再開発地区

街の路上には、罪人(カイン)たちがあふれている

野間逸平 「路上のカイン」


ある日の夜明け前、リトルカルカッタのはずれで

Handle : ”ユーレイ女”比礼瑞穂   Date : 2003/01/16(Thu) 02:57
Style : マヤカシ◎ マヤカシ● マヤカシ   Aj/Jender : 23/♀
Post : フリーター


【心霊治療院 Dr.EVE 前】
 寒い夜だった。
 冷たい雨がぱらついていたのがいつ雪に変わったのか。
 夜明け前、いつものルートをたどって【心霊治療院 Dr.EVE 】にやってきたミズホは思いがけない雪景色に驚いた。
 屋根などの覆いがない場所には薄く雪が積もっている。雪は純白ではないが、うっすらと明るい。
 少し先のブロックで黒々とした煙が一筋立ち昇っているようなのは、誰かが暖を取っているのか、それともいつも以上の悪路でクラッシュしたヴィークルでもあったか。襲撃のたぐいがあったと思うにはやけに空気が静かだった。
 ミズホはしばし立ち止まって、このうそのように静かな光景を眺めた。
 ちょっと綺麗だ。
 厳しい冷え込みで、再開発地区の死亡率が微増するかもしれない。この静けさが危険なものでないなら小競り合いによる死者がちょっと減るかもということ。雪で事故るヤツが増えて・・・。
・・・結局治療院までたどり着けずに命を落とす人が多いのなら、治療院がいつもよりいそがしいということもないだろう。 
 足元から来る冷気が虚しい思考を断ち切り、ミズホは足早に治療院の扉をくぐった。
 今日は一日ここでひたすら"ボランティア活動"である。しょぼい思考など吹き飛ぶような忙しさと厳しい現実が確実に待ち受けている。
 この雪は夜が明ければ汚泥に変わるでしょう。善き一日でありますように。

 [ No.1 ]


【再開発地区の入り口で】

Handle : “Winged Guardian”アシュリール・ガーディア   Date : 2003/01/19(Sun) 04:55
Style : バサラ カブト◎ チャクラ●   Aj/Jender : 21/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


未明の雪はいつしか止み、東の空が紅く染まる。暴力と背徳に彩られる街に束の間、静寂が訪れた。この瞬間、人も魔も眠りに就くのだろう。
アシュリールはその静けさの中に身を置いていた。大股に歩く彼女の足元は水溜りが僅かな光を集めてキラキラ輝いている。やがて彼女は蓋のついた大きなゴミ箱に腰をおろし、薄明かりが差し始めた東の空を見ながら話した。
「俺はこの時間が一番好きなんだ。夜明けの光がすべての罪を拭い去ってくれるような気がしてね。」
「でも」
アシュリールは振り向くと肩を竦めながら自嘲気味に付け加えた。
「そんなことは決して無いんだけどな。」
そう言うとアシュリールは勢いよく立ち上がった。
「さて、どこから行こうか?」

 [ No.2 ]


【再開発地区入り口:リトルカルカッタを目指して】

Handle : “人事部長”石目 夷吟   Date : 2003/01/19(Sun) 15:41
Style : エグゼク◎ カリスマ● クロマク   Aj/Jender : 46/♂
Post : イワサキ人事局


 明るみを持ち始めた東の空を石目は無機的な表情で眺めた。
 束の間の静寂は,遠方で聞こえる複数の車両が発する・・・未整備の車両特有の爆音が打ち消した。
「ディアバラムバザール・・・ご存知かな?ある品物が入手したくてね。」
 石目はガーディアに視線を転じるとそう伝えた。
「バザールが開くまで“安全に”時間をつぶせればいいんですが・・・あまり目立ちたくないもので。」
 つい先ほどまで乗っていたリムジンに帰るように指示する。
「帰る時はもう少し目立たない車で迎えに来させましょう。」
 そして,とりあえず歩き出す。
「どこかいい観光場所はないものでしょうか?」

 [ No.3 ]


【リトルカルカッタへ】

Handle : “Winged Guardian”アシュリール・ガーディア   Date : 2003/01/19(Sun) 20:24
Style : バサラ カブト◎ チャクラ●   Aj/Jender : 21/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 アシュリールは石目の「観光」という言葉とこの街のありようが観光とは程遠いものであることに違和感を感じたが、それを口に出すことはしなかった。かわりにアシュリールから発せられた言葉はこの街の一面を端的にあらわすものだった。
「少なくとも退屈してるヒマはないと思うぜ。」
 そう言って先行する石目の左隣に並ぶ。身長はアシュリールのほうが数センチ勝っていた。
「ここからならリトルカルカッタを抜けるのが一番早いな。そこで朝飯でも食って行かないか?」
 言いながら慎重に歩幅とペースを石目に合わせる。
 曙光に洗われた街は再び蠢きだし、新たな訪問者を飲み込んでいった。

 [ No.4 ]


【リトルカルカッタ:早朝】

Handle : “人事部長”石目 夷吟   Date : 2003/01/19(Sun) 21:51
Style : エグゼク◎ カリスマ● クロマク   Aj/Jender : 46/♂
Post : イワサキ人事局


 リトルカルカッタの朝は早い。
 住人たちは早朝には珍しい闖入者達には注意を払うそぶりも見せていない。通りにはエキゾチックな匂い・・・香辛料もしくは御香のものだろうか・・・が立ち込め始めていた。
 石目は社のデータクリスのデータを反芻する・・・この地域の真っ当な住人は,観光客(自称慈善家)達が訪れれば,彼らの自尊心を満たすように哀れに振舞う心得を持っている・・・しかし,忙しく立ち回る住人達を見ると,どうやら今の時刻は営業時間には早過ぎるようだ。
 ふと,ガーディアを見ると,何か緊迫感のようなものを感じた。石目には感じ取れない何かを既に彼女は感じ取っているように石目には思えた。
「朝食を取るのに良い店でも見つかりましたか?」
 わざと恍けた感じに聞いてみる。
 襟元のイワサキのバッジは外しておいたほうが良かっただろうか?いや,そもそも企業人丸出しのこの格好自体まずかろうな,と石目はのんきに他人事のように思った。

 [ No.5 ]


【ライオットインラゴス:情報交換】

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/01/19(Sun) 23:18
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス



トレンチコートと白いマフラーに身を包んだレナードは、未明に降った溶けつつある雪の上を歩きながら、ある場所を目指していた。
「寒かったとはいえ、このLU$Tで雪を見るのは珍しいですな」
雪を踏みしめる感覚を懐かしんでいるうちに、まもなく潰れそうな外観のバーが目にはいる。

「やぁ、“おやっさん”。元気かね?」
潰れかけたバーの様相をもつこの店──ライオットインラゴスのマスターに声をかける。
「ああ、お前さんか。いつもどおり元気さ。 今日は何の用だい?」
「この前頼まれてた賞金首の情報を届けに来たのだが……要らないのなら帰りますぞ」
少し意地悪そうに笑って応じる。
「おいおい、たまたま忘れてただけだ。これでも飲んで機嫌を直せ」
苦笑混じりの表情でグラスにウィスキーを注いで勧めた。
「…………ほぉ、ここでは珍しいくらい良い酒ですな」
「当たり前だ。自分の飲み料だからな。酔えれば充分と思ってる連中に出せるか」
満足そうに味わっているレナードを眺めながら、そう応じた。

「挨拶はこれくらいにして、これが先程の情報ですぞ」
何枚かの書類を手渡す。
「いつもすまないな。お前さんが前に頼んでいた方は、まだなんだが」
それにレナードは肩を竦めて応じた。
「まあ、仕方ありますまい。ここは標的を捜しづらいですからな。気長に待たせて貰いますとも」
「……ところで、今日はこれを持ってきたのだが付き合いませぬか?」
微笑しながらカウンターの上へ明るい琥珀色の液体を湛えた酒瓶を置くのだった。

 [ No.6 ]


[ Non Title ]

Handle : “Winged Guardian”アシュリール・ガーディア   Date : 2003/01/20(Mon) 20:35
Style : バサラ カブト◎ チャクラ●   Aj/Jender : 21/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 古ぼけたビルとくたびれた外観の家々が並ぶ路地のあちこちに煮炊きの煙が立つのが見える。その煙の中に1軒の屋台を見つけたアシュリールは石目を促して中に入った。整然と積み上げられた素焼きのカップと使い古したスチール製のテーブルが対照的だ。
席の数に比べてカップの数が圧倒的に多いのはカップが使い捨てになっているからだった。
「いらっしゃい。何にするかね。」
湯気と煙の向かい側から店主の声がかかる。
「プーリーと野菜のカリー。それと、食後にチャーイを1つ。」
アシュリールは自分の注文を済ませるとテーブルと同じくらいに古いスチール製の丸椅子に腰掛けた。

 [ No.7 ]


【リトルカルカッタ:屋台】

Handle : “人事部長”石目 夷吟   Date : 2003/01/21(Tue) 20:38
Style : エグゼク◎ カリスマ● クロマク   Aj/Jender : 46/♂
Post : イワサキ人事局


「あればデヴィルドとロティ(スリランカ風ナン)を・・・」
 店主の鋭い視線に石目は黙る。
「それっぽい料理は出せるが,それでいいな。」
 店主は愛想なくそう言った。
 ガタついた椅子に石目がなんとか落ち着いて座れるようになる頃,注文の品が出てきた。
 石目は出てきた料理よりも店主の料理を出す手・・・手の甲は思いのほか毛深かった・・・になぜか興味を引かれた。

 食事を取り始めると,徐々に通りが活気付いていくのが感じられた。 

 [ No.8 ]


[ Non Title ]

