ヨコハマ中華街&新山手

[ Chinatown BBS Log / No.371〜No.408 ]


黄泉より呼ぶ声

Handle : “銀の魔女”エヴァンジェリン・フォン・シュティーベル   Date : 99/11/19(Fri) 23:53
Style : バサラ◎・カタナ・カゲ●   Aj/Jender : 外見年齢20代/女
Post : 四天使


真理はふと誰かの視線を感じた。
何気なくフェンスの向こう、ビルの下に目をやる。
さして大きくないビル群が乱立し、闇がわだかまるそこは、まるで複雑な迷路のようだ。
その一角を月光がスポットライトのように照らし出していた。
まばゆい月輪の中に、一人の女性が立ち、こちらを見上げている。
視線が絡み合った。
刹那、電流のような感覚が体を走る。
距離があるため、良く見えはしないはずだったが、真理にはその女性の顔をはっきりと視認する事ができた。
信じがたいほどに、美しい女だった。
闇が白い肌を際立たせ、降り注ぐ月光が白銀の長髪を燃えるように輝かせている。
非人間的な、一切暖かみを感じさせぬ氷像のような美貌であった。
飾り気のない漆黒のスーツと同色のマントのようなコートまでが、月の粒子を纏っているかのように微かな光を発していた。
“この女性だ。”
真理は確信する。
先ほどから彼女の心に言い様のない蠱惑的な声を響かせていたのは、間違いなくこの人だと。
それに答えるように女はうっすらと艶やかな微笑を浮かべ、頷いた。
“銀の魔女”
以前、ウェズリィから受け取った報告書にあった言葉が電光のように閃く。
もしや・・・・
その時、どこまでも深く己の思考の淵に沈んでいた真理を呼び覚ます者があった。
何者かの掌が、ヒタと自分の首を掴むのを感じた。
とたんに、体中に最大級の警報が鳴り響く。
「しまった。」
舌打ちし、飛びすさろうとしたが、手遅れだった。
万力の様な力で首を握りしめられ、低く呻く。
「動くな・・・」
彼女の後ろで聞こえた声、それはまぎれもなく倒れていたはずの男。
編纂室、室長。壬生の声だった。
「バージニアを、“鍵”をこちらに渡せ。」
幽鬼のような、蒼白な表情で一同を睨み、壬生は言った。

 [ No.371 ]


バーニィへ………

Handle : 『親愛なる天使』モリー美琴   Date : 99/11/20(Sat) 09:42
Style : カブト=カブト=カブト   Aj/Jender : 14/女性
Post : フリーランス


 柔らかく暖かい空気があたりを支配する………。しかし、やはりそれは一瞬のことだった。神楽の言葉に再び空気が冷たくなる。
>「皆が抗う事を選んだその選択を見守る事だ」
「なんでなの?」
美琴の言葉は耳に入らないのか、何もいわずに彼は自分の行動を続けていた。
 壬生を抱えて歩く神楽に、美琴は一瞬だけ表情を厳しくし、バージニアに近づいた。しかし、彼が彼女に害をなさない(今のところは)事を確認すると、何も言わずに彼の行動を見ていた。
「どういうことがあったって………バーニィは守るんだから……」
彼の後姿にそうつぶやき、じっとうつむく。そして、首を軽く左右に振った。
「ううん。『守る』だけじゃない……」
「モリー!」
うつむいたまま自分の考えをまとめようとしている美琴の隣りでバージニアは嬉しそうな声をあげた。そして、彼女は美琴に神狩と火鷹の生存を示すと2人の所に一気に走っていった。
 考え事をしていた美琴は、反応が一瞬送れた。バージニアを追いかけようとして顔を上げて火鷹と神狩の姿を確認する。
>「バーニィ、美琴、真理さん、沖さん……皆、無事で良かった」
「遊衣さん…よかった………」
半泣き状態のバージニアにゆっくりと歩みより、そして優しく抱きしめる火鷹。
 美琴も近くに歩いていって、その光景を笑顔で見つめていた。
 失われていたと思った仲間達が再び自分の目の前にいる………美琴は胸がいっぱいになっていた。そして、心から思った……『彼らを死なせないようにしよう』と………。

「バーニィ………」
 その感激を暫く味わった後、美琴はバージニアの方を見た。首を傾げてこちらを見る彼女。その姿は、実際の年齢よりもわずかに幼い感じがした。
「バーニィは何がしたい?」
 不思議そうな顔でバージニアは美琴をのぞきこんだ。美琴は彼女の目をじっと見詰めてゆっくりと口を開いた。
「バーニィがここに来るって事は何か、何かのわけがあったんだろうって思ったの。……何なのかは分からないけど……」
「そんなの、わからない。気が付いたらここにいたんだから。それは………」
バージニアの表情がほんの少しだけゆがむ。
 しかし、美琴もバージニアが来た理由を知っているとは思わない。知っていたら、美琴達に事実を隠してまでこういった反応はしないだろう。
「それはわかってる………」
「何でいきなりそんな事言い出すの?」
バージニアの言葉に、美琴は目を閉じ、大きく深呼吸をしてから目を開けた。目の前には、なんともいえない表情で首をかしげているバージニアがいる。
「もしかすると、バーニィの望みがかなった時に、今以上に見たくないものを見るかもしれない、知りたくないことまで知らなくてはいけないかもしれない……」
バージニアの表情がさらにゆがむ。
 彼女を抱きしめていた火鷹が美琴に何か言おうと口を開き掛けたが、彼女の表情を見てしばらくして何もいわないまま閉じた。
「今のバーニィはそれに立ち向かえる? 『かなわなきゃ良かった』って絶対思わないって言える?」
「それは………」
じっとうつむくバージニア。
「まあ、誰だってわかんないんだけどね。でも、今のバーニィは守られるだけに近い…あたしも……ね…その分、こっちに来る前よりも多分弱くなったんじゃないかな。でも、本当のバーニィは、守られるだけの存在じゃない……そうでしょ?」
最後の言葉にこくりとうなずくバージニア。美琴は彼女の反応を確認すると、ふっと表情を崩して言葉を続けた。
「バーニィが望む場所までは送りたい。でも、そこまで行ったらそれから先、歩かなきゃいけないのはバーニィでしょ。あたしでも他の誰でもなく………。自分で立って歩けるって事、見せてくれなきゃ、心配で送れなくなっちゃうよ」
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「そこまでわかるほど人間やってないけど………。今、『何があってもこれだけはやりたい』っていう強い物、教えて欲しいな」
美琴はそこまでいうと、再びうつむき考え込んだ後、頭をぽかぽかと両手で叩きくるっと回りを見まわした。そして、バージニアのほうを再び見て頭を下げる。
「………うまく言えなくてごめんね」
 美琴の言葉を聞いて、バージニアは少しうつむいた後、九条、真理、火鷹、神狩…そして、再び美琴へと順番に見ていった。

 それから数分………目を開けた彼女はもはや前の彼女ではなかったかもしれない。美琴に笑顔で話し掛ける彼女も、沖にパタパタと少しおどけた彼女も………。
 『バーニィが行ってしまう………』美琴はなんとも言えない不安にかられた。
「バーニィが…バーニィが誰であっても、何であっても、あたしはバーニィを信じるから…。バーニィの友達だから………。だから、バーニィの行きたいところを目指してね」
美琴は悲しげに微笑んだ。

 [ No.372 ]


停滞―Statis―

Handle : ”LadyViorett”我那覇 美加   Date : 99/11/21(Sun) 04:01
Style : カブト◎=カゼ●=カブトワリ   Aj/Jender : 28/female
Post : フリーのカブト/元”麗韻暴”二代目頭の兼業主婦


「あぁ、俺も気に入らない。俺達カゼが駆け抜けなければならない場所は、いつも遠回りだ。なぁ__________我那覇」
その声を受けながら美加は自分の銃を拾い上げた。

「たしかにそうだ。だからアタシは”仲間”を捨て”大事な人”を選び、”駆け抜ける事”をやめ”護る盾”として選んだはずだった・・・。」

神楽に背を向け銃弾を確認しそっと呟く。

「だから死ぬわけにはいかないんだよ・・。」

一瞬無防備になりそうな雰囲気の中、美加は改めて周囲を見回す。
美琴と沖とバーニィ、九条、真理、火鷹、神狩、来方、そして神楽。
しかし真理は固まった様にフェンスの向こうへ視線を落としている。
その方向に視線を向けると月光が照らし出される中一人の女性を見た。
黄泉からの使者、白銀と暗黒をを纏った女性を。
ふと真理に視線を戻す。
一瞬の気の緩みから来る幻だろうか?
真理の背後に映る来方が仕留めたはずのあの男を。
美加は反射的に銃を構えた。
しかし、間に合わなかった。
「しまった。」
真理の首に彼の手がかかる。
「動くな・・・」
「バージニアを、“鍵”をこちらに渡せ。」
「・・くそぅ。」
美加は自分の不注意を呪った。
少なくともその可能性があったということが分かったいた事を。

 [ No.373 ]


ザンジュウケンは震王の秘密を知っている。

Handle : “バトロイド”斬銃拳   Date : 99/11/23(Tue) 00:42
Style : カタナ◎● カブトワリ チャクラ   Aj/Jender : 25歳/男性
Post : フリーランス/ソロ


斬銃拳は“タナトス”の残骸に歩み寄りながら誰へともなく語り出した。
「“震王”・・・壬生サンの右腕はバイオウェアです・・・そう、これデス。」
懐からオレンジ色の液体の入った小さな注射器とカプセル剤を取り出す。
「この液体を注射し人体の内部にその人物の遺伝子とは異なった遺伝子を持つ細胞、“異遺伝子細胞”を発生させマス。それが“震王”の、言わば卵デス。そして、こちらのカプセルでそれに栄養を与えマス。数日から数週間で“卵”は“震王”へと成長し人体と同化、或いは・・・」
ぽいと、それらの薬品をゴミのように投げ捨てる。
「侵食しマス。」
そして今度は透き通った青い液体の入った、やはり小さな注射器を取り出す。
「こっちが除去剤・・・これを投与すれば“異遺伝子細胞”は抹殺され元の遺伝子の海へと解けて行きマス。」
言いながら己の首に注射をし、体をひくひくと不気味に震わせる。そして、二人を振りかえり微笑む。
「侵食されたら、たまったモンじゃありマセンからね。・・・しかし、壬生サンは侵食され、なお、それを吸収し“震王”と一体となっている化け物デス。」
“タナトス”の残骸とすれ違う瞬間、刀を一閃し赤いランプの点いた機械を取り出し脇に抱え、そのまま歩き出す。その足取りは先程までと打って変わりしっかりとしたものだった。
「除去された“震王”の余ったエネルギーはそのまま本体が受け取る形になりマス・・・ですから私は今、たいへん気分がイイ・・・実にイイ。」
斬銃拳は階段へと向かう。
「私は一応、この目で見届けて来マス・・・あの化け物がどうなるのカ、そして」
ちらりと傷ついたカブトを見やる。
「アナタ達が一体どうなるのカ・・・」

 [ No.374 ]


誘い

Handle : ”無免許探偵”ウェズリィ   Date : 99/11/25(Thu) 13:24
Style : KABUTO,FATE◎●,KABUTO-WARI   Aj/Jender : 外見20代/Male
Post : Freelans


 探偵は自分の足下に転がっているオレンジ色の液体の入った小さな注射器とカプセル剤を手に取った。先ほどの”男”がこれから何をしようとしているのか、何が目的なのかは判らなかった。判るつもりもなかった。
 自分は”傍観者”なのだから。
 そしてその注射器とカプセル剤をハンカチに包むと、大事そうに懐に納めた。

 カブトの女性の手当はしばらく時間がかかった。両手はほぼ切断状態。腹部の損傷も激しく、傷口から深紅の血が流れ出していた。いくら<オートマン>で作業ができても、今の自分と彼女の手元の道具ではそれらの傷を塞ぎ、これ以上の出血を止めるだけで手一杯だった。動かそうとすれば又その部分から出血を起こすだろう。しかも、血が通わないように近辺部分を縛り付けているため、十数分間隔でゆるめて血を通わせることをしなければ、そこの部分が壊死を起こす。
「…厄介だな」
 ウェズはそれだけ呟くと己の額に浮かぶ汗を拭った。次は己の番だった。BLAKK=IANUSでの折れた右腕の痛覚遮断効果はもうじき切れてしまう。片腕で作業するのがこれほどきついとは思わなかった。折れている部分を元に戻した。分解した”サンダーボルト”の部品でギブス代わりにする。神経に異常は見あたらなかった。激痛を我慢すればしばらくは不完全だが右腕も使用できるはずだ。
「位置は逆探出来るな?ビルの10階で人が倒れている。止血処置は施したが、これ以上動かすのは大変危険だ。多分あんた達の契約事項の中に含まれるはずだ。手配を頼む」
『はい、あ、あの…お名前は?』
 彼は手持ちのK-TAIでシルバーレスキューにカブトの女性のことだけの連絡を入れ、オペレーターの言葉を無視して会話をうち切った。そして通話状態のままK-TAIを彼女の脇に置いた。正直言って放っておいてもかまわなかった。ただ彼女に、そして屋上にいる彼らに運があるのなら…。
「手助けにはなるだろうな」
 彼は窓から外を眺めた。
 隣のビルの屋上が見えた。
 月光がそこを照らし出し、一人の女性を浮かび上がらせた。
 女性と探偵は顔を合わせた。瞳を合わせた。
 ウェズは静かに助走を始めた。ビルの降下に使ったロープを用いて、軽々と隣のビルの屋上に移ってきた。
 ”銀の魔女”が目の前にいた。
「よぉ、素敵なレディ。月の光の照らし出す、こんな綺麗な夜更けにデートなんていかがかな?」
 鋭い眼光をたたえたまま、微笑みを口元に浮かべて探偵はそう話しかけた。

http://www.mietsu.tsu.mie.jp/keijun/trpg/nova/cast/index.html [ No.375 ]


決意の一歩

Handle : バージニア・ヴァレンタイン   Date : 99/11/25(Thu) 22:05
Style : マネキン◎・マネキン・ハイランダー●   Aj/Jender : 17歳/女
Post : ?


