ヨコハマ中華街&新山手

[ Chinatown BBS Log / No.471〜No.498 ]


中華街第3話「愛は定め、定めは死」 序章

Handle : “火柴(フォーチャイ)” ディック・ファン(狄 勲)   Date : 2000/08/30(Wed) 19:40
Style : レッガー◎●・カリスマ・カブトワリ   Aj/Jender : 35歳/男
Post : 青面騎手幇ナンバー3


中華街第3話「愛は定め、定めは死」


8月。
常春と言われるこのトーキョーNOVAにも気温の変化はある。
そして人々の中に忌まわしい記憶として残っていた大災厄の恐怖が薄れ始めた現在、季節の兆しはそこかしこに感じられるようになっていた。
それはまるで、地球という天体が失われたイニシアチヴを人類の手から取り戻そうとしているかのようにも思えた。
ヨコハマLU$T。
NOVAの海よりに位置するのこの地区は最近霧に包まれる事が多い。
地理的な条件もあり、この時期にはさほど珍しいことではなかったが、それが数週間もつづくとなると話は違った。
とりわけ、ここしばらくの間にこの街で奇怪な事件が続いている事もあって、それが人々の心にさらなる不安を募らせる原因にもなっていた。
“また、何かが起ころうとしている”
誰が言うでもなく、それは波紋のように街の人間の間に浸透していった。
そして。
それを肯定するかのように、霧の中で1人、また1人と姿を消すものがあらわれ、あるものは無惨な惨殺死体で発見された。
“ハマの霧には魔物が住んでいる”
それは、人々の心を冷たい呪縛のように捕らえていたのだった。
LU$Tを実質上支配しているイワサキをはじめ、三合会等のヤクザ達もこの奇怪な事件に少なからず被害を受け、調査のためにエージェントを派遣していたが、今のところ哀れな被害者を増やす役にしかたってはいない。
人々が嵐の通過を頭を低くし、ただ耐えている間にも運命の歯車は確かに回り始めていた。
神々が紡ぐその運命の糸がいかなる模様を描くのか、それはまだ誰にも知る術はなかった・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ヨコハマLU$T、中央区に近いとある一室。
「うう・・・」
LU$T三合会東青(ドゥンチェン)の傘下にして3本の指に入る武闘派集団である青面騎手幇のナンバー3。レッガー達の間で俗にいわれるところの切り込み隊長、“火柴(フォーチャイ)” 狄 勲(ディック・ファン)は彫りの深い顔を歪め、低く呻いた。
30分程前、霧によるトラブルの対応に追われていた彼のもとに、右腕である元(ユン)から連絡が入った。
「狄さん・・・オヤジさんが大変なんだ、とにかく・・来てくれませんか?」
肉親をも眉1つ動かさずに殺してのけるだろう非情な殺し屋が、いつになく同様した風でただそれだけを言って通信を切った。
彼はガードを申し出る若者を手で制すると、単身車に乗り、霧に包まれたLU$Tの街に出ていった。
奇妙な高揚感が全身を満たしていた。
狄の運命を幾度となく変えてきたなじみのある感覚。
彼はその予感に従い、この地位まで登りつめたのだ。
“また、オレにとって大きな転機が訪れようとしているのか・・”
彼は漠然とそう感じていた。

狄が向かった先、それは中央区に近いマンション“花月”の一室。青面騎手幇の長、許 正烈(ホイ・チェンリェ)が愛人との情事に主に使用する部屋だった。
彼の姿をみとめ、頭を下げる見張りのチンピラを無視し、狄は室内に入った。
豪華な装飾が施された室内をぐるりと見回す。
と・・・・
寝室のベッドの脇に立つ、若い男の姿が目に入った。
元だ。
童顔で、ともすればティーンエイジャーにも見間違えられる彼だが、実は古強者のレッガー達ですら震え上がる凄腕の殺し屋なのだ。
そして、狄の信頼する右腕でもある。
「狄さん・・・」
その彼が今まで見たこともないような青ざめた表情でこちらを振り返った。
そして、無言で“これを見ろ”と言うように視線を一瞬ベッドに移す。
覚悟は出来ていた。
そして、そこに何があるのかも予想がついていた。
おそらくどこかの組の殺し屋がついに許 正烈、“屠夫(ジェノサイダー)”と呼ばれた組長の命を奪ったのだと、そう思っていた。
しかし・・・・
そこに横たわっていたもの。
それは彼らにとってなじみのある(それでも大事には違いないのだが)現実的なシロモノではなかったのだった。
それは、ミイラと見紛うほど、カラカラに干からびた組長の姿だった。
目は落ちくぼみ、腕も足も皮が張り付くほどにやせ細り、死と破壊の凶悪なエネルギーに満ちていた“屠夫”の面影は微塵も無い。
しかも恐ろしい事にそんな状態にあっても彼は生きているらしく、微かにではあったが胸が上下し、口からはヒューヒューという不気味な音が漏れていた。
“LU$Tの霧には魔物が住んでいる”
背筋をつめたい戦慄がはしるのを感じながら、狄は変わり果てた組長の姿を呆然と見つめていた。
「狄さん・・・」
狄がいる事で多少落ち着きを取り戻したのか、元が部屋のDAKを操作しながら彼を呼んだ。
ノロノロと、ぎこちない動作でDAKのモニターをのぞき込む。
モニター上にはベッドの脇、先ほど元がいた位置に立つ血のように紅い髪の女の姿が映し出されていた。
美しい女だった。
それは単なる造形上の美ではなく、男を狂わせ、惑わせるための全ての条件を満たした、まるで誰もが心の奥底にしまいこんだ極めて背徳的な願望そのものが形を成したような妖しく危険な女だったのだ。
狄は、体がカッと熱を帯びるのを感じた。先ほどまでの寒々とした戦慄とは対照的に、そして彼自身気付いてはいなかったのだが、更に危険な香りを漂わせた熱がマグマのように彼の体を沸々と滾らせていた。
そんな彼の耳に、どこか遠くからある声が聞こえていた。
ごく自然にソレは彼の心に直接響いた。
“今がチャンスなのよ”と。
・・・・・どれくらいの間そうしていたのだろうか。
「シルバーレスキューに連絡を入れた方が良いですね。」
元はそんな彼の姿に何か不吉なものを感じたらしく、まるで話を反らすように言った。
「まて。」
不意に、呆然としていたはずの狄が彼を手で制しながら振り返る。
その面には、部屋に入って来た時の動揺も、つい先ほどまでのどこか朦朧とした熱っぽさも微塵も感じられない氷のように冷たく冷静な表情がはりついていた。
「その必要はない・・」
まるで子供を諭すように、優しいとさえ思える口調で狄はもう一度そう言った。
そして、口元にゾッとするような酷薄な笑みを浮かべ、部屋の入り口を見る。
「おい、おまえ!見張りのおまえだ。こっちに来い!」
突然呼ばれ、動揺したのか、見張りの若者は針金のように細い手足をばたつかせながら、文字通り飛んで来た。
そして直立不動の姿勢をとる。
「チャカを出せ。」
「へ?」
「おまえの尻のポケットに入っているヤツだ。・・貸せ!」
さすがに彼も二度聞き返す程おろかではなかったらしく、慣れた手つきで後ろのポケットに突っ込んでいたトカレフを抜くと、狄に差し出した。
その様子を、元は複雑な心境で見つめていた。
「なぜ銃を?」という疑問ではなく、何かいいようのない不吉な予感が彼の頭から離れなかったからだ。
そして、それはすぐに現実となった。
狄は素早く銃を取り上げると、愛想笑いを浮かべ、こちらを見上げる若者の顔に向けて発砲した。
そして笑いをはりつけたまま、仰け反るように倒れた若者が動かなくなるのを確認すると、ベッドの脇に歩み寄り、今だヒューヒューと耳障りな息を吐く、瀕死の組長に銃口を向けた。
元は全身の血が音を立てて引いていくのを聞いた気がした。
若者の死と狄の明らかな組への裏切りのせいではない。
むしろ、狄ならいつかこういう事をしでかすだろうと予想さえしていたのだ。
彼が戦慄したのは、狄の行動があまりに自然だったからだ。
微塵の躊躇も僅かな感情の揺らぎも感じさせない、機械ですらぎこちなく見えるほどの行動。
怒りを露わにし、残酷さをむき出しにする狄は幾度となく見てきたが、こんな彼を見たのは初めてだった。
「いつかオレもあんな風に、“屠夫”のようになりたいんだ。」
憧れを込めたまなざしで、かつて狄がそう言っていたのを、どこか遠い過去の出来事のように感じながら、ぼんやりと元は思った。
“あんたは誰だ?”
“あんたはいったい誰なんだ?”
「元・・」
そして、ソレは変わらぬ冷静さで元の名を呼んだ。
まるで違う人間が狄の口を通し呼びかけているようだった。
「組長はあの女に殺された・・・そいつもだ。」
銃口を許に向けたまま続ける。
「組長を殺した女は次にナンバー2のビルを狙うかもしれんな・・・いや、必ず狙うだろう。」
「そして金勘定しか取り柄のないようなヤツじゃ殺られちまうに違いない。」
酷薄な笑みを浮かべ呟くように言った。
つまり彼はこう言っているのだ。
“ビルを殺す”と。
「許 正烈が死に、ナンバー2のビル・ゼットーが死んだら次の組長は誰だ?」
「誰が青面騎手幇のナンバー1なんだ?」
そして、真正面から元を見据えた。
元は決断を迫られているのだ。
狄の行動を三合会に報告するためには、彼を殺さなければならないだろう。
それ以外に道は無い。
純粋な戦闘力なら元の方が上だ、しかし・・・
“死ぬのはオレの方だ。”
元は半ば確信していた。
今の自分には目の前のこの男を殺すことはできないと、そう思えた。
そして・・・
彼は答えた。
運命の扉を自らの手で開いたのだった。
「あなたです。・・・“ボス”」
「よぉし。良い答えだ。そして、賢い判断だぞ、元。」
満足気に狄が頷く。
「イイぞ。最高に素敵な夜じゃないか。なぁ?」
そして彼の笑い声に混じって、渇いた銃声が3発、室内に響き渡った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
霧がその濃さを増したようだった・・・
LU$Tの闇夜を風が轟々と吹き抜けていく。
それは、魔女の嬌笑にも似て、人の心を惑わせるのだ。

 [ No.471 ]


明日への道標

Handle : サンドラ・トランテ   Date : 2000/08/30(Wed) 19:58
Style : イヌ◎・イヌ・ミストレス●   Aj/Jender : 21歳/女
Post : ブラックハウンドLU$T支部警官


ブラックハウンドヨコハマLU$T支部内警察病院

「アレはどういう事なんでしょう?」
リョウヤの隣りに走り寄りながらLU$Tの女性警官サンドラ・トランテが言った。
小柄で、お世辞にも女らしいとは言い難い体型の彼女がリョウヤの隣りに並ぶと、とても二人とも同じ警察官とは思えない。
しかも、彼女は艶のある黒髪をショートカットにしているため、そのスレンダーな体型と相まって、まるでストリートキッズの少年が補導されているようにも見えた。

1時間前の事だ。
LU$Tハウンド隊長、細野君朗は緊張した面もちで彼の前に立つ新人警官サンドラに、いつもと変わらぬ冷静な口調でこう言った。
「例の行方不明者捜索のために本部から助っ人が派遣されてくる事になった。」
「ただし・・少々“仕事熱心な”警官らしいからな、君がこの街の流儀を教えてやってくれ。」
そして、その助っ人、八神霊弥警部補と共に事件の唯一の生存者が入院している警察病院にやって来たのだが・・・
その生存者である警官は精神に異常をきたしているらしく、とても話のできる状態ではなかった。
錯乱し、奇声をあげる彼が喋った唯一の言葉。
それは、「紅い髪の女」
という一言だけだった。

二人が後にした病室では、獣のような悲鳴が今だ聞こえている。
リョウヤは何か考えているらしく、ムッツリと押し黙ったまま、足早やに病院の廊下を歩いていた。その整ってはいるがどこか冷たい印象を与える横顔を盗み見ながら、サンドラは思った。
“この人が隊長が言っていたような問題のある警官なのかしら?”
その姿は問題があるというより、逆に彼女が思い描く理想的な警官であるような気さえする。
「人は見かけによらない・・のかもね。」
そっと呟きかぶりを振ったその時だった。
「紅い髪の女・・何か心当たりがあるのか?」
不意にリョウヤが立ち止まりこちらを向いた。
心中を見透かされたようで、あわてる彼女をリョウヤが怪訝そうに見ながらもう一度問うた。
「心当たりは?」
「あ・・あります。」
頬を紅潮させ、掠れた声で答える。
「たしか、三合会の青面騎手幇(ペイルライダー)という組が同じ紅い髪の女を探しています。・・・同一人物かどうかは解りませんが。」
「そうか。」
それだけ聞くとリョウヤは再び歩調を早め歩きはじめた。
「待って下さい、組がどこにあるのか知っているんですか?」
「知らないな、しかし、そのために君がいるんだろう?」
相変わらず、顔は前を向いたまま、リョウヤが答える。
“少なくとも、邪魔だとは思ってないようね。”
そう解釈し、彼女は微かに微笑んだ。
“この人がどういう人間なのか、それを見極めてやろう。”
“問題のある人間なら隊長の言うように、この街の流儀を教えてやらなきゃ。”
“でも、そうでないなら・・・”
「ご案内しますっ!」
元気良く返事をすると彼女はリョウヤの後を追った。
その胸の内にささやかな闘志と・・・
“この街を包んでいる霧はきっと晴れるわ。”
そして希望にも似た決意を秘めて。