Handle : “Winged Guardian”アシュリール・ガーディア   Date : 2003/01/22(Wed) 04:31
Style : バサラ カブト◎ チャクラ●   Aj/Jender : 21/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 注文の品が供され、テーブルの上を覆った香辛料の香りと暖かな湯気が一行の食欲を強く刺激した。アシュリールは料理を楽しむことに決めて周囲への警戒をIANUSに引き継がせた。
 インド系住民の中には右手を器用に使って食事のすべてを済ませる人もいるが、アシュリールにはとても出来ない芸当だ。カリーの皿にスプーンが添えられているのを確認したアシュリールはほっとして食事に取り掛かった。
「ところで、アンタが手に入れたがっているモノってのは何なんだ?」
 最後の一口を食べようとしたアシュリールはその手を止めてかわりに気になったことをそのまま口にした。が、不用意だったことに気付いてすぐに訂正した。
「いや、すまない。今のはナシにしてくれ。そもそも説明されて理解できるかどうかも分からないからな。」
  朝食を食べ終えたアシュリールは店主からチャーイを受け取ると一口喉に流し込んだ。カリーで灼けた舌にはこの甘さが心地よい。路地に目を移すと共同の水場 で歯を磨く者や洗濯をする女性が見える。路肩には地元の人がリクシャーと呼ぶ三輪や二輪のタクシーが並び、道路では行き交う人を押しのけるように自動車が 走りすぎていく。
 エネルギッシュな街だ。
 アシュリールは完全に目覚めた街を眺めながらそう思った。

 [ No.9 ]


【リトルカルカッタ:朝】

Handle : “人事部長”石目 夷吟   Date : 2003/01/22(Wed) 05:42
Style : エグゼク◎ カリスマ● クロマク   Aj/Jender : 46/♂
Post : イワサキ人事局


 出された食事は思ったほどは不味くはなかった・・・合成食材でも質の悪いものを使用している割には。物好きな連中は,わざわざここまで“本場の 味”を求めてやってくるらしいが,石目は彼らの気持ちは理解できなかった。“豆のようなもの”を煮込んだ辛いスープの入っていた皿をナンのようなもので拭 いながらそれを口に運ぶ。
「ディアバラムバザールでは“面”を買います。」
 咀嚼を終えるとそうガーディアの問いに答える。
「良いものが今日あたり出そうでしてね。・・・しかし,人が出てきましたな,物乞いやスリ対策とかも,大丈夫ですよね。」
 財布を確認し,・・・幸いソレはまだ石目の占有の範囲内にあった・・・食事の代価としてカッパーを何枚か取り出した。
 街のところどころでやかましい機械音(発電機か?)や,よく分からない言語(タミル語ではないようだ)で早口にまくし立てる怒声が聞こえる・・・うるさく無秩序な街だなと石目はぼんやりと思った。

 [ No.10 ]


【ディアバラムバザールヘ】

Handle : “Winged Guardian”アシュリール・ガーディア   Date : 2003/01/23(Thu) 03:14
Style : バサラ カブト◎ チャクラ●   Aj/Jender : 21/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 勘定を済ませたアシュリールは空になったカップをゴミ箱に投げ入れ、再び路地に出た。
「よぉ、旦那。どこまで行くんだ?」
 リクシャーの運転手と思しき男がいきなり話し掛けてきた。なれなれしい態度が癇に障ったのか石目は無言で男を睨みつけている。男のほうは石目の態度を気にしていない様子で行き先と値段の説明を始めていた。
 アシュリールは最初それを聞き流していたのだが、視界の隅に動くものを一瞬認めると運転手の肩を掴んで短く叫んだ。
「ディアバラムバザールだ。出してくれ。」
「へへ、そうこなくちゃなぁ。」
運転手の返事をよそにアシュリールは石目を座席に座らせると自らも乗り込んだ。それと同時にいくつもの手がリクシャーの客席に差し出された。
「バクシーシ(お慈悲を)。バクシーシ(お慈悲を)。」
 襤褸を着た人たちがいかにも憐れみを誘う様子で訴えている。だがいちいち相手をしているわけには行かない。アシュリールは運転手に向かって怒鳴った。
「おい、出せって。」
 運転手はニヤニヤ笑いながらリクシャーをスタートさせた。強い慣性がアシュリールをのけぞらせる。
「ちぇっ」
 石目の前でバランスを崩してしまったことで少しふてくされたアシュリールはどっかりとシートに腰掛けた。
「おいおい、ちょっとは気を遣ってくんな。これでも大事に使ってんだからさぁ。」
「そっちの旦那はああいうの(お慈悲)は嫌いかい?」
 運転手はあくまでマイペースだ。アシュリールが睨むと会話の相手を石目に切り替えてきた。

 [ No.11 ]


【ディアバラムバザール:午前】

Handle : “人事部長”石目 夷吟   Date : 2003/01/23(Thu) 22:09
Style : エグゼク◎ カリスマ● クロマク   Aj/Jender : 46/♂
Post : イワサキ人事局


「私は日系なもんでね。ああいうやり方はスタイルに合わないな。
 報酬は常に労働の対価であるべきだというのが私のルールだ。」
 口元に笑みを浮かべつつも,威圧するような視線で運転手を射抜く。
 それっきり運転手は前を向いて扱ぐ事に専念し始めた。
 生来,饒舌な部類に属しそうな男であったが,客が悪過ぎると言わざるを得ないだろう。
 ほどなくリクシャーは雑踏の一角,香辛料の香りに満たされた通りに止まる。
「ついたぜ,お客さん。」
 客の影響か無機的な声で運転手は言い捨てる。機嫌をすっかり損ねてしまったらしい。
 石目は労働の対価としてはいささか高すぎる報酬を運転手に渡し,リクシャーから降りる。
「えーとだ・・・マヌーチェフルという男が店を出しているはずなんだが・・・」
 石目は雑踏に揉まれながら周囲をきょろきょろ見渡した。

 [ No.12 ]


【ディアバラムバザール:午前2】

Handle : “Winged Guardian”アシュリール・ガーディア   Date : 2003/01/25(Sat) 00:22
Style : バサラ カブト◎ チャクラ●   Aj/Jender : 21/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 通りにひしめく露店の屋根が光を遮り、香辛料のものであるのか麻薬のものであるのか嫌な匂いが通りを覆っている。
 得体が知れない。
 この言葉がこれほど似合う場所はないだろう。得体が知れない店、得体が知れない商品、得体が知れない店主。そして、得体が知れない客。
 アシュリールは一軒の露店で立ち止まった。
 ドライアイスに囲まれ震えて縮こまる主人が陳列していた品を見てアシュリールが凍りつく。
 人の臓器だった。
「何をしているんです。」
 雑踏の中から石目が呼んでいる。アシュリールは屍のように固まっている店主を一瞥すると踵を返した。

 [ No.13 ]


【昼前のディアバラムバザール】

Handle : “人事部長”石目 夷吟   Date : 2003/01/25(Sat) 16:58
Style : エグゼク◎ カリスマ● クロマク   Aj/Jender : 46/♂
Post : イワサキ人事局


 視線を転じるとガーディアの姿がない。
 こんな場所で護衛がいなくなるとは!
 腕時計を盗むために腕を切り取って持っていくような連中がここには掃いて捨てるほどいるというのに。
 嫌な汗が背中をつたう・・・露店やら周辺の家屋の質の悪い発電機が原因でできる不自然な熱気が不快だった。

 動揺を抑え,周囲を見渡す。動悸が激しくなっていくのを感じるが,それを表面に出してはならない。

 おそらく数秒間なのだろうが,数時間にも感じる時間。
 ようやく,ガーディアを見つけると,ガーディアは臓器の露店で商品を眺めていた。(まったく,天然臓器好きとは結構な趣味だ。それともカリバニストなのか?!)石目は内心毒付きながらも,努めて冷静にガーディアを呼ぶ。
「何をしているんです。」
 護衛が側にいるという安心感からか,天然臓器は中華街の方が良質のものが手に入ることをガーディアにアドバイスすべきかどうか,暢気に石目は考えていた。

 [ No.14 ]


[ Non Title ]

Handle : “Winged Guardian”アシュリール・ガーディア   Date : 2003/01/26(Sun) 01:26
Style : バサラ カブト◎ チャクラ●   Aj/Jender : 21/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 石目がいる場所まで行くあいだにもさまざまな店が並び、その一つ一つが賑わいを見せる。ドライアイスと一緒に天然臓器が積まれたあの店も。
「ネエチャンいい肌してるな。ウチの白いヤツと交換しないか?」
 雑踏の中から下卑た声がかかる。アシュリールは声がした方向を振り向きもせず怒鳴り返した。
「失せろ。ゲス野郎。」
 背後で鼻白む気配がしたがそれには構わず石目の左側に並ぶ。
「すまない。」
 アシュりールはそれだけ言うとミラーシェイドをかけた。

 [ No.15 ]


【ディアバラムバザール:いかがわしい店にて】

Handle : “人事部長”石目 夷吟   Date : 2003/01/26(Sun) 23:05
Style : エグゼク◎ カリスマ● クロマク   Aj/Jender : 46/♂
Post : イワサキ人事局


 マヌーチェフルの面屋はほどなく見つかった。
 そこでは古今東西の彫像やドロイドの顔面をそのままそぎ取った面が所狭しと並べられていた。
 店主の痩せたタジキスタン人は,石目を見ると,薄汚れたプラスチックのトレイから,人格カードと技能クリスを取り出し,自らの首筋に挿入した。
「これは石目部長。お久しぶりですね,今日はどのような掘り出し物をお求めですか?」
 タジキスタン人は流暢な日本語と流麗な身のこなしで,石目を迎えた。石目も仕事用の笑みを浮かべつつ応える。
「“掘り出し物”と“生”の面に用があるんですが,ありますか?」
「店の奥へどうぞ,石目部長が“掘り出し物”はともかく“生”の面に用があるとは,ただ事ではないですな・・・失敬。」
 大仰な身のこなしで,タジキスタン人は店の奥を指し示しつつ,傍らに転がっていた少年を器用に蹴飛ばした。
 髭面のタジキスタン人はペルシャ系の少年に早口で店番をするように命ずると,ガーディアをチラリと見,困ったように石目を見る。
「お連れ様はここでお待ちいただいて構いませんか?」

