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 黄がけたけた笑いながら言った。黄が普段、俺と会話するときは日本語だが、それは今の俺の「ホルスター」に合わせてくれているからだ。俺も北京語は理解できるが、肉体の都合、日本語がしっくりなじむ。
「北京語……。燕の手下か」
「じゃあ、俺たちの用件もわかるな」
 そう言った俺に、男は眼を向けてきた。その瞳の奥で、妖しい光がゆらめきだした。高楽雄、この街の一角を支配する広東の吸血鬼。俺は咄嗟に視線を逸らせた。吸血鬼の眼の輝きをまともに受けてはいけない。
「もちろんだが、それは承伏しかねる」
「故郷に引き上げるだけでいいんだぜ。あんた、手下もやられちまったんだし、もうこんなとこにいても仕方ねえだろう」
「黄、もう話はついた」
 俺は黒星を高楽雄に向けた。高は俺をにらみ、つぶやいた。
「おまえは同朋ではないな」
「名刺代わりだ。受け取ってくれ」
 俺は、俺自身の引き金を引いた。
 何度も何度も念入りに撃った。弾が切れることはなかった。
 
 
 午前三時。歌舞伎町、区役所通りの路地裏で、俺はようやく夕飯にありつけた。「海」。深夜営業のレストランだ。バービルの地下に店をかまえて十年になる、このあたりでは古顔のひとつになりつつあった。

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