 [ No.472 ]


薄闇の中の使者

Handle : “小刀”元   Date : 2000/09/01(Fri) 19:50
Style : レッガー◎・カゲ・カゲ●   Aj/Jender : 25歳/男
Post : 青面騎手幇


「榊さん。」
不意に名を呼ばれ、傍らの女性、“騎士”が弾かれたように振り向いた。
ついで当の榊も背後を見やる。
時刻は4時、今ではすっかりお馴染みとなった薄い霧がかかる中、男が1人こちらをジッと見つめていた。
若い男だった。
ラフに着こなした渋いグリーンのジャケットが良く似合っている。
サングラスをしているため、よく解らないが、やや幼さを残した 顔立ちは十代と言ってもおかしくはないだろう。
距離はおよそ5メートル。
彼がその気なら、楽に榊を殺せる距離だ。
相手の接近を許したのが悔しいのか、騎士が面を朱に染め、前に出ようとする。
「大丈夫です。この人に害意はありませんよ。」
なだめるように、榊が手で制する。
「ねえ?青面騎手幇のミスター元。」
元と呼ばれた男は薄い笑いを浮かべ頷いた。
「さすがだな、榊さん。」
「話がある。ビズ(仕事)の話だ。」
そう言って榊の目を真正面から見据えた。

 [ No.473 ]


始動

Handle : “指し手”榊 真成   Date : 2000/09/03(Sun) 00:30
Style : KARISMA FATE◎ KURO-MAKU●   Aj/Jender : 29/♂
Post : 榊探偵事務所


霧の街を歩く。
街並みを眺めながら、歩く。
そこに生きる人々を観ながら、ゆっくりと歩く。
榊は、ストリートの住人たちが好きだ。
彼らには強さがある。生きていくための強さが。
昔の自分もそうだった。
そんなことを思いながら、ゆっくりと、歩を進める。

「榊さん」

不意に、呼び止められた。弾かれたように和泉が振り返る。

(この距離まで和泉さんに覚られずに接近・・・たいした腕の持ち主のようですね)

榊の思考が切り替わる。
かつての自分とその仲間たちを思い浮かべていた日常の思考から、陰謀と策略の中に生きる、もうひとつの日常の思考へと。
そして、ゆっくりと背後を見やる。
若い男だった。
ラフに着こなした渋いグリーンのジャケットが良く似合っている。
サングラスをしているため、よく解らないが、やや幼さを残した 顔立ちは十代と言ってもおかしくはないだろう。
距離はおよそ5メートル。
主を護るべく、和泉が前に出ようとする。

「大丈夫です。この人に害意はありませんよ」

もし害意があったのなら、榊の命の灯火は既に消え去っていたはずだ。
それが、この5メートルという距離にあらわされている。

(むきになって。和泉さんも、まだまだ精神修養がたりませんね)

絶対の信頼の置ける数少ない人間に対し、そんなことを思いながらも、思考は記憶の大洋を回遊する。
そして、ひとつの答えに辿り着いた。

「ねえ? 青面騎手幇のミスター元」

“小刀”の元。
LU$T三合会東青の傘下にして3本の指に入る武闘派集団である青面騎手幇。その幹部である狄 勲の右腕だ。
桃華源で、ある人物から受けた忠告を思い出す。

『青面騎手幇には気をつけろ。特に“火柴”狄 勲にはな』

榊の顔に微笑が浮かぶ。
危険であるということは、それだけ得られるものも大きいということだ。その手がかりが、向こうからやってきてくれたのだ。

「さすがだな、榊さん。話がある、ビズの話だ」

そう言って榊の目を真正面から見据えた。

(この街を覆う霧。その調査は、ここからはじめることにしましょうか)

「お話を伺いましょう」

元の視線を、正面から返す。臆することなく。気負うことなく。
そして、言の葉に刃をのせて。

「ところで、その依頼は青面騎手幇からのものでしょうか? 貴方個人からのものでしょうか?
それとも、ナンバー・・・3からの?」

その面には微笑みを浮かべて。

http://www.din.or.jp/~kiyarom/nova/index.html [ No.474 ]


霧の中の怪物

Handle : 霧の怪物   Date : 2000/09/03(Sun) 00:38
Style : アヤカシ◎・チャクラ・チャクラ●   Aj/Jender : ?
Post : ?


微かな浮遊感とともに久遠は目を開いた。
リアルスペースの感覚を確かめるようにゆっくりと手を動かす。
長い間ウェブに潜っていたため、体は重く、まるで自分のものではないようだった。
時計を見ると4時をすこしまわったところだ。
と・・・
彼女は奇妙な違和感を憶えた。
感覚が研ぎ澄まされている。
まるで電脳の海を泳いでいる時のような、五感が拡大したような感覚。
イエローエリアのマンションの一室。
彼女がここ数日滞在しているこの部屋の隅々まで、あらゆる気配を感じとる事ができた。
そして、部屋の隅にわだかまる黒い影も・・・
「これは、現実?」
ソレを見て彼女は改めてそう思った。
影がゆっくりと体を伸ばす。
黄色い体毛に黒の縞。
実物は見た事がないが、彼女にはソレが猫科の大型肉食獣のものだと解った。
虎。
すくなくとも頭部は虎に酷似していた。
しかし、立ち上がったシルエットは明らかに人型だ。
金色の体毛で覆われ、不自然な程に筋肉が発達した体はすくなくとも2メートル以上はあるだろう。
「グルルル・・・・」
明らかな殺意を含んだうなり声がその口から漏れた。
圧倒的な破壊力を秘めた体躯が低くたわめられる。
「どこかのサイトにこういうアトラクションがあったっけ・・・」
場違いな感想をいだきつつも、彼女の体は危険に反応していた。
しかし、電脳の海から戻ったばかりの体はなかなか言う事を聞いてくれない。
足をもつれさせ、その場に倒れ込む。
結果、ソレが彼女の命を救った。
その巨躯からは想像もつかない凄まじいスピードで伸ばされた両の腕が、丁度彼女の頭があった空間を薙いだ。
頭に鈍い痛みが走り、なま暖かい液体が額をつたう。
“逃げなきゃ・・・”
痛みを堪えて久遠は床を転がった。
ゴオン!
背筋が凍るような炸裂音を残し、彼女が座っていたイスが粉々に弾け飛んだ。
逃げ場を求め、薄暗い室内を見回す。
しかし、出口は獣人の背後だ。
しかもドアはしっかりと閉じられている。

“それなら、コレはいったいどこから室内に入ったんだろう?”
当然の疑問が頭をよぎるが、その答えを思案している暇は今の彼女にはなかった。
次々と繰り出される攻撃を避ける。
しかし、ついに彼女の背が冷たいガラスに触れた。
ガシャーン!
そして、窓ガラスが割れ、中を舞った彼女の小さな体がベランダの手すりに叩きつけられた。
自ら窓に体当たりをするように飛んだため、直撃ではなかった。
しかし、その想像を絶する一撃は彼女に深刻なダメージを与えていた。
耳鳴りがする。
麻痺したように、体中の感覚が無くなっていた。
「ここで気を失ったら・・終わり。」
悲鳴をあげる四肢を叱咤し、手すりによりかかるようになんとか立ち上がる。
その目が霧に覆われたLU$Tの街、そして遥か下方にかすむ地上を見た。
20階。
25階建てのマンションのほぼ最上階に近いこの部屋がうらめしかった。
ベランダの幅は2メートルもないだろう。
そして、目の前には得物をほぼ手中に納め、禍々しい犬歯を向いて笑う怪物の姿があった。
逃げ場は無かった。
死。
背筋をつたう冷たい感覚。
「私、死ぬの?」
「あの人を探す事も出来ずに、私死んでしまうの?」
誰に問うでもなく、久遠の口から呟きが漏れた。
だが、それに答えるものは、誰もいなかった。

 [ No.475 ]


夕暮れの窓辺

Handle : “女三田茂” 皇 樹   Date : 2000/09/03(Sun) 01:35
Style : タタラ●、ミストレス、トーキー◎   Aj/Jender : 27歳/♀/真紅のオペラクローク&弥勒 短い髪
Post : ダイバ・インフォメーション新聞班長


「なにか」がヨコハマで動き始めていたその頃。

ドアを開けた途端、かび臭い匂いが入ってくる。兄に言って、ヨコハマでの生活用に借りた部屋だ。やや狭いが、日当たりのいい屋根裏部屋である。
「さて、と…」
荷物をとき(といっても、僅かな旅行鞄に詰めてきた着替えが殆どだが)、皇は自分の持ってきた物以外何もない部屋に腰を下ろし、ルーフの窓から見える西日のさす町並みに目をやった。
彼女は3ヶ月前までホンコンの住人だった。
少し歩けば中華街というこの場所は、窓からその雑多な街が良く見える。もう少しでそこは不夜城となるだろう。
その町並みは、確かに雰囲気は似ている。が…
「最初来た時はHEAVENそっくりだと思ったけど、そうでもないわね」
それが、彼女が抱いた「中華街」の評価だった。

仕事ではないとは言え、情報が使えそうならば独断で発表する事だって出来る。それぐらいのコネクションと権力は、今の所有る。もっとも、その真実が発表できるほどの物であるとは限らないが…
まずは情報から集めなくてはならない。兄が送ってきた情報は、あまりに整合性を欠いている。
荷物をほどくと、持ってきた中で一番大きな荷物をひも解いた。
タップ−FTL99である。
王美玲の件もあり、一つ買って来たのである。
簡単に設置が終わると、彼女は立ち上がった。
ポケットロン−彼女が仕事で使うほうではなく、重要な情報やプライベートな部分で使用するSC−8入りの方をあけて、あらかじめ登録してあったアドレスに連絡を取る。
「こんばんわ。那辺さん。いまヨコハマにつきましたわ…ええ、こちらで部屋を借りました。また場所は連絡しますね。仕事の件は、いまは王小姐の連絡待ちってとこですかね…それでは、また後程」
ポケットロンを閉める音と、ドアを閉める音がリンクする。
行き先は中華街。

彼女は、ヨコハマを覆う霧に、その一歩を印したのである…

http://member.nifty.ne.jp/heinrich [ No.476 ]


霧の残滓、囁く声

Handle : “女三田茂”皇 樹   Date : 2000/09/04(Mon) 02:06
Style : タタラ●、ミストレス、トーキー◎   Aj/Jender : 27歳/♀/真紅のオペラクローク&弥勒 短い髪
Post : ダイバ・インフォメーション新聞班長


 扉を出たところで、ふと、皇は廊下に日を差し込ませている大きな窓から外を覗く。良く観てみれば、霧が早くもうっすらと漂い始めている。
 皇は微かに身震いした。素直に嫌な記事のネタになりそうな気配がぎりぎりと差し迫っているように感じ始めていたからだった。
 素直に一度肩を竦めてから、気を取り直してエレベーターへ徒歩を進める。だが何時になく足取りは重く、嫌なことに、身体が昨夜泊まった簡易ホテルの部屋での一夜を思い出し始めようとしていた。
 彼女は例外なく悪夢が嫌いな女性の一人だった。

 起きると全身が汗にまみれ、ベッドのシーツを濡らしていた。嫌な夢を観た気がする。声に出さずに皇は額に手を当てた。
 どんな夢を観たのかを良く思い出せない。だが、こうやって汗をかいて目覚めるというのは子供の頃以来だった。居心地の悪い目覚めに溜め息をつきながら、皇はどんな夢を観たのだろうかと必死に思い出そうし、微かな夢の残滓を追う。
 やがて蜘蛛の糸の様に不確かな残滓の片鱗を見つけ、目を閉じて目覚めと共に消えてゆく記憶を掴むようにする。確か・・・追われるような恐怖感のある夢だったはず。しかしこんな夢を見るのは・・・・・夢?
 目を開きながら皇は自分の首元にあるWaW(ワイア アンド ワイア)に、枕元のDAKの端末へと繋ぐ。用意周到に趙瑞葉との会話を全て映話記録していたので、記憶を探るにはいいタイミングだった。
 皇はIANUS2から映話のデータを落とし込むと同時に再生し、昨夜趙が自分に継げた言葉を一句一句解きほぐすようになめてゆく。
『・・・皇さん。夢を最近見る?』DAKのモニターに移る映像のフレームが、皇の視線に合わせて少しぶれる。彼女は緊張していた。『夢に注意して。見えるものは貴方の辿る全てに繋がるものよ』
 映話の声に皇は少し身震いし、眉をしかめながらもう一度夢の残滓を追おうと目を閉じる。
 その瞬間、彼女のDAKが呼び出し音を音高に響かせた。