「すいませんが,1時間程時間を潰してきていただけませんか?」
 石目はガーディアに問うた。

 [ No.16 ]


【ディアバラムバザール:面屋の少年】

Handle : “Winged Guardian”アシュリール・ガーディア   Date : 2003/01/26(Sun) 23:41
Style : バサラ カブト◎ チャクラ●   Aj/Jender : 21/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 奥へ入ることをやんわりと拒絶されたアシュリールは石目の問いに小さく首を振り、了解の意を表した。石目が店主と共に店の奥へ消えると、外にはアシュリールと店番の少年が残されることになった。
  少年は店を訪れる客を巧みにあしらい手際よく店の売上を伸ばしていた。だが少年は自分よりも頭1つ背が高いアシュリールに対してはどう扱ってよいものか決 めかねていたらしく、時折アシュリールの顔色を窺ってはぎこちなく仕事に戻るのを繰り返していた。気の毒に思ったアシュリールはミラーシェイドを鼻までず り下ろすとにっこり微笑んで見せた。すると少年の顔の曇りが一気に晴れて、無邪気な笑顔が返ってきた。
「姉さん、どこの人?」
 片言の少年の問いにアシュリールが笑って答えた。
「N◎VAだけど、元々はあっちのスラム出身さ。なぁ、何か俺に似合う面はないか?」
  少年は竹竿にかけられたたくさんの面の中から1枚選び取るとアシュリールに差し出した。冠を被った女性の顔をデザインしたその面はアシュリールと同じ黒い 肌色で額には三つ目の瞳が光り、口からは赤い舌がぺろりと覗いていた。アシュリールは少年のセンスが理解できなかったが、笑顔でそれを受け取ると顔が隠れ ないように斜めにかぶり、代金を少年の言い値で支払った。
 自分とアシュリールの間に共通点を見つけた少年は嬉しそうにいろんなことを話した。商売のことや自分の待遇のこと、将来は自分の店を持ちたいこと。アシュリールと少年は30分後にはすっかり仲良くなっていた。

 [ No.17 ]


【ライオットインラゴス:カスクストレングス】

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/01/27(Mon) 20:10
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス



マスターはカウンターへ置かれた酒瓶をしげしげと眺め。
「ほぉ、ボウモアのカスクストレングスか。よく手に入れたものだ」
「貴殿はこちらの方が嗜好に合うと思いましてな」
「ウイスキー本来の美味さを直に味わえるからな。せっかくだから早速飲むとしよう。お前さんも付き合うんだろ?」
「喜んで」
白き獅子は嬉しそうに微笑んで応じた。

口に入れた瞬間にアルコールが口の中で弾け、ウイスキーの味と香りが口中に一瞬のうちに広がる。
「この荒々しく燃えるような刺激の裏から湧き上がる味と香りがたまらんな」
「そうですな」
かなり癖が強い部分があるものの、アルコール度数60度以上とは思えない滑らかで柔らかな口辺りの芳醇なコクを味わい、長く心地良く続く余香を愉しみながら、ふと思う。
このカスクストレングス──いや、シングルカスクの方がより適切か──のような人間に会えたら、さぞかし面白いだろうと。
このLU$T──欲望という名に相応しい吹き溜まり──でなら叶うかもしれない。
レナードの口許には笑みが零れていた。


※カスクストレングス=加水でアルコール度数を下げてない樽出し原酒のこと。樽出し強度とも言われる。
シングルカスク=ひとつの樽だけから瓶詰めした樽出し原酒のこと。モルトウィスキーは熟成庫の樽の位置によってそれぞれ味が異なる。

 [ No.18 ]


【ディアバラムバザール:当然ありうること】

Handle : “人事部長”石目 夷吟   Date : 2003/01/27(Mon) 22:11
Style : エグゼク◎ カリスマ● クロマク   Aj/Jender : 46/♂
Post : イワサキ人事局


 太陽が南に来る頃,石目は店の奥から帰ってきた。
 顔はやや青ざめていたが,にこやかにビジネススマイルを浮かべ,左手には紙包みを持っていた。
「お待たせしてしまったようですね。」
 ガーディアに不自然なまでに穏やかに話しかけた。
「予想以上の“品”に出会いましてね。急いで帰らなければならない。」
 石目は店主に別れを告げると無警戒に通りに歩を進めた。
 しかも,ガーディアが十分に警護できる距離まで近づくのを待たずに。
 次の瞬間,雑踏から飛び出した人影が石目を弾き飛ばし,再び雑踏の中へと消えていった。
 雑踏から面屋に弾き飛ばされた石目は尻餅を付き,うめき声を上げた。
 すべては一瞬の出来事だった。

 [ No.19 ]


【ディアバラムバザール:代償】

Handle : “Winged Guardian”アシュリール・ガーディア   Date : 2003/01/28(Tue) 21:30
Style : バサラ カブト◎ チャクラ●   Aj/Jender : 21/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


「くそっ」
 アシュリールは石目を助け起こすと、雑踏にまぎれた人影を追いかけた。人ごみを荒っぽく押しのけて進むたびに罵声や怒号が浴びせられたが、アシュリールはそれを一顧にもしなかった。
  紙包みを奪った人影が浅黒い肌をした男だったことはIANUSの録画機能で確認できていた。だが此処では浅黒い肌をした男などいくらでもいる。路地を3つ 曲がったときにはアシュリールは完全に男を見失っていた。アシュリールはいまいましげに地面を蹴飛ばすと面屋へ戻った。
 石目に大きな怪我はなく 擦り傷がいくつか出来た程度だったが、高価そうなスーツが埃まみれになっていた。店主は申し訳なさそうな顔でスーツの埃を掃い、少年のほうは壊れた露店の 後片付けをしていた。アシュリールは石目の所へ行くと黙って手当てを始めた。やがてどちらとも無くポツリと言葉が漏れた。
「油断したな。」
 期せずしてユニゾンとなったことが可笑しくてアシュリールは笑いを堪えることが出来なかった。

「どうする? 大事なものなんだろう?」
 石目の手当てを終えたアシュリールは犯人が消え去った方向を見ながら言った。

 [ No.20 ]


【ディオアバラムバザール:運命】

Handle : “人事部長”石目 夷吟   Date : 2003/01/28(Tue) 21:54
Style : エグゼク◎ カリスマ● クロマク   Aj/Jender : 46/♂
Post : イワサキ人事局


「いえ・・・盗まれてむしろ良かったやも知れない・・・」
 石目はチラリと店主を見やる。
「仕事に必要な事は終わっています。プライベートはこの際捨てるべきでしょう。」
 青ざめていた顔に血色が戻り,仕事用の微笑を浮かべる余裕もできる。
「アレだけの曰くのあるもの惜しい気はありますが,これも宿命でしょう・・・それよりも急いで帰らねば・・・。」
 ポケットロンで車を呼び出しつつガーディアに悪戯っぽく尋ねる。
「ちなみに盗まれた品物の忌まわしい曰く聞きたいですか?」

 [ No.21 ]


【ディアバラムバザール:午後】

Handle : “Winged Guardian”アシュリール・ガーディア   Date : 2003/01/28(Tue) 23:30
Style : バサラ カブト◎ チャクラ●   Aj/Jender : 21/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 いつもの石目の口調に戻り、ほっとしたアシュリールはミラーシェイドを外して懐へ戻した。
「曰くもそうだが、俺はアレが何だったのかが知りたいね。」
「もちろん、俺に理解できればだけどな。」
  朝食での会話を繰り返すとアシュリールは微笑を浮かべた。散らばった面を拾い集めて両手に抱えていた少年がアシュリールにはわからない言葉で主人に話し掛 ける。それを聞いた主人は少年に仕事に戻るよう手荒に命令すると、アシュリールがかぶっている面をちらりと見たのだった。
 バザールの出口でクラクションがけたたましく鳴る。迎えの車が到着を告げた。

 [ No.22 ]


【ディアバラムバザールの外れ】

Handle : “人事部長”石目 夷吟   Date : 2003/01/29(Wed) 22:12
Style : エグゼク◎ カリスマ● クロマク   Aj/Jender : 46/♂
Post : イワサキ人事局


「単なる古ぼけた仮面ですよ。ただ・・・いや,やめておきましょう。なくなったものの事を言っても仕方がないし,今じゃ確かめようもない。それに目的は果たしましたから・・・。」
 石目は自動車に向けて歩き始める。もちろん,ガーディアが側にいることを確認しつつ慎重にだ。
「ふむ,あんまり目立たない・・・いい選択だ。」
 自動車は古ぼけた再開発地区ではありふれた部類のボロ車だ。
「私はイワサキ城下町まで行きますが,どうします?契約はこの地区での護衛だけでしたが?」

 [ No.23 ]


【帰途】

Handle : “Winged Guardian”アシュリール・ガーディア   Date : 2003/01/30(Thu) 01:12
Style : バサラ カブト◎ チャクラ●   Aj/Jender : 21/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


「乗せてもらうよ。アンタの用事が終わったのなら俺がここに残る理由なんて無いからな。」
「それに、ここいらじゃ車に車をぶつけてことに及ぶ強盗だっているんだぜ?」
 物騒なことを笑いながら付け加えたアシュリールは石目の後について車に乗り込んだ。

