務、事情は分かるけど、報道させてもらうわ」

Double Bind

 一触即発の雰囲気の中、またも盛大な音が響くとシャッターが破られた。密輸品の棚を蹴散らしてやってきたのは、姿勢を低くした紫の十字と百合のエンブレムを頂いた銀灰色のウォーカーだった。その肩の上には純銀の長い髪を靡かせ、“ジークフリート・アメリオレ”の主が立っている。
 リリー・クローデットは“リュミエール”の異常を見て取ると、そばの銀髪の青年に叫んだ。
「アーベル! “ブルーメール”はどうしたのだ。何かされたのか?」
「すみません‥‥出してあげて、くれますか」
 人を護るカブトの仕事の範疇を超えた出来事を前に、アーベルは悲しそうな顔で振り向いた。
「うん‥‥難しいけど、なんとかしよう。だが、勝負が先だ!」
 ハッチが開き、リリーはひらりとコクピットの中に身を躍らせた。主を得たジークフリートの手が動き、“ノートゥング”の名を持つ電子ブレードを抜き放った。

『言わなかったかね、いまだ“リュミエール”は調整が必要な機体なのだと。ブルーメールがいなければ、まだただの人形に過ぎんのだ』
 ヴォルコフ専務のホログラフが語る。『‥‥もっとも、私も、人形のようなものかもしれんが‥‥』
 “メドベージ”がゆっくりと息を吐き、両腕をだらんと下げると構えに入る。

 祖国復活の大望のために蝶となった男の幻像は言った。
『我らバーブチカは蝶。祖国に春を告げるもの。“光”(リュミエール)“青き大海”(ブルーメール)、いずれも我らの望んだものだ』

бабочка

こうさくいん「ううーメドベージはいきなり<※鉄拳><※手刀><※かまいたち>+マローダー技の<※旋風撃>でしゅよー。カーライル偽警備員ズはシーンの背景にいるエキストラだから、アーベルぽんの<※八面六臂>の近距離にいた人以外はみんな吹き飛んじゃったでしゅ〜〜(。´Д⊂)」
ボス「対するティナ=レオンハルトは<※試作品>2Lvで強化した“フォーマリティ”や“ハードスキン”で防御を固め、改造武器をジークに持たせて悪の親玉同然で登場。アーベルとアンジェリカはふつうに登場、リリーは<※ライドオン>を使ってウォーカーに搭乗状態で登場。敵はサヴェーリーがイントロン状態で意識体として登場している。
 さて次章では肉体戦、精神戦、ヴィークル戦が入り混じり、Detonationらしい短くも激しい戦いが行われることになった。順に見ていくとしよう」
こうさくいん「一心不乱にれっつらGOでしゅ!(*^ー゚)b」



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-春への道-
the Centaur Concerto

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