 頭に響く、大きな音にたっぷりと10センチくらい飛び上がり皇は目を開けてDAKのモニターを見つめる。画面でDAKのアイコンがカタカタと文字を並べてゆく。
 __________Message from M.
 皇は慌てて両手でモニターを掴み、画面を指で叩いた。

 ____________中華街の一角にある、店舗のイメージマップが瞬いている。
 彼女は、1秒にも満たない瞬間にその全てを記憶する。数文字のメッセージが彼女が良く知る過去の時代の暗号を経て描かれていた。
 『メッセージを確認せよ』
 確かにそう書かれている。だが彼女の目を引いたのは、その言葉にあるのではなかった。
 そもそも自分は、ここに泊まることを「誰にも」告げてもいないし、クリスをまだ一度も使っていなかった。言うなれば、自分の行動はまだLU$Tでは「見えていない」はずなのだ。
 彼女は少々医ら正しい気持ちに身を委ねながら、画面を叩いた。

 「なぜ、メッセージが届くのかしら・・・・・」
 彼女はDAKのメッセージを消し、記憶へと収める。
 
 _____________早くも、舞台が動き始めている・・・・訳ね。
 笑いながらハンドバックを枕もとに寄せると、彼女はベッドへと、もう一度完全な夜明けまでのまどろみへと降りていった。

 [ No.477 ]


回想―― Memory:01 - Pass Away -

Handle : “ツァフキエル” 煌 久遠   Date : 2000/09/04(Mon) 06:30
Style : 舞貴人◎ 新生路=新生路●   Aj/Jender : 22,Female
Post : カフェバー“ツァフキエル” マスター


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三日前。

ヨコハマLU$T、中華街___
裏通り安アパート。14:43〜

 突然音信不通となり、ヨコハマに来ることになった直接のきっかけとなった友人。
 彼女の手がかりを求めて、久遠は中華街を歩いていた。
 友人の部屋にあったモノは、主人を待ち続け、稼働したままのメインフレーム。
 飲みかけの珈琲と栄養剤。
 高く埋まられ山になっている煙草の灰殻。
 脱ぎ捨てられたシャツ。
 散らばったミュージック・データ。
 「・・・・・・・・・・・・・・・」
 足の踏み場もないとはよく言っていたが、まさか本当にそうだとは訪れるまで久遠は思っていなかった。
 しかし、その様子に彼女は微かに安堵を覚える。
 友人は実在したのだと。
 彼女は確かにココで暮らして、ココで生きていたのだと。
 そう言えるモノ達が確かにココには存在していた。
 トロンのアクセスログを見てみようと思って指を伸ばした先に、触れたモノがあった。
 小さな、二人の女性が写っている写真。
 二人が微笑んでいる後ろに見え隠れする看板――“ツァフキエル”
 一瞬、息を呑む。
 友人がN◎VAへ遊びに来たときに写した記憶があった。
 二人の女性は、その中で記憶の中の笑顔で微笑んでいる。


ヨコハマLU$T、中華街___
李華藝貨付近。15:36〜

 見つかった記録にはめぼしいモノは何もなかった。
 音信不通になる直前に言っていた通り、休息を取っている最中で受けた依頼もないらしい。
 その前に受けた依頼も、特に問題なくクリアしているようだった。
 「仕事上のトラブルはX・・・か」
 呟いて、久遠はのんびりと歩いていく。先程、李華藝貨に入っている最中に出始めた霧は、どうやらおさまりつつある
 ようではあったが、まだ視界を白く染めていた。
 一応行方不明ということで捜索願いを出してはいるものの、自分で探さなければいけない気がしていた。
 それに――何故か、見つけられるような気がしていた。
 何の当ても無いというのに。

 ごつんっ!
 「きゃ・・・・」
 べたんっ!
 ・・・・・ガシャン! ガランガラン・・・・
 霧のせいで方向を見失っていたらしい。
 間違えて曲がった先はどうやら裏道で、備え付けではない丸い小型のダストシュートが置かれてるような場所だった。
 何かに躓いて、転んで、ゴミやなにやらが散らばってしまったのは顔を上げなくても音と匂いでわかる。
 「痛た・・・・・」
 思わず手を当てた額に、ぬるりとした感触。
 「えっ・・・・・・・」
 慌てて見てみれば、手にはべっとりと血が付いていた。
 気が付けば、自分が座り込んでいるその地面にも、紅い水溜まりが出来ている。
 ゆっくりと、本当にゆっくりと視線を向けていった先には、霧にかすれてよくわからないが、女性らしい服装を纏った
 身体が、変にねじくれて横たわっていた。
 その、向こうを向いていてわからない頭部から皮膚と神経筋だけで繋がってぶら下がっている耳にある、宝石の輝き。
   “大切なヒトからもらったの。今はいないあの人が、私のために特別に作ってくれた品――”
 「いやあああぁぁぁあああっっっ!!!」
 晴れかけた薄い霧の中に、少女の叫びがこだまする。



 「・・・・で?」
 ブラックハウンド、八神霊弥警部補は経緯を説明していた同じブラックハウンドのサンドラに話の続きを促す。
 「以上が、第一発見者の煌 久遠・・・彼女ですね・・・の遺体発見経緯証言です。現在、確証を取っている最中ですが
 記録にある行方不明者捜索願い提出時、それから先程までまわっていたというルートで裏付けが取れつつありますので、
 ほぼこの証言通りで間違いないと思います」
 サンドラは焦って説明しそうになるのを抑えて、聞き取りやすいペースで、しかしはっきりと説明を行った。
 リョウヤはその心情を知ってか知らずか、遺体のあった路地裏を見つめ続けている。
 「・・・・先程、捜索願はその発見者が提出したと聞いたが?」
 「はい。被害者、シア・カーミスは係累がありません。証言を信じるなら一番親しくしていたのが彼女で、他人とは
 ビジネスライク以外に付き合いのある女性ではなかったようです」
 「・・・・・・・成程」
 しばらく沈黙した後で、リョウヤは血にまみれた現場から不意に視線を移した。
 そこには、別の女性捜査官に付き添われている発見者の少女の姿がある。
 先程証言を取ったときは落ち着いていたが(放心していたのかもしれない)また感情が溢れてきたのか、涙を止めよう
 ともせずに泣き続け、付き添いの捜査官になだめられている。
 リョウヤはしばらくその光景を見つめていたが、また現場に目を戻した。
 「・・・・・・・・・・」
 その瞳は、何も語ろうとはせずただまっすぐにその場を見つめ続ける。


http://plaza.across.or.jp/~ranal/master_nova/quon_nova.html [ No.478 ]


一瞬  ――霧と夜空と化物と

Handle : “ツァフキエル” 煌 久遠   Date : 2000/09/04(Mon) 06:31
Style : 舞貴人◎ 新生路=新生路●   Aj/Jender : 22,Female
Post : カフェバー“ツァフキエル” マスター




 指先がピリピリと神経質に痺れを伝えている。
 電子の海へ潜るのは夢を見るようなモノだと、誰かから聞いたことがあるがまさしくその通りだと久遠は思った。
 意識はほぼ覚醒しているのに、現実世界でのこの身体は夢から覚めたばかりで何も言うことを聞いてくれない。
 追いつめられ、背中にヒヤリと冷たい窓の感触を受けたとき・・・「何か」を、感じた。

 『・・・・何?』

 先程から感じている違和感。

 『何なの・・・?』

 研ぎ澄まされた・・・自らの五感。

 『これは・・・・・・』

 額から伝っていた生暖かい血がポタリと床に着いた瞬間、目の前の巨躯からの一撃が繰り出される。
 ガシャ――・・・ッッン!
 直撃ではなかったとはいえ、口の中に満ちた鉄の味と、割れた窓からの外気の流れを感じて彼女はやっと先程から
 感じていた違和感の正体に突き当たった。
 『――――――――――――霧!?』
 僅かに感じていた、水と風の混じる涼やかな香り。
 手すりにつかまり、痛みを堪えながら目をこらせば、確かに足下に部屋から白い流れがつくられていた。
 『・・・・部屋の中に・・・・霧・・・・・?』
 一体何処から?
 トロンは繊細だ。少しでも空調が変わればすぐに不満の声を漏らす。一秒よりさらに小さい単位で電子を駆けめぐる
 彼女にはそれは決して避けねばならない事態であって、部屋の空調はほぼ一定に保っていた。
 部屋の中はほとんど密室状態で、ダイヴの時の無防備時には確実に各所にロックをしてあったはずだ。
 外気が入る余地はないはず―――――空間を保つ空調設備、そのモノ以外は。
 「・・・・・グルル・・・・・・」
 思考と共に、遠くに行きそうになった意識を低い唸りが押しとどめた。
 部屋に微かにたちこめている霧の中立つソレの姿に、久遠は落ち着きかけていた思い出にフィードバックさせられる。
  霧の中の紅い雫。
  ぼやけて見えた、友人のねじ曲がった身体。
  霞む霧の中輝いた、彼女の大切な耳飾り・・・・

 思い出の中の輝きと、現実に視界に入った光に思考がリンクすると同時に、体中の鈍い痛みが存在感を持ち始めた。
 ともすればそのまま崩れ落ちそうな身体と気持ちを叱りつけながら、手すりに寄りかかって立ち上がる。
 「・・・・私、死ぬの?」
 小さな呟きが零れる。
 「あの人を探す事も出来ずに、私死んでしまうの?」
 割れた窓のカケラ。足下に映った微かな光に、久遠は一瞬だけ視線をソラへと向けた。

 眠らない街の光に照らされた夜の闇は、もうすぐ朝の訪れを告げようとしている。
 その、美しい藤色の闇と見失われるほど小さな煌めきの光景に妙に懐かしさがこみ上げてきて、一筋、涙が零れ落ちた。


http://plaza.across.or.jp/~ranal/master_nova/quon_nova.html [ No.479 ]


霧の街へ…

Handle : “ウィンドマスター”来方 風土   Date : 2000/09/04(Mon) 20:36
Style : バサラ●・マヤカシ・チャクラ◎   Aj/Jender : 23/男
Post : 喫茶WIND マスター


「なかなか、出くわさないもんだな」
来方 風土は、霧の中を歩きながら一人呟く。
『無闇に歩き回っても、仕方在るまい』
風土の呟きに声が応える。しかし、その回りには応える様な人物は誰一人いない。
「でもさ、せっかく面白そうな事件が起こってんるんだから、参加しない手は無いと思うけどな」
前から歩いて来た親子連れが、怪訝な顔する。その視線を感じたのか、風土は顔に微笑を浮かべると、子供に向かって手を振る。側から見れば怪しいその仕草に、母親は子供の手を引くと、その場を足早に立ち去る。
『怪しい真似を、するからだ』
今度は、声を無視する事に決めたのか、何事も無かったかの様に、再び歩き出す。しかし、僅かに進まぬ内に歩みを止めると、まるで、新しいオモチャを見つけた子供の様に、その顔に笑みを浮かべる。
その視線の先に有るのは、霧の中からこちらを見つめる影だ。それも、血の様に紅い眼を持つ。
『ほう、出てきたか』
「始めまして、かな。出来たら、アンタの主人の所に連れて行ってもらえると、在り難いんだけど」
風土はまるで、顔見知りに話し掛ける様に、気楽な調子で話しかける。その瞬間、風土はその身を沈める。僅かに後れて、その頭上を影を通過し、背後に着地する。
そこにいたのは、直立した狼を思わせる生き物だった。だが、その身長はゆうに2メートルは在るだろうか、そんな生き物がこの世に存在するとは。その姿はまさしく、伝説に在る人狼その物で在った。
「へえ〜、なかなか素早いな。ホントは、2発入れるつもりだったんだけど、1発だけか」
風土が感心した様に言う。良く見れば、人狼は自らの腹を押さえていた。それは、すれ違いざまに放たれた、風土の拳の成果であった。
「どうする、まだやるかい。帰るのなら、自分の元いた場所に早く帰りな」
風土の言葉に敵わぬと見たか、霧の中にその姿を溶けこます様に、その場から走り去る。
「今回の“ゲーム”も、なかなか楽しめそうだな」
『それだけで、済めばいいがな』
その言葉に、風土は顔に苦笑を浮かべる。

 [ No.480 ]


霧の中の回想−前奏

Handle : “銀の腕の”キリー   Date : 2000/09/04(Mon) 22:57
Style : Kabuto-Wari=Kabuto-Wari◎ Kabuto●   Aj/Jender : 24/Male
Post : トライアンフ


−あんたがキリーかい? ああ、“ベル”から連絡は貰っている。ブツを受け取りに来たんだろ?準備は出来てるさ。残りのブツはここだ−

そう指定された高層ビルの一角。決して高級とは言いがたい部屋の中で香るガンオイルと硝煙の匂い−自分にとって最大の“牙”を磨きつつ、ふと先日の事が頭をよぎった。


数日前、バー「桃華源」。

「約束してくれ。必ず生きて帰ってくると」
−……そいつは無理だな。“魔女”が相手なんでな−
「じゃあ、その銃は譲れない。……約束してくれ、必ず生きて帰って来るって」
−無理な相談だ。俺はもう死んだのさ。7年前の、LU$Tでな−
「……何言ってるんだよ。あんたはここに生きてるじゃないか」
−ここにいるのは魔女に殺された、只の亡霊さ−
「お、おい……」
−その注文を揃えてくれ。量が量だから、期日に間に合う様にな−
「量……? なんだ、この量、戦争でもする気か?!」