「どうする?」
壬生は再度一同を見回し、問うた。
その語調からは追いつめられた者がもつ、焦りや恐怖は微塵も感じられなかった。
「私が人質を殺さないと思っているのなら後悔することになるぞ。」
薄く笑い、告げると言葉を証明するかのように、真理の首を掴んだ手に力を込めた。
「!」
真理が蒼白な顔をさらに歪め、その苦痛に耐える。
しかし、意思に反し体はビクビクと小刻みに痙攣を繰り返した。
「わ・・私が代わりになります。」
震える声が沈黙を破った。
皆の視線が集中する。
「真理さんを放してください。」
恐怖に震えながら、しかし確たる意思を秘め、バージニアは壬生を見据えた。
「だめだよ!」
モリーが声を荒げた。
「信じてるから・・・」
彼女の瞳をのぞき込むようにバージニアが言う。
「モリー、あなたを。そして、みんなを信じてる。」
口元に微かな微笑すら浮かべ、頷いた。
「よかろう。こちらに来い。」
「ただし、他の者が少しでもおかしな真似をすれば、この女は死ぬ事になるぞ。」
「解っています。」
刹那、彼女の視線がセスナの方に向けられる。
それがなんらかの合図であるかのように、バージニアは答え、壬生と捕らわれた大切な友人の元へと歩を進めた。

 [ No.376 ]


屋上へ。

Handle : 羽也・バートン   Date : 99/11/26(Fri) 03:08
Style : ミストレス◎カブト=カブト●   Aj/Jender : 26歳/女性
Post : フリーランス


直感。……羽也は、えもしれぬ嫌な予感に思わず、まどろみから目を覚ます。
同時に襲ってくる両腕の激痛。応急処置が施してありそれによって少しはマシにはなっているようだ。
…これを、このまま放っておいたらどうなるかは簡単に見当がつく。
だが、羽也は動かずにはいられなかった。直感とも言える、未知の感覚に羽也は突き動かされていた。
(……嫌な、予感がする……!!)
無い右手で脇腹を押さえつつ。それでも、堂々と。一歩。彼女は踏み出す。
屋上へ。
彼女を突き動かしているものは、もはや、彼女の気迫と真理への想い。ただそれだけだった。

 [ No.377 ]


Re:決意の一歩

Handle : 『親愛なる天使』モリー美琴   Date : 99/11/26(Fri) 09:50
Style : カブト=カブト=カブト   Aj/Jender : 14/女性
Post : フリーランス


(人質だもん、殺すような事はしないわよね………)
 そんな美琴の期待を裏切る壬生の声がした。美琴の中で焦りがどんどん大きくなる。しかし、その中でも絶対に美琴はバージニアの手を離そうとはしなかった。
> 「わ・・私が代わりになります。」
震えるバージニアの声が隣でした。一瞬、美琴には言葉の意味を理解できなかった。呆然としてバージニアの顔を見る。
 美琴は必死になってバージニアの決意を何とかとどめ様とした。しかし、何を言っても今のバージニアには通用しそうがない……。それほどに、彼女の目は真剣だった。
 小さくため息をつき、美琴はバージニアにうなずいた。
「わかった………」
「モリー!」
にっこりと笑うバージニア、そして、それとほぼ同じに激しい火鷹の声がする。
「でも……あたしも一緒に行く」
「だめ!」
美琴の言葉に、今度はバージニアが驚きの表情で止めに入った。しかし、美琴はバージニアから目をそらそうとしない。
「バーニィが何を決めたのか、何に向かって行くつもりなのか………あたしは見たいの。ううん、バーニィと今まで一緒にいたから……自分に義務として課したの。だから……バーニィがいくら止めてもあたしはついて行くからね」
まっすぐな瞳。そして、美琴は彼女から視線を外すと、周りを見た。
「それに………あたしもみんなを信じてるもん」
にっこり笑う。そして、次に壬生のほうを見た。
「どっちにしろ、バーニィとかかわったからには、まともに返してもらえるとは思ってないよ。あたしは鍵じゃないけど、バーニィを動かそうと思った時の人質ぐらいにはなるんじゃないの?」
彼から視線を外さずに、美琴はにっこりと微笑み掛けた。

 [ No.378 ]


鬼と修羅

Handle : “疾駆の狩人”神狩裕也   Date : 99/11/26(Fri) 13:43
Style : チャクラ◎、カゲ、ヒルコ●   Aj/Jender : 23/男
Post : 狩人


「おい」
壬生に捕らえられている秦。そして壬生に向かい歩き出したバーニィ。
そこに唐突に声がかかった。
「先ほどまでの姿はただの演技か?そんな死にかけに殺されるくらいなら、貴様は所詮その程度の人間だったということだ。自力でどうにかしてみせろ」
声の元は神狩だった。フェンスに腕を組んでもたれかかっている。表情からは何の感情も読み取ることが出来ない・・・それほど冷たい様子をしていた。
壬生を全く無視し、秦に淡々と言葉を告げる。
「どうにも出来ないというなら、俺が壬生ごと貴様を殺す。足手まといになられてはたまらんのでな。」
神狩が秦に向かい冷徹に言い放つ。眼鏡の奥から冷たく光る双眸は、その台詞が冗談でも何でもないことを告げていた。
「失望させてくれるなよ、秦 真理」
唇の端を吊り上げ、悪鬼の笑みを浮かべる神狩。その笑みはある種の同族を見つけた喜びを含んでいた・・・

 [ No.379 ]


深淵の双眸 彗星の眼差し─代償

Handle : “紅の瞳”秦 真理   Date : 99/11/26(Fri) 14:22
Style : Mistress●Regger Katana◎   Aj/Jender : 24/female
Post : N◎VA三合会


 伸ばした手の先さえも、飲み込むような漆色の闇。それに抗うように立つ、人の手による白い巨塔、光の瞬き。
月夜でないわけではない。中空の月が、さえざえとした光に輝きながら、雲一つない空に浮かんでいる。
 しかし、星は一つとして見えない。
 それが、半ば女の肩に左肘をのせ、抱えるように細い首を絞めあげる漆黒の手と、
 身をよじり、思い煩うように物狂おしく苦悶の表情を浮かべる女の蒼白な顔を浮かび上がらせていた。
 見つめる銀の双眸すらも飲み込んで──くっきりと浮かびあがる女の左顔を走る刀傷──


「…あくまで偶然の産物よ?私は、実力差を埋めるために、腕一本犠牲にしたにすぎない。貴方達がいなければ、貴方があの男に立ち向かわなければ、救えなかった、それだけよ、違って?」
 くったくなく笑い、女の冷たい双眸を見つめる来方に、口の端を歪めて皮肉げに笑うその女のものいいに、彼女なりの礼でもみつけたのか来方は、素直じゃないね、とばかりに肩を竦め、少女のもとへと歩み寄っていった。

 呼びとめ労わるように優しく、言葉を紡ぎ、うなだれる小さな守護天使に女はその双眸を向け、少女のほほにゆっくりと触れた。
「……頑張りましたね。私には出来ませんよ…」
 まだ淡く、どこか儚い笑みではあったが、それは美琴が女に初めて会ったときに見た笑みのままに。

 黄泉より還りし、神狩の血を分け与えられた火鷹が息を吹き返した。
 優しく深く包み込むようなまばゆいばかりの笑顔に、眼差しに吸いこまれるようごとく、おずおずと近寄る女を、温かい抱擁で迎えた──守りたかった少女とともに。癒されていくのが分かる、"刃"が鞘へと収まるように─私は、"死んでいた"少女達の存在を当然の犠牲として、無視していたというのに──この子は──
 女は軽く目をつぶると、大切なものを包むように、優しく、火鷹の背に手を回した。その存在を示す、カメラのように、力強く。

 疲れた─暫くひとりにしてくれとばかりに、女は彼女達から離れ、ひとりフェンスに寄りかかり、吐息を漏らすと月を見上げた。その姿を、神楽が見つめていた。"銀の魔女"と双眸を同じくする眼差しで。
『故あるがために生くのか 故たずぬるために生くのか それすら分からず我らは道往く…』
 倒れ伏した"絶対者"だったものの顔を見、なにげなく女の意識にその詩が浮かんでは、消えていった。


──細い女の首は片手でも十分に絞められる太さだった。
「私が人質を殺さないと思っているのなら後悔することになるぞ。」
薄く笑い、冷徹な口調で、告げると言葉を証明するかのように、首を掴んだ手に力を込めた。落ちるか落ちないかという強さで気管を圧迫され、顔をその場にいる全員に見せ付けるように、指で押し上げられる。
 窒息の苦痛が渦巻く─つまりは、これが──
──傷ついた体。赤黒く斑に汚れた漆黒の洋装。傷だらけの精神。自嘲。刃こぼれした刀。皮肉。絞めあげる漆黒の手。不覚。目に写る仲間達。突きつけられた死という絶対。蠱惑的な声。自らを助けるべく歩み寄る少女達。そんな、すべてのものが──
 人を殺したいと思う、衝動なのだろうと。
 だが、動けなかった。限界を超えた体は"銀の魔女"を視たとき、魂を縛られたように動けなかった。戦慄と、体を走った電流のような感覚、左眼を失ったときに出来た古い刀傷の疼きと──歓喜?
 その時、背後を取られてこのざまだ、と苦痛に顔を歪めながら、どこか遊離した思考で思う。動けなかった自らが許せずに─"己"を打ち砕いただけでは飽きたらず、なおも苛める男を許せずに─強烈な憎悪はどこか、深い愛情にも似て。
 その場にいる仲間達は動かない─いや、手を出す機を伺っているのだろう。
 しかし、うかつにも隙を見せるような相手ではない。油断なく周囲の動きを伺い、おかしな動きを見せれば、女の命は露と消える。消えたとしても問題がなければ、女とて、仲間とて動くだろう。だが、火鷹の状態を見た少女に起こった異変が、女の死によって再び起こらないという保証がないのだ。そして…少女達が女の身代わりになったとしても、それは同じだろう。女を生かしておく必要が、どこにもないのだから──では、どうするのだ、と。
 断続的な窒息の苦痛に苛まれた意識のなかで、神楽が僅かに奥歯を噛み締め─その銀の双眸が、神楽の姿に"銀の魔女"の幻像を重ね──その美しい手を差し伸べた。うなだれた真理の瞳が、深淵に彩られていくのを、美加は、見た。
(死ぬわけには…いかない……まだ…死にたくない……還りたい……でも、何処へ?)
 脳裏に鮮明に写ったのは、コートを纏うしなやかな猫科の動物をおもわせる物腰の男の優しい微笑み。
 ゆっくりと恐れを押さえて、少女が歩み寄ってくる…自分の為に。
 その時、神狩が、"動いた"

「…待ちなさい、バージニア。待ちなさい、美琴さん」
 凛とした、抑制された口調で、壬生の間合いに入ろうとした少女達をその手前で止める。
 女─真理のなかでなにかが弾けた。本質のひとつである修羅が、神狩の言葉を受けて、静かに内なる咆哮を上げる。『自分は、まだ闘える』と。詰められた咽を無理にでも押し開き、呼吸しようと気力をふりしぼる。もう、この少女達を傷つけたくない。
 彼女達が『闘わねば』ならない場所は、きっと、ここではないから。その少女達の覚悟を受け止めて。
「死にたいとみえるな、ミス・真理?」
 冥府の悪鬼を思わせるまとわりつくような口調で、それまで動けなかった真理の咽を絞める力を僅かに強め、周囲に宣告するように、壬生はそう告げる。さらに詰められる咽、少女達から上がる悲鳴。動こうとするものの気配。だが─壬生には見えぬその双眸が、深淵ではなく、自身を思わせる彗星に似た、儚いが、美しく強い光が宿り、そしてそれは告げていた。

『大丈夫、すこし待って』と。
 
 神狩が皮肉げに口元を歪めたのは、壬生へと見えただろうか?それをみて、九条がやれやれとばかりに、肩をすくめる。
 絞めあげる漆黒の手を通じて感じるのは、傷ついた"絶対者"の憤怒、憎悪…怖れ?
─では、どうするのか?と苦痛のなかで二つの声が問いかける。
「…地に堕ちた鳳凰は…まだ…狂った夢を見るのですか?何が…それ程怖いの…ですか?」
 流れる激情を抑制し、問うような、包むような声音で真理は壬生へと問う。無言のまま、首を絞める圧力が強まる。低く苦痛にうめきながら、それでも、まだだと眼差しを仲間に向ける。
「考…えること…が…それ程怖いの…ですか?…自らの意味…を…知る…こと…が」
「…………黙れ」
 軽い歯軋りの音とともに、容赦なく鋼鉄の指が気管へと食い込んでいく。吐き出すように、探るように、真理はその身から言の葉を紡いで…激情に翻弄されることに、その抑制に慣れていない男の方向性を自分へと向ける。
 その、注意を。その感情を。
 意識が遠くなる──黄泉への階段がちらつく─たえなる蠱惑的な声が囁く───否!
 愛刀で斬り払うごとく、真理はその誘惑を断ち切って、残る力を振り絞り、さらに言葉を紡ぐ。
「良い…のですか?…"銀の魔女"が…来て…いるので…すよ?…そこに」
 真理は"銀の魔女"が、潜在的な脅威となりえる存在の"気配"へと壬生を誘うように視線を、ぞろりと動かした。
「貴様…」