 喧騒が一段と遠ざかり、前方にはイワサキの支社ビルが見え始めた。ビルの壁面を反射した陽光が一同の顔に安堵の色を差し、車内の緊張が僅かに和らいだ。

 [ No.24 ]


【ディアバラムバザール:路地裏】

Handle : “黒爪”(Hei-Zhao)   Date : 2003/01/31(Fri) 00:13
Style : カゲ◎ チャクラ● バサラ   Aj/Jender : 24/♂
Post : フリーランス/元N◎VA三合会凶手


 紙包みを抱えた男は周囲を見回し、誰もいないことを確認すると笑みを浮かべた。……が。

「?!」

 気を抜いた次の瞬間、いきなり後ろから口をふさがれ、目を剥いた。そして見開かれた目の視界の端に今度は細長い黒い線が一本、二本、三本、四本。それが指から伸びた黒光りする細い刃である事を悟り、息を呑む。

「スるな、とは言いやしないが、相手を選んだほうがいいんじゃねぇか?」

 いつのまにか男の後ろに黒い影が立っていた。
 いや、黒いのは服、そして背中までかかった髪だった。男の服は、いわゆる中国拳法の拳法着であり、このリトルカルカッタにおいては極めて異装であった。

「でねぇとひでぇめにあうぜ?」

 背中を押され、案外とあっけなく男は解放された。だが、気づくと抱えていた紙袋がない。袋は影−“黒爪”の手に移っていた。
 そう男は気づき、何らかのリアクションを取ろうとして……動作を止めた。背後に別の何者かの気配を再び感じ取ったからだ。背後にいたのは異様な面をかぶった一団だった。男はあわてて逃げようとしたが……。




「……そらな」

 “黒爪”は無残に首をへし折られ、声をあげる事すら許されずに息絶えた男を冷たく見つめた。
 そして視線を仮面の一団に向けると舌なめずりをする。

「こいつがナンだか知らねぇし別段興味はねぇんだが、ちょっと退屈しててな……、暇つぶしに遊んでくれヨ?」

 紙袋を無造作にかかげると“黒爪”は蛇のような笑みを浮かべた。

 [ No.25 ]


【運河地帯:薄汚れた運河のふち】

Handle : “狂狼”救世 現時朗   Date : 2003/01/31(Fri) 06:43
Style : カリスマ◎ イヌ● クロマク   Aj/Jender : 40/♂
Post : 弁護士(元検察官)


 人々は早口で思い思いの言葉を口にしていた。
 人ごみの中心では,中国系の汚い格好の男たちが,時代下に出てくる役人みたいに,首の無い死体を検めていた。この辺りでは珍しいスーツ姿の死体には布もゴザも掛けられていないため,群集はその珍しい服装の死体を見て何か囁きあっている。
 救世現時朗は,死体よりも中国系の男たち(中華系マフィアと推察される)の手並みを興味深く観察していた。
[採用2か月の新人警察員だってもっとマシだな]
 装備の貧弱さもさることながら,男達のズサンさに救世は失笑した。あえて,群集に死体を調べているところを見せているのは,もし,死体を探しに物好きな同僚がやってきた時に恩を売るためのアピールかもしれない。
 データクリスを取り出し,IANUSのスロットに差し込み,取り合えず,今見た映像を記録することにする。
「!!!」
  死体を検めていた男たちが目ざとく救世の所作に気づき何かを叫んだ。その声に反応して中国系の男たちと救世の間の人ごみが『十戒』の海のように割れ,口々 に囁き合う。余所者の身の上に起きる災害を予想/期待でもしているのだろうか?言葉の分からない救世には知りようも無いが,興味も湧かない。
[3人か・・・痛そうだが,何発かは殴られてやってもいいかな?]
 救世は男たちに向かって静かに微笑んだ。

 [ No.26 ]


【ライオットインラゴス:ディアバラムバザールへ】

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/02/03(Mon) 23:37
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


午前中から昼食時で賑わい始める正午過ぎにかけて、レナードと“おやっさん”はカスクストレングスを痛飲していた。
お互いに付き合いもはいってるとはいえ、こんな時間からとは二人とも良い御身分と言えなくもなかった。
“おやっさん”は鼻が赤くなってきており、レナードも白獅子頭のおかげで表面上は窺えないが心なしか酔ってきているように感じられる。

「……おや、もうこんな時間か。上手い酒を飲んでいると時間が経つのが早いですな」
「何を言うか。もっと付き合え。昼間は臨時休業にすれば良かろう」
「そういう訳にもいきますまい。この店に来るのを楽しみにしてる連中もいるわけですしな」
マスターの七割以上本気に聞こえる冗談めかした我が侭に対し、レナードは苦笑混じりに宥めた。
「また近いうちに伺いますので今日は程々ということで」
「もう少しお前さんと飲んでいたかったんだが──まあ、仕方あるまい。今度来る時は出来たらシングルカスクを入手して来てくれんか? 代金はもちろん支払う」
「なかなか困難なミッションですな。だが貴殿の頼みとあれば致し方ない──出来うる限り期待に沿えるよう努力しましょうぞ」
“おやっさん”の依頼に、少し芝居がかった仕草で頼もしそうに受け答えた。

「ところで、これからお前さんはどうする?」
「とりあえずはディアバラムバザールでも歩き回ろうかと。日暮れまで余裕があれば他の所も行ってみるつもりですが。──夜にこの地区をうろつくのは危険ですからなぁ」
その声色は、表面上心の底からそう思ってるように聞こえた。
経験の浅い若者なら誤魔化されたかもしれない。
百戦錬磨の“おやっさん”には通用するわけもなく。
「……まあ、せいぜい“気をつけてくれ”。ここ最近妙な動きもあるようだしな」
「もちろんそうしますとも」
レナードは鷹揚に頷くと店を出て行くのだった。

 [ No.29 ]


【リトルカルカッタ:裏路地】

Handle : “狂狼”救世 現時朗   Date : 2003/02/03(Mon) 23:39
Style : カリスマ◎ イヌ● クロマク   Aj/Jender : 41/♂
Post : 弁護士(元検察官)


 体の節々が痛んだが,ひどい怪我をさせられなかった事に感謝すべきなのかもしれない。
 チンピラといえども,官憲の真似事をする以上,それなりのモラルはあるのかもしれない。
 それとも,無抵抗の人間のいたぶるのに少しは良心の呵責を感じたのやも知れない。
 だから,救世は自らの力を振るわなかった・・・彼らはここでは社会を蝕む“悪”ではないのだから。
 機を見て走って逃げれば,それで足りるのだ。
 しかし,どこまで走ったのだろうか・・・。
 かなり走ったので息が上がっており(もういい年だ走ればこうなるくらい分かっていた),胸が苦しい。
 香辛料の香り溢れる路地裏で救世は思った。

 [ No.30 ]


【ディアバラムバザール:引き釣り】

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/02/04(Tue) 00:32
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


悪名高い悪徳市場においても、その容貌は目立っていた。
しかし、一瞬振り返ったり注視したりはするものの、ほとんどの者はすぐに自らの用事を思い出し過ぎ去って行く。
例え何者であろうと自らの利益に関わりがない限り、用は無いとでも言いたげなように……。

『……やはりまだ馴染んでおらぬのぉ』
頭の中に老人の声が話し掛けてきた。
その声には、どこかからかうような響きがある。
『LU$Tに根付いてから頻繁に訪れているわけではないですからな、ライオットインラゴスはともかくとして。まっ、仕方ありますまい』
香辛料の香りが立ち込める通りでアタリをつけて聞き込みをしていた白獅子は、からかいを往なしながら応じた。
『港町横浜の面影を色濃く残すこのヨコハマなら、そのうち馴染むであろうよ。ここはちと苦戦するかもしれぬが』
『御老体は横浜を知ってるので?』
『災厄前の横浜ならば何回か滞在しておるよ。港町らしく明るくて開放的、適度に都会で適度に田舎といったところかの。他所者も暮らしやすい街だった……』
『なるほど』
情報代を吹っ掛けてきた店主と値切り交渉をしつつ、心の中で頷いた。

「……さっきは値切りし過ぎではないのか? あの店主、半泣きしておったぞ」
表通りを外れて路地裏に入っていくレナードへ、苦笑いをしながらローテンイェーガーは呟きかけた。
「半分以上演技でしょうがな、大した情報でもなかったですし。まあ、次からはナメた値段はつけてきますまい」
「────ところで、賞金首の行方について“わざわざ”聞き込みをしたわけですが、釣れてくれますかな?」
「別のが釣れても、そやつらの元締めと交渉すれば何か分かろう。あまり賢いやり方でないがのぉ」
その事を重々承知していながら行おうとするレナードを揶揄する。
「それを言われると辛いですな。──ん?」
次の曲がり角の先から、何やら気配を感じる。
(もし先回りしてたとしたら、なかなかやり手ですな。さてさて、鬼と出るか蛇と出るか……)


※引き釣り=投げ釣りで魚を誘うためにゆっくり巻きながら引く釣り方。

 [ No.31 ]


【運河地帯:船上】

Handle : “ブラッディ・S”サティ・サティ   Date : 2003/02/06(Thu) 12:02
Style : カタナ カタナ カタナ◎●   Aj/Jender : 32/♀
Post : なし


