
〜 人馬協奏曲 〜
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-春への道-
| 第12章:: 人馬の騎士ふたたび |
「ウォーカー戦闘の基本戦術は殲滅戦だよ‥‥」
ヴォルコフ専務の電脳サポートの元、人馬の
瞬間、アーベルが前に出た。ワーデンで教わった奥の手を使い、外しておいた“マグネットフォース”のリミッターを利用して高出力の擬似的な磁場を展開する。目視できるほどの強力な防護場が光の雨の幾らかをそらし、周囲の人間を護った。
『それが基本戦術とは、認めないぞ!』
鮮やかな回避運動で光の槍を避けていた“ジークフリート”はホバー推進を吹かして突進し、“リュミエール”に迫っていた。だがオンラインのメモリ上に予め設定してあった論理回路が発動し、完全な電脳制御の元にある機体を自動で動かすと回避し、イワサキ製のウォーカー用ランスを振るう。
だがそれも軽捷な機動で避けると、“ジークフリート”の電子ブレードが純白の機体に振るわれた。バランスを崩したケンタウロス型ウォーカーはよろめいた。

「まずは虫退治じゃ」
忠実なる部下から改造された携帯型グレネードランチャーを受け取ったティナ=レオンハルトは、思い切り“グリズリー”を撃った。常人なら周囲ごと戦闘不能に陥る強力な手榴弾。だが煙の中でイワン・サヴェーリーヴィチ・ヴォルコフはまだ立っていた。
「うぉおおォォォ!」
獣のような咆哮と共に温和な若者の体に剛毛が生え、筋肉がさらに盛り上がると破砕手榴弾の傷がみるみるうちに塞がっていった。そのまま、鋭い爪で一気に肉薄する。
“メドベージ”、“蜜を食らうもの”。ロシアの言葉で表されるものはすなわち熊。イワンは熊のライカンスロープの血を引く獣人だったのである。
ティナを一撃で地に這わせる猛撃はすんでの所で止められた。

「君はあれだけ分かっていながら、まだ報道をしていないのか‥‥いっそ、この件から手を引いてくれないかね?」
ヴォルコフ専務の幻像がマフィオーソの本性を露にしながら、力ある言葉でアンジェリカ・李を捕える。
「私は退くわけにはいきません。責任を取らねば‥‥!」
世界を股に掛け様々な危機を潜り抜けてきた“ダブルバインド”は、用意していた軍用ドラッグの“クラリック”のおかげで呪縛を打ち払った。
「ジーク、次!」
ティナが鋭く命じると忠実なる部下は荷物の中から次なる改造武器を取り出した。折り畳み式のバイポッドを手早く展開する。準備が必要ながら車両やウォーカーにも効く.50大口径弾と最高の射程を誇る対物ライフル、“アルティメット・ブレイク”の改造銃である。
戦闘能力を高めるサイバーウェアと溜めた気の力で旋風を巻き起こしながら“メドベージ”は吼え猛り、立ちはだかるアーベルとの間に火花を散らす。“ブルーメール”は天上の人間だけが持つ力で純白の人馬騎士を自在に操った。銀灰色の騎士のコクピット近くが損傷を受け、電子ブレードの反撃も“リュミエール”のバランスを再度崩すに留まる。
| ボス「さてルール的にもゲスト陣はD時代らしい多彩な技を取り揃えている。解説して補完せよ」 |
飛行能力の為に装甲を犠牲にしている軽装高機動機の“ジークフリート・アメリオレ”に比べると、“リュミエール”の性能の高さは確実だった。装甲もあり、さらに防御を確実にするために左腕には“ギガシールド”、右腕に抱えた“一角槍”の他にも支援砲撃用のキャノン砲やオプションなど様々な武器を備えている。
敗北を繰り返すまじと考えたリリーが攻めの一手に出た。“ジークフリート”の背面のマント部がふわりと浮き上がり、中から昆虫の如き透明な補助翼が展開された。バーニアを全開にし、そのまま人馬騎士に突進する。脚が地を離れ、完全な浮遊状態で竜殺しの騎士は“リュミエール”に体当たりした。運動エネルギーは速度の二乗に比例する。飛行可能なジークフリートや飛行ユニットを積んだ市販の“ヴァローナ”が得意とする奥の手である。
轟音が響き、二体の鋼鉄のウォーカーは倒れこんだ。“リュミエール”のリアクティヴアーマーが爆発して最悪の状況を防ぎ、自律型の“晃龍”支援砲撃用カノン砲が向きを変え、連続砲撃で至近距離にある敵機を無理やり吹き飛ばそうとする。
だが危険を見て取ったアーベルが動いた。またも奥の手を使い“マグネット・シールド”の磁力場を調節すると巨大な戦士たちに向ける。
倉庫の中に点在する廃材が磁力に反応して動いた。大きな鉄の板が絶妙のバランスで飛んでくるとカノン砲の砲身に激突する。見当違いの方向を向いた“晃龍”が巨大な砲弾を空しく吐いた。