 限界を超えた、自らの力のすべてを振り絞っても、脱出は不可能。出来るのは一行動のみ…それも壬生への致命傷たりえない。抵抗すれば、それだけ行動できる可能性がへっていく─では、どうするのか?
 信じてみたかった、ここまで共に闘って来た仲間達を。
 信じてみたかった、己の力で闘えることを。
そう、心から思ったのだから。生きたいと、生きて闘いたいと、想い人の所に還りたいと。
その為に可能性を作りたかった。これは…命がけの賭けだ。
そうでなければ─余りにも─哀しいのだから─

『どんな運命がまってようとも、未来は選択できるはずです。考えることをやめなければ、進むことをあきらめなければ』
 仲間達に送った合図の視線とともに、その眼差しは彗星のように、その想いを告げていた。その…想いが、生き様が果たして、伝わったかどうかは…わからない。バージニアに、神楽に、そして、皆に。ただ、光に吸い寄せられていく彗星のように── 
 何とか繋ぎ止めている意識の片隅に、見知らぬ男と羽也の姿が、屋上にあるのが─見えた。
  
 だが、もし…もし…これ以上の犠牲を誰かが払わなければならないのなら…その代償は……その代償は?  

http://www.freepage.total.co.jp/DeepBlueOcean/canrei.htm [ No.380 ]


深淵のその先にあるもの

Handle : “銀狼” 神楽 愼司   Date : 99/11/26(Fri) 17:56
Style : カゼ◎、カゼ●、タタラ   Aj/Jender : 推定年齢26 / 男性
Post : シルバーレスキュー グラウンドスタッフ


「貴様…」
壬生が怒りのあまり、両手に力を入れ直そうと足元を揺らす。
その刹那、シンジは神技の様な速さで車体を繰り、一気にA-Killerのアクセルを開放した。
辺りを震わせるタービンの唸りが屋上に響く。
その咆哮は辺りのビルの谷間に広がり、ガラスを激しく震動させた。
その音にバージニアの身体が飛び上がり、思わず両目をきつく閉じて両耳を塞いだ。

彼女が目を開けると、鼓膜が破れるかと思う様な咆哮を上げたシンジの姿はそこになく、彼女は思わず辺りを見回した。
何処に、と彼女が声を上げようとした瞬間、美加が顎をあげた。そして無言で視線を走らせる。その先へと皆が一斉に視線を向ける。
「き、貴様・・・」
シンジはすぐそこにいた。
真理の首を絞めていたその壬生の両手を万力の様な力でギシギシと音を立てながら、倒れたバイクのすぐ傍で、捩じ上げている。
俺はカゼだ。お前が目を離せば何処にだって現れてやるゼ。シンジは低い声と銀色の双眸で壬生を睨んだ。
「真理さん、避けられないその時が来るまで何処までも抗うといい。貴方が逃げられなくなる前に、きっと貴方の心の声を聞く奴が現れるだろう」壬生が憤怒の表情でシンジを睨み返し、両腕を引き離そうと手負いとは感じられない背筋の寒くなる力でシンジへと力を込めてくる。
「まだ貴方の問いに答えていなかったな_____ミス真理」
壬生が口元を歪めた。
「天国を追われた天使は、悪魔になるしかないんだ」言葉を切って目を血走らせながら今度はシンジに言葉を放つ。「まだ、天国にいるつもりのお前は、狂った堕天使だよ。そうだろう! ・・・神楽ぁ!!」
シンジは壬生の力を避ける事無く、石の様にしっかりと受け止める。彼の微細な機械仕掛けの腕がミシリと嫌な音を立てた。
「あぁ、そうだ。俺はあの時間に合わなかっ・・た」静かに息を切らせながら、シンジと壬生に半ば挟まれた様な姿勢の真理の双眸へと目を向ける。彼女の左顔にいつのまにか刀傷くっきりと浮かびあがっている。「だから俺は、彼女の所で全てを取り戻すつもりダ、壬生。俺は、全てを取り戻すぞ! エヴァの元で!!」
シンジは恐らく自分の目を通して今という時間を見ているであろう魔女に向かって心で叫び、銀色の瞳で壬生を見つめた。こういう現実もたまには良いだろうと。
「オォッ!」
身体で真理を間から突き飛ばして壬生を掴む腕を軸に、壬生腕と首を締め上げる様に両足で自らの身体を空中で旋回する様に後ろに回り込む。
そして息が上がった苦しげな表情で美加を見つめ、屋上の全員を一瞬で見通した。
「終わりの時が来た・・・ゾ、壬生。お前が今まで消してきた現実に生きる彼らの力を知るといい」

シンジは銃器を持つものが撃ち込みやすい体勢に自らの身体で壬生を押え込みながら、姿勢を固める。手負いなのか、この状態であるにもかかわらずこの男はッ!!
シンジは軋みを上げながら、極度の無理から来る痛みに耐え、精一杯の力で壬生の身体を押え込む。

急げ!!!

美加を、神狩を、風土を、沖を、火鷹を、そして九条を。最後に美琴とバージニアを見つめる。
今屋上にいる命を持った者達にシンジは叫びを上げた。

http://www.din.or.jp/~niino/ [ No.381 ]


菫色の死神

Handle : ”LadyViorett”我那覇 美加   Date : 99/11/26(Fri) 19:48
Style : カブト◎=カゼ●=カブトワリ   Aj/Jender : 28/female
Post : フリーのカブト/元”麗韻暴”二代目頭の兼業主婦


「終わりの時が来た・・・ゾ、壬生。お前が今まで消してきた現実に生きる彼らの力を知るといい」

息が上がった苦しげな神楽の表情からのメッセージ。
微かに聞こえる軋み、銀狼の心の叫び・・・
迷いもせず組み合っている二人に撃ち、走り出す。
一発貫通したらしく神楽が壬生を押さえた腕が緩み、抜け出そうとする。
そして顔を上げた瞬間、壬生の額の真中に銃口があった。

「もう、眠りナ。」

そう冷たく言い放つと引き金を引き絞った。
辺りに長い銃声が響き渡り、美加は脳漿と返り血を浴び、そして壬生の最後の抵抗・・・何かを掴む様に美加に手を伸ばし・・・そして倒れた。

「・・・終わったのか?」
「・・終わったヨ、何もかも。」

神楽を助け起こし、真理を支えながら美加は言った。

「神経中枢含めて打ち込んだから、ヤツは二度と動かない。」
「・・もう、二度と?」
「・・ああ、アタシが引導を渡したから・・。」
真理にそう言ってもう一度”壬生だったモノ”を降り返る。
その様子は糸が切れて壊れた操り人形のように倒れていたのだった。

 [ No.382 ]


ケセラ・セラ

Handle : 来方 風土(きたかた かざと)   Date : 99/11/26(Fri) 21:48
Style : バサラ●・マヤカシ・チャクラ◎   Aj/Jender : 21歳/男
Post : フリーランス


「あのまま寝ていたら、助かったのにな」
風土は悲しげな笑みを浮かべ、壬生を見下ろす。壬生の残した言葉、鍵、銀の魔女、アラストール、それらがどういった意味を持つのか、これからどうなるのか?
風土はそれらを考え一人苦笑する、自分一人が出来る事などたかが知れている。真理が言っていた通り、皆がいなければ壬生に勝つ事は出来なかった、皆がいたからこそ壬生に勝つ事が出来たのだ。
この後どう為るかは、まさしく神のみが知るだ。だが、皆がいれば何とか為る。
風土は屋上にいるメンバーを眺めながら、楽しげな笑みを浮かべる。
そして壬生の側に跪くと、手をかざし壬生の開いたまぶた閉じる。
「アンタは強かったよ、俺一人では勝てなかっただろう。でも、俺は一人じゃ無かった。それが、俺がアンタに勝てた理由だよ。出来たら差しでやって見たかったけどな」

 [ No.383 ]


ダテンシ。

Handle : “ボディトーク”火鷹 遊衣   Date : 99/11/27(Sat) 03:30
Style : マネキン◎トーキー=トーキー●   Aj/Jender : 17歳/女
Post : フリーの記者


「皆さん……これが狂った堕天使の最期、です……」
壬生を写しながら、喉のマイクを通して映像と声を重ねる。
これが全部の終わりとは思えなかったが、ひとまず動は静に還した、と思えた。

ゆっくりカメラを下ろし、アイ・オブ・ザ・タイガーを起動するのみにして、視線を上げる。
我那覇に肩を貸されている、真理が見えた。
満身創痍で、きっと精神(こころ)も……。
遊衣には、彼女は脆い刃に見えた。
白銀の、薄くて凄絶に美しく、切っ先鋭い故に脆い刃。
遊衣はそういう人を何人も知っている。
そして、彼らは自身が鋭い故に自らを傷つけ、砕けてしまうのだ、ということも。

ボクは、鞘になってあげたい。
彼らにだって、安らげるところが有っていいはずだから。
そうして遊衣は、真理を我那覇の腕から抱き取った。

「ねえ真理さん、知ってる?楽園を追放された天使はね……その悔悟の涙が七つの甕を満たすと楽園に戻れるんだって。結局さ、心の持ちようだよね。光に心を寄せたいと願うなら、人を傷つけて嘲うんじゃなく傷つくなら……きっと、光に帰れるよ」
預けられた体重を受けとめながら、髪をそっと撫でてやる。
いたわる様に。
ねぎらう様に。

そうして視線をめぐらす。
誰も欠けていないのが嬉しかった。
彼女の【幸運の星】さえも。
視線が合ったバージニアに、遊衣はあたう限りの微笑を投げ掛けた。

http://village.infoweb.ne.jp/~fwkw6358/yui.htm [ No.384 ]


天使とは………

Handle : 『親愛なる天使』モリー美琴   Date : 99/11/27(Sat) 07:22
Style : カブト=カブト=カブト   Aj/Jender : 14/女性
Post : フリーランス


 少し離れたところで壬生が倒れている………。美琴は、そーーっと近くに寄っていって
足下にしゃがみ込んだ。
「………もう、大丈夫………」
「とりあえずは………みたい………」
おそるおそるしゃべりかけてくるバージニアに美琴は返した。
 とりあえず、もう再びよみがえってくることはないだろう。自分たちの力を越えた何か
が手を下さなければ………。
(別の所で………)
ふと美琴はそう感じた。もう少し出会う場所が違っていたら……一緒に何かやることがで
きたかもしれない。そうしたら、別の彼が見えたかもしれない………。
「大丈夫?」
 そっと真理に呼びかけて火鷹の方をのぞき込んだ。彼女は優しく微笑みかけてくる。
「天使か………」
火鷹の言葉をじっとかみしめる。なんだか、胸の中で温かい物が広がっていくのがわかった。
「きっと、一番しょうがないのは、追い出されもせずに自分を天使だって思いこんでいた奴。
自分が神に近いから…って思って人の痛みを『仕方ない』って自分では痛みを感じない思って
しまう人かもしれない。………真理さんは違うもん」
真理に話しかける。彼女はじっと黙っていた。
 美琴は、とりあえず、その場所を少しだけ離れた。
「ねえ、バーニィ………今度はバーニィの番かな」
そして、バージニアに近づいていってじっと見つめる。
「さっき、答えを聞き損ねちゃったから………教えて。バーニィは何がしたい?」

 [ No.385 ]


銀の霧

Handle : “銀の魔女”エヴァンジェリン・フォン・シュティーベル   Date : 99/11/27(Sat) 16:38
Style : バサラ◎・カタナ・カゲ●   Aj/Jender : 外見年齢20代/女
Post : 四天使


夜風が銀色の長髪を揺らす。
我知らず、ウェズリィは息を飲んだ。
薄明かりの中、それ自体月の光の粒子によって形成されているのではないかと思えるような銀髪と、病的なまでに白い肌を持つ目の前の女はそれほどまでに美しかった。
陽の光ではなく、月の光、夜の闇の中でこそ輝く魔性の美貌だ。
「霧に迷うた狼がまた一匹。」
銀瞳を細め、女は言った。
「帰る道を聞きたいのなら、残念だが、ないな。」
「アレに関わってしまったからには、奴らは見逃してはくれまい。」
もとより承知の上だと言うように、ウェズリィが肩をすくめる。
「私は忙しい。おまえに関わっている暇はないよ。」
「銀の魔女。」
興味を無くしたように、再び真理達がいるビルを見つめた女に、呟くようにウェズリィが言った。
「その名を迂闊に口にしないことだな。今すぐ死にたくはないだろう?」
「それとも・・・」
「私がほしいのか?」
下腹部から胸、首へ自らを愛撫するように指先をつたわせながら女、“銀の魔女”エヴァンジェリンは薄く笑った。男を虜にし、したがわせずにはいられない蠱惑的な微笑。
体が熱くなるのを一瞬感じながら、ウェズリィは自らを自制する。
魅力的な微笑のその裏にある背筋が凍えるような何かを感じたからだ。
“この女は危険だ!”
理性ではなく本能がそう告げた。
「私は今回の舞台に立つ気はない。早々に仲間達の元へ帰れ、探偵。」
それ自体に物理的な力があるかのような、圧倒的な強制力を秘めた言葉をウェズリィに投げ、エヴァは再びビルへと視線を戻した。

 [ No.386 ]


late talk

Handle : ”SwornSword"九条 誠   Date : 99/11/28(Sun) 01:25
Style : エグゼク●◎、カリスマ、レッガー   Aj/Jender : 三十代前半/MALE
Post : イワサキ


壬生の完全な死亡。そして、12時の鐘。魔法の解ける時間。すべき事は後少し。そして喋りかける。
「ようやく聞けますね。これから先はどうなされます? 貴女が望むのであれば彼女の命を受けたイワサキがあなたを保護します、バージニアさん?」
反応より早く言う。
「よろしければ……あなたが望むのでしたら月へも。ただ今すぐは無理ですが」
その台詞を言い終え彼女からの反応を待った……

 [ No.387 ]