「戦争なのさ。奴を殺すまではな。奴は、刺し違えてでも殺す……!」
ふと口を突いて出た言葉。思わず、手に込めた力が銃のグリップを軋ませる。
−心のどこかで声が聞こえる。

「やめて、もう私のために戦わないで! これ以上戦ったら、あなたの心が死んでしまう……! 私の復讐なんて止めてよ、お願いだから−−−」
頭を振る。また、あの声だ。7年前に無くしたはずの−

その時だ。視界の陰に煌めく燈の光。外…か? 立ち上がり、視線の距離を伸ばす。

−窓ガラスが割れ、一人の女性がベランダに立っている。その向こうに見え隠れする、金色の体毛に覆われた、獣人−

それを見て、思わず笑みがこぼれる。「やっと出てきたか……」

懐の銃を抜き、距離を確認する。
−彼我の距離、400M。獣人は、今まさに女性にその牙を振り下ろそうとしている−

「馬鹿め」

手にした銃が轟然とマズルファイアを吐き出す。立て続けに二発。
振り下ろそうとした牙が弾かれ、よろける獣人。突然のことに咆哮を上げ−

「……受け取れ。これがお前達に送る挨拶だ」
眉間、心臓に立て続けに二発づつ。傭兵時代に身体に染み込んだ、ダブルタップの感覚−

届くはずのない銃弾は、魔弾の射手の意思のように獣人をなぎ倒した。

 [ No.481 ]


信頼

Handle : “小刀”元   Date : 2000/09/04(Mon) 23:03
Style : レッガー◎・カゲ・カゲ●   Aj/Jender : 25歳/男
Post : 青面騎手幇


ヨコハマLU$T:BAR 黒蓮

「ビズの話だ。」
そう言って元が二人をこの店に連れてきて、すでに20分以上が過ぎていた。
今だ、元は手元のグラスをジッと見つめたまま、何も語らない。
重苦しい雰囲気と沈黙に耐えかねたのか、和泉がわずかに身じろぎし、主をそっと見やった。
だが、当の榊はこの沈黙を逆に楽しんでいるかのように、穏やかな笑みさえ浮かべ、依頼人が口を開くのを待っていた。
「榊さん。」
そして、ついに元が口を開いた。
「アンタは信頼に必ず答える男だと聞いた。」
「他の同業者よりも、信頼というものにこだわる男だと、そう聞いた。」
まるで独り言のように言う。
榊には、それが彼に対する問いかけだと解っていた。
「もちろんです。」
静かに、元を見、そして答える。
榊と元、二人の視線がわずかの間、絡み合った。
まるでお互いが、自分の中の何かを視線を通し、相手に伝えようとしているかのようだ。
「わかった・・・アンタに仕事を依頼しよう。」
そういうと、元は上着から一枚の写真を取り出し、榊に渡した。
それは、血のように紅い髪をした、美しい女の写真だった。
「!」
刹那、彼の中で閃くものがあった。
“オレはこの女を知っている”
曖昧な、まるでこの街に立ちこめている霧のように不確かなものが、彼の中で形を成そうとした。しかし、それはすぐにかき消され、崩れてしまう。
何か奇妙な違和感のようなモノが彼の絶対の記憶力を鈍らせている。
“なぜだ?”
「榊さん、コレはオレ個人の依頼だ。」
元の言葉が彼の思考を中断させた。
「青面騎手幇の元でも、“小刀”の元でもなくただの元、オレ個人の頼みだ。」
相変わらずの無表情、口調も平たんだったが、その声音には何か切実な願いにも似た響きが込められている。
「この女を見つけだしてオレのところに連れてきてくれ。」
「・・・時間が、無いんだ。」
そして、元は初めて悲しげに顔を歪め、まるで己の中にある不吉な何か全てを飲み干すようにグラスをあおった。

 [ No.482 ]


御在れ

Handle : ”スサオウ”荒王   Date : 2000/09/05(Tue) 01:51
Style : カタナ◎●チャクラ マヤカシ   Aj/Jender : 三十代後半 /男
Post : FreeRance?


 弾丸がその”獣”を貫く。
 だが異形異界の生物は簡単には膝を屈しない。そもそも生物として生きている形態そのものが違うことさえあるのだから。
 故にその”獣”が常の世の生き物ならば死ぬはずの箇所に傷をうけているのに動き出したのだ。
 傷ついた体を感じさせない動きを見せたのだから。
 人の持つ技と獣の力を同時に感じさせる動きで大きく腕をふるう。
 もし、それが彼女に当たっていたならばそれだけで致命傷となっていただろう。
 だが、それは彼女には届かなかった。
「やれやれ、霧の中に隠れおるはやめたか?」
 ”獣”の腕をぎりぎりと押さえ込む。その膂力は獣と比することで人間とは思えないレベルのものだと解る。
 だが、その片手を押さえられても”獣”はあきらめもしない。
 それどころかさらに大きな一撃を繰り出そうとさえする。
 だが、その動きを制するのはやはりその男だった。
 力を込めたとさえ見えないのにその動きを止めてしまった。軽く体を動かすだけで。
 男と”獣”の位置が入れ替わる。
「幼姫よ。ここは我が引き受けよう。去るならばいまぞ?戦いはじまりて周りみやるほど我は器用ではない」
 その言葉には圧倒的な力を感じさせる何かがあった。
(さて、誰ぞの弾丸で手傷を負うておるが。故に獣を倒すは難いかよ)
 そして大きく突き飛ばし構えをとる。
 それはどこのどんな流派という訳ではない。だがもっとも恐ろしいのは構えと見えるのにそれはただ立っているだけの自然体なのだ。

 [ No.483 ]


忘却

Handle : “指し手”榊 真成   Date : 2000/09/05(Tue) 02:09
Style : KARISMA FATE◎ KURO-MAKU●   Aj/Jender : 29/♂
Post : 榊探偵事務所


霧にけむる、LU$Tの夕暮れ。
榊は、滞在のために確保したマンションの一室にてそれを眺めていた。
視線は突き刺さるように窓の外に向けられてはいるが、その瞳に映るものに注意を向けているわけではなく、思考に沈んでいた。
先ほどの元との会話が思い出される。

「この女を見つけだしてオレのところに連れてきてくれ。・・・時間が、無いんだ」

受け取った写真には、血のように紅い髪の女の姿が映っていた。
美しい女だった。
それは単なる造形上の美ではなく、男を狂わせ、惑わせるための全ての条件を満たした、まるで誰もが心の奥底にしまいこんだ極めて背徳的な願望そのものが形を成したような妖しく危険な女だった。

「・・・この依頼、お受けいたします。貴方の信頼には、きっと御答えしますよ」

報酬は破格だった。サポートにフリーランスを雇っても、充分に利益が出るだろう。
それだけ必死なのか、それとも何か裏があるのか。
しかも、これは元個人からの依頼だという。
青面騎手幇からのものでも、おそらく近いうちにナンバー1になるであろう狄勲からのものでもなく。
しかし、報酬や危険の香り以上に榊の心をひきつけるものが、この依頼にはあった。

(私は・・・この女を知っている)

曖昧な、まるでこの街に立ちこめている霧のように不確かなものが、彼の中で形を成そうとした。しかし、それはすぐにかき消され、崩れてしまう。
榊は、自分の記憶力に絶対の自信があった。
剣を使えるわけでもない。銃が使えるわけでもない。そんな榊にとって最大の武器は“頭脳”なのだから。
一度目にした人間の顔は、必ず覚えている。それも、これだけ印象的な顔だ。忘れるわけがない。
なら、残る可能性は・・・

「何らかの力によって、私の記憶が改竄されている・・・か」

屈辱的な答えだった。
そうだとするなら、おそらく霧の真相に迫っておきながら、全てを振り出しに戻されたことになるのだ。
しかも、命を奪うでもなく、記憶を奪うにとどめられている。
敗北を意味するこの答えは、認めたくないものだった。
だが、可能性という名の欠片を一つ一つ取り除いていったとき、最後に残ったもの。それは、いかな結果であろうとも、真実なのだ。
人の心を操作する力。マヤカシか、あるいは・・・。

「LU$Tの霧には魔物が潜む・・・」

そんな呟きがもれる。
LU$Tで起こっている変死の数々。
過去に起こったさまざまな事件。
そして、血の如く紅い髪をした女・・・。

「和泉さん、仕事をはじめます。準備をしてください」

そう言うと、榊は信頼する“友人”たちに連絡を取り始めた。
窓の外からは、血の如く紅い夕日が、その日最後の光を投げ込んでいた。

http://www.din.or.jp/~kiyarom/nova/index.html [ No.484 ]


考察

Handle : “ウィンドマスター”来方 風土   Date : 2000/09/05(Tue) 23:25
Style : バサラ●・マヤカシ・チャクラ◎   Aj/Jender : 23/男
Post : 喫茶WIND マスター


「取り敢えずは、疑問が一つ在る」
『“あれ”が、人に化けるか否かだな』
霧の夜の中、風土は一人?、自問自答をしながら、歩き続ける。
「ヤツが人に化けるなら、捜すのは難しい。事件を起こしても、人ごみの中に紛れ込んでしまえば、幾らでも逃げる
方法が在る訳だしな」
『もし、人に化けられないとすれば』
「捜すのは難しくても、方法は在る。あの姿じゃ、目立つだろうし、何らかの移動手段が在るはずだ」
『術を使っているのかもしれんぞ』
「それでも術者の気配を探るとか、何らかの方法が在るはずだ。被害の状況を見れば、移動のパターンも在る程度は予測できるだろうし」
『もし、それだけの事が出きるとすれば、かなり高位の術者か、アヤカシが関わっていると見て、まず間違いは在るまい』
「ま、全ては仮定の話しだ。今の所は、情報も無い、仲間も無い、隠れ家も無い、飯も無い、装備も無いの、無い無い尽くし。取り敢えずは、そこから始めるか」
風土はそう言うと、ポケットロンを取り出し、限られた者しか知らないアドレスに、連絡を取る。

 [ No.485 ]


掠れた歌声

Handle : “ツァフキエル” 煌 久遠   Date : 2000/09/07(Thu) 04:14
Style : 舞貴人◎ 新生路=新生路●   Aj/Jender : 22
Post : カフェバー“ツァフキエル” マスター




 目の前に火花が散ったように見えた。
 少女の瞳は閉じられなかった。
 眉間に二つ。心臓に二つ。確実な射撃が目の前の怪物に放たれる。
 そうした打撃を受けてなお、動こうとする金色の腕を止めたのは、一人の男。
 「幼姫よ。ここは我が引き受けよう。去るならばいまぞ?戦いはじまりて周りみやるほど我は器用ではない」
 知っている声だった。
 顔を確認する前に、久遠は駆けだした。“翼”をひっつかんで、慌てて外に出る。


 ――――――――――――――――――


 霧の満ちている街の中、何処をどう走ったのか記憶にない。
 走りながら流していた涙がやっと止まる頃、久遠は小さな公園にたどり着いていた。
 霧はずいぶんと晴れ、薄い闇に薄い靄がかかっている。
 誰もいない公園に前でしばらく佇んで、静かにブランコに座った。
 ......Pi..
 起動音。とても自然に、久遠の指が動いていく。
 ラチェットは主人の命に従って、今先程までいた場所の全電子接続記録を洗い出していった。
  ――確認事項 該当せず――
 その結果に、彼女の指が僅かに止まる。
 ・・・電子的なアクセスは確認されなかった。
 ・・・部屋は、密室状態だった。
 ・・・その上で、あの化け物は部屋に入ってきた。
 ・・・確認できる差異事項は、部屋にあった「霧」・・・
 「あの霧・・・・ナニで出来てるんだろう」
 無意識的に呟いて、再び指を動かし始める。
 先程まで自分がいたはずの部屋にある、メインフレーム及びタップ内の電子記録を透明化させて持ち出してきて
 いた僅かなディスクの中に書き込ませる。購入したばかりでさほどのデータを入れていなかった為、作業自体は
 なんの支障もなく終了した。
 次にするべき事も決まっている。軽やかな響きはそのまま続けられた。
 自室のホームセキュリティを支配。カメラを動かし、部屋の惨状を見る――ため息がこぼれた。
 これではおそらく戻れないだろう。マシンがかろうじて生きていただけでも驚きだ。
 カメラ記録をこちらに移動させて、自室のマシンには「蟲」を走らせておく。電子記録を食い破り、全てが終わる
 と自らと共に機械を破壊してくれる忠実な彼女の使徒(ウィルス)。
 そして部屋への電気供給をストップさせた時点で、全ての行程が終了した。
 「・・・・・・・・・・・・・」
 ブランコに軽く頭を預けると、キィ、と掠れた音が響く。
 助けてくれたのは、知っている人だった――もしかしたら、あの銃弾も。
 私が襲われたのに。
 それなのに私は逃げて――こんなところで、何処にも行けず、一人座っている。
  『・・・貴女は自分の身を守ることを知りなさい』
 大切な、友人の声が記憶の中で響いた。
  『全ての自分の行動に責任が持てる? ・・・せめて、自分の能力と立場を考えなさい。
   貴女は何が出来るのか。何が出来ないのか。どんな人の環の中に生きて――誰に愛されているのかを』
 厳しい――けれど優しい光をたたえる、紅い瞳。
 記憶の中のその光と、目の前の街灯の色に、改めて自分が多くの人に支えられて生きてこれたことを知る。
 逢いたい人達。
 けれど今は逢えない。
 自分自身で選んだ道の上を、今、歩いている最中なのだから。
 だから――逢えない。
 ・・・・静かな空間に、ブランコの音だけが時折響く。
 久遠は泣いていた。
 その瞳は閉じられ、涙は流れてはいなかったが・・・彼女は確かに、泣いていた。
 ブランコの掠れた歌声だけが、それを知っていた。


http://plaza.across.or.jp/~ranal/master_nova/quon_nova.html [ No.486 ]