運河に浮かぶ一艘の船の上で、サティは釣り糸を水面に垂らしていた。その傍らには、この船の船主にしてこの家の住人である男が立っている。
「さてぃサン、上ノヒト心配シテタヨ。アナタノコト、仕事来タカー?テ言テタネー」
「忙しいのは知ってるが、私は興味ないね。釣りの方が面白い」
男には目もくれずぐい、とサティは竿を引き上げた。大き目の魚が引き上げる。
「ソカソカー。ソレハヨカタ」
魚に掛かった針を外し、脇のバケツに放りこむ。
「それに、どこも人手は足りているだろう」
風は冷たいが、水面は穏やかだ。
少し離れた岸では、中国系とおぼしき男たちが一人の南アジア系と思われる男を追いまわしているのが見える。
サティは針に餌を付けなおし、また水面に投げる。
「コノ辺、魚、大キイデショ。イイ餌食ーベテールネー」
岸辺の追いかけっこには決着が付いたようだ。追手側の一人が発砲し、逃げていた男は倒れて動かなくなった。
「全くだ。食うには困らないだろうな」
追い付いた連中は無造作に死体を運河に放り込み、去って行った。
「魚、きっちんデ料理スルヨ。さてぃサン食ベルカ。ウマイヨー」
「ああ、頼む」

 [ No.32 ]


【ディアバラムバザール:狩人】

Handle : “黒爪”(Hei-Zhao)   Date : 2003/02/06(Thu) 22:26
Style : カゲ◎ チャクラ● バサラ   Aj/Jender : 24/♂
Post : フリーランス/元N◎VA三合会凶手


 ……伍……四……参……弐……壱。

 仮面の男たちは見る間に数を減らし、先刻自分らが手に掛けた哀れなスリと同じように路地裏の薄汚れた地面に倒れ伏した。うめき声一つあげることなく倒された上に、彼らはすべて絶命していた。“黒爪”は息一つ乱していない。

 戦い、と呼べるようなものではなかっただろう。素早く飛び回る彼らに対し“黒爪”の動きは酷く緩慢に見えた。だが、男たちの攻撃はことごとくかわされ、対して“黒爪”の攻撃は一振りで彼らの命を奪っていった。
 力の差は歴然としていた。正直その段階でやる気は失せていたが、そもそも牙を剥いた者に対して“黒爪”は情けなどかけるような性質ではない。
 それに彼らが何者であるか、この哀れなスリが奪った代物が何であるか、といった事に本当に興味などなく、生かしておく理由は何一つなかった。

 “黒爪”は男たちの死体を冷たく見下ろすと、背を向けてその場を立ち去ろうとした……が、そこで路地の角から別の何者かが現れた事に気づき、足を止めた。

 果たして、そこに立っていたのは獅子頭の紳士であった。

「……アンタもこいつが欲しいクチかい? よっぽど胡散臭いブツなんだナ。どいつもこいつもツラァ隠してるんだからヨ?」

 先程仮面の男たちに声をかけたのとまったく同じように、再度同じ調子で“黒爪”はその紳士、レナード・ルービンスタインに言葉を投げた。……相手が自分と同様、餌にかかる獲物を待っている狩人だとは露知らずに。

 [ No.33 ]


【リトルカルカッタ>心霊治療院 Dr.EVE】

Handle : “狂狼”救世 現時朗   Date : 2003/02/09(Sun) 23:15
Style : カリスマ◎ イヌ● クロマク   Aj/Jender : 41/♂
Post : 弁護士(元検察官)


 路地を少し歩くとやや広い人がごった返す騒がしい通りに出た。リトルカルカッタ・・・IANUSを介して自分の位置を確認した救世は,この近くに“あの男”の妻が営む治療院があることを思い出した。
 それほど縁のあった男ではなかったが,なぜか印象深い男だった。常々墓参りぐらいはしたいと思っていたが,プライドの塊である救世はその墓所を知り合いの警官に聞くことができないでいた。
(ちょうどいい,目的もなく彷徨うのは趣味に合わんしな。彼女なら彼の墓所の位置を知っているだろう)
 救世は治療院目指して人ごみを縫いつつ歩き始めた。
 

 [ No.34 ]


【リトルカルカッタ】

Handle : 【背景】   Date : 2003/02/11(Tue) 17:52
Style : エキストラ   Aj/Jender : 21/♂
Post : 観光客


「すげぇー!」
 バックパッカーの青年は,舞う土埃にむせながら呟く。
(まるで戦争でもあったみたいだな・・・)
 青年 は今に崩れ落ちそうな建物群を見てそう思う・・・むろん,戦場の経験はなく,ニュース映像ぐらいでしか知らないのだが。青年が物珍しげにポケットロンで, ゴミ(青年にはそう見える)拾いをする乞食風の母子連れの映像を撮っているとほどなく子供たちに囲まれ身動きが取れなくなる。
 様々な人種の子供たち十数名は手を差し出し,口々に青年に叫ぶ。
「君達!何もあげないよ!」
 青年は抗議をするが,ポケットというポケット,バックパックの中を蹂躙され始める。
 ついにキレた青年が懐からP4(まだ奪われてはいなかった)を取り出し空に向けて発砲する。
 パンッ
 乾いた音と火薬の臭い。
 通りの住人の非難めいたような哀れむような視線を青年にチラリと向けた。
 銃声をきっかけに子供たちは凶暴に笑うと,青年に執拗に掴みかかり,青年は小さな悲鳴とともに子供たちの輪の中に消えた。
 やがて子供たちは各々戦利品を手にあっという間に散り,そこは小さな血だまりのほか,何も残らなかった。
 その血だまりすら鼠に良く似た生き物が群がり,近所の爺さんがクスリを撒いて追い払う頃には跡形もなくなっていた。

 [ No.35 ]


リトルカルカッタ:再開発地区入り口

Handle : 清姫 アキト   Date : 2003/02/12(Wed) 02:56
Style : エグゼク◎ カタナ ハイランダー●   Aj/Jender : 24/♂
Post : M○●N企業連合環境開発局人種問題担当分室


「(ふぅ…)何処にでもあるものだね。こんな場所は…」
タタラ街から郊外に外れること、数分。見渡す限りの瓦礫と廃ビルの荒野を眺め、アキトは誰に聞かせるでもなく呟いていた。足を止めて、サングラス越しに色づいたスラムの景色を見渡す。脇を固めるようにして歩いていた黒服の男たちが、何事かと振り帰った。
「ふふ…。いや、何でもないよ、気にしないで」
軽く微笑み返し、極めて自然な仕草で、するりと黒服たちの間を抜ける。2秒、黒服たちはあわてて後を追う。

背 の高さほどの粗末なフェンスが、アキトたちの行く手を阻んでいた。そう。ここは境界線なのだ。ところどころで茶色く錆付き、子供の通れるほどの穴まで開い ている。よじ登ろうと思えば簡単に乗り越えられる、そんなチンケな境界線。だが、ここを境に、様々なものが反転、交錯してゆく。だが、アキトは思うのだっ た…。
「ねぇキミ…。キミはこんなモノに必要性があると思うかい?」
かすかに微笑しながら、傍らの黒服に声をかける。男は、突然振られた話に、一瞬躊躇する。
「こんな境界線で区別して、私は貴方たちとは別のイキモノです…なんて思ってる。……考えすぎかな?」
答えを待たずに、アキトはフェンスの穴に身体を通した。
「あぁ、そうだ。キミたちはちょっと間を置いてついてきてくれない?たまには独りで歩くのも悪くない…ってね」
フェンス越しに声をかける。当然、黒服たちは抗議するが、耳は貸さない。
「ほら、ボクは境界線のこちら側。キミたちは向こう側。ボクはもともとこっち側の人間だから、心配ないよ」
ひらひらと手をふり、アキトは土埃の中へと消えていった…。

http://www.dice-jp.com/ys-8bit/b-2unit/data.cgi?code=CA107 [ No.36 ]


【ディアバラムバザール近くの路地裏:「白刃」】

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/02/13(Thu) 07:14
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


「ブツ? なんのことですかな? 私は……」
眼前の黒い拳法着を着た青年の問い掛けに答え、道端に転がる死体へ注意を向けた瞬間、若者の姿が目の端から消えた。
(むっ?!────八時の方向か?)
レナードは反射的に反転しながら崩れこむように屈み込み──頭上では白刃がたてがみを数本、宙に舞わせ──拳で相手の甲を穿った。
ほんの一瞬出足が止まった隙に、脚をすくって引き倒そうと試みる。

必殺を確信した一撃に対して、まさかの反撃をされたというのに、なぜか心が躍った。
「ヤルじゃねぇかよ、オッサン」
足をすくおうとする白獅子の顔面へ蹴りを放ち防がせることで、その反動を利用して後方へとんぼを切る。
「アンタみたいなヤツを待ってたぜ!」
着地と同時に中国武術独特の歩法で間合いを縮め、黒爪は再度迫った。

黒爪がとんぼを切ってる間に、レナードは懐に手を伸ばし伸縮式の特殊警棒を取りだし応戦する。
(ほぉ……詰めるのが早いのぉ。それにこの動き──こやつ八卦掌でも嗜んでおるのか?)
レナードの髪の毛と同化している腹心のローテンイェーガーは、二人の戦いを絶好の特等席から他人事のように観戦していた。
さすがにレイザーシャープが、たてがみをかすめた時は多少冷や汗をかきわしたが、ここから見れることを考えれば些細なことだった。
(相手の軸をずらしてひたすら斜めから切りこんでくるわ。レナードもさぞかし防ぎづらかろう。それに、この速く変化に富んだ手の動き──もしかすると通背拳も学んだかもしれぬ)
華僑の中でアンダーグラウンドにいる者が、暗器と器械(武器)の技法に優れた門派である八卦掌を嗜んでることはよくあることだったが、通背拳を駆使する者はさほど多くはなかった。