「あなたは、何のために戦っているの?」
アンジェリカの凛とした声が、アイコンとして浮かんでいるヴォルコフ専務に向けられる。
「これは我らと、祖国の悲願なのだ。止められる訳にはいかんのだよッ!」
だがバーブチカの名誉ある男の声は、容赦なく華人のトーキーの心をえぐった。
「くっ‥‥でも、トーキーの使命として、私は残ります‥‥!」
| ボス「さて“リュミエール”は搭載火器の性能もさることながら、パイロットのブルーメールも全ての行動にハイランダーの<■天上人>が重ねられる安定した高い達成値を誇っていたのだ」 |
人馬騎士リュミエールは四本の脚で器用に後退して距離を取ると、“晃龍”大型キャノン砲が火を噴いた。正確にジークフリートの中枢部分に着弾するもリアクティヴアーマーが爆発し、致命的な被害を防ぐ。
一気に距離を詰めたジークフリートは電子ブレードを大きく薙ぎ払った。だが、完全電脳制御のリュミエールの自律型論理回路が自動的に稼動し、自動で攻撃を回避すると反撃に移る。右腕の一角槍が正確に振り下ろされた。
それと同時に電子ブレード“ノートゥング”の強力な斬撃が決まった。だが、それでもリュミエールは倒れなかった。完全
白い塗装から増加装甲が剥げ落ちたリュミエールは――雪の色をしていた。ロシアの白く深い雪のような、純白の塗装。
百合の紋章を冠した銀灰色の
『確かに美しい機体だな。だがこのジークフリートは竜殺しの機体だ。次の獲物はケンタウロスとしよう!』
銀の百合のリリーの声と共に、エーテル機関で動く世界にただ一機のウォーカーは宙に浮かぶと突進した。機械類の操作に抜群の適性を持つ人形の一族の娘とその友人の意志はひとつになり、鋭いブレードは雪の色をした機体に深々と埋め込まれた。リュミエールの中枢部分ではなく、コクピットをパイロットごと貫いたのでもなく、操縦席を包む槽型ポッドの制御装置だけを貫いたのである。
「戦いは終わりよ! ロシアの寒さに凍った心を溶かして!」
アンジェリカが叫び、いくつかの光が交錯し、リュミエールは動きを止めた。制御装置を破壊されて安全装置が働き、ハッチが独りでに解放されると
人馬騎士に残ったプログラムの最後の
ジークフリートのコクピットから蒼銀色の光が爆発した。そして、二機の鋼鉄の騎士は完全に動かなくなった。

アンジェリカはヴォルコフ専務の幻像を見据えた。あの日、企業プラントのレベル4バイオハザードを生き延びた日から自らの体に起こった変異は、恐怖だけでなく恩恵も与えてくれた。異常な生体磁気と電流の発生器官は、この世界に重なり合う情報の光の世界へとアクセスする力をもたらしてくれた。
ニューロの愛用する高性能タップと同等の機能を持つ
電子で構成されたアイコンは砂時計の蓋を取ると、サヴェーリー・アンドレーヴィッチ・ヴォルコフ専務の全身像の周りに砂を撒いた。魔法の砂が力を発し、“蝶”の名誉ある男の動きを止める。
「‥‥!」
アイコンの動きを完全にロックされ、サヴェーリーのホログラフは霞んでいくと完全に消え去り、強制アウトロンした。