問い

Handle : ”無免許探偵”ウェズリィ   Date : 99/11/29(Mon) 23:04
Style : KABUTO,FATE◎●,KABUTO-WARI   Aj/Jender : 外見20代/Male
Post : Freelans


「俺には仲間なんていないな。それに、目の前のご馳走に何が入っているかも判らずに、がっつくほど餓えている訳ではないのでね」
 魔女の言葉にウェズは平然として応えた。通常の人物なら押し切られるような、強烈とも言える圧迫感も苦に感じている様子もない。
「それに俺は狼なんかじゃない。ただの野良犬さ」
「孤高を貫く狼。人はそれを『天狼』と呼ぶのだ、探偵。今のお前はまさしくそれだ。死んでも誰も泣いてはくれぬし、誰も葬ってはくれぬ」
「聞きたいことがあっただけさ。あんたと今やり合うつもりはない」
 先ほどの甘い蠱惑的な誘惑の影響も全く感じさせない。その口調は軽やかさを失わず、その表情は穏やかさを失わない。ただエヴァの背中を見つめる視線だけが、遙か記憶の彼方に眠る”悪魔”達の面影を残しているだけだった。
「それさえ聞けたのなら今のところ、貴女には用はない。敵対するつもりもないし、貴女がすることを邪魔するつもりもない。むしろ手を貸せるのならば貸しても構わないと思っている。目的が同じなら、の話だが」
 真理達がいるビルを見つめている女の背中が微かに震えた。ビルの屋上にいる彼女たちはどうなっているのか。機械仕掛けの眼を動かすこともない。ウェズは魔女に、いや、それを越えた”何者か”に向かって今まで聞きたかった質問を投げかけた。
「”死した神”よ?今再びの生をえて何を望む?」

 [ No.388 ]


さらば愛しき人よ

Handle : マリー・B・アンダーソン   Date : 99/11/30(Tue) 00:28
Style : エグゼグ◎・ハイランダー・ミストレス●   Aj/Jender : 88歳/女
Post : アンダーソン財閥


ヴィル・ヌーブ  レキシントン・レイク

湖に面した彼女の病室からは外の様子がよく見てとれた。
午後のまどろみから覚め、陽光にきらめく湖面を見つめていた時、大型スクリーンを備えた端末のコール音が鳴った。
モニターに2年前他界した夫の面差しに似た、優しそうな青年の姿が映し出される。
「テレンス。」
目を細め、ありたけの愛情を込めて孫の名を呼んだ。
「お祖母様、壬生が死にました。そして、彼らは全員無事です。」
「そう・・・・」
しばしの間の後、絞り出すようにようやくそう答えた。
「よかったですね。」
どこか寂しそうな笑みをうかべテレンスが言う。
「そうね・・・本当によかった。」
なんとなく、彼女にはその事が解っていた。長い間彼女を苦しめていた悪夢、最愛の友人達が死ぬ夢を今朝は見なかったからだ。
真理が、モリーが、遊衣が目前で死んでいった時の事を忘れた事などなかったというのに・・・
あの隠れ家での惨劇、そして時間を越え、逃れた彼女は70年前のヴィルヌーブに現れた。
そして、闘い始めたのだ。
今度こそ大切な人達を失わないために。
長い年月を経て、再び彼女は失った時間に追いついた。
だが、不思議と達成感は湧いてこない。
彼女の中で、友はたしかに死んでしまったのだという事を自覚したにすぎなかった。
それは動かしがたい事実なのだ。
それでも・・・・
「お祖母様?」
テレンスが心配気に訪ねた。
「さっき夢の中でもう一人の私に会って来たわ。大きな光る大河のほとりで迷子になっていたのよ。」
「歴史は変わった。友を失わずにすんだ私はどんな時間を歩むのかしら?」
「でも、あの娘なら大丈夫だと、そう感じたわ。」
そして、どこか少女のような無邪気な微笑を浮かべ、大きく息をついた。
「とにかく・・・ほんとうに皆が無事でよかった。」
「顔色が悪いですよ。もうすこしおやすみになった方が・・・」
気遣ってくれる孫にやさしく微笑み、頷く。
「そうね、少し休みます。」
「おやすみなさい。お祖母様。」
「おやすみ、私のテリー。それから、本当にありがとう。」
青年の頬を涙が一滴つたった。そしてそれを見られまいとするかのように通信が切れる。
彼女、マリー・B・アンダーソンは深くベッドに横たわり目を閉じた。
体の中から長い間溜まっていた澱のようなものが全てなくなっていくような開放感を感じた。
「これでようやくあなた達のところに行けるわね。」
懐かしい友人達が微笑み、頷いたような気がした。
それは、実にやすらかな横顔だった。
微かな微笑さえ浮かべ、もう一人のバージニア・ヴァレンタインは永い眠りについた。

 [ No.389 ]


彼女の時間

Handle : バージニア・ヴァレンタイン   Date : 99/11/30(Tue) 00:32
Style : マネキン◎●・マネキン・ハイランダー   Aj/Jender : 17歳/女
Post : ?


生と死の狭間をかいま見せ、堕天使はもの言わぬ骸と化した。
その存在はまさに実体化した死そのものだった。
しばしの間、静寂が屋上を支配し、皆軽い脱力感を覚えた。
風にのって聞こえてくる中華街の喧噪が別の世界の出来事のようだ。
しかし、物語は終わったわけではない。
彼らにはまだしなければならない事があるのだ。
そしてモリーが、九条がバージニアに問いかけた。
もしかしたら、彼らにはすでに答えが解っていたのかもしれない。
それでも聞かずにはいられなかったのだ。
「あなたはどうするの?」と。
恐怖と緊張により泣き笑いのような表情をしていたバージニアから、一瞬あらゆる感情が失せ、あの胸をしめつけるような哀しげな微笑が蘇った。
モリーの手が我知らず空を掴む。それはまるで失い行く何かを取り戻そうとしているかのようだ。
「行かなきゃならない所があるの。」
おそらく、ありたけの自制心を振り絞っているのだろう。
白くなる程、拳を握りしめ、バージニアはそう答えた。
そして、彼女は語り始めた。
光る大河で聞いたもう一人の自分、テレンスの祖母、マリー・B・アンダーソンの言葉を。
マリーが体験した過去。
隠れ家で真理をはじめ、モリー達全てが死亡し、時間を越えて逃れた彼女が70年前のヴィルヌーブに現れた事。
再び消えてしまうのではないかという不安と友人の死の悪夢に怯えながら、今日、この時再び友を失わないために孤独な闘いを始めた事を。
そして最後に自分に残された時間、この時代にとどまることの出来る時間が終わろうとしていることを告げた。
語り終えた彼女の瞳からはとめどなく涙が溢れていた。
彼女の中の様々な想いが溢れだしているかのように・・・
泣き叫ぶわけではなく、ただ静かに涙を流していた。
「バーニィ・・・」
何かを言おうとした遊衣が息をのんだ。
バージニアの体が微かな燐光を発している。
それはまるで、月が己が愛し子を腕の中に取り戻そうとしているかのような、神々しく、そしてどこか儚い輝きだった。

 [ No.390 ]


霧への扉

Handle : “銀狼” 神楽 愼司   Date : 99/11/30(Tue) 20:26
Style : カゼ◎、カゼ●、タタラ   Aj/Jender : 推定年齢26 / 男性
Post : シルバーレスキュー グラウンドスタッフ


「おかえり____________バージニア」
シンジは血を流す腕を握り締め、痛みを心の中からカットする。
そして始めて何かを慈しむ様な表情で、燐光をその身に纏い始めたバージニアを暫く見つめ、もの憂げな表情で倒れたバイクに視線を落した。
「君の声は届いたかい? ・・・いや、届いたんだろうな」
倒れて傷ついたバイクを半ば身体で押し上げる様に引き起こす。何かもっと俺は言葉で彼女に伝えたい事があるはずだとシンジは一瞬視線をバージニアに戻すが、その思いを振り切る様にかぶりを振る。
そしてその双眸をウェズリィとエヴァが佇む建物へと向けた。
「もう行くか・・・エヴァ」

シンジはタービンを再始動させるとゆっくりとそれに跨った。
その視線は建物を飛び越え、空間と時間を飛び越え、エヴァを・・・そしてその後ろに見え隠れする大きな影へと視線を向けた。

もう、そろそろ行かなければ。
シンジは静かに呟き________________鮫の様な凄惨な笑みで口元を歪めた。

http://www.din.or.jp/~niino/ [ No.391 ]


別れの予感

Handle : 『親愛なる天使』モリー美琴   Date : 99/12/01(Wed) 23:49
Style : カブト=カブト=カブト   Aj/Jender : 14/女性
Post : フリーランス


 全てが終わった静けさの中で、彼女は静かに言葉を紡いでいた。過去の自分の言葉、そして、悪夢にうなされていた毎日を………。
「行かなきゃいけないところがあるの」
バージニアの言葉に、美琴は黙ってうなずいていた。そして、ゆっくりと彼女に近づいて、彼女の顔をじっと見つめる。
 バージニアは微笑んでいた。それは、今まで美琴が見たことのない様な寂しげな、しかし、何かを想っている笑顔だった。何か言わなきゃ………美琴は一生懸命彼女にかける言葉を考えていたが、なかなか思いつかなかった。
 そして、しばらく考え込んだ後に、うつむいて自分の首にかけてあったペンダントをゆっくりとはずす。
「………頑張って………。バーニィ自身が後悔をしないように………」
「うん………。これは………?」
「お守りだよ。バーニィと離れていても、あたしはずっとバーニィを信じてる…バーニィの気持ちの中にいるから………。もちろん、他のみんなもそうだと思う………だから、頑張って………」
そう言って、涙がこぼれないように一生懸命こらえながら、美琴はバージニアに微笑みかけた。
「でも………行かなきゃいけないって言うのは、どこ? 一緒にはいけないの?」
 それから、美琴はさらに、バージニアの顔をじっと見つめて尋ねた。しかし、彼女は首を軽く振り、拳を握りしめたままじっと黙って立っていた。
「どこかだけでも教えて………」
それでも黙っているバージニア。
「『鍵』…だから………? でも、『鍵』って一体、何の鍵なの?」
バージニアはさらに黙っている。
 美琴は、バージニアが何か返してくれるのをじっと待っていた。

http://www4.freeweb.or.jp/play/aya_aira [ No.392 ]


Fly Me to The Moon

Handle : バージニア・ヴァレンタイン   Date : 99/12/02(Thu) 00:26
Style : マネキン◎●・マネキン・ハイランダー   Aj/Jender : 17歳/女
Post : 予言者


「世界の再生を・・・」
「それとも混沌か・・・」
エヴァが、それとも彼女ではない何者かがそう答えた。
「それは、あいつらと同じ目的を持つという事か?」
ウェズリィが詰め寄る。
「さあ?」
魔女は曖昧な笑みを浮かべ、闇色のコートをひるがえした。
ゴオ。
刹那、突風がまきおこる。
そして風が止んだ後には、そこに魔女の姿はなかった。
「せいぜいあがく事だ、探偵。」
どこからか、エヴァの声が聞こえた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「鍵って何なのか、私があの人達にとってどんな意味を持つのか、私にも解らない。」
「でも、それはこれからあなた・・・いえ、あなた達に深く関わってくる言葉だわ。」
「解るんじゃない、そう感じるの。」
バージニアはモリーの顔を見つめ、困ったように笑った。
「ありがとう。大事にするね。」
そう言って、包み込むようにペンダントを握りしめる。
今や、彼女は全身を蛍火をおもわせる燐光につつまれていた。
頬をつたう涙がその光をうけて月の雫のように輝き、アスファルトに小さなシミを穿った。
それはこの幻のような少女が、今だこの混沌の街に存在しているという確かな証でもあった。
「そうか。」
その様子を見やり沖が呟く。
そして理解した。
彼女の哀しげな微笑の意味を。
バージニアの話が本当なら、歴史が変わった今、彼女が70年前のヴィルヌーブに現れるという保証はどこにもない。
もしかしたらもっと昔、あるいは遙かな未来に飛ぶかもしれない。
最悪の場合、永遠に時の狭間を放浪し続ける可能性さえあるのだ。
言いしれぬ戦慄を感じ、沖は自らをかき抱くように身を震わせた。
それは孤独。
気の弱い者なら発狂しかねない果てしなく続く孤独と恐怖だった。
友との別れと想像を絶する恐怖、それら全てを受け入れ、なお諦めることなく前を見続ける瞳。
あの小さな少女のどこに、そんな強い意志が宿っているのか。
「そうか・・・だから真理の微笑とダブって見えたのか。」
沖は傷つき、それでも信じる者のために闘い続けた紅の瞳をもつ女性を見た。

「信じている。」

“別れたくない”

バージニアは努めて明るくそう言った。
それでも、言葉とは裏腹に瞳は別の言葉を紡ぎ続ける。

「さっき私は皆に信じていると言ったね。」

“どこにも行きたくないよ”

「その気持ちは変わらないよ。だから、皆も信じて。」

“でも・・・・”

「また、会えるって。」

「だから、今度会った時は・・・」

そして、彼女は最高の笑みを浮かべ最愛の人達を見つめた。
その姿をけっして忘れまいとするかのように。
頬を涙に濡らしたまま。

「私を月に連れていって。」

“さようなら、そしてありがとう愛しい人達。”

そして・・・微かな残光を残し、バージニア・ヴァレンタインは彼らの前から姿を消した。
主の後を追うように、彼女の愛機も次いで消え、後には静寂のみが残った。

「また、会える。」

誰かが、そう呟いた。

 [ No.393 ]


死の卿と月の暗示

Handle : “デス・ロード”アレックス・タウンゼント   Date : 99/12/02(Thu) 23:01
Style : バサラ◎,カブト=カブト●   Aj/Jender : 32?/Male
Post : Majician of Nite, served to death