(……埒があかぬ。いつまでも捌き続けてるわけにもいかないですしなぁ)
誤解から巻きこまれた戦いとはいえ、レナード自身は今の状況がそれほど嫌というわけではなかった。
刃が頬をかすめて、うっすらと血が滲む感触を味わえるほどの好敵手との闘いは久しぶりだったからだ。
(しかし、このまま“結果”だけを追い求める戦いに終始するのは、あまりに勿体無いですな)
ただ、この強敵を相手にして純粋にお互いの技倆を競い合ってみたかった。

攻防の最中、特殊警棒を顔面へ投げ飛ばし避けた隙に後方へ飛び退った。
「待ちなされ! 私は元傭兵のレナード・ルービンスタインという者。貴殿の敵ではないですぞ」
ストップのポーズをして、黒爪へ話し掛ける。
「貴殿と殺し合いをしなければならない謂れはありませぬ。刃を収めて下され。────とはいえ」
一瞬言葉を切ると、無手のまま身構える形に変えて、楽しそうに微笑みながら呟いた。
「とはいえ、実は先程の戦いでの貴殿の腕前にほとほと感心しましてな。──こちらでの勝負なら喜んでお受けしますぞ」

 [ No.37 ]


【運河地帯:余暇】

Handle : “ブラッディ・S”サティ・サティ   Date : 2003/02/13(Thu) 21:28
Style : カタナ カタナ カタナ◎●   Aj/Jender : 32/♀
Post : なし


サティは黙って立っていた。
「…仕事を受ける気はない、ということは無論承知しております。ですからこうして“お願い”しているのですよ?」
DAKの画面に映る女は笑みを浮かべた。彼女は東洋系の美人ではあるが、その眼はひどく怜悧で酷薄な印象を与える。
サティはなおも黙ってその眼を見ていた。
「ほんの少し、お手伝い頂きたいのです。報酬、いや『お礼』は用意させて頂きますよ?」
サティはDAKに背を向けた。その背中に、声が投げ掛けられた。
「お礼は、以前貴方から伺った…あの件に関する情報なのですが?」
女はニヤリと笑った。その口に鋭い牙が光っている。

やや不機嫌な顔で船室から出て来たサティを、外で船主が待ち構えていた。
「さてぃサン、料理デキタヨ」
彼は相変らず陽気だ。多分生まれたときから笑っていたに違いない。
「悪いが一人で食ってくれ、私はいい」
「ドシテ?」
釣道具一式を薄汚れたバッグに放り込むと、岸に目をやる。今は閑散としていて、ただ遠くから物売りの声が聞こえるぐらいだ。
「場所を変える」
「仕事ネ?」
「釣りだ」
男はハァ、と肩をすくめた。

料理はまた今度だな、と言い残してサティは岸に飛び移った。
運河を吹く風は冷たい。

 [ No.38 ]


【ディアバラムバザール:密造酒の屋台】

Handle : “Innosent Blakk”レフィアラ・イノセンス   Date : 2003/02/14(Fri) 00:49
Style : カブキ◎ ミストレス カブトワリ●   Aj/Jender : 20/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


「っだぁらしないなァ。まぁだこれ、っからでしょぉ。っぷ。」
 ディアバラムバザールの一角、屋台の周りにできた小さな人垣の中央から調 子ハズレの声があがり、それと同時に人垣からどよめきがおこる。中央では一組の男女が粗末なテーブルを挟んで密造酒の飲み比べをしており、今決着がついた ところだった。黒のエプロンドレスにインラインスケートといういかにも場違いな恰好をした女性がテーブルに突っ伏して目を回している男を見下ろしている。 勝負をダシに外ウマを張っていた連中が歓声と罵声を上げながら木札をやり取りしている。憐れな敗者は自分のせいでスってしまった野次馬たちに人垣の外へ乱 暴に投げ出され、呻き声を上げるヒマもなく解体されてしまった。
 女性は深呼吸一つすると体内のアルコールとアセトアルデヒドを一気に分解させた。
「仕方ないわね。負けたほうが身体を自由にさせるって約束だったんだもの。」
 全身から酔いが抜けた女性がしっかりとした動きで席を立つ。イカサマに気付いた野次馬が騒ぎだし、一人がわけのわからない言葉で女性に詰め寄る。女性は今にも飛び掛ろうとする男の喉元に人差し指を当てた。これが銃だったら間違いなく顎から上がなくなっていただろう。
「言っとくけど。迷惑してるアタシを強引に誘ったのも、この方法での勝負を挑んできたのもあっちよ?」
「それに、もう負け分は回収してるでしょ? これ以上は望まないほうが身のためよ。」
 女性がにっこり笑う。彼らの負け分は憐れな敗者によって十分補填されていたのだ。図星を突かれてシラを切ることもできない男から人差し指を戻し、女性は身を翻した。
「さ、解ったらどいて。通して頂戴。」
 人垣が割れ、女性が去っていった。通りは何事も無かったように賑わっていた。

 [ No.39 ]


【ディアバラムバザール:路地裏の攻防〜置き土産】

Handle : “黒爪”(Hei-Zhao)   Date : 2003/02/15(Sat) 01:14
Style : カゲ◎ チャクラ● バサラ   Aj/Jender : 24/♂
Post : フリーランス/元N◎VA三合会凶手


「じゃあ、こんなモンにもう用はねぇな」

 そういうと“黒爪”は懐にいれておいた紙包みをあっさり投げ捨てた。
 そして再び構える。その指の先にあった“爪”はしまわれていた。

「俺もアンタぐらいの奴と闘いたくってたまらなかったのさ。あんまり退屈だったからタマってんだ。だからヨ……無手でも殺さねぇ保障はねぇゼ?」

 言うが早いか、“黒爪”は素早くレナードの懐に飛び込んだ。最前よりもその動きはなお速い。

 レナードの使うのが軍隊格闘術だという事は先程までの攻防でわかっていた。であらば、もっとも注意するべきは最大の防御にして攻撃、関節技(サブミッション)だ。

(掴ませはしねぇ……!)

 “黒爪”は攻撃は勢いを増し、レナードは徐々に圧されている、……という格好だった。
 そしてついに“黒爪”の突きが獅子の頬に当たった、かと思った瞬間。

「……捕まえましたぞ」

 不敵に獅子の口が笑う。それは被り物の笑みではなく、まさしく野獣の笑みであった。

(しまっ……!)

 レナードの巨体が一瞬で宙を舞い、“黒爪”の身体も吸い込まれる。このまま地面に引き倒されたら終わりだった。

「!!」

 だが、その一瞬に“黒爪”は身をひねり、自ら飛んだ。そして足をかわし、腕を強引に振り解く。

 そして着地すると再び構える。レナードもすでに立ち上がっている。静寂が舞い降り、互いの息だけが路地裏に響く。二人の間にはそれ以外のものは何も存在しなかった。


「やっぱ、アンタいいゼ……今回だけで終わりにするのは勿体ねぇな」

 沈黙を破ると“黒爪”は後方へ飛び退り、近くの塀を一気に駆け上がった。

「レナード・ルービンスタインっつったな! 今日はここまでだ、また次を楽しみにしてるゼ!」

 そう声を残すと“黒爪”は屋根の向こうへと姿を消した。
 あとには“黒爪”の投げ捨てた紙包みと転がる死体たち、つまりは後始末という厄介ごとだけがレナードの前に残されていたのだった。

 [ No.40 ]


『ババを引かされた者達』:ディアバラムバザール近くの人気の無い路地裏

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/02/16(Sun) 13:01
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


「名前を聞き忘れましたな」
「そうじゃの」
「死体と包み物を残していかれましたなぁ」
「そうじゃのぉ」
「…………」
「…………」
厄介な後始末だけを押し付けられ、レナードと腹心のローテンイェーガーは、軽く現実逃避していた。

「……とりあえず死体の始末をすることにしましょうぞ。場合によってはこの者達の“上”と渡りをつけねばならぬわけですしな」
そう言いつつレナードは死体の傍に屈みこんで検分をし始める。
「勘違いされて怨みを買っては、あまりに馬鹿馬鹿しいからの。────ふむ、どうもインド系の者達らしい。その上ドラヴィダ人の血が濃いらしいの」
腹心の爺様の言うとおり、インドの南方人種ドラヴィダ人の特徴である濃色の皮膚とやや扁平の鼻を色濃く有していた。
「私にはインド系っぽいということしか分かりませんでしたぞ。まあ、彼等の正体も気になるのですが……この紙包みが先程から妙に気になりましてなぁ」
おもむろに紙包みを開いてみると、妙な仮面が出てきた。
ずっと眺めていると次第に薄気味悪くなってくるような仮面だった。
「むぅ、角の生えた仮面ですか。この角は牡鹿ですかな?」
「前にどこかの資料で見た憶えがあるのだが…………。おお、思い出した。インダス文明の印章に刻まれた図像に似ておるわ」
「インダス文明とか言われましてもなぁ……」
興味の惹かれる話題ではあったが、他にやるべきことがある現状では話を打ち切らざる得なかった。

「“おやっさん”に連絡して、この辺の“始末屋”を紹介して貰うとしますかな」
懐からポケットロンを取り出しSC−8を装着して電話をかける。
「────では、その始末屋ということで。現在GPSが示している場所に、できるだけ早めに頼みますぞ」
「分かった。しかし、お前さんも早速トラブルに巻き込まれるとは災難だな。本当に気をつけた方が良いぞ」
「さっきは一笑に付されると思って、はっきり言わなかったんだが、最近の騒動の裏にはアヤカシが絡んでるという噂があるんでな」
おやっさんのこの一言を聞いた二人は、思わず心の中で互いの顔を見合わせていた。

 [ No.41 ]


『獣主の仮面』:ディアバラムバザール近くの人気の無い路地裏

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/02/16(Sun) 13:05
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


「……なるほど参考になりましたぞ。より一層気をつけると致しましょう。ところで、ディアバラムバザール一帯に強い情報屋も一緒に紹介して戴けますかな」
「別に構わんぞ」

おやっさんから情報屋のことを聞き出した後ポケットロンを切り、場所を移動しながら先程より入念に仮面を調べる。
「骨董品の面を扱う店を探し出せば、何か分かるかもしれませぬな。上手くいけば今の持ち主も分かるかもしれませぬし」
「そうじゃのぉ。このバザールに扱った店が無くとも、専門家に見せれば何か分かろう」
相変わらず奇妙な圧迫感を感じるものの、それ以外に不信な点は見当たらなかった。
「先程は聞きそびれましたが、この角には何か謂れがあるので?」
「大昔インダス流域にメルッハという王国があっての。交易を中心とした非常に平和な文明で、神官王を頂点とした社会制度であったらしい。で、そこで信仰されていたのが、頭から牡鹿の角を生やした男性で、俗に獣主、または角の王と呼ばれておる」
「ほぉ」
「さっきのドラヴィダ人達の先祖が元々は、そこに住んでいたらしいからの。まっ、これらのことは所詮推測に過ぎぬわけじゃがな。いかんせん肝心のインダス文字が解読できぬのだからどうしようもないわ」
「暇があったら一度関連書物を読んでみたいですなぁ。もちろん今はそんな余裕などないわけですが」
仮面を興味深そうに眺めながら聞いていたレナードは、とりあえず情報屋に連絡することにした。

さきほど紹介して貰った情報屋へK−TAIで連絡を取ってみる。
「────この界隈で骨董としての価値をもつ面を扱っている店を捜して欲しいのですがな。──ええ、分かったら折り返し連絡して下され。料金はおやっさん経由で支払いますので、宜しく頼みますぞ」
電話を切って暫し歩いたところで止まると、レナードは何やら作業をし始めた。
「連絡がくるまでの間、ブービートラップでも仕掛けて暇潰しでもしますかな。どうも嫌な予感がしますし」
「ここなら逃げる時も都合が良いしの」
爺様の言葉に軽く頷くと、黙々と罠の設置をするのだった。

 [ No.42 ]


【リトルカルカッタ:鬼の棲家】

Handle : “ブラッディ・S”サティ・サティ   Date : 2003/02/16(Sun) 20:17
Style : カタナ カタナ カタナ◎●   Aj/Jender : 32/♀
Post : 自称釣り人


このリトルカルカッタには正式な境界線というものは存在しない。正式な地名でもない。絶え間ない住人の変動に合わせて常に縮小・拡大しているからだ。あえてどこにあるかと言うなら、独特のスパイスや香やその他もろもろ……の匂いが漂う場所が、リトルカルカッタなのである。

サティは雑踏を避けて細い路地に入り込み、立ち並ぶバラックの中の一軒の前で足を止めた。
「早かったな……入れ」
奥からの声を受け、今にも倒壊しそうなその家に入る。

戸口にいた男に導かれ、さらに奥に進む。天気が悪いとはいえまだ日中なのに、内部は外光を一切締め出しており、わずかにロウソクの明かりが室内を照らすだけだ。
血の臭いがするのは、多分気のせいではない。
そして奥には数人の筋骨逞しい男達と、全身に隙間無く包帯を巻かれた一人の人物が床に坐っていた。サティも腰を下ろす。
「詳細な場所は?」
「ディ……ディアバラム……バザール」
包帯の人物がかすれた声で答える。その後を傍らの男が継ぐ。
「未だ正確にはわからぬが、さほど動いてはいないようだ」
「その程度か。では千里眼とやらも大してアテにはできんな」
サティの毒舌に、明かに周囲の男達は気分を害したようだ。しかし彼女は気にもせず、釣り道具の入ったバッグから何か糸のような物を取り出して手に巻き始める。
「何だ、それは」
「ちょっとした釣り道具さ。釣りはいいぞ」
白眼視する男達を気にもせず、彼女はしばし糸を何かいじっていたが、じきに纏めてポケットに突っ込んだ。
「急げ……王の……“王の仮面”が目覚める・……前に」
包帯の人物はうめくように言う。包帯の隙間からわずかに覗く目は白く濁ってはいるが、異様なまでの力強さを感じさせる。
「まずは、アンタらの仲間が行った場所だな」
道具入れを床に置き、サティは立ち上がった。
「我らはもう少し場所を探る。位置を探り当てたら向かう」
「アンタらの問題だろ、好きにしな。私は適当にやるよ」
サティは男達の殺気を含んだ視線を背に受けつつ、笑いながら部屋を出て行く。

 [ No.43 ]


【:リトルカルカッタ 心霊治療院 Dr.EVE待合室】

Handle : ”ユーレイ女”比礼瑞穂   Date : 2003/02/19(Wed) 00:00
Style : マヤカシ◎ マヤカシ● マヤカシ   Aj/Jender : 23/♀
Post : フリーター


本日5回目の洗濯を終え、治療院の待合室に戻ってきたミズホは、戸口のところに思いがけない人物を見つけた。
 鋭い眼光に狷介さを漂わせる雰囲気・・・。
 (あれって、救世さん?)
 「こんにちは、ええと、診療ですか?」
 素人目にもわかる擦り傷と打撲をみとめて思わずそう問いかける。
 短くその問いかけを否定する救世の、その仕立ての良い背広姿は、いつもよりひどく揉みくちゃになっている気がする。桃花源で見かけるときとは少し違う。
 ミズホは、よれよれのそんな姿が救世の炯炯としたまなざしに妙に似合っていると思った。
 一方彼女自身の姿はといえば、洗いざらしたような白いつなぎを着て腕をまくりあげ、三角巾で頭を包んだうえに何故か乳飲み子を背負っており、よれよれ感だけはいい勝負というありさまである。
 
 ミズホは順番待ちの患者達の間を縫うようにして救世にちかづいた。
 治療院はさまざまな段階の怪我人・病人で混みあっていた。床にも毛布などを広げ、患者さんが横たわったり座ったりしている。
 手足を拘束されて横たえられている男がいきなり身をよじりはじめたので迂回しようとしていたミズホはバランスを崩してその患者に倒れ掛かるようにして床に手をついた。
 「うわ、すみません、あ。」
 ポケットから防水の手袋を取り出してはめながらふりむいて人を呼ぶ。「このお兄さん吐いてのどつまってます!ラーラさん吸引たのみますー」
  その直後に赤ん坊が泣きだし嘔吐した男が暴れ急患が運び込まれ他の患者がののしったりはやしたてたりうめいたりなど短い間にいろいろなことが起こったが、 その場の有志の手も借りて全ては迅速に片づけられていった。治療院の関係者らしい人物も入れ替わり立ちかわり待合室に出入りし、急患が運び込まれた時は Dr.Eveも現われ、治療をはじめながら患者を運んでいった。
 二秒としないうちに、片づけを手伝い終え、治療の済んだ母親の元に赤ん坊を返したミズホが濡れタオルや冷湿布などをもって救世のところへやってきた。
 「でももうご自分でちゃんと処置はされてます・・・か?
  ・・・ああ、Dr.Eveに御用だったのですね。  
  ドクターはしばらくは診察中ですね・・・。ご覧の通りの様子なので一段落着くまでお待ちいただくことになるかもしれませんけどどうされますかー?お時間の方よろしければ治療もしてゆかれはいかがでしょうか。」
 「というか息吹先生にお会いになるなら絶対治療されちゃいますけど」

 [ No.44 ]


『デリバリーサービス』:ディアバラムバザール近くの人気の無い路地裏

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/02/19(Wed) 06:11
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


レナードは、後々の処理のことも考えながら細心の注意を払ってトラップを仕掛けていく。
「ところで……慌てふためいた方々を制圧してくれるプロが欲しいところですなぁ」
「お主がやるのではないのか? 言っておくが基本的に儂は手伝わんからな」
腹心のローテンイェーガーが揶揄するかのように釘を刺した。
「本当に必要な時以外は、爺様に泣きすがるつもりは毛頭ないので安心して下され。むろん話し相手だけは務めて貰いますぞ。兎は寂しいと死んでしまうと言われてますし」
本心とは裏腹の言葉を返して応答する。
「……それだけ舌が滑らかなら当分大丈夫だろうて。まあ、たしかに脱出を支援してくれる者がいた方が確実ではあるな。で、どこにオーダーを出す?」
「“Cafe Noir”などはどうですかな?」
喋ってる最中も雑多なものが転がってる路地裏でめぼしい個所を見つけては、罠を仕掛けていく。
「何度か世話になっておるし技倆にも文句はないが……あやつらはたしかN◎VAが本拠ではなかったか?」
「最近はLU$Tにもちらほら進出してきてるようでしてな。今は市場リサーチをしてるといったところかと」

「はい、こちらCafe Noir。デリバリー又はケータリングの御注文で宜しいでしょうか?」
ポケットロンで電話すると、受付担当のオペレーターの可愛らしい声が聞こえてきた。
「デリバリーで“プラチナム”を一つ」
「……かしこまりました。会員番号とお名前を」
「会員番号△△△△−○○○○。レナード・ルービンスタイン」
「パスワードをお願いします」
「XXXXXXXX」
「指紋・声紋・網膜・サインの照合を行いますので、データを転送して下さい」
まずポケットロンに登録されている指紋・声紋を転送し、網膜は備え付けの高性能デジタルカメラで照合、最後に入力用ペンでサインをして転送した。
「──お疲れ様でした。確認完了です」
オペレーター嬢が心が和む声で確認終了を告げる。
「御依頼はどのようなものでしょうか?」
「今GPSが指し示してる地点で、猟師にまさに狩られんとしてる孤立無援の哀れな白ライオンの支援を」
レナードは、他人事のように心底楽しそうに依頼内容を伝えていた。