「ジーク、次!」
絶妙のタイミングで放り投げられた改造済みのクリスタルシールドが、主の手に渡った。カブトたちが愛用する水晶の盾をさらに強力にした盾が、剛力であらゆるものを切り裂く“メドベージ”の鉤爪をなんとか防ぐ。
さらに咆哮を上げた熊のライカンスロープは引き締まった筋肉を震わせ、常春の街の人間たちに襲い掛かった。自分の身を省みずに飛び込んだアーベルが電磁シールドでさらに防ぎ、服の胸を裂かれるも獣の攻撃を防いだ。
その隙にティナ=レオンハルトはようやく準備が整った対物ライフルに飛びついた。二脚で固定された“アルティメット・ブレイク”の改造銃に取り付き、人間の頭を粉砕し、車両の装甲を貫きヘリをも落とすことのできる強力な銃を標的に向ける。
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「くたばれ! 標本にでもなるがよい!」 |
「チッ‥‥!」
二射目を撃とうとしていたティナ=レオンハルトは悔しそうに舌打ちし、立ち上がった。かくして、人馬騎士の中の囚われの蝶は解放され、さらなる二羽の蝶はひとたび姿を消したのである。

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ボス「だが一心不乱なのは祖国再建の悲願に燃える敵も同じであった。距離を取ったリュミエールはさらに砲撃、2度目が[11:ガス欠]で故障となってしまったのだ」 |
| 第13章:: |
リュミエールは動きを止め、安全装置が働いて機外に飛び出した操縦ポッドもそのままだった。アーベルは鋼鉄の機体を上り、ハッチを開けると液体の中からガブレーラを救い出した。鋼化神経に接続してあった何本ものコードを外し、動かない娘の体を抱えあげる。
倉庫の床に体を横たえると応急キットを取り出して治療する。幸いにして脈はあった。ポッドに満ちた液体の中で溺れたわけでも、完全電脳制御下でウォーカーが停止したために脳に危険な過負荷がかかったわけでもなかった。衝突のショックで気を失っているようだった。
サイドを伸ばした銀髪が濡れそぼり、白い肌に張り付いている。首に回したアーベルの腕もびっしょりと濡れていた。ガブレーラの体は意外に細かった。ロシアの雪のような白い肢体が伸びている。落ち着いてからようやく、アーベルは彼女が全身を覆うパイロット用の薄いアンダーウェアではなく、ほとんど下着同然の格好をしていることに気がついた。
「‥‥う、うわぁ」
いささか情けない声を上げると自分の着ている防弾ガードコートを脱ぎ、慌てて彼女の体を包むとなんとか取り繕う。
「‥‥ア、アーベル‥‥さん?」
その時、蒼い瞳がうっすらと開き、その口から呟きが漏れた。
「た、助けて‥‥くれたんですか」
「‥‥まあ、その‥‥僕が助けたって、言うのかな‥‥」
彼女の願いに答え、彼女を護ることを誓ったマインドレンデルのアーベルは苦笑した。
「ありがとう、ございます‥‥」
わずかに微笑むようにその口が動き、ロシアの雪の色をした

眠りの淵に落ちた彼女を腕の中に抱き、しばしアーベルが佇んでいると、倉庫の一角からものが崩れる盛大な音がした。並べてあった強襲ライフルやその他の武器、ウォーカーの部品類が盛大に崩れている。
アーベルが眺めていると、その中から頭を押さえたパイロットスーツ姿の娘が歩いてきた。痛そうな顔をしているが、流れるような銀髪も、体のどこにも怪我はないようだ。
「あいたたた‥‥どうして、ロシア製のコンテナはあんなに脆いのだ?」
リリー・クローデットである。アーベルはややあって彼女がいたはずの場所を思い出し、頭上で組み合ったまま静止している2機のウォーカーをはっと見上げた。全てのデバイスがWebと直結した今の時代、致命的なIANUS直接攻撃の目標となった“ジークフリート・アメリオレ”のコクピットは、強烈な過電流を受けてまだ煙が立ち上っていた。だが、死線の見えない不思議な娘はまったく違う方向から歩いてくる。
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アーベルが訝る間もなく、リリーは二人の姿を認めると小走りに走ってきた。 |
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あさっての方向を向きながら言ったリリーが何を誤解しているのか、アーベルは数瞬経ってから理解した。噴き出すコーヒーこそないものの愕然とする。
「‥‥邪魔って何が?! 何の! 違いますからっ?!」
「ご、ごめん、アーベル」
少女のウォーカー乗りはくるりと振り返ると二人に背を向けた。
「そ、そなたの好きにするがよいぞ!」
そのまま、恥ずかしそうにすたすたと去っていってしまう。
気絶したガブレーラを抱えたまま、しばしアーベルは呆然とその姿を見送った。
「いえ、あのー‥‥その、ていうか、気絶してるし、それはどうかと‥‥‥‥」