[ Non Title ]

Handle : リョウヤ   Date : 2000/09/07(Thu) 22:12
Style : イヌ◎、フェイト、カブトワリ●   Aj/Jender : 30over?/male
Post : ブラックハウンド


 ……霧か。
 事件の様相を暗示しているかのように白くけぶるLU$Tの街を、リョウヤはモンツァを走らせた。アクセルを踏みこむ脚には、前方の様子など意に介していないようだ。
「……で?」
 出し抜けに、リョウヤは口を開く。
「……オレたちは、どこに向かっているんだ?」
「は……?」
 死神に魅入られているかのようなリョウヤの走りに身を硬くしていたサンドラは、突然の質問に素っ頓狂な声をあげた。
「おいおい、しっかりしてくれよ」
 そんなサンドラの様子に、リョウヤは前方の霧を見据えたまま、口の端だけ歪めてニヤリと笑う。
「オレを案内してくれるんじゃなかったのか?」
「す、すいません……」
「行き先の前に、オレの質問に答えてもらおう」
 不意に、リョウヤの口調が鋭くなる。
「もし満足に答えられなかったら、この場で降りてもらう。足手まといだ」
「ど、どんな……質問でしょうか……?」
 額に銃口を押しつけられた気がして、サンドラはゴクリと唾を飲みこんだ。「もし、本当に答えられなかったら、この人は本当に私を車から放り出す」そう思わせるだけの“何か”が、リョウヤの口調に含まれていた。
「そんなに硬くなる必要はねぇよ。オレたちの任務を復唱してみろ。ただそれだけことだ。……キミが“フツー”の警官なら、簡単にわかることだろう?」
 そう云って、リョウヤはまた口だけで笑った。
 しばらくして、モンツァはタイヤを軋ませながらカーブを曲がっていった。女刑事が“足手まとい”と判断された様子は、ない……。

http://www2.tokai.or.jp/kohbundo [ No.487 ]


彼女の答え

Handle : サンドラ・トランテ   Date : 2000/09/08(Fri) 19:20
Style : イヌ◎・イヌ・ミストレス●   Aj/Jender : 21歳/女
Post : ブラックハウンドヨコハマLU$T支部警官


「そんなに硬くなる必要はねぇよ。オレたちの任務を復唱してみろ。ただそれだけことだ。……キミが“フツー”の警官なら、簡単にわかることだろう?」
そう云って、リョウヤはまた口だけで笑った。
サンドラはそんな彼をやや青ざめた顔でジッと見つめた。
そして、深呼吸した後、よどみない口調でこう言った。
「私たちの任務は国の財産である“市民”とその財産に深刻な損害を与えている“霧”にまつわる一連の事件の解決と犯人の逮捕です。」
リョウヤは何も答えない。
「と・・・警部補が仰る“フツー”の警官ならこう、答えるでしょうね。」
そして、視線をそらし、霧に包まれた前方を見る。
まるで、その向こうに隠れ潜む何かを睨み付けるように・・・
「・・・冗談じゃないわ。」
「私はこの街で生まれ、育ちました。だから、この街は私のいわば庭のようなものです。そして、この街の人達は私の家族みたいなものです。」
「自分の庭で好き勝手されて、黙っていられるほど私はできた人間じゃあ、ありません。」
一息に、それだけ言うと彼女はジッとリョウヤの答えを待った。
と・・・
彼の口元が再び薄い微笑を形作った。
「で、俺達は何処へ向かっているんだ?」
それが、答えだった。
彼女の答えがリョウヤの満足いくものであったのかは、解らない。
だが、この女性警官が車から放り出される事は、なかった。

 [ No.488 ]


夕刻の挙動不審者

Handle : “祥極堂”極 主水(キワミ・モンド)   Date : 2000/09/08(Fri) 23:56
Style : タタラ◎・マヤカシ・ミストレス●   Aj/Jender : 27歳/男
Post : 祥極堂店主


「お嬢さん・・・」
不意に声をかけられて、久遠は顔を上げた。
どうやら、少し眠ってしまったらしい。
体中が痛み、少し熱を持っているようだった。
久遠の目の前に和服を着た白髪の青年が大きな紙袋を持ってたっていた。
歳の頃は30代くらいだろうか。
もしかしたら、もう少し若いのかもしれないが、彼の何とも言えないのんびりとした雰囲気と白髪のせいで、どうしても若々しいとは言い難かった。
どこかの若旦那という形容がぴったりとくる男だ。
彼は少し面長の顔にどことなく締まりのない笑顔を浮かべて(もしかしたら本人は精一杯優しい笑顔のつもりなのかもしれないが)心配そうに久遠を見ていた。
「・・・・」
久遠が何も喋らないので、その沈黙に耐えかねたのか、青年はポリポリと困ったように頭をかいた。
「え〜と。」
「知人から状態の良い林檎をいただいたんですよ。」
「?」
「そろそろ夕御飯なので、アップルパイでも作ろうかと思っているんです。」
「お客さんが見えるらしいし、丁度良いかな・・・と。」
そして、再びニヘラと締まりのない笑顔を浮かべた。
「よかったら、いっしょにどうです?」
「怪我をしているようですし、手当もした方が良いと思うのですけど・・・」
そう言われて久遠はあらためて自分の格好を見た。
ひどい有様だった。
服はボロボロで、体のあちこちに切り傷や痣が出来ている。
もしかしたら、骨にヒビが入っているのかもしれない。
しかし、あの状況から逃げ出して、これくらいですんだ方がまだマシなのかもしれない。
「あ、あの私は、その、決して怪しい者じゃあ、ありませんよ。」
青年は1人でパタパタと手を振って弁解する。
挙動不審者が自分で怪しい者だと言うだろうか、と彼女はふと思ったが、そんな青年の必死な姿がおかしくて、とても悪い人のようにも見えなかった。
「・・・怪しい。」
冗談めかして、久遠が言う。
「いや、ホント、怪しい者じゃありませんから。」
青年は困ったように頭を捻った。
「いいわ。お腹も空いてるし、誘拐されてあげる。」
意地悪く笑う久遠に青年は苦笑を浮かべ、手を差しのべた。
「私の店はこのすぐ近くなんですよ。」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は極 主水というものです。この先で祥極堂という骨董屋を開いています。」
そして再びあの笑顔。
「好き嫌いとか、ありませんか?」

 [ No.489 ]


墓と守り人

Handle : ”デッドコピー“黒人   Date : 2000/09/09(Sat) 02:05
Style : ニューロ=ニューロ◎、ハイランダー●   Aj/Jender : 20代後半/♂
Post : リムネット・ヨコハマ電脳情報技師査察官


 おまえのところではどうだか知らんが、ここでは墓守が必要なのさ。
 荒らされないようにするために、そして、よみがえってこないようにするためにな。
 小災厄以来の風習さ。
      ―――”隻眼の騎士“アラン・ザ・ブラックナイト、北米にて―――


 「何が」とは言いきれないが、確かに何かがおかしい。
 それが、ようやくウェブに入って最初に感じたことだった―――。

 時間がないのは分かっていながらも、黒人はタップ選びには時間をかけた。
 結果から云えば性能を選んでBeyond SeekerのIANUSUを使うことにするのだが、
その判断はなかなか下せなかった。
 もちろん、あらゆるベンチマークのテストを行って、やスロットのからいっても
選ぶべき結果は分かっていたが―――IANUSというところがネックだった。
 まあ、軍用というだけあって、かなりのところが弄れた(実際に義体のほうへの
電圧を削り、若干のクロックアップをしたりもした)。それは評価できるところで
あった。
 だが―――所詮はIANUSが基本なのだ。
 マスターブートの領域が基本的にIANUSとられているのが、ただそれだけが、
気がかりだった。
 実際、重要な問題だ。下手すれば、それで失敗をしかねない。いつもとは違う
環境なのだから―――。
 特に肉体を持たないこともあってか、彼はIANUSとは縁がないほうだった。
 それも手伝ってか、IANUSはだいぶ信用ならないものとして映っていた。
 得体の知れないOSを積んでいるくらいなら、ワイヤ&ワイヤのほうがはるかに
信用できた。
 だが、それでも結局IANUSを選んだ。性能もあるが―――なにより彼の中の彼女
がそうささやいたのだ。
 (深く潜るためには高く舞い上がれるだけの羽が必要なのよ。表裏は一体なのよ)
 そして、その感覚はなんとなく理解できた。
 良く誤解されるが、彼は感覚でウェブを泳ぐニューロだ。理詰めの概念は彼は苦手
だった―――というより、そんなことをしながら潜ったことはなかった。
 だから、その感覚を大事にして、そうすることにした。
 そして、いつも使っているボードやツールを無造作にはめ込み、仕事場へと向かう。
 「廃棄処分区画」、通称「墓場」。
 その7割は本来の使い方―――廃棄用の部品などを貯めておく倉庫など―――に
利用されているが、残りは今彼の目の前に広がっているように、ただイントロン用に
改良された浴槽―――カゼが使うアレだ―――が置いてある殺風景な部屋になってい
る。
 そして、部屋と通路を隔てる分厚い扉と「守り人」。
 その3点が「墓場」に点在する隠し部屋の基本セットらしい。
 ふと、そんな御厨の説明を思い出したのは今回の「守り人」がカーライルのマーク
をつけていたからだろうか。
 マークはノートリアスと名乗ったその男と同じく冷たい殺気を放って銀色に光り輝
いていた。

 だが、ウェブに来てしまえば、そんなことはどうでも良く思えた。
 今、興味があるのはこの違和感、この雰囲気だ。
 
 ナニカオカシイノダ。
  
 ソレが何か分からないが、何か変だ。
 それは感覚で泳ぐ彼にとって重要なこと。
 (自分の感じたものをより良く見るために深く深く潜るのよ)
 俺の黒い人形のアイコンの首筋に息を吹きかけるように俺の中の彼女が囁く。
 だから俺は、いま目の前に起こったストリームへと飛翔した。
 片方は電気のない黒い点、もう片方は―――公園か?
 どちらに行こうか迷ったが、とりあえずは今まですすり泣きの聞こえていた公園のほうへと向かった。
 (ほら、出合いだわ)
 公園の備品監視用カメラ越しに見える2人を見ながら彼女
は歌うように笑う。
 そのような時、彼女は何かを感じ取っているときがほとん
どなのだが、決まって、俺にはそれが何を意味するのかは
掴み兼ねるし、今回も例外なく、そうだった。
 
   
 

http://www.dice-jp.com/depends [ No.490 ]


第三の瞳──縁(えにし)との邂逅

Handle : “那辺”   Date : 2000/09/09(Sat) 05:30
Style : Ayakashi,Fate◎,Mayakashi●   Aj/Jender : 25(In appearanse)/female
Post : B.H.K Hunter/Freelanz


 人類の歴史には奇妙なサイクルが存在する。
 ある世代は多くをあたえられる。
 ある世代は多くを期待される。
 この世代は運命と邂逅する。
──フランクリン・デラノ・ルーズヴェルト


 魑魅魍魎が跋扈する白い闇の住まう外と違い、中華街の奥底に眠る粗末な巫術小屋の中は、護摩が焚かれ清浄な気に満ちていた。
 白き闇を切り裂く小さな円の中央に女が座し、加持を修す。
 怜悧な刃物を思わせるその顔に小さな護摩壇から照り返された炎が、奇妙な陰影を与え、一昨日から瞑想と断食を重ねたその顔に、鬼のような赤い顔と死人のごとき青白い顔を描き出し、絶え間なくその口から漏れし呟きは仏法が呪言。
 認識が現実を従属させる。その法則に応じた師のない我流ではあったが。

 那辺の瞑想を断するように、SC-8の着信音が聞こえる。皇と名乗るトーキーとの回線。座を解きSC-8を受けると、彼女はどうやら無事に中華街に入れたようだと、那辺は静かに安堵する。ソレだけの危険を霧の中に感じていたからだ。
「解った、そのまま美鈴サンと連絡を保って霧を追いかけてみて欲しい、ミス・ジャーナリスト。ソレと霧に巻かれないように気をつけな。アレはあまりにも“邪気”が濃い」