「... Fly Me to ......」

 大きな力。力あることば。
だが、到達地点の方から感じられたそれは、アレックスが認識する前に消えていた。夜の光が集い、彼が姿を現わした時には、力が去った後の静寂だけが残っていた。
 一堂に会している人間は静かだった。LU$Tの街の光と月の光だけが彼らを照らしていた。まるで――長い長い戯曲を見終わった後の観客たちのようだった。
「‥‥欲望の街で暗示されたのは幻影のカード‥‥なるほど、役者たちにとっては正しい予言だったのかな。‥‥ああ、いや」
 呟いた彼の声にある者は振り向き様に身構え、彼を知る者は懐かしそうに表情を変えた。
 身構えた人間たちを軽く手で制し、アレックスは苦笑した。手を振り上げた瞬間、鈍い痛みが体に走ったのだ。しばらく休養でもした方がよさそうだった。これではカブトの仕事も勤まらない。
「大体の話は病院で‥‥聞いたよ。彼のお陰で」
 目指す相手はすぐ分かった。微かなタービン音を響かせるマシンにSRのロゴが光っている。なにより、彼の眼の中に狼の眼の光が見えたのだから。
「カグラ・シンジ。銀狼のカグラ・シンジ。そうか、君だったんだな」
 アレックスは言った。
「意識を失っていた時、何度も見たよ。霧の中を走る狼の幻を。俺に語り掛けてきた銀の狼を。まず礼を言わなければならないのは君だ。死神の領域ですらない死の谷を、俺はさ迷うところだった」
 集まっている人間は様々だった。知っている人間も知らない人間もいた。人外の力を秘めたあの怜悧な男も――だいぶ乱れてしまった服装で――立っていた。アレックスは悟った。夕暮れの中華街を歩いていた時、天輪の響きと共に一番最初に感じたのは、彼の持つ雰囲気だったのだろう。
「それから、詫びなければならんな」
 昔会ったきりだったイワサキのコーポレートと、傷付きながら立っている紅玉の瞳の戦姫に彼は言った。
「俺は盟約を果たすことができなかった。すまん。デス・ロードの名に恥じる失態だ。天を追われた天使の力は‥‥意外なところに源があったようだが」
 隅を見やると、冷たい床の上で、あの男が眠っていた。恐らく銀狼の体当たりを受けたのだろうか、乱れた深緑のスーツ。額に一発撃ち込まれた弾丸。
 右足を踏み出した時、まだ痛みが走った。反射的に秦真理を突き飛ばしたあの時――最初に踏み出したのも右足だった。アレックスはやや顔をしかめ、壬生の死体に近づくと屈み込んだ。
 血に塗れたブラックグラスが割れ、その下の瞳は閉じられている。光の帝国から来た男の眼を見ることは、遂にできなかった。
 アレックスは手を出すと、そのスーツの鳳の紋章についた埃を払った。この帝国の密使の約定の日は守られ、彼の魂は行くべき所に迎えられた。死神の使いが、あえてそれを汚すことはあるまい。
 陽炎のように揺らめいた彼の腕。あの一瞬の光景が今でも脳裏に甦ってくる。本当にこの男なのだろうか? この男の一撃でデス・ロードは死の谷をさ迷ったのだろうか?
「手品の種ってのは分かるとあっけないもんだ。“震王”はMEGADYNE製のバイオウェアの一種だったのさ。このゴミはもう、土に返っちまったけどな」
 軽い口調で、誰かの声が頭上から掛かる。
「だから魔法使いは手の内を明かさない‥‥被験者の立場から言うと、あっけないと言うか、とても複雑な気分なんだがね」
 アレックスは苦笑すると立ち上がり、男の方に向き直った。またも体のあちこちから痛みが走り、彼は顔をしかめた。
 この若者が来方というのだろう。体術を学んでいるのだろうか、しなやかな体格をした若者だった。その回りに集う見えない微風が、見えない月光の粒子をゆるやかに舞わせていた。夜の力を修めた魔法使いには、それが見えた。
「天国を追われた悪魔が使うのは――深淵の奥底の力。それに対抗し得るのは同じ夜の力ではなく――闇を吹き払う風の力だったという訳か」
 アレックスは若者の肩に軽く手をやると言った。
「流石だ、ウィンドマスター」

http://www2s.biglobe.ne.jp/~iwasiman/foundation/repo/991009.htm [ No.394 ]


ザンジュウケン、退場。

Handle : “バトロイド”斬銃拳   Date : 99/12/04(Sat) 23:42
Style : カタナ◎● カブトワリ チャクラ   Aj/Jender : 25歳/男性
Post : フリーランス/ソロ


全てが終わった時、斬銃拳の姿はSTARビルには無かった。そして屋上にあった“タナトス”の残骸には何かを切り取ったような刃の跡があった。

STARビルを見上げる通りに斬銃拳の姿は在った。
斬銃拳の傍らには色あせたコートを着たブロンド髪の優男が立っていた。二人は目を合わせずに語らう。
「終わったかね?斬銃拳。」
「ええ、終わりマシタよ・・・。壬生は死にマシタ。彼の一部である“震王”と、彼の知る情報と共にネ。バージニアは・・・消えマシタ。」
「そうか。・・・いや、ご苦労だったな。初めてのヨコハマ観光を騒がせたね。」
「いえいえ、ワタシと“天魔”サンの仲じゃないデスか。しかし・・・彼らはホントは何を企んでいたのデショウね?」
「それは」
“天魔”の目が厳しくなる。
「君にはどうでも良いことだろう?」
「くっくっく・・・そうデシタね。」
「しかし、残念だ。壬生は死んだか。」
「・・・彼の知っている事を知りたかった・・・のデスネ?」
「まあな。」
「では、一つ良いお土産が・・・。」
斬銃拳は懐から赤いランプの点いた二つの小さな機械の切れ端を取り出した。
「“千眼”の“精神の入っていた物”を持って来マシタ。存分に調べて下さいナ・・・。」
二人の男はコートを翻しすれ違うと、それぞれ違う道へ歩き始めた。斬銃拳は空港へと向かった。

 [ No.395 ]


月夜の晩に風が吹く

Handle : 来方 風土(きたかた かざと)   Date : 99/12/06(Mon) 23:21
Style : バサラ●・マヤカシ・チャクラ◎   Aj/Jender : 21歳/男
Post : フリーランス


「そんなにたいしたもんじゃないよ、皆がいたからこそ勝てたんだ」
アレックスの言葉に風土は照れた様に笑う。
「それに……」
「それに?」
「奴を助ける事が出来なかった」
その視線の先には、倒れた壬生の姿が在った。風土の言葉にアレックスは意外そうな表情を浮かべる。
「変かな?、なるべく関わった人間に死んで欲しくないと思うんだ。善い奴、悪い奴に関わらずにな」
「甘いな、それでは何時か命を落とす事になるぞ」
「じゃあ、もっと強くなるよ。甘ちゃんでいる為に」
風土はそう言うと、皆に背を向け歩き出す。
「どこへ…」
真理がその背に声を掛け、風土は背を向けたまま立ち止まる。
「ゲームも終ったみたいだし、早く家に帰らないと奥さんに怒られるからね」
「え!、結婚してたの!」
美琴が驚きの声を上げる。風土は振り向きその問いに答える。
「結婚もしてるし、子供も一人いるよ、男の子だけど。今回は楽しかったよ、色んな事が在ったけど今は本当にそう思うよ」
風土は微笑むと、階段へ向けて歩き出す。入り口へ僅かながら踏み込むが、思い出した様に立ち止まると皆に振り向く。
「また、面白そうな“ゲーム”が在ったら、参加さしてもらうよ。それじゃ、また」
その姿が消えた後、シンジが呟く。
「来方 風土か。まさしくその名の通り、風の様な男だな」

 [ No.396 ]


Re:Fly Me to The Moon

Handle : 『親愛なる天使』モリー美琴   Date : 99/12/07(Tue) 09:06
Style : カブト=カブト=カブト   Aj/Jender : 14/女性
Post : フリーランス


 美琴の前で、バージニアはみなに別れの言葉を告げていた。
「バーニィ、気をつけてね」
「あまり泣くと、バージニアが心配してしまうわよ」
美琴は、目に涙をいっぱいにしてバージニアを見つめていた。
 後ろからやさしく抱きしめてくれる真理の言葉にうなずくが、それが精一杯でいったんこぼれ始めた涙はなかなか止めることは出来なかった。
 ふっとバージニアの表情がやさしくなる。そして、彼女は美琴の頭をその柔らかい手でゆっくりとなで始めた。
「大丈夫だから……モリー、あんまり泣かないで」
その笑顔、言葉は美琴を、そして、他のみなを心配させないようにしている物ではあるが、何かが違っていた。
『違う…バーニィは………』
胸がざわざわする。言いようのない不安が美琴を包んでいた。
『バーニィは大丈夫って言ってるよ』
『でも、何かが違うの』
『バーニィを信じてるんでしょ?』
『信じてる…でも………』
自分の中で、2人の自分が会話している。そして、美琴の中で何かがだんだん大きくなっていく………。
「バーニィ………」
 美琴は、どうしていいのかわからず、バージニアを見つめる。その時、バージニアは………泣いていた…表面上は確かに笑顔だったが、彼女は泣いていたのだ。
 みなと別れるのが悲しい…確かにそれもあるだろう…しかし、それだけではない…それ以上に彼女が抱えているものが彼女を泣かせているのだ。

「みんなありがとう…。本当はここにいない人たちにも言いたいんだけど……それは無理そうだから………」
 美琴は、小さくうなずくと、一人一人にゆっくりと抱きついた。そして、最後に真理の前に立つ。そして、ゆっくり、しっかりと抱きついた。
「どうしたらいいかわからなかった。……本当にありがとう………」
真理は、そんな美琴をただ黙って、本当にやさしい表情で見つめていた。
「バーニィ!」
 そして、美琴は真理から離れてふかぶかとお辞儀をすると、バージニアに向かってまっすぐにかけていった。そして、今にも消えそうな彼女にダッと勢い良く飛びつく。
「…………だめっ!」
 彼女の行動に一番驚いたのは、きっと、バージニアだったのではないだろうか………目を丸くして美琴を見つめ、そして、あわてて手を精一杯伸ばし、少しでも自分から遠くに置こうとする。しかし、美琴はそんな彼女にぎゅっと抱きついた。
「一緒に行くから…あたし、バーニィと一緒に行く………もう、決めたんだから……」
 厳しい表情のあと、彼女の顔をじっと見つめて、美琴はふっと笑った。
「知ってる? 二人だと、幸せや楽しいことは2倍、悲しいことやつらいことは半分になるんだよね……」
「モリー………」
バージニアは今度は確かに泣いていた。友や周りの存在がうれしかったためだろうか、それとも、ここまでまきこんでしまったためだろうか、それとも………とにかく、彼女は泣いていた。それは、悲しみだけの涙ではなさそうである。
「だめって言ったってついていくからね」
 バーニィはこくりとうなずいた。にっこりと微笑む美琴。
 そして、美琴は自分の周りをじっと見つめていた。少しずつかすみがかかり、ぼやけていく中華街をじっと見つめている。物心ついた頃から育ててくれた、元気があって少し乱暴で、そして、時々突き放しながら、一番大切なときには優しく自分を包んでくれる中華街………。この次に会えるのはいつだろうか…そして、その時には今と同じ優しさで包んでくれるのだろうか………。
『そう言えば、お店のおじさんたちにも何も言ってこなかったな…心配しないかな……』
美琴は小さく首を振って、バージニアの方を見た。表情全部であらわしているわけではないが、そこからはうれしさが漂っていた。
「これからもよろしくね」
「………こちらこそ」
美琴とバージニアはお互いに顔を見合わせて、くすくすと笑った。
>「だから、今度会った時には…私を月に連れて行って」
「約束したからね」
 光がまぶしくあたりを包む寸前、バージニアと美琴は周りの人々にそう言った。
 そして、フラッシュをたいたように、辺りが一瞬まぶしくなる。(何もつけていない人たちは)あまりのまぶしさに目を覆った。
 そして………光が消えた後には、2人の姿はそこにはなかった。


 


http://www4.freeweb.or.jp/play/aya_aira [ No.397 ]


昇華の宴

Handle : “銀狼” 神楽 愼司   Date : 99/12/08(Wed) 13:32
Style : カゼ◎、カゼ●、タタラ   Aj/Jender : 推定年齢26 / 男性
Post : シルバーレスキュー グラウンドスタッフ


シンジは低い回転で車体を繰ると消えたエヴァを待っていたかの様に、路地の一角を見詰めた。
「今夜は冷える・・・あの日の夜を思い出すな」
口元を歪めたまま、シンジはバイクをゆっくりと進めて佇む真理の傍へと寄る。
だが、真理はその視線を漂わせたまま、今は消え去ったバージニアのいた空虚な場所をただ見つめていた。シンジがバイクを寄せてもただ彼女は寂しそうに見つめ返すだけだった。
「・・・・・・・」
真理からの消え入りそうな問いかけにシンジは微笑む。
「歴史が繰り返されている訳ではない。俺達がこうやって生き延びただけでも新しい道のりだ。バージニアの因果に美琴が絡んだだけで、今、もう見えない因縁が皆に絡んでいる。ここにいるもの・・・ここにいないものを含めて」
シンジはそれだけ呟くと自らを再度A-Killerに__________デス・スターに結線すると、今まで見た事すべてを衛星に投げる。
ズシン! 僅かな音圧を意識するまもなく爆振が足元に伝わる。
その途端、屋上の皆の視界を占めている路地の一角が爆音を上げて一つの建物が崩壊し始め、辺りが喧騒に包まれ始めた。
シンジは素早くバイクを繰ると神技の様な速さで屋上から・・ビルから・・路地から抜け出す。
灰色のドームを通り抜けながら、喧騒を抜け、目指す。
終わったのか? いや、まだだ。 シンジは僅かに苦笑しながらA-Killerをねじ伏せる。
ちょうど中華街を抜ける頃だ。パァンと言う乾いた銃声と共に、肩を貫くような痛みが走り、シンジの視界が歪み、陽炎の様に揺れた。
自分が特殊な鉄鋼弾に撃たれたのだと意識する前に視界が暗くなって行く。
実に見事な狙撃だった。近づいてくるエヴァの姿が彩りを無くし、『シンジ・・・』と言う彼女の呟きが遠い囁きへと変わった。