ニューロエイジの多くの小火器は薬莢を出さないケースレス弾だが、派手に戦えば戦場は散らかる。手馴れた様子でジーク青年は対物ライフルを分解し、様々な改造武器をしまうと掃除を始めた。
有能にして忠実な臣下が働いている横を、傲然とその主が歩いてきた。カーライルの女は近づいてくると、気絶した娘を抱えたままの遠縁の青年を眺めた。
「そなた、その娘を助けるつもりか」
「‥‥僕はカブトです。助けてと頼まれた相手を、助けますよ」
ティナ=レオンハルトに答えるのではなく、殺人者の血を引いた自分に言い聞かせるように、
「相手が死の蝶でもか」
ティナが無感動に言った。アーベルは答えず、ただ無言でティナの青い目を見返した。アーベルにとってこの娘は星の都で恐れられる
「‥‥フン。ジーク、急げ」
金髪縦ロールの女取締役は身を翻した。掃除の終わったお付きの青年が申し訳なさそうにアーベルに会釈すると、その後に続いていった。

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ボス「ということで相変わらずリリーが《霧散》で復活してきたり。ジーク青年が相変わらず丁寧に後片付けをしていたりしながらクライマックスは終わるのだ」 |
| 終章1:: 去りゆく父 |
姿を消したサヴェーリー・アンドレヴィッチ・ヴォルコフは、そのまま消えたわけではなかった。いつの間にか裏社会には手が回り、N◎VAに来た“バーブチカ”の中に、恐るべき力を持ったライカンスロープがいるという噂も、“メドベージ”の名を持つ男がいるという話も消え去っていた。
アンジェリカ・李は再び、貸し倉庫を訪れていた。Webアイコンの形から危険な力を発揮する男と、剛力を誇る熊のアヤカシと、純白のウォーカーと戦いを繰り広げた倉庫は静まり返り、あれほどあった密輸品も消えていた。
放送施設と電脳端末が一式揃った倉庫の管理室に、約束どおりヴォルコフ専務が佇んでいた。あの戦いでもここからトロンを操っていたのだろうか。
白いコート姿で入ってきたアンジェリカは、ヴォルコフ専務に静かに言った。
「――あなたは父の務めを果たした。そう、思います」
「“リュミエール”があの状態では、祖国より肉親の情を優先せざるを得まいさ‥‥」
白髪が銀髪のように金色の髪に混じった壮年紳士は、自嘲するように笑った。
「私の負けだ。報道でも何でも、好きにするがいい」
「
華人の女性トーキーは優しく言った。
「人の心が、マローズの冬を溶かせるように」
死の蝶の名誉ある男は静かに笑い声を漏らすと、視線を遠くにやった。
「あの一本気なカブト君に伝えてくれたまえ。娘はしばらく渡すと。――娘を思いやらない父より、あの子には友人のほうが必要だ」
星々にもっとも近い街から世界を駆けたアンジェリカは、自分の取材道具に触れた。
「でも、彼女もきっと貴方のことを分かってくれると思います。それに、報道を聞いてくれた人たちも」