 霧に霊的な力が存在していないか、問うクラレンスに那辺はこう答えたものだ。
『通常の状態よりも遥かに霊圧が高い。つまりは──何かが起こる土壌、降りる土壌が出来つつあるというコトさ。感のイイヒトならバケモノのヒトツや二つ、平気で見るだろう。そしてその恐怖は更なる恐怖を具現させ“アタシら”には居心地が良すぎる場の出来上がり、さ』と。

「もしもアタシの勘が正しければ、アンタに渡したいものがある。“過去”へと連なるものさ。アタシはソイツを確かめにいって来る、また後で連絡するよ」
 皮肉とも忠告とも覚悟とも取れることをいうと、笑みを、狩人の笑みを浮かべたまま、事態を治めるに必要な人物達が集るのを感じ、次に入った“指し手”からの連絡も同様の弁を告げると、那辺は回線を切った。
 刹那、胸に刺す痛みを感じ、青い双眸が虚空を睨む。
──何が、あった?まさか、ジョニーに何か?
 言い知れぬ不安を抱えたまま那辺は思案する、脳裏に浮かぶは煌という小さい電脳の姫君にして、彼女がビズで隠した紅の瞳の親友。思ったよりも手を出してくるのが速い、無差別や不可抗力でなければ。もっと早くから張っていなければ、餌は餌として意を成さぬ。其は自らも同じ。
 彼女は短く舌打ちし良心の呵責を押さえつけると、再び座し目を閉じると呪言を唱え、裂帛の気とともに、言を放った。
『閻魔が眷属、我が召に答えよ!』
 目前にあった三枚の符が青白い焔を放ち、鬼火となりて宙に舞う。
 使役鬼符より召された光り輝く雲にのった半透明な童子が3つ、顕著する。一つは術者の意のままに小さな姫君を見守る為、彼女がいるべき場に向かう。
一つは那辺の肩の上に着き、一つは目の前に下り、手にした金剛輪を術者に向ける。


 行うは荒行、今の那辺の力量では出来るか否かギリギリの線だと彼女自身が捉えていた。それでも、彼女の勘がどうしても告げてならないのだ。其を成せと。
 中華街で起き得た二つの事件との、現在の関連性が。
 資料を、情報を集めれば集める程、人と出会い縁が出来れば出来る程、まるで彼女やそれに絡もうとする人々を霧の先へと、いざなうように。
 那辺が秦やその関係者と会い、また霧の一件に連なるであろう赤い髪の女の捜索を、裏社会の香りを消しきれぬフィクサーから受けた時もその脳裏に鳴ったは警鐘だった。
 だが、那辺は引かなかった。神託を受けたのもある。それ以上に迷路の如く錯綜した意味の連鎖が、どこか一点に収斂されている、と自らに告げ、狩り立てるのだ。
──霧が示す方向は?
 気に喰わなかったのは中華街で起きた関帝廟爆破事件。その中でのアラストールの残滓、腕の行き先だ。狂える車輪が手にして、三合会へと渡されていない所までは解る、だが、それ以降は何処へ?
 行き先によっては、現状置きえている霊圧の異常、霧の発生の一因になるのではないか。その後のテロリストの暗躍と言われる事件もまた、見落としている点があるのではないか、と。
 秦や二人の過去の事件に関わった探偵から預かった、過去一連の真相と情報をもたらす書類(データ)の入っている胸元と、それと共に入れてある協会の鑑札に手をやると、中華街の街中を歩いて拾い集めた小石で作った中華街の“系図”(ミニチュア)に目をやる。
 これから行うは過去見。それも俯瞰じみた過去への幻視。いつも行っている簡易な邂逅とは訳が違う。もしも勘が正しければ、そこにいたはずの術者からの妨害すらありえる。 だからこそ、出来うる限りの準備はした。事象が、連なる事物が起こりえてしまってからでは遅い。
 コレは──賭けに等しい。唇に作り物の牙が食い込む。
 必要なら託された書類をばら撒く事すら範疇に入れ、動かなければならない。その強力な動因が、確証が、勘を裏付けるモノが欲しかったのだ。


「さて盟約を結んでいるから、ちょっと閻魔帳を融通しとくれよ、閻魔様」
 那辺は再びその青いヒトに化けた双眸──彼女が覚えている限り、ヒトで在った頃の双眸を閉じる。ソレと同期に呟かれた呪とともに、目の前の護法童子が金剛輪を廻し、その索を虚空へと投ずる。
 護法童子が車輪を手繰る暗示を感じながら、数刻前にB.H.Kへの連絡で依頼した、霧がらみの加害者、被害者、自殺者、青面騎手幇、赤い髪の女のB.H.Kデーターベースファイル、ソレとブラックハウンドの担当官へのこちらからの協力体制の要請の受理の連絡が来る前に戻ってこれればいいな、と片隅に思いながら那辺は手にした書類とソレに刻まれた想いと街の俯瞰図を暗示に重ねて、護法と共に印を結び過去へとその“第三の瞳”を、意識を飛ばした。

──与えられた糸を手放さずに、真っ直ぐに進んでいけばいい。
 その精神に強く感じる強い強い縁と獰猛な狩人と焦燥感と共に。

 静寂に満ちた黄昏が欲望の街を覆い、より昏い闇へと彼等を誘おうとしていた。

http://page.freett.com/DeepBlueOcean/nahen_nova.htm [ No.491 ]


地を這う星

Handle : シーン   Date : 2000/09/10(Sun) 05:49
Style :   Aj/Jender :
Post :



▼LU$T 川崎タタラ街 PM3:32

「___________そうですね、ゲームをしましょう」
 SC-8を通して妙にフラットな声がポケットロンから漏れる。その彼の声に、風土は珍しく口元を真一文字に結んだ。
「よく言うよ・・・もう始めているんだろう」
「はは、買被りすぎですよ・・・」
 どちらとも取れる抑揚の無い声で彼が答えると、風土は今度は眉をしかめた。
 いつでも表舞台にいつでも、偶々遊びに来たといった感じで現れるあの男が、今回の騒動に限っては何時に無く静かだった。何よりもそれに引っかかるものがあった。
「今回はどんなゲームなんだい?」
「霧です」
「・・・霧?」
「そうです、霧です」風土の問いかけに間髪いれずに答えが返ってくる。「ほら、今貴方の周りにたゆたんでいるその霧の起源です。最近、実に不可解な事件が多い。我々縁の者だけでなく、様々な方面で被害が出て来始めました____________知っているでしょう?」
 あぁ、この霧の正体を掴めと言いたいのか。そう風土が考えた頃、電話の声の主は全く予想の無い言葉を返してきた。
「今、霧の正体を掴めと考えませんでしたか?」声は何時に無く冷淡だった。「残念ながら、違います。私が貴方に依頼したいのは、この霧に紛れて踊る亡国の影を追っていただきたい」
 亡国の影? ふと意識を記憶に飛ばした風土の耳に、続いて声が被さる。

「_________榊 真成。彼に接触するといいでしょう。面白い駒を指す御仁です」その後にくすくすと僅かな笑い声を含ませて言葉が続く。「でもどうやらそれだけではないようです。 祥極堂という店をご存知でしょうか? 極 主水というその方面には知られた人物ですが・・・・不思議な符号です。こちらの駒が・・・どうやら、彼を介在して誰かに接触を試みているようです」
 ポケットロンに続いてその言葉に関する幾らかの情報が降りてくる。小さなディスプレイには榊と呼ばれた人物がいるらしいとあるマンションの地図と祥極堂と呼ばれる店に関する幾らかの情報が流れ始めた。
「おやおや、一体何をするつもりなのやら。サヤ、この書類を_________」
 既に風土との会話から離れ、通信を一方的に切る彼の行動に、風土は肩を竦めた。
「なんだ、もう始めているんじゃないか」

 風土はにやりとして左手に右手の拳を打ちつけると、気を取り直したような笑顔で歩き出しながらもう一度ポケットロンを手に取った。
 今度の番号は_________無論、ゴードンのものではなかった。


-----


▼LU$T ヨコハマ中心区 B.H.K.社屋 情報管理室 PM3:00

 ディスプレイをペンでコツコツと叩きながら、指をくわえる。もう何度思い出しては見つめつづけたのか気が知れなかった。
 朝から数えて何度目にかになる、溜め息をつきながら、彼は画面を見つめた。
 画面にはリニアの雑踏に立つ一人の女性の姿が映っていた。
 どちらかといえば面長なほうで、目筋が綺麗に通っている。髪は構内のチューブに流れる気圧のせいか、風に流され軽くウェーブを描いてはいるものの、まるで炎の様に紅く燃えたつかの如く映えていた。だが何よりも__________________
 彼は画面の女性に食い入るように視線を沿わせながら、身動ぎした。
 それは彼が女性に興味を持つようになってから夢の中で思い描いていた存在が急に現実になったに違いないと確信させるかのような魅力に溢れていた。
 魅力? 彼は熱い溜め息と共にかぶりを振った。
 そんな生易しいものではない。可愛いとか綺麗とか美しさを飛び越えた・・・情欲だ。もう一度首元の暑苦しさにネクタイを緩めながら身動ぎした。________あの身体に自らをうずめたい。きっと今尋ねられたのなら、素直に答えるだろう。

「おい、森嶋!」
 不意に背後から肩越しにかかった大きな声に、彼はたっぷりと15センチくらいいすから飛び上がる。
「森嶋、何で日報報告に来ないんだ。監査部からお咎め食らうのは俺なんだぞ?」
 いらいらとした主任の言葉に彼______森嶋は慌てて、ディスプレイのすみを叩き、コミュニケーターをたち上げる。やがて画面に一通のメールの文面とそれに付随する各資料が連なった。
「申し訳ありません、主任」慌てて何度も頭を下げる。「登録ナンバー46074095。【那辺】からの進捗報告と検索依頼がありました」
「で、なんだ」
「あ・・・はい! 社の照会データベースへ下記の条件に該当する情報と人物照会が緊急要請にて依頼されておりましたので______」森嶋はそこで一度言葉を切り、食い入るような視線をまたディスプレイに投げながら、先ほど映していた照会データベースからの該当者リストのウィンドウを広げ、その中の一つを示す。やがてコミュニケーターが画面の左肩に中華街の雑踏に立つ紅い髪の女性を映した。
「該当情報の確認を進めていました」
 必死に画面から意識をそらすように言葉を搾り出し、上司へと返す。
 主任と呼ばれた男はゆっくりと目を細めながら画面に顔を寄せる。
 森嶋は叱られた焦りと戸惑いにそわそわしながら、別の端末で照会依頼のあった那辺への有線回路を開く準備をすすめる
「____________該当データ無し」
 森嶋はくるりと振り返った。
「聞えんのか。・・・該当データ無し。と言ったんだ」
「え・・・あ・・・ですが主任」
「森嶋」
 主任が森嶋の胸に人差し指を突きつけながら眉をしかめ、言葉を続ける。
「該当データ無し。監査部承認の判を貰ってすぐに46074095へ返答を返せ。いいな?」
「あ、しゅ、主任」
 主任と呼ばれた男は突きつけていた人差し指を、今度は森嶋の額へと突きつけた。
「聞えたのかと聞いている」
 いつにないフラットで冷徹な視線で自分を見つめる主任を恐ろしげに見上げながら、森嶋は無言で頷き、傍らの端末に向き返ると那辺への返答を送り始めた

『B.H.K.登録ナンバー46074095。【那辺】へ
 貴殿の問い合わせにある人物に関する当社DBへの該当データの記録無し。
 情報入り次第、貴殿へと優先配信の手続き済み。
 調査を継続されたし』

 やがて自分のブースから離れ、自席へと戻ってゆく主任の後姿を見ながら、再度森嶋は管理者権限を使って情報へとアクセスする。
 主任はいったいなにを見たのだろう? いつに無い反応に彼はうろたえていた。
 やがて彼はずっと画面の女性ばかりを見ていた気がつかなかった付属情報の映し出されるコンソールに瞬く数字を見つけた。
『S-10』
 機密情報を超える、社の最上層幹部承認済みのマーカーが瞬いていた。
 森嶋は、その記録に思わず一瞬驚きの声を挙げながらも、自らの身体を今もまだ暑くさせるその女性の姿を見つめながら傍らのコンソールをみやった。

 G・R。
 その二文字のイニシャルが一切が空欄のコンソールに唯一、瞬いていた。


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▼LU$T 新山手周辺区 S社ビル屋上 PM4:10

 連続した特殊弾の射撃でおきた高熱に焼けつく銃口を下げ、キリーはスコープから視線を外す。FCSは落とさないままにした。
 後は、あのカタナが抑え込むだろう。特殊部隊で叩き込まれた感覚がそう告げる。
 キリーはもう一度目を細めて、マンションの一角とその辺りの下層一帯を包み込む異様な霧を見つめた。
 自然に発生した霧ではないと、今こうしているとはっきりと感じた。
 通常の大気の霧よりも妙な____________密度がある。
 そう思ったのは、僅かに自らが撃ち放った弾道が、霧を突き抜ける際に、予想よりもずれ込んだ感触を感じていたからだった。
「霧を纏うのかね・・・あの魔女は」
 何よりも大切な時間を奪った記憶の奥底に突き刺さる銀色の刃にキリーは、音が鳴るほど歯を噛み締めた。