目覚めると自分が変わらずバイクに跨り、その傍らにエヴァが自分を見詰めながら佇んでいる事に気がつく。やたらに寒かった。
「冷えるな」
「出血しているからだ、シンジ」
シンジは不思議と痛みが無く、氷に使ったかの様に冷たさを伝える肩に手をやる。
「肩甲骨の下だ。弾は紙切れを撃ち抜くようにお前を抜けたよ。骨も砕いて」
「・・・あまり痛みが無い」
「バイクにあるSRのドラッグを打ったからだ」
「あんた、俺の事は何でもお見通しだな」
苦笑しながら、僅かにくらい自分の視界を覚ます様に辺りを振り返る。
「壬生は?」
「お前の知る某氏が運んでいったよ。映像ならある」
「結局はイワサキなのか?」
「・・・お前の想像通りだよ」
シンジは口元を歪める。
「早すぎたんだ」
エヴァは仕方ないと言うように肩を少しだけ竦めた後、シンジの双眸と肩を交互に見つめた。「動けるか?」
エヴァに後ろに乗るように促すと、彼女は少し微笑んで黙って後ろに回りシンジの腰に手を回した。
「_________バージニアは還ったよ」シンジはバイクを再始動する。「美琴がその後を追った。他の奴等はこの事象にとどまったがね」
「知っている」
エヴァは笑った。
「全てお前の目を通して見ていたから」
やたらに寒さを訴える肩を無視して、シンジはA-Killerを繰る。撃たれた傷は一過性のものだ。無くした身体を思い出させるように時折、叫びを上げるだけだ。もうその会話にも馴れ始めようとしている。
クロノメーターを見つめる。時間は真夜中から朝になろうとしていてバイクを走らせる前にシンジは一度だけ目を閉じた。
じきに切れるドラッグの為に、肩が火を噴く前にエヴァの言う壬生の最後を見つめたかったのだ。壬生の最後は撃たれたあの瞬間に決まるのではない。彼の遺体が引き取られるべき所に渡った時点で決まる事を知っているからだった。
エヴァが少しだけ苦笑した。
「シンジ。まだあの時間に未練があるの?」
視界の片隅に、壬生が遺体袋から出されて様々な機器に包まれた空間へと移送されるその様子を見つめながらシンジは口元を歪める。
「いや、失った時間に別れを告げるだけだ」

冷えて硬くなり、生命活動も電気的活動も途絶えたと伝える精密医療機器の信号を衛星を通してシンジは見つめる。
壬生が死を賭してまで追いかけたのは、自分達自らも追い続けるものと的が異なっているのではなく、遣り方が異なっていただけだ。それを痛いほど感じる。真理と言うあの女性を通して久しく感じる事の無かった生きる人間としての激昂と修羅としてのリズム。そして屋上に終結した抗う者達_____________LU$Tに・・NOVAに刻まれし者達の律動が、忘れて久しい、自分の失った過去を思い出させる。それにシンジは声を上げた。
悪魔と呼ばれた壬生と、彼に堕天使と言われた俺は一体何が異なると言うのか。
アラストールと言う世界に混沌と浄化を促す因果を齎す存在へとアプローチを掛ける自分達の目指す所は何処に位置するのか。
人間と言う地図の中の何処に所在するのか。
「シンジ、お前は何処へ行くつもりだ?」
エヴァが身体を齎せかける様にA-Kilerを繰るシンジに問い掛けてくる。
きっと何処でもいいのだろうな。目指すべき所が言うまでもなく私達の前に現れるのだから。呟くエヴァにシンジは答える。
「4天使が呼んでいる。昇華の宴が_____________始まるぞ」
それに答える様に、背中につかまるエヴァが囁く様に歌い始める。
メットを通してもその歌声はシンジの耳へと届いた。幾百年と事象を見つめてきた魔女には一体何が絡み付いているのか。僅かな疑問を投じるそれらの音や歌声が、糸の様に絡んではまとまり、ただ時間と言う風に流される。
これからは、新しい時間が待っているんだ。まずはアラストールに会わなければ、とシンジは素直に感じ、そんな自分を待ち構えていたかの様に消滅した壬生の声が心に響いた。

シンジ、話をしよう。我らが先祖がその身を窶して求めた神の話をしよう。お前とは死んだ今だからこそ離したい事がある。
・・・俺はもう自由だから。

____________一つの輪が止まり、運命の歯車がまた、姿を現そうとしていた。

http://www.din.or.jp/~niino/ [ No.398 ]


real sings

Handle : ”SwornSword"九条 誠   Date : 99/12/10(Fri) 01:31
Style : エグゼク●◎、レッガー、カリスマ   Aj/Jender : 男/30代前半
Post : イワサキ


「……ようやく終わりましたか」
 全員に向かって喋りかける。
「さて、皆さんどうされますか?」
 返事を待たずに続けて、
「彼女を探しさまようも、そして休むのも良いでしょう」
 両手を組み、壁にもたれかかり言う。
「今回の事件はとりあえず終わりました。いくつもの闇の中の一つですがね」
 心持ち顔を上げ、誰にとも無く語り掛ける。
「貴方達の働きには感謝します。おかげで暴走した壬生一味を退治することが出来ました」
 動こうとするのを目で制し鋭く強く言い放つ。
「争う気はありませんよ。あれば貴方達はすでに死んでいますよ。今の武器は誰のですか?」
 壁から背をはなし、微笑み両手を広げて言葉をつむぐ。
「我々は貴方達を歓迎します。私どものもとに来ていただけるのでしたらこれを使用して連絡ください」
 懐から携帯電話を取り出し下に置く。振り向き扉から中に入るときに言い残す。
「それでは皆さん、またいつか会うときがあるかもしれません、そのときはどうぞお手柔らかに頼みますよ」
 そしてそのまま階段を降りていく。他の人間から見えなくなったところで立ち止まりそこに人がいるかのように話しかける。
「これで貴女からの注文はすべて終わりましたか。今回だけですよ、これで貸し借りなしですから。同じ運命と言う名前のシステムに反逆するもの同士ですからね」
 足を止め、振りかえり、そして微笑して
「……ですが協力できるとは言えませんからね。残念ですがこれも戦争なんですよ。それではまたいつか、バーニィ」
 そして、彼はそのままいずれとも無く消えていった……

 [ No.399 ]


メッセージ

Handle : ”無免許探偵”ウェズリィ   Date : 99/12/10(Fri) 16:07
Style : KABUTO,FATE◎●,KABUTO-WARI   Aj/Jender : 外見20代/Male
Post : Freelans


 ウェズは硝煙臭い煙の漂うライフルをそっと下に下げた。
 ”銀狼”への挨拶は終わった。
 この次会う時は…恐らくは…。

 辺りを見渡した。
 既に誰もいなくなっていた。
 彼以外の人々が悪魔と死闘を繰り広げたあの騒々しさも夢の如く無に帰った。
 ポケットロンがメッセージを伝えていた。
 会いたい人がいるという。千早のエグゼグ。確かゴードンとか言っていた男だった。
 「全ての条件をのむ」
 それだけを伝えた。
 既に行く道は決まっているのだから。

 ウェズはポケットから鈍く光る何かを取り出した。
 それは古ぼけてさび付きかけた小さなブルースハープだった。
 月の光に照らされてそれは本来銀色であった部分は蒼く照らされた。
 雲の切れ間から差し込む眩い光がハープに十字架のような光を放つ。
 それは夜を切り裂いた。

『拾った貝殻を捨てるように あなたは行ってしまったけれど』
 
 ウェズはハープを奏で始めた。
 そこに友の亡骸はなくとも魂はまだ僅かな間とどまっていると思ったから。
 約束は果たされなければならないから。

『楡の木蔭で 束の間の恋は信じやすくて』
 
 ハープはかすれた音を奏でているだけだった。
 思い出す。
 この歌は死んだ者への弔いの歌。
 既にこの世にはいない最愛の人がいつも口ずさんでいた、懐かしい歌。

『小径にたわむれていた蝶も 魚をすくっていた子供たちも みんな遠くへ行ってしまった』

 かつての”友”は皆死んだ。
 みんな遠くへ行ってしまった。
 俺だけがここにいる。

『でも あたしはもう泣いていない』

 泣いてはいない。
 涙など昔に全て枯れ果てた。
 愛する者など誰もいない。
 死んでも誰も泣く者などいない。
 誰かのために泣くこともない。

『風に吹かれ 枯れ葉のように 公園には誰もいない』

 探偵は一人歩き出した。
 風が吹いてきた。
 きっとこの風が友を弔ってくれるだろう。
 いずれ俺もそっちに行くから。
 待っていてくれ、友よ。
 

 [ No.400 ]


終わり、そして始まり

Handle : “疾駆の狩人”神狩裕也   Date : 99/12/17(Fri) 01:05
Style : チャクラ◎、カゲ、ヒルコ●   Aj/Jender : 23/男
Post : 狩人


「ふん・・・終わったか」
一連の光景を見た後、フェンスにもたれかかったままの神狩はそう呟いた。
月村が、壬生が死に、魔女も消えた今もうこの場にいる理由は何も無い。元々は売られた喧嘩を買ってここまで来たようなものだ。わざわざ来たのに見合う報酬はあったが・・・

「ふふ・・・まあ、楽しませてもらえたか」
薄ら寒い笑みを浮かべ、一同に背を向ける。口からは微かに鬼の牙がのぞく。
直後、神狩の姿が宙に舞った。隣のビルの屋上に飛び移り、間髪入れずにさらに跳躍。あっという間にその姿が闇へと消えてゆく。
「さらなる狩りの時間だ・・・くくく・・・クハハハハハ!!」
去り際の鬼の哄笑のみがいつまでも響いていた・・・


 [ No.401 ]


崩壊

Handle : ”LadyViorett”我那覇 美加   Date : 99/12/22(Wed) 02:02
Style : カブト◎=カゼ●=カブトワリ   Aj/Jender : 28/female
Post : フリーのカブト/元”麗韻暴”二代目頭の兼業主婦


神狩がビルの屋上から去った後、どこからともなくシルバーレスキューのヘリが降り立った。
中から救急スタッフが降りてきて皆の怪我の様子を見まわっている。
そのうちの一人が壬生の方に近づこうとしたが美加がそのスタッフに声をかける。

「・・・もう彼は事切れているから、そっとしておいてくれ。」
「しかし・・」
「それよりこっちの方を見てもらえないか?どこか打ったみたいでね・・」

肩をさすりながらスタッフの方に歩み寄り、壬生の前を通りすぎる。

「パリン。」

その音に気づき足元を見ると壬生がつけていたブラックグラスの破片が美加の足元に散らばっていた。
壬生の身体、そしてタナトスだった物に視線を向けてはっとなった。

「ピ−−−−−−−−−−−。」

「みんな急げ!早くここから離れるんだ!!」

九条が置いていった携帯を掴み、痛む身体に鞭を打ち走り、他の人間をヘリに載せる手伝いを始める。

「今から発進するので、身体を固定させてください!!」

ビルから飛び立ったと同時にタナトスだったモノから電子音が流れた。

「・・・・ジこホウカイシステム作動・・・かうんとカイシ・・」

「スピードが出ないのか?」
「いえ、なんとか間に合いそうで・・・後方から熱反応感知、皆さん、掴まって下さい。」

なにかが大爆発する音が間近に聞こえたかと思うと機体全体が小さく振動した。
そしてヘリの開いたカーゴから見えたのは先ほどいたビルが爆発し崩壊している光景だった。

 [ No.402 ]


降りしきる、想い。

Handle : 羽也・バートン   Date : 99/12/24(Fri) 02:59
Style : ミストレス◎カブト=カブト●   Aj/Jender : 26歳/女性
Post : フリーランス


どこからが、現実で。どこからが夢だったのか。その境界は曖昧で。
気がついたら、病院のベッドの上で。鈍い痛みと、それに伴う嫌な感触が羽也を目覚めさせる。
体中、すべてが悲鳴を上げている。
その原因はわかっているのだが。
起き上がろうとして、ふと腕がないのを思い出す。……腕はそう、“あれ”に持っていかれたことをおぼろげに思い出す。
たしかに、自分は男が倒れ、赤毛の少女が消えたのも見ている。それすらも、夢だったのかと思えるほど曖昧であるが。
とにかく、ここは病院で。自分は治療を受けている。これは事実。
そうして、すべてが終わった事も事実で。
ふと周りを見渡すと。誰が気遣ったのか、それとも自分自身の気力で持ち帰ったのだろうか。夜の魔剣がすぐ側に立てかけてあり。
(……真理さんは?)
天井を見つめながら、考え。色々な思いが頭の中を駆け巡る。
最後に、涙。
……理由は、数え切れないくらいある……。
しかし、最後に出てきた呟きは真理へむけたものでもなく、最愛の人に向けたものであった。

「……はい、えぇ。私は大丈夫ですよ。そちらこそお加減は如何です?」
少しの間、羽也は穏かに微笑みながらポケットロンごしに相手と会話する。
「……。そうですか、“あの子”は、無事……」
安堵の息を彼女は吐き。しばらくは他愛もない雑談。
『…貴女には平穏に暮らしていただきたいものですから…』
話の果てに、彼女が言った言葉。……その真意は、羽也にも簡単にわかった。彼女が、真理が下した決断。
「えぇ、お願いいたします。」
羽也はそれだけ言うのが精一杯で。それだけしか言えなくて。……それだけしか、返す言葉がなくて。
……画像の彼女に向かって、羽也はふかぶかと頭を下げる。すべての思いを込めて。
“彼女”は。ふわりと微笑んだような気がした。―――そして。切断。