トーキョー・ウォーカーショーの話題をさらったカペラ・カンパニーの最新鋭機“リュミエール”を巡る顛末はマリオネットの独占放送で世界に流された。
サヴェーリー・アンドレヴィッチ・ヴォルコフ専務の周囲を巡る事実も明かされたが、彼個人が抱える事情も同時に語られていた。特別製の操縦
中にはクローデット工房のジークフリートは量産化しないのかと問い合わせた物好きもいたそうだが、世界に一機しかない非売品だと知ると諦めたそうである。
| 終章2:: 死神の常識 |
常勤の社員がほとんどジーク青年だけとはいえ、カーライル・マネーコンサルタントが抱える資産は莫大なものである。
新鋭機売り込みの話が消えて勢いが止まったカペラ・カンパニーの株のきっかり52%を買い取り、ティナ=レオンハルトは同社を手中に入れた。同時に最新鋭機“リュミエール”も記念に買いとり、紅蓮の息の掛かった秘密の地下ドックに飾っておく。親切なのか物好きなのか、キース・シュナイダーが手伝ってくれた。
「ウェル・ダン、ウェル・ダン、リーオンハルト。これで我がカーライルの敵が消えたコトですネー」
キースが大袈裟な身振りで拍手し、ティナは賞賛の拍手にさして喜ぶでもなく長い足を組み変えた。
「フン。私の力は殺しだけではない。そんなことは分かっているだろう」
「トウゼンですねー、コロシだけなら、ミーが行っているですネー」
軽薄な外見に似合わず、斬魔刀を持たせるとかなり腕の立つ円卓騎士が何を企んでいたのか、ティナと忠実なるジークはこの時まだ知らなかった。
後日、ティナ=レオンハルトは詳細を伏せたまま、改めてリリー・クローデットを秘密のドックに招待した。悪辣な女取締役とはいえ、悪名高い嘲う死神と少女を遭遇させるのはまずいと気を遣ったのか、カーライルの懲りない面々もおらずに待っているのはティナ本人とお付きのジークだけである。
どこかの御令嬢かといった装いでやってきたリリーは、古い漫画を不思議そうに眺めたが、ティナが何か計画していると聞くと神妙に待っていた。
「フフ。そこで見ておれよ‥‥」
ティナが仰々しく合図し、忠実なるジーク青年がカーテンを引いた。照明が次々に点り、ロシアの雪の色をした優美なウォーカーの姿が浮かび上がる。
「そなたが買ったのか? ずいぶんと思い切ったことをするのだな」
目を輝かせたリリーが驚きと賞賛の声をあげ、ティナはうんうんと密かに悦に入っていた。だがしばらくして、少女が異変に気付く。
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「ねえ、だけど、あそこに角があるよ。赤く塗られてるけど‥‥もう改造したのか?」 |

そんな様子は露知らず、新星都市侵攻の準備を整えるシンジケートのアジトでは、円卓騎士の一人、にやけた顔の嘲う死神の笑い声が響いていた。
「Ha-Ha-Ha。角の付いた専用機は速度も3バーイ。これ、コモンセンスですネー」
| 終章3:: 春来たる日は |
N◎VAの一角にある喫茶店で、二人の男女が顔を突き合わせていた。共通点は両者とも銀髪。青い瞳に掛かるほど伸びてしまった髪を持つ長身の青年と、その向い側で顔を伏せている娘。
「家族はどうするんですか?」
「しばらく、家族には合わせる顔がありません」
ガブレーラはしゅんとしていた。
「Webのストリームでアーベルさんと話すようになって、なんだか楽しくなって、いつのまにか引き金を引くのが嫌になってて、‥‥それで‥‥」
ガブレーラの前にはクリームソーダが置いてあり、アーベルが飲んでいるのはいつもの如く一番安いコーヒーだった。
「ぇと、アーベルさんとあの日一緒に行った秘宝展が、すごく楽しかったんです。あの時見た、春の絵が‥‥すごく、素敵で‥‥」
ガブレーラの声が消え入りそうになり、アーベルはその白い手を取った。
「父さんもあれから、もうウォーカーに乗るのはやめるようにって言って‥‥」
「やりたいことをやるには、責任もいりますよね」
答えながら、アーベルはしばし考えた。様々な技や異能力を持つ傑出した人物は多いとはいえ、N◎VAは危険な街だ。15歳の少女が支えもなしで一人で生きていくには辛すぎるし、何をするにも金はいる。
二人はしばらく考えていたが、やがてガブレーラが唐突に言った。
「あの、どこかにニューロが必要な人とかは、いないでしょうか。トロンの扱いなら、多少自信はあるんですけど‥‥」
突然言われて困ったアーベルは考え直した。ガブレーラのニューロ能力が高いことは、素人のアーベルから見ても確実だった。高度な制御能力が必要なあれほど高性能のウォーカーを完全
「そうですね、知り合いを当たってみます。アルファさんに相談してみましょうか」
アーベルはポケットロンを取り出し、電話を掛けた。相手は誰あろう、全てのAIがその誕生を敬い成長を見守る電脳世界の救世主、腕利きのニューロたちが電脳聖母事件と呼ぶ奇跡で新たな生を受けた“機械の見る夢”アルファ=オメガである。
ポケットロンのスクリーンがやがて像を結んだ。電脳の海に浮かぶそれは蝙蝠の翼、鳥の翼、機械の翼に幾つもの目を持つ球状の中心部、異様な外見をした高解像度のアイコンだった。
『やあ、お困りのようだね』
かつてのN◎VAでたびたびその姿を目撃されてきた超電子頭脳メタトロンである。二人がぎょっとして顔を見合わせると、手持ちタイプの平面スクリーンの中だったそれが横にどけられ、ピンクの髪の幼い少女の顔が代わりに現れた。
『なーんて、今日はメタトロンごっこなの! どう、驚いた?』
悪戯ざかりの少女の仕業に苦笑すると、アーベルは事情を話した。電脳聖母マリアを母として誕生からたったの1年余り、人間の精神構造に当てはめればまだ幼いアルファだが、超AI生命体としての能力の方はとてつもなく高い。
『じゃあ、美術館の受付とか、探してみるね』
超AIの少女は魔法の指先を電子の