 トライアンフの上層部は今件に限っては静観を選択した。詰め寄るキリーの訴えも、いつもの様に上には届かなかった。しかしながら、静観を決め込んだ上層部の決定には、たった一つだが前提条件だけがついていた。今自分がこうしてここに立つのはその条件を確かめる為だ。
『既存講和条約の破棄に至る不測の事態についてはその限りではない』
 一体何のことだ?
 最初、キリーは連なる疑問に我を忘れて苛立った。
 講和条約?
 少なくとも自分が知る社の歴史にある講和条約などというものは・・・・LU$Tと結ばれたものしかないはずだった。いや、正確には『貧者の核』事件以後、北米連合勢力とLU$Tの間に交わされたものだと言い換えていいはずだ。

 キリーは硝煙をあげる銃口を完全に地面に向けると、遥か大空を見上げた。
 やがて日が暮れ、空には星が瞬く時間だ。
「G.C.I.、ジュノー、トライアンフ」
 半ば目を閉じながら記憶の海を探る。
「_____________LIMNET-P」
 ふと後ろを振り向き、半透明のガラスの様に透き通った巨大な球面レンズ状の衛星からのレーザー式パラボラアンテナを屋上に展開するLIMNET社の社屋を遠めに見やる。
 中心区の中にあってもほぼ中央に近い位置に佇む黒い黒曜石のようなビルが、日が沈み始めたLU$Tの空に切り立っている。

「誰が参加者なんだ?」
 取り留めの無い自問自答に眉をしかめ、キリーはもう一度、マンションの窓を見つめた。
 あのカタナは一体誰なのだろう。
 幾つもの疑問の糸に、キリーの両腕は絡みつかれつつあった。


-----


▼LU$T都市構造物内ウェブ空間 時刻不明

『あら_________デットコピーの投入よ』
 自らの構造物の内から響く僅かな笑いを含んだ声に、彼女は僅かに顔を歪めた。
「?」
『知り合い?』
 辺りのストリングを僅かに揺らしながらアイコンが踊る。
 まだ『彼女』の声に、彼女は慣れていなかった。『彼女』が笑う度に、まるで神経線維が直接かき鳴らされるような感覚を味わうからだった。
「________思い出せないわ」
『デットコピーだけじゃないわ、枝もついてる・・・何処かに直結で』
「枝? クレア、何処に繋がっているの?」
『ふふ・・・・知りたい?』
「・・・・・・」
 彼女はまるで自問自答のような会話に目を閉じた。
 意識から外れた蚊帳の外にある領域の意識や記憶や精神に触れることは、無論電子的手段をもってすれば不可能ではなかった。だが、一度そんな操作を行えばどうなるものか知れたものじゃない。内蔵を引き出すようなものだ、そういった操作は。おぞましい感覚に肉体も精神もダメージを受けるだろう。その為に幾度の勧めにも彼女は、自らが失った記憶には必要以上に歩み寄らなかった。
 だが、失った物は思った以上に大きいらしく、考えていたよりも負担が大きかった。

「エヴァは?」
『もう潜ったわ。霧の都に』
「なら始まるのね_________________昇華の宴が」
 それだけを呟くと、彼女は『彼女』と共に遥か上層のウェブへと移行-シフト-した。


http://www.dice-jp.com/plus/china03/ [ No.492 ]


血の呪い

Handle : ”スサオウ”荒王   Date : 2000/09/11(Mon) 01:08
Style : カタナ◎●チャクラ マヤカシ   Aj/Jender : 三十代後半 /男
Post : FreeRance?


「幼姫よ。ここは我が引き受けよう。去るならばいまぞ?戦いはじまりて周りみやるほど我は器用ではない」
 その声に弾かれるように久遠が駆け出す。
 無我夢中という様子で駆け出したというのに体はしっかりと自らの役割を覚えているようだ。
 自らの羽ばたくための翼を忘れはしない。
 だが、”獣”もそれを黙って見てはいない。理性的な”技”や計算など無視したそれこそ獣の動きで襲いかかる。目の前にそびえ立つ男のことなど見えてはいないかのように。
 低く速い跳躍。広さの限られた室内では悪くはない選択だ。そして、修練を行わぬ一般のものにならばそれは十分以上に効果的な一撃になったろう。
 この男が目の前に立っているのでなければ。
 再び”獣”の腕をつかみとろうと動く。だが、先程と同じ手にかかるほど知能は低くはなかったようだ。
 空中で適当な調度品に手をかけ姿勢を変える。
 だが、それさえもこの男の読みのうちには入っていた空振る手の勢いをそのままに体を反転。
 ”獣”には一瞬男の姿が消えたようにみえたろう。下から急角度で跳ね上げられる蹴り脚は見事に”獣”の頭を捉えその巨体を押し戻す。
 だが、人の域を越えた獣の動きはそれにさえ反応して見せた。
 巨大な力を持つその脚を引き込み逆に男を牛蒡抜きに投げ飛ばす。己の体重と男の蹴りの威力を利用した見事な戦術といえるだろう。
 男の体が空を泳ぐ。
 獣は体勢を立て直すことさえせずに無理矢理にも前にでる。
 だが、体勢を立て直さなかったのは男も同じ。
 不自然な体勢から男の腕が伸び獣の首をつかみ取る。
 獣の技により倍加された加速度がその腕に加わりただ掴んでいるだけだというのに獣の太い首が軋みをあげる。その口元から苦悶の吼え声があがる。
 その瞬間。獣は久遠の事を忘れた。
 その脳裏を支配するのは己を傷つけたものに対する怒り。
 ただ、それだけに真っ赤に。真っ白になる。
 怒りの視線が男に向かってあびせかけられる。
 それを男は笑みをもって受け止めた。
 だが、その片腕は投げ出された勢いで打ち付けられ奇妙な方向に曲がっている。
 気絶してもおかしくない苦痛が男の前進を駆けめぐっているはずだ。
 それでも膝を屈することはしない。
 その口元に笑みを浮かべ。呼気を整える。
 呼気はすぐに肉体をかけめぐり、気へと変化する。気は意を通じて意気となり。それは殺意によって鬼気となる。鬼気は人の限界を超え。羅刹を呼び。男を人の姿をした異形へと変える。
 
 修羅。
 
 人の姿をした魔物。人の心の中にすむ闘争本能の化身。飽くなき戦いにのみその身を置くバケモノ。
 その姿を人のままに。その心を己のままに。
 ただ、その瞳に宿る意志を凄絶なまでな殺意に彩って。
 ”獣”の目にかすかな恐怖が宿る。
 その恐怖を圧殺するように獣が襲いかかる。
 鋭い爪が肩口に食い込む。そのまま綺麗に引き裂くかと見えたその手が途中でとまる。抜こうにも爪が深く筋に絡め取られ引き抜くこともできない。
「獣。人鬼に勝てると思うかよ」
 うっすらと嗤う。
 人の笑みではなく。鬼の笑みを。
 全てをあざ笑う悪鬼の笑みを。
 逆手の爪も体に食い込む容赦なくそのからだを刻む。
 だが、男の顔から笑みは消えない。
 思いあまりその肩に牙をたてる。鋭い牙に強い顎。引きちぎるのに十分な力がそれにはある。
 案の定。
 男の肩はは綺麗にちぎれとんだ。
 だが、男は笑みを崩さない。いや、それどころかより深くする。
 男の腕が伸びる。
 ゆっくりとした動き。だが、それにもかかわらず獣はその腕につかまった。
 逃げることを許さない何かが。その腕には宿っていたというのだろうか?
 みしり
 骨が軋み肉が歪む。
 苦悶の声が獣の喉の奥から絞られる。
「血はたっぷり味わったかよ?」
 疑問の形で放たれる言葉。だが、その言葉は妙に優しい感触を与えるものだった。死に行くものにだけ与えられる類の優しさ。それがこの声には溢れていた。
「我の血の杯ならば。末期の杯にはよかろう」
 異形の輩といえども生きているのならば生命の流れというものを持っている。その流れを堰き止めれば命の火は急激にしぼんでいく。
 そして男はそれを行う術を知っていた。
 気脈を押さえ命の流れを止める。”獣”の体から生命の火が急速に失われていく。
 静かに。だが、確実に。
 初めは激しかった抵抗もだんだんと弱々しいものへと変化していく。
 そして、その火が消えたと見えた瞬間。
 獣は霧へと姿を変じた。
 泥で創られた人形が水を失い砂へと変わるかのように。
「やれ、逃げたか?それともこれが術だったかよ」
 虚空を見上げる。そこに何かが確かに存在するのだというように。

 一つ大きな溜め息をつくと落ちた片腕をおのが腕の失われた肩にあわせる。
 乱暴に衣でつなぎ合わせると己の気を高め血脈を操る。
 腕は肩に吸い寄せられるようにぴたりとつながり傷から流れる血がぴたりと止まる。
「だが、我の血は汝の中に踏み行った。そは我自身なれば・・・・見失いはせぬ」
 嗤う表情を消し、真摯な面もちで片手で印を組み、片目を瞑る。
 おのが血と力の行く末を。この獣の主を追う。
 自らの血を触媒とし、流された血を持って法陣と成す。
 己の血を用いることで集中力と呪力を格段にあげる。
「遠くになりし我が血脈よ我の意に応えその道を繋げ。疾く」
 その瞳が奇妙な力を讃える。
 それは世界の裏側を。己の内側を見つめる術師の瞳。
 男の意志は遙か遠くを感じる。
 ”縁”と”縁”を繋ぐ不可思議な糸を追いかけ。
 早く、確実にそれを追う。
 だが、どこまでそれを追いかけることが出来る?
 解らない。だが・・・・
 追うだけだ。
 そして、目の前に立ちふさがるのならば己が名と力にかけて切り開くのみ。
 その純粋な力強き意志と言霊が貫く・・・・

 [ No.494 ]


好奇心は…

Handle : “女三田茂”皇 樹   Date : 2000/09/12(Tue) 01:01
Style : タタラ● ミストレス トーキー◎   Aj/Jender : 27歳/♀/真紅のオペラクローク&弥勒 短い髪
Post : ダイバ・インフォメーション新聞班長


もうすぐ日が暮れる。
そうすれば、いま目の前にうっすらかかってる霧も、いずれその濃さを増すだろう。
そんな中を歩きながら、彼女は考えていた。
「…あのメッセージ…」
口の中で転がすように声を出し、あごに手をやる。
(たしかに私のポケットロンにではなく、ホテルのDAKにメッセージを送ってきた。あのアドレスに私がいることは、だれも知らないはずなのに…)
彼女は今、メッセージにあった店に向って歩き出している。だが…
皇はその歩みを止めた。
急に思い立った彼女は小さな料理屋に入って、じっくり昨日のホテルの話を思い出してみる。
「メッセージを確認せよ」と送ってきた人の名前は「M」と書かれていた。誰かはわからない。ひょっとしたら王美玲(ワン・メイリン)かもしれないが、彼女がそんなほうほうで送ってくるだろうか…あとMの付く知り会いは、すぐは思い当たらない。
とすれば、何かの罠かもしれない。敵味方のはっきりしていない以上、ここは迂闊に踏み込むのは得策ではないだろう。
だが、裏を返せばまたとないチャンスとも言える。

皇は喫茶店に入った。慌てて腰掛けもう一度れいの店の場所を確認する。
ここからは歩いてそう遠くない場所だ。
ふと、皇はある言葉を思い出していた。
「好奇心は猫を殺す、という諺をご存知ですか?」
たしかにこのまま黙殺すれば、自分に実害が及ぶことはないだろう。
しかし彼女はそれ以上に、この差出人と呼び出しの理由に付いて深い関心を持っていた。

ならば…

皇はメールを出した。一通は那辺に、もう一通は王美玲に。今から向う店の場所を記した地図を添付して。

それにしても…

皇は周りを見回した。じとっと絡み付くような何かが体を走る。
「これは案外…」
注文したレスカのガム抜きを飲み干す。
「早くに、目的の物にお目にかかれるかもね」
ちいさくそう、呟いた。

 [ No.495 ]


依頼

Handle : “指し手”榊 真成   Date : 2000/09/12(Tue) 01:17
Style : KARISMA,FATE◎,KURO-MAKU●   Aj/Jender : 29/♂
Post : 榊探偵事務所


高い立場から行動を指導する一般的な原則と見解とは、
明確な深い知見から生じた結果に他ならない、
そして個々の具体的な場合に関する意見は、
常にかかる原則ないし見解をいわば碇泊地として、
ここに錨を卸すのである。
 ――クラウゼヴィッツ『戦争論』――

血の如く、紅い夕日。
その光を浴びながら、和泉の差し出したハンドブックに視線を通す。
そこには現在LU$Tにおける、榊の信頼すべき“友人”たちの名が連なっていた。

(まずすべきことは、私の記憶を鎖から解き放つこと)

そのための手段として、空間を、時を超えて“観る”ことのできる眼をもった者を頼ることにした。
すなわち、マヤカシ。
榊自身には、彼らのような力はない。
一般に言うアストラル空間を感じる力はない。
だからと言って、彼らの存在を疑うわけではない。
彼らは、厳然とそこに存在するのだから。
そして、その力で彼を幾度となく助けてきてくれたのだから。