場所は。自分の出発地点。……善隣門。つい、先日ここで真理と買い物に来たはずが…。考えて苦笑し。
今日も、待ち合わせなのだから。相手は違うが。
「お呼びだてして、申し訳ありません」
羽也は苦笑しながら相手を迎える。……相手は“死の卿”。羽也にとって緊張する相手でもある。
お互いの、無事を確認して。
「欲望の街で示されたのは月のカード‥‥確かに、君たちは暗示された幻影を見た。月夜に消えていく少女を見た。だが、この俺にとっては塔のカードだったようだよ‥‥少なからぬ災難だったからね」
アレックスは苦笑した。
「ヨコハマに行った時は前も事件が起こったし、またいろいろと言われそうだよ‥‥ああ、いや」
言葉を濁す彼に羽也はくすっと笑う。
「…いろいろと大変ですわね、そちらも。」
それから、羽也はさりげなく視線をそらして空を見上げ。本来の用件を思い出す。
丁寧に、細心の注意を払って一振りの剣を彼に向かって差し出し。
「永らく、お借りいたしまして申し訳ございませんでした。私などが使いこなせる事の出来る剣ではありませんが…」
「その通り、この彗星剣は夜の魔剣だ。誰にでも使える訳ではない」
羽也から剣を受け取ったアレックスはその重さを確かめ、軽く一振りした。
刹那、刀身に黒い炎が灯った。刀身を走ったそれは切っ先の光となって終わり、瞬時に消えた。
アレックスはコートを翻した。腰の後ろにつけた鞘に、彗星剣は微かに小気味よい音を立てて収まった。あるべき場所に、あるべき主の元に。盟約にあらざる死と、星幽界を断ち切る剣が。
「だが君にはその資格がある、盾の貴婦人」
羽也の手を取ると、アレックスは優しく言った。
「君の想いが、剣に炎を灯したのさ」
「えぇ、確かに。……“炎”は存在いたしました。ですが、それは私の想いだけでは無いような気がします…。そうでしょう、“死の卿”?」
一つ、息をついて。アレックスに向き直り。
「もう一つ。。……私の親友からの、言伝を。――『ご壮健で』」
同時に、羽也の手元には一枚のタロットカード。死神のカードがその手にあった。それの意味するところは彼にも充分に伝わったであろう。彼は深く微笑んでカードを受け取った。
そうして、羽也は深く彼に向かって一礼をし。きびすを返す。
両腕の感触を確かめながら、ふと苦笑し……。その場を去る。この、中華街から。

 [ No.403 ]


ユメ

Handle : “ボディ=トーク”火鷹 遊衣   Date : 99/12/28(Tue) 02:31
Style : マネキン◎トーキー=トーキー●   Aj/Jender : 17歳/女性
Post : フリーの記者


『皆さん……これが狂った天使たちの……最期です』
マイクに向かって、遊衣はそう最後を締めくくった。
サイバーアイは、ひたと崩れ行くビルに向けられたまま。

一緒に……行きたかったけど。
バージニアの手を取ったモリーの躊躇いのなさ。
羨ましいな、と思ったけど……。
でも、ボクにはまだやることがあって。
そして遊衣は、行きたいと、1歩踏み出そうとする足を踏みしめた。
……これから始まる彼女の戦いの為に。

マリオネットの入り口で、ミゲーレが彼女を迎えた。
生きてたか、との問いに、あったりまえよ、と頷いて2人で屋内に飛び込む。
「先輩!!部屋開いてる??」
「アタリマエだろ」
編集室に掛け込んで、手早く電源を入れ、一気に編集作業を進める。
無言のまま、手早く映像をつなげ、組み合わせアレンジして。
映像の出来を通しで確認して、遊衣の声で、全ての真実がN◎VAに伝わる様に、隠し立てなく。
そして、どうしても言ってみたかった言葉をゆっくり噛み締めるように。
『以上……日本軍大災厄史編纂室に関する一連の事件の詳細を……火鷹遊衣がお伝えしました』

あとは、三田の好意で開けてもらった時間枠に、この放送を流し込むだけ。
大きく胸郭から息を吐き出す。
じわじわと押し寄せる疲労感が、感覚を鈍くさせていた。
「大丈夫か?」
ミゲーレの手が肩を支えてくれるのに、その肩に頭を預けた。
「眠い……」
「本番には起こしてやるから、それまで寝てろ」
「うん……」
遊衣は、ゆっくり長い睫を伏せた。

……その日の夢は、みんなで月に行く夢だった……

http://village.infoweb.ne.jp/~fwkw6358/yui.htm [ No.404 ]


神のいない街

Handle : “薄汚れた鑑札”沖直海   Date : 100/01/03(Mon) 23:31
Style : フェイト◎カブト●レッガー   Aj/Jender : 24/女性
Post : フリーランス


先ほどまでいたビルが燃えていくのを、沖はヘリの中から眺めていた。
それはまるで荼毘の炎のようで。

神を信じていたのなら、祈るべき事は多々あったのだろう。
たとえばあのエージェントの永き旅路の無事を。
旅路は違えどやはり長き道を歩み始めた二人の少女らの行く手に光あらん事を。
そして自分達の進む先に幸あらんことを。

けれども、見上げる空の星の中に、祈りを聞くものははいないと知っていたから。
沖は只静かに瞳を閉じた。

中華街の外れ、人気のない小さな広場にヘリが降りる。
「ここでいいです。ありがとう」
簡潔に礼を言い、ヘリを降りた沖に、秦がポケットロンを手渡した。
「どうぞ、お使いなさいな」
眉を寄せ、中のアドレスを確認して、沖はわずかに笑みを浮かべて静かに秦を見た。
「・・・これ・・・いいのですか?」
「ええ。見届けていただきたいのですよ、貴女に、ね」
沖の笑みが消えて、当惑の表情に変わる。
それほど親しく話した事があるでもない、仕事の付き合いがあるでもない自分に、なぜ彼女がこれを託すのか、なぜ見届けろというのか。
「・・・なぜ、私に・・・?」
彼女の真意を量りかねて、沖が秦に問うた。
態度と口調を装う事を、めずらしくやり損ねた沖に、微笑みを薄めた微妙な表情で秦が笑った。
「答えはご自分でお探しなさいな」
さらに言い募ろうとする沖を、静かにとどめて、秦が再びヘリの座席に座る。
扉が閉じられ、ローターがまわり、ふわりとヘリが宙に浮いた。
「では・・・」
ガラス窓の向こうの秦が、唇の動きで簡素な別れを告げた。
彼女の微笑みに、沖は静かに頭を下げた。感謝と、願いを込めて小さく呟く。
「・・・又、どこかで・・・」


房総空港、ロビー。
香港便を待つ人の喧燥をどこ吹く風とたたずむ二人の女性の姿があった。
「道中お気をつけて。それと、お世話になりました」
沖が静かに頭を下げる。
「あなたはこれからどうするのですか?」
「そうですね、遅れに遅れた新婚旅行にでも行きますよ。丁度あっちも手が空いたみたいですし」
秦の問いに、軽く肩を竦めて軽い調子で答えた。その声に、いつもの快活さがない。秦はそれに気がついたろうか。
「どうか、なさいました?」
「・・・いいえ、何でもありませんよ」
今は上手く微笑めない。だから沖は無表情の仮面の下に、いまだ癒えぬ傷を隠した。
・・・自分の目で、確かめてこようと思う。
荒ぶる神の事を、それに関わる人々の事を。
今の自分は、まだ知らない事が多すぎる。自らの行く道を決める時は未だ来ていない。
我知らず、コートのポケットに突っ込んだ右手を握り締めた沖に、秦が深く微笑み、両眼を隠していたサングラスを外す。
その瞳は、両目とも真紅の色。
赤は血潮。修羅の色。
隠していた筈のその鮮紅を、彼女はさらして微笑んでいる。
そしてそれを隠す風もなく、目の前を見つめている。見つめられた時、問わずにいられなかった。
「あなたは・・・」
自分をさらして、すべてを認めて。
(あなたは、そうして、すべてをを抱いて生きて行くのですか?)
その問いかけは、沖がすべき事ではない。そう感じて、言いかけた言葉を飲み込んだ。
「言いかけて、やめるのはずるくてよ?」
冗談めかして秦が言う。その中に、沖は答えを読み取った。
「・・・いいえ。私が私であるように、あなたはあなたなんでしょう。だから、いいんです」
「ええ。私は私です。これからも、ね」
その笑みが、最後に見たバージニアのあの微笑みと重なった。
行くべき道を、見出したものの微笑みで。
揺るぎ無くその道を歩む決意の眼差しで。

沖は、それが嬉しかった。

 [ No.405 ]


紫狼去る時・・・

Handle : ”LadyViorett”我那覇 美加   Date : 100/01/04(Tue) 01:16
Style : カブト◎=カゼ●=カブトワリ   Aj/Jender : 28/female
Post : フリーのカブト/元”麗韻暴”二代目頭の兼業主婦


 あの爆発から数時間経った後・・・・

 中華街の路地裏で二人の女性が紫色のA-Killerを囲む様にたたずんでいた。
 一人は全身菫色を基調とした格好でA-Killerの側に座りこみ、様子を点検していた。
 その背後にいたもう一人の女性は地味なチャイニーズドレスを着てコートを羽織り、口元を扇子で覆うように隠していた。

「無知は幸せ…何も知らなければ、たとえ“審判”が下ろうとも、生きていられます。
 それでも、貴女は進もうと?」

「それを知ってしまったってあっちから放っておく保証すらないだろう?
 なら、私は大事な”者”の為に、その事実を受けとめるよ。」

「私もたいした事は知りませんよ?
 それに…もはや戻れないとはいえ、必要以上に知ることは、かなりのリスクを伴いますが?」

「どの程度のリスクがこっちに来るのかはわからないが、もう戻れないんダロ?」
バイクの点検を終わり真理の方に向き直った。

「そうですか、目をつぶるという選択は?…愚問でしたか。
 “彼女”は以前中華街で起きた騒動でも、関与していたようです。
 そして、“彼女達”の目的は恐らく─これも愚問ですかね?」

「”彼女”だって?、あの死の銀色を纏った女がか?!」

真理はそう頷くと、話を続け初めた。

「“彼女”は以前中華街で起きた騒動でも、関与していたようです。
 “彼女達”の目的は“渾沌”いえ、アラストールの“現出”そして、世界という名のシステム
 を再構築しようとしている“鳳凰”も手段こそ違えど、目指すべき所は、らくおなじではないかと。」

「混沌を司る”銀色の魔女”だと?! あの女はそういう力の持ち主なのか!!」

「…見たのですか?彼女の姿を。お忘れなさいといっても、無理でしょうね。
 そして、神楽さんが行ったのは間違いなく“彼女達”の元です。残念ながら」

「そうか、ヤツはあのオンナの元に行ったのか・・・」

ちょっと悲しい目で空を見上げて溜息をつき、真理に向きなおる。
その目は諦めともいえる感じだか何か模索している様にも読み取れる。


「見て、何もしないなら大丈夫でしょうね。“何もしないなら”しかし、
 “現出”したものが振るうのは、人知を超えた力です。災厄が再来するでしょうね。
 それを望むものが、そう暗躍するなら。
 ―しかし流れが、大きな潮流が、すでに動き出してしまったのかもしれません。」

美加はメットを被り、バイザーを上げ真理を見つめた。

「そうなるのならアタシはアタシのやり方で対処するさ。
 多分アンタとはまたどこか出会えそうナ気がするからね。」

そう言ってA-Killerを転がし始める。
周囲には騒音が響き渡り、その様子は何かに対して吼えているようにも見えた。

「もし、貴女がこのまま踏み出すのであれば、三合会と対立なさらぬようご留意を。
 眠れる大龍の一撃が振るわれるのは、そう遠くない未来の話しかもしれませんからね…」

「ああ、お互いそうであって欲しいナ。
 じゃあ、アンタも体に気をつけてくれ、チャイニーズ・プリンセス。」

そう言うとA-Killerのアクセルを全開にしてその場から走り去った。
その後姿を見て真理はそっと呟く。

「ミセス・ガナハ、ご壮健で・・・・」

そう彼女は呟くと中華街の喧騒に溶け込む様に消えていった。

 [ No.406 ]


死有余幸<ス・ヨウ・ユ・クゥ>

Handle : “紅の瞳”秦 真理   Date : 100/01/04(Tue) 01:23
Style : Mistress●Regger Katana◎   Aj/Jender : 24/female
Post : 14K客分(和合李)


─数週間後、民主中国 『天堂』

 世界に朝日が昇れば、必ず夜の帳が幕をおろす。
 ぱらぱらと降り出した雨が、夜の帳に覆われ様としている電機城を濡らしていた。
 通り雨をやり過ごそうと店の軒下に入り、薄いミラーシェイドをかけた真理は漆黒の"オペラクローク"についた水滴を払うと懐から取り出した煙草に火を付けた。ショウウィンドウに寄りかかり、店頭に置かれている青猫電機公司製のDAKになにげなく、視線を流す。
 天堂電視台の放送は、LU$T中華街で起きた一連の事件に関するマリオネットの報道を扱っていた。

視線をDAKへと流したまま、紫煙を深く吸いこむと綺麗にマニキュアの塗られた自らの爪に気がつく。
「全く、爪がぼろぼろね…」
 親友との買い物のつもりで素手で、出かけたのだから無理はない。気に入っている整えられた爪は度重なる戦闘でぼろぼろになり、時間がたった今も元には戻っていない。ため息とともに紫煙を吐き出した。
『以上……日本軍大災厄史編纂室に関する一連の事件の詳細を……火鷹遊衣がお伝えしました』
 DAKから流れる死線を共に乗り越えた少女の声。それはどこか、忘れもしない記憶のなかへ真理を引き戻していった。
─どこかノイズ交じりの記憶の中へ─