連絡が一段落ついた頃、喫茶店のドアが開くと一人の客が入ってきた。透き通るような銀の髪に紫の瞳、ネオ・フランス行政圏のどこかのご令嬢かと思わすようないでたちの娘は手に花束を持ち、しばらくあたりをきょろきょろと見渡していたが、やがて二人を認めると手を振った。
「おおい、アーベル! そこにいたのだな。探したぞ」
やってきたのはリリー・クローデットだった。二人の席に歩いてくると、ガブレーラの方へ向き直る。
「もう、体は大丈夫なのか? これはお見舞いだ」
花束を渡され、ガブレーラはびっくりして受け取った。どこで買ってきたのか本物の百合の花である。遺伝子操作と品種改良を重ねたものとはいえ、そう安く買えるものではない。
「“ブルーメール”。いや、ガブレーラ・サヴェリーナ・ヴォルコフ」
リリーは神妙な顔をして言った。
「わたしはそなたのことを誤解していたようだ。わたしのジークが負けたときは、とても悔しかったけど、そなたにはいろいろと訳があったのだな。すまなかった」
「いえ、私もごめんなさい」
ガブレーラも席を立つと、かつて戦った相手パイロットと並んだ。
「名乗るのも忘れていたな。わたしはリリー・クローデット。銀の百合のリリーだ」
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「ええ、私のほんとうの名前はブルーメールでなく、ガブレーラです」 |
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しばらくして、リリーは遠慮がちにアーベルに声を掛けた。
「ああ、アーベル。わたしは‥‥お邪魔‥‥だったかな」
さすがに今回は噴き出すでもなく、いい加減苦笑すると、アーベルは答えた。
「‥‥そんなことないですよ。雑談をしていただけですから」
「いや、でも‥‥悪いし‥‥もう帰るよ」
素材だけが人と異なる心を持つアヤカシの娘の紫の瞳には、異なる二人が見えているのだろうか。ごにょごにょと詫びると、ややあってリリー・クローデットは本当に帰ってしまった。後にはコーヒーカップを持ったまま呆然としたアーベルと、本物の花束を抱えたガブレーラが取り残された。
彼女に目を戻したアーベルの視界に、殺しの系譜の血のなせる技が発現した。花束を眺めるガブレーラの姿に、ふと死線が見えてしまったのである。だがマインドレンデルのアーベルは頭を振ると、それを追い払った。
「アーベルさん、どうかしましたか?」
「いや、なんでもないですよ」
アーベルはそう言うと、
And so, the curtain dropped,
in the city that new wind blows .....
-XYZ-
| The Centaur Concerto | |
| Scenario made and Ruled by: | "Admiral" Nama |
| Starring: | "Intently" Hata+Hata "Self-support, Self-supply" Kuryuu "Nagie" Nagiccho and iwasiman |
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| こうさくいん「というわけで〜。エレガントN◎VA-Dは無事終わりでしゅ〜ヽ(´▽`)ノ」 |
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