「どうもご無沙汰しております。よろしければ、暇つぶしにお付き合い願えませんか?」

しばし後、部屋の住人は1人増えていた。
“ウィンドマスター”来方 風土。
幾多の“友人”の中から、榊は彼を選んだ。
現在欲しているマヤカシとしての能力、その戦闘能力、調査能力、どれも一級品だ。
なにより、過去に起きたこの街の異変。それにかかわっていた人間でもある。
強いて難をあげるとするなら、その性格だろうか・・・
今、彼は笑みを浮かべながら榊の前にいる。
作った微笑みではなく、心底この状況が楽しくてしょうがない、そんな笑みを浮かべて。

「暇つぶしと言うのは、この女性を捜すことです」

そう言って、一枚の写真を取り出す。
そこには、血の如く紅い髪をもった、1人の女性。男の持つ欲望が具象化されたような存在が映し出されていた。
来方の視線が、写真に吸い込まれる。

「では、仕事の話に入りましょう。
何故、私がこの女性を探しているのか。どこからの依頼なのか。それは、言えません。
ですが、それ以外のことでしたら、私の知っていることは包み隠さずお教えいたします。
報酬のほうは・・・」

次々に条件を提示していく榊。
そして、最後にこう付け加えた。

「この依頼を受けてくださるなら、はじめにこの女性を探して欲しい場所があります。
・・・私の、心の中、です」

そして、来方とは対照的な微笑みを浮かべた。

http://www.din.or.jp/~kiyarom/nova/index.html [ No.496 ]



Handle : シーン   Date : 2000/09/14(Thu) 03:05
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▼LU$T 中華街 巫術小屋 PM4:04

 目を開けるとそこは抜けるような青空が広がっていた。
 涼しい緑の香りをまとわせながら穏やかな風が首元をそよいでゆき、微かな水の香りが鼻孔を擽る。
 那辺は思わず声をあげて立ち上がった。
「________なんだ?!」
 霊視、霊査、霊覚。そのどれとも違う。いつもなら明確で強いイメージのインプレッションを感じたり、短かで・・・むしろ単語に近いようなメッセージが浮かんでは消え、消えては浮かぶような感覚を味わうはずだった。
「これはナンセンスだ」
 思わず感情が高ぶった那辺が呟いた言葉を笑うかのように、その頭上を雲が流れて行く。何もかもが酷くリアルで、幻覚とも幻聴とも違った。紛れもなく、そよ風を自分の肌が感じているし、たっぷりと緑と水の潤いを持った風の香りも感じていた。
 一切が現実で、何も嘘がない。辺りをしばらく見渡した後、那辺は溜め息をついた。
 術が齎す知覚やイメージは、そのすべを知らない者達が考えている程過去や未来に近寄れるわけでもなく、その効力は限定的なものだ。呪い事と言うよりもむしろ拡張された感覚の一つに近く、感覚というには比較的科学的にもアプローチされることの多い領域だった。
 だからこそ、自分が行った術がこんな結果を招くことが無いという事を、嫌という程理解していた。だが________________
 那辺は微かだが鈍い頭痛に頭を振った。高位の術を施術しようとしたせいだろうか、久しぶりに反動が来たように感じた。
 術を使うたびに、自分が一族への血へと傾倒してゆくのは本能がそうだと感じてはいた。特に、ここ最近になって霧が街を覆うようになってから、その傾向がより強くなっているのも確か気づいていた。自らが振るう術は以前よりも遥かに強力なものになり、感覚もまるで刃物の様に研ぎすさまれているように感じる。
 まるでお膳立てされたような舞台じゃないか。那辺は遠く目を凝らしながら、遠い丘の上を駆けてゆく少女の小さな影を見止め、呟く。
 那辺は2秒でその面影を持つ少女を見て、口元を歪めた。
「シュティーベル・・・エヴァンジェリン・フォン・シュティーベル」
 その名を呟いた瞬間、那辺の視界が真っ白にフラッシュバックした。


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▼LU$T 中華街 骨董屋“祥極堂” PM5:02

 骨董品の立ち並ぶ棚から溢れる特有の慣れない臭気に皇は僅かに顔を顰めた。
 彼女がいつも触れているメディアの世界は、出版・放映される媒体に進化はあるものの、紙と言うメディアが無くなった訳ではない。ただ彼女達が現場と呼ぶ場所は、ともすれば一般人は聞くことも触れることも無いような最先端の技術で埋め尽くされていた。
 気がつけば、古い香りなどと触れ合うことすらなくなろうとしている。
 純粋になれない香りに皇は少し目を閉じた。
「________いらっしゃいませ」
 一度ニュースソースで見た顔が・・・極 主水が、皇を薄目で客かどうかを伺うように店の奥のテーブルから顔を覗かせた。思ったよりも彼は慧眼だった。「どういったご用件で?」隙の無い視線が皇のつま先から頭の先までを見つめた。そしてその視線は最後に瞳へと落ち着いた。
 生で見るのとディスプレイ越しとでは、やはり違う。だから自分は現場を選んだのかもしれない。実に極 主水の瞳の表情は豊かだった。見つめているはずの自分が、逆に見つめられているような深さを持つ表情だった。
 皇はしばしその瞳に見入った後、辺りを見回した。 一体あのメッセージが示したものはなんなのか。人が来るのか、メッセージが託けられているのか、それとも何か物があるのか。
「最近巧くタイミング作れないなぁ・・・」
 思わず口を突いて出た言葉に、皇を見つめる極 主水の表情が少し和らいだように見えるのは気のせいだろうか。
「物事の流れにはいつでも、ちょうど良い時間の経過が・・・流れが必要なんです。この店においてあるのはそんなちょうど良い時間の流れを見つけてくださる買い手を、様々な過去を持つ商品が待ちつづける__________そんな場所です」
 言い終えないうちに今度は別の声が、皇の耳に飛び込んできた。
「_________す・・・皇さん?」
 紅茶のカップを左手に持ち、以前に桃花源でであった少女_________煌 久遠が目の前の極 主水の腰掛けるテーブルの反対側、ちょうど皇の死角の隅から立ち上がった。
 小柄でいながら、静かな強さを持つ少女だ。初めて出会った瞬間から忘れられなかった特長のある表情だった。身体が思わず、テーブルへと歩み寄って行く。

 皇は2秒で、メッセージがなんであるのかという答えの欠片を見つけようとしていた。


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▼LU$T 中華街 骨董屋“祥極堂” PM4:58

 煌が手にしたカップは温かく、実に手の込んだ紅茶の入れようがうかがえた。
「大丈夫、怪しいお茶じゃありません。合成物なんて無粋な香りは入れていませんよ」
 先ほど公園でであったときのちょっとおどおどした表情とは打って変わってすっきりとした笑顔だった。煌は素直にカップを手にとり、先ほど済ませた傷の治療でそこらかしこを包帯に巻かれた自分の腕や方をちらりと見つめる。
 軋みを上げそうなほどの嫌な痛みも、温かな紅茶で洗い流されるようだった。
「________煌 久遠です」
「私は、極 主水。この店・・・祥極堂の店主をしております」
 会話の糸口を見つけようとしていたのか、まるで用意していたかのように。待っていましたとばかりに極 主水が煌に言葉を返してきた。
「何かあったのですか?」柔らかな眼差しが煌に向けられる。
「良く・・・わからないの」部屋での惨事を思い出すと、自然と涙が視界を覆い始めてくる。「高層マンションの部屋の中に霧が・・・そう、霧が現れたかと思ったら_____」
 煌の涙混じりの感情が押し出した追うな言葉を、極 主水は無言のまま実に的確な相槌をもって彼女から言葉を紡ぎ出して行く。
「__________それで、その獣はどうなったのですか?」
 極 主水の問いかけの言葉に、ふと、煌は自分がしゃべりつづけていたことを思い出し、我に帰った。
「あ・・・・うん、よくわからないの。ただ走って、走って・・・走りつづけたら_____」
「私と出会ったあの公園に行き着かれた訳ですね?」極 主水が大きく、そしてゆっくりと頷きながら自らもカップを手に取った。「_________妙な符号です」
「・・・?」
 極 主水はゆっくりと煌の手首や首やこめかみの辺りを順番に見つめていった。その柔らかだが、僅かにノイズのような刺激を感じたような気がして思わず煌は首元に手をやる。
「あの公園ですが」一度、極 主水は言葉を切り紅茶に口をつけた。「以前に幾らか事件があった場所なんです。そう、ちょうど貴方の様に__________」
 電脳に住まう者なのね。自然と言葉が思い浮かぶ。
 そんな煌に、ぽつりぽつりと極 主水が過去の事件を__________カーマインと呼ばれた悪魔を巡る惨劇を静かに語り始める。
 壁に立てかけられた柱時計が奏でる規則的な音を背景に、過去の映像が極 主水の言葉と共に煌の、人には見えない視界へと映し出されて行く。

 煌は静かにテーブルの下で両手を握り締めた。

http://www.dice-jp.com/plus/china03/ [ No.497 ]


Ashes to Ashes. “灰は灰に”

Handle : シーン   Date : 2000/09/14(Thu) 05:03


獣人の気配を追って、荒王はアストラル界を駆けた。
通常の空間と常に隣り合わせに存在するアストラル界は、様々な生命の気配が星々のように瞬く空間のはずだった。
感覚としてはウェブ内に近いのかもしれない。
しかし、今や彼にとってなじみのあるソコはまるで別の世界のようだった。
この街を覆う霧のように実に様々な霊体がひしめき合い、淡く輝く靄のように全体を覆っていたのだった。
「むう・・・」
荒王は我知らず、顔をしかめた。
人間の霊はもとより、動物霊、雑霊、そして邪悪な気を発する何のものであるかははっきりと判別しかねるモノまでいる。
これなら、この街で最近囁かれている“悪霊を見た”という噂も納得がいくというものだ。
いや、それどころではないのだろう。
目的を忘れ、一時、彼は思考の闇に沈んだ。
普通の者であるなら、こんな霊障の悪い場所に長時間いるだけで何らかの影響を受けてもおかしくはない状態だ。
いらだたしい気分になる者から、強く影響を受け殺人衝動にかられる者までいるはずだ。
街に満ちた怒りや憎しみ、恐れといった負の感情には、彼も気がついていた。
しかし、ソレが呼び水となってこれ程の量の霊が街に満ちていたとは・・・
コレが霧の正体?
いや、違う。
彼は軽く頭を振る。
霧にはある程度、術的な気配が感じられたがその正体はもっと別なものだと彼は思った。
それは洞察というよりむしろ彼の根本に根ざした動物的勘に近い。
では、コレは?
そして、この街に入って以来感じる感覚が広がったような妙な感じの正体はなんなのだ?
深く思いを巡らせようとした彼の目前で微かななルビーのような煌めきを放つ光の残滓が、今や空間に溶けて消えようとしていた。
ソレを見、彼は一時、思考を中断する。
そうだ、コレを追うのがまず先決であったはずだ。
思い直し、彼は追跡を開始した。
獣の気配はすでにない。
それはアヤカシ等の一族がよく使う“霧散”ではなく、ただの死。
あの時、彼によって獣人はたしかに絶命していたのだと彼は確信した。
「Ashes to Ashes」
突然、彼の頭内に直接声が響いた。
立ち止まり(感覚的なものでしかないのだが)前方に意識を向ける。
と、そこに煌めく光の残滓が集まり紅く輝く人型のシルエットが形作られていた。
ゆらゆらとソレが揺らめくと同時に彼の頭にあの声が再び響く。
女の声だ。
「この街ではあなた達の考えている事が良く解るわ。」
クスクスと含み笑いを漏らし、ソレは言った。
「あれ程の術を行える者が、やすやすとその痕跡を辿らせるはずがないとは思っていたのだ。」
感情を押し殺した声で荒王は答えた。
その体が黒い殺気の炎に包まれていく。
「罠と知りつつ、それに乗った、と?」
「剛胆ね。」
動じる事なく、依然として楽しげな口調でソレは答える。
「でも、ダメ。あなたのような強くて精気に溢れた男はもっと時間をかけて堕とさなきゃね・・」
「あなたに似合いのお相手もいる事だし、ね。」
まるで初な少年に言い聞かせるかのように、蠱惑的な声音で言う。
そして、目の前のシルエットが急にその形を崩していった。
「逃がすかよ。」
詰め寄よる荒王。
しかし。
シルエットの中程、丁度腹の位置から突然吹き出した黒い炎が彼を押し戻した。
それは凄まじいまでの殺気。
荒々しく、それでいて極限まで研ぎ澄まされた、彼の纏うものに勝るとも劣らないほどの殺気の炎だった。
巻き込まれた霊体が炎に焼かれ、小さな悲鳴を残して霧散する。
そして、世界が暗転した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
気がつけば、荒王はマンションの部屋内に1人立っていた。
動くものも、そして先ほどの怪しげな気配もすでになかった。
時間はものの数秒と経ってはいないだろう。
「似合いの相手・・・か。」
どこか楽しげに彼は顔を歪めた。
ソレはなじみの深い、闘争の予兆だったのだ。

 [ No.498 ]


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