 [ No.45 ]


【リトルカルカッタ 心霊治療院 Dr.EVE待合室】

Handle : “狂狼”救世 現時朗   Date : 2003/02/19(Wed) 19:51
Style : カリスマ◎ イヌ● クロマク   Aj/Jender : 41/♂
Post : 弁護士(元検察官)


 特有の臭いがした・・・強烈な消毒臭と様々な人の体臭のカクテルの香り。如何にも病院といった臭いに救世は眉を顰める。救世は病院があまり好きではない。
「忙しそうだなドクターは。」
 見知った人間には自然と言葉がぞんざいになる。
「・・・俺のコレ(負傷)については構わんでくれると有難い,大したことがないからな。それにだ・・・そちらには俺の相手をしている時間はあるのか?」
 湿布と濡れタオルを救世は断った。他人に治療されるのはあまり好きではない。自分でどうこうできるレベルの傷や疾病なら,尚更だ。
「しかし・・・」
 小柄なミズホの三角巾と白つなぎ姿を見ながら,救世は言った。救世は今までどこか儚げな印象をミズホに抱いていたのだが,目の前の働く彼女の姿はそれを十分に否定していた。
「君はここは長いのか?」
 図らずも尋問口調になる自分に苦笑しつつ救世は問うた。

 [ No.46 ]


【ディアバラムバザール:“The Rakk”】

Handle : “Innosent Blakk”レフィアラ・イノセンス   Date : 2003/02/22(Sat) 03:35
Style : カブキ◎ ミストレス カブトワリ●   Aj/Jender : 20/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 路地裏。災厄と共に遺棄された神が祭られている小さな祠を通り過ぎると、レフィアラはかつては一軒のビルであった建物の前に差し掛かった。地上 部分が崩落しており原型を全くとどめていない。近隣の住人と思しき連中が数人ほど瓦礫の山に取り付き、めぼしいものを見つけては立ち去っていく。

「これはヒドイわね。ラックのやつ、死んじゃったかな?」

 レフィアラは知り合いの安否を人事のように推測する。「気色の悪いやつだったがどちらかというと善人だった」だの、「まな板もろくに使えないのにハンドルは拷問台で見掛け倒しも甚だしい」だのとすっかり過去の人のように語り、おもむろに合掌する。

「勝手に殺さないでよぅ。」
「きゃーっ。」

 背後から間延びした声がかかり、ビックリしたレフィアラはそのままの姿勢で10センチほど飛び上がった。ついでにその姿勢のまま後ろを振り向く。そこには大昔のテレビゲームから出てきたような装束の黒魔術師が立っていた。

「元気そうじゃない。安心したわ♪」
「ちっとも元気なんかじゃないよぅ。見てよぅこのありさま。僕の商売道具がみんな埋まっちゃったんだからぁ。」

 ラックが瓦礫の山に取りすがって泣きそうにしている。レフィアラは気の毒さ半分面白さ半分でその様子を眺めた。

「商売道具って。そもそも占い師がプログラムを組んで結果を引き出すっていうのはどうかと思うわ。」
「だって仕方ないじゃないかぁ。仕事のたびにいちいち山羊や鶏を屠ってたんじゃお金がいくらあっても足りないよぅ。」
「確かにそうね。でもこうなった以上、当分は正式な作法に則ってやってみたら?」

 レフィアラの言葉を理解したラックがガタガタ震えている。レフィアラは「黙って立っていれば男も虜にするくらいの美形なのに話をするとどうしてこんなに印象が違うのかしら?」と今度は本当に気の毒に思った。

「そんなの怖くて出来ないよぅ。ボクが血を見るのを一番嫌ってることはレフィアラだって知ってるくせにぃ。」
「プログラムではドバドバ流してるくせに。それで、依頼ってなんなの?」
「サーバーに載せたプログラムをサルベージして欲しいんだよぅ。」
「なるほどね。あ、ちょっとゴメンね。コールが入ったみたい。」

 レフィアラがIANUSから別件の依頼の情報を引き出し、その後私用の回線でラックの依頼内容を伝えた。ラックはというとお預けをくった犬のような情けない表情でレフィアラの返答を待っている。やがてレフィアラはラックに向き直るともう一度手を合わせた。

「ゴメンナサイ。急ぎの用事が入ったから、アタシもう行くわね。」
「ええぇ?じゃあボクのお願いはどうなるのぅ?」
「アナタの神様にお祈りしてみたら?って、嘘よ。ウ・ソ。泣かないでよ。みっともないんだから、もう。」

 レフィアラの腕に取りすがってしくしく泣いているラックにハンカチを渡す。身長こそつりあっていないが幼い弟をなだめる姉のような状態だ。

「それじゃあ、もう行くから。いい子にして待ってるのよ。」

 ラックの頭をぽんぽんと撫でたレフィアラは路地を戻っていった。

 [ No.47 ]


『招かざる客』:バザール近くの人気の無い路地裏

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/02/22(Sat) 10:15
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


オーダーを終えたレナードは、SC−8を装着したポケットロンを切って懐へしまうと作業を再開する。
「さて、仕上げに掛かりますかな」
「今回は相手を戦闘不能にする配置か。なるほどのぉ……」
「やり過ぎてしまっては、後で交渉することになった時に困るではありませぬか。先程のオーダーでも可能な限り、手足を狙うように言っておきましたしな。それに元々ブービートラップは“足手まとい”を作り、士気を下げるのが主目的ですし」
「散々やってやられてきた者が言うと違うわ」
腹心の爺様は、昔のこと思い出して苦笑いした。

仕上げを済ませた頃、何らかの気配を感じた白獅子は首をコキコキ鳴らし始める。
「どうやら招かざる客が訪問しに来たようですな」
そう呟きながら、トレンチコートより“ナックルバスター”散弾銃を取り出した。
「お主はその客をどう歓迎するつもりかのぉ?」
「そうですなぁ……とりあえずはこれでも馳走すると致しましょうか」
レナードが手に持ったスイッチを押すと、遠くでポンッと何かが弾ける音がし、辺りに煙幕が漂い始めるのだった。

 [ No.48 ]


【ディアバラムバザールの路地裏:現場検証】

Handle : “ブラッディ・S”サティ・サティ   Date : 2003/02/22(Sat) 19:44
Style : カタナ カタナ カタナ◎●   Aj/Jender : 32/♀
Post : なし


「間違いねえよ、ここにゴロゴロ転がってたんだよ」
襟首を掴まれてなかば宙吊り状態の少年が示した現場は、既に綺麗さっぱり片付けられた後だった。サティはその答えにひとまず納得したのだが、念のため少し締め上げる。
「く、苦しいよ嘘じゃねえよ」
彼がなぜこんな目に遭わされているかといえば、ナラカの下っ端が被っていた仮面を持ってうろついていたからだ。
自業自得だが、これ以上ひどい目に遭わされるような理由でもない。
「行きな」
解放された少年は仮面を置きざりにして脱兎のごとく逃げ出した。

サティは仮面を拾い上げ、しばし考えた。
(掃除屋を手配したということは、ある程度以上は場慣れている上に時間の余裕があったということだ。それでも逃げ出していないのは、迎撃するつもりか、それとも何かを待っているのか?)
まだ近場に潜伏しているのなら、遠からずナラカの連中と接触するだろう。もし追っている間に逃げてしまったのなら、それを追うのは自分の役目ではない――何しろ正式の依頼ではないのだ。
と、そこまで考えたところで、小さな破裂音を彼女の耳が捉えた。
遠くではない。
サティは仮面を被ると、“韋駄天”の性能に任せて家の屋根に飛び乗る。
向こうの路地裏から、煙が上がっているのが見える。
「仕方ないな、少しは働いておくか?」

 [ No.49 ]


【リトルカルカッタ 心霊治療院 Dr.EVE待合室】

Handle : ”ユーレイ女”比礼瑞穂   Date : 2003/02/22(Sat) 19:54
Style : マヤカシ◎ マヤカシ● マヤカシ   Aj/Jender : 23/♀
Post : フリーター


【リトルカルカッタ 心霊治療院 Dr.EVE待合室】
 「あ、はい」
 ミズホは、差し出してた湿布類を持ち直すと、救世の言葉・・・ドクターの多忙、治療の辞退、時間の有無、いずれに答えたともいえる返事をした。
 (・・・曖昧なお返事はいけなかったかな??)
 救世が眉をしかめたような表情で自分を見据えているので、ミズホはそんなことを思いつつ言葉の先を待ち・・・救世の質問に一瞬遠い目をして、ここにいた時間を数える。
 「半年とちょっと、です。一年経っていませんねー、ここのお手伝いをはじめてから」
 それより前、ここの患者だったりなんだったりした期間も一時期あったが、それは省く。
 「ま、手伝うって雑用しか出来ませんけど」
 そう言って、いったい彼女自身それで良いというのか悪いというのか、にこっと笑った。
 単に、救世の苦い笑いに反応しただけかもしれなかった。
 
 そうやって、救世の質問に答えるような形で二言三言言葉を交わすとミズホは言った。
 「それじゃ、いきます。患者さんが一段落したらお呼びしますね。そのようにしてもよろしいですか?」
 「そうそう・・・いろんな患者さんがいらっしゃいますけど、できれば御気になさらないでいただければ幸いです。」
 「それではおだいじに」
  救世の答えを待つと、ミズホは一礼し、また床の上の人々を迂回しながら部屋の奥へともどっていった。そうする間にも途中で呼び止められ、姿勢の変更を手 伝ったり水を頼まれたりしている。先ほどの急患に付き添ってきたらしいやつれた顔の女性と話しはじめると、ちらりと救世の方を見遣った。女性も救世の方を うかがっているようだった