 
燐光が二人の少女を包み、その存在を今という事象から移そうとしている現実を見つめていた。
「貴女の道を、お征きなさい。バージニア」
─その言葉は、奇しくも『もう一人の真理』が最後に少女に向けていったものと同じだった。
 バージニアは、驚きに涙のこぼれる目を見開くが、傍らにたたずむ小さな守護天使に深く微笑みかけると真理へと向き直った。絡み合った視線は電流の流れるような感覚を真理へと与え、光が瞬いた後、光の粒子が舞い、月の流した雫だけがそこに、残っていた。
 自らの子供が自らの手を離れてしまったような喪失感を覚え、消えていった空虚な空間を見つめる真理の横に、神楽がバイクを寄せるが、真理はただ、寂しそうに微笑むと消え入りそうな声で神楽へと問いかける。
「征くの?貴方の征き先が、何を示すのか分かっていて……」
 他にも選択はあるはずと、真理は口にすることが出来なかった。続く神楽の答えに真理は軽く目をふせ、
「"次"にお会いすれば、私は貴方を斬るわ─それまで、ご壮健で」
 確固たる口調と揺らぎのない視線で告げられたその言葉は、ここにいた仲間達と同じく"友"になりたかった者へと向けられた返礼。真理の、ひとときの仲間達の横を通りすぎていった銀狼の顔は、見えない。
─扉は選択をなされ、バージニアという一人の少女がもたらした事象に関わった者達が、それぞれの扉を空け、道を征く。それに関わったがゆえに、決して後には戻れぬ道を。
(『扉の前までは連れていくことが出来るが、かわりに扉を空けてやることは出来ない』といった。けれど、私の選択する扉は?)
 何処へ?と真理は来方へと問うた。しかし、それは真理が自らへと問うた言葉ではなかっただろうか─何処へ、と?
 あの時、囁いた銀の双眸の持ち主は、真理へとひとつの扉を提示してはいなかっただろうか──

 
真理の物思いを断ち切るように、ポケットロンの着信音が鳴り響く。
「…もしもし?」
 真理が一連の事件に関与したことを『揉み消す』為に動き、共に民主通中国へと降り立った想い人の声。何処にいるのかと問うその声に、真理は紅の塗られた唇に苦笑を浮かべる。
「ええ、"友人"にお会いしようと思ったのよ、お夕食までには戻るわ。恰謳酒店で良くて?」
『うん、構わないよ?それまでに用意は済ませておくから』
「……そうね、それでは」
 楽しそうに微笑む想い人に笑みを返すとポケットロンを切り、雨の止みつつある電機城を後にする。纏わりつく視線を感じ、眉をしかめ蜘蛛の糸を振り払う仕草とともに投げ捨てられた煙草が放射線を描き、ぬれた地面に落ちていった。

─雨が止み、雲が風に流され勢い良く流れていく。闇に包まれた中を、真理は『飛漣鎭』へと足を踏み入れた。猥雑な街並をすいすいと歩き、布で入り口を仕切られたバラックに入り、中を通りぬけ、『目的』の場所につく。
 爪が欠けぬよう、"翼"から取り出した特殊繊維の手袋をはめ、水溜りを踏み越えて人けのない裏路地で、立ち止まった。
「……また、疼くわね…」
 片目を失った時に出来た古い刀傷が、最近たまに疼くのだ。あの時、くっきりと古傷が烙印のように浮かび上がって以来、消えなくなったそれを、ファンデーションで目立たなくしてはいるが、この血の疼きは……。
『…Can I help you?』
 不意にかけられた声に古傷を押さえていた手を離し、ミラーシェイド越しの両眼のサイバーアイが声の主の姿を捉えて、真理は皮肉げな笑みの波動が全身を包んでいくのを感じた。追跡者の存在は分かっていたからこそここへ来た。"鍵"を確保することを邪魔した者達を、彼らは放ってはおかぬだろうから。
 路地の薄い灯りに照らされて浮かび上がるその姿は、真理が遭遇した時のままだ──深緑系のスーツ、ブラックグラス越しのねめつけるような視線、口元に宿した薄く昏い笑みさえも。
「─you're none of business !」
 のどの奥からもれる笑みの波動を押さえて、真理はつばを地面に吐き捨てた─彼女にとって他者への最大の侮辱。間違いなく"死んだ"はずだ、彼の遺体はイワサキに引き取られて──"イワサキ?"
 大げさにため息をつき、視線を動かし男との距離を測ると、問いを発する。"彼ら"に対しての問い。
「Where do wars and fights come from among you?
 Do they not come from your desires for pleasure that war in your members
?」
『who ... well what art thou? I know thou art..."S.I.N"』
 新約聖書から引用された真理の問いは形を変え、以前も発せられた問いだ。男は嘲るように小暗い笑みを浮かべ、その問いを無視すると逆に真理へと言葉を放った。
"S.I.N─Symbol to Immortal Navigator"転じて、『適正者』
 あの時、カーマインに接触した時から感じていた違和感、万が一の時、自らがバージニアの替わりになれるのではないかという想い、精神的、肉体的に限界を超え、追いこまれ、自らのすべての力を振り絞り、抗ったあの時─囁きかけた"銀の魔女"の言動と"共鳴"それらの材料から推測に過ぎなかったそれが、男の言葉をもって、真理のなかで確信へと変わる……。
「──Yes I am Shin. just you say」
 推測でしかなかったそれを、間違いなく彼らは知り得ていた。引き締めた表情のまま、ゆっくりと真理はミラーシェイドを外す。
「…死有余幸、死してもなお償えぬ罪を背負い、魂を縛られているのはどこの誰やら……」
 そう呟くと真紅に染まった両眼を、顎を上げ、臆することなく男を見据える。射抜くような強い視線。するりとしなやかな動きで、左足を半歩後ろに引いた真理の顔に、くっきりと古傷が浮かび上がり、唇が三日月の線を描いた。
「私は、私ですよ。"義"なき狂った夢を見るものに協力するつもりは毛頭ない」
 真理の凄絶な笑みを受けて、ゆっくりと近づいてくる男との距離をもう一度測ると、僅か後方の路地へと刹那、視線を流す。
「流れに抗うのではなく、流れに流されるのではなく、流れとひとつになって生きるのですよ、お分かりですか?」
 己に課せられた烙印を恨むのではなく、その烙印の導くところに向かい、あくまで己として、人として、闘うのだと。
 そして、"彼ら"と正面から闘ってやらなければならない理屈が、どこにあるというのだ?
「それと、ひとつお忘れです。私は“独り”では、ないんですよ!」
 共に闘った友と、同じく闘う少女達と、“同族”と、そして…これから歩みだすものがいるのだから。
勢いよく後方に飛んだ真理の耳に、至近距離からの"BOMB"の断続的な発射音が聞こえ──

 ノイズに塗れた記憶の向こうで、真理の脳裏に電脳の歌姫の歌声が聞こえた気がした。

再び、欲望の街へと降り立つ、その日まで──

http://www.freepage.total.co.jp/DeepBlueOcean/index.htm [ No.407 ]


扉の向こう

Handle : “ゲームマスター”ゴードン・マクマソン   Date : 100/01/04(Tue) 01:38
Style : エグゼグ◎・クロマク・カブキ●   Aj/Jender : 40歳/男
Post : 千早重工統括専務


暗闇に立ち止まりうずくまる君

この声が届くものなら教えてあげたい

その日はほんの一つ扉のむこう

ある朝目覚めると扉が開いている

そして君は気付く

待ち続けたものの中にいる自分に

“パーム”より

・・・・・・・・・・・

そして、物語は一時、幕を閉じた。
しかし、混沌の街に生まれた小さな灯火は、やがて燎原に燃え広がる野火のように全てを飲み込み、燃やし尽くす猛火へと姿を変えるだろう。
更に多くの魂をその紅のアギトに捕らえながら、破滅への道を切り開くように。
だが、今はしばしの休息を。
関わった全ての者に等しい休息を与えよう。
幕間は短い、修羅の時はすぐにやってくるのだから・・・

・・・・・・・・・・・・・・

「全ての条件をのむ。」
ウェズリィは短くそれだけを告げると通信を切った。
その簡潔な言葉の奥にいったいどれだけ重大な決意と、これから流されるであろう血の意味が秘められていたのだろうか。
ゴードンもまた、特権階級特有の横柄な物腰でもって軽く頷くのみだった。
千早重工アーコロジー内の彼の執務室。
彼は柔らかなソファに深く腰を降ろし、ブラックアウトしたモニターをしばし見つめた。
まるで自らが信じる神の神託を待つ信者のように、祈るような仕草で胸の上に両手を組み、静かに時を待つ。
と・・・・
モニターの上に再び着信を告げるウインドウが開いた。
通常のものとは異なり、これは彼専用の守秘回線だ。そうそう立て続けに通信が入るものでもない。
しかし、彼は何の戸惑いも見せず、まるであらかじめその事を知っていたかのような自然さで回線を開いた。
モニター上に若く、そしてどこか世慣れた感じのする女性の顔が映し出された。
「報告をお聞きしましょうか、沖さん。」
沖と呼ばれた女性はよどみない口調で、いっさい私情を交えず、今夜中華街でおこった一連の事件について語った。
「なるほど・・壬生の死とモリー美琴がバージニアと共に姿を消したこと以外はおおむね予想通りですね。」
「そして、秦真理か・・・そうか、彼女が・・」
ゴードンは情報を検討し、彼の持つ情報と照らし合わせるかのように、視線を中に彷徨わせた。
「1つ聞かせていただきたいのですが。」
沖の言葉が彼の思考を遮る。
「報酬替わりと言っては何なのですが、1つ聞いてもよろしいですか。ミスタ、ゴードン。」
「何です?」
「今回の事件の真相。大災厄史編纂室・・いや、フェニックスプロジェクトの思惑、そして、あなたの思惑です。」
鋭い洞察力と高い知性を秘めた切れ長の瞳が彼を見た。
「それを私に答えろというのですか。千早の社員でもなく、ましてや私の部下でもない、一介の探偵でしかないあなたに。」
言葉とは裏腹にどこか楽しそうな口調でゴードンは言った。
「まあ、良いでしょう。」
「実際あなたは良くやってくれました。それに頼みたい事もありますからね。」
「とは言え、今回の事件の大半はあなたが見て感じた通りのものです。しいて言うならば、バージニアを囮に彼をおびき出そうとしていたようですね。」
「彼?」
「アラストールですよ。」
「ソレがあの娘を助けるために現れると?」
「そう彼らは思っていたようです。」
「“鍵”とはそれほど重要な存在なのですか?」
「さあ?それは本人に聞いてみないと。」
ゴードンは曖昧な微笑を浮かべた。
「もっとも、だからこそ多くの血が流されるのでしょう。今までも、そしてこれからも。」
“その多くの血の中にはあなたのために流されるものも少なくはないのでしょう。”
沖はそっと心中で呟いた。
「良いものをお見せしましょう。」
そしてゴードンは話を打ち切り、モニター上に新たなウインドウを開いた。
それはどこかの海岸線を映した航空写真のようだった。
「ブリテン・・・」
すぐに沖が答える。
「その通り。」
ゴードンは出来の良い生徒に対する教師のような態度で鷹揚に相づちをうった。
「この半島を見て下さい。」
画面右上に槍の先のような形の半島がある。どこも変わったところはないように見えるが・・・
画面が更にズームされ、半島の形が大きく映し出された。
「?」
沖は奇妙な違和感を感じた。
槍先の部分が綺麗な真円の形に欠けている。
まるで、何かに切り取られたような・・・・
「アラストールですよ。」
「!」
「ブリテンの術者達が彼を封じようとして、失敗したその結果です。」
「大きさは・・・そうですね、ちょうどLU$Tがまるまる入るくらいですね。」
刹那、沖の背中を冷たいものが走った。
この男の言うことを鵜呑みにするのは危険だ、ただのハッタリだと思おうとした。
しかし、彼女の本能が、探偵としての勘がそれが真実だと告げていた。
目の前の風景が急に色あせ、現実感を欠いた奇妙な感覚を沖は感じていた。
「馬鹿な・・・そんなデタラメな存在が・・」
我知らず、声が漏れる。
「実在します。」
ゴードンは薄く笑った。
得物に与えた毒が確実に自由を奪っていくことを確信した毒蛇の笑みだ。
「“鍵”とはアラストールに近しい者、そして彼らに惹かれる者だと言われています。そして、それを手に入れ、ある条件を満たした時、未曾有の災厄が起こるでしょう。」
「そして・・秦真理。」
知人の名を急に出され、沖がピクリと身じろぎした。
「彼女もどうやら彼らに魅入られたようですね。」
ゆっくりと、優しいとも言える口調でゴードンは続ける。
「彼女が彼らに組みするのなら、そしてあなたが真に彼女の事を思うのなら、彼女を、真理さんを殺しなさい。」
「誰に何とそしられようと、多くの人命を救う最良の選択ですよ。」
それは呪いだった。
沖の孤高の魂にしっかりと爪痕を残し、束縛する呪いの言葉だ。
「私は強制はしません。」
「あなたの意思で引き金を引くのです。」
声を出さず、喉の奥を鳴らすようにゴードンは笑った。
側からはそうとは見えなかったが、確かに彼は笑っていた。
悪魔が実在するのなら、こういう笑い方をするのだろうと、沖はぼんやりと思った。
「では、ごきげんよう。ミセス・沖。」
「良い夢を。」
いつの間にか、通信は切れ、彼女は暗くなった画面を見つめていた。
いつまでも・・・


中華街第2話“Fly me to the moon”

 完

 [ No.408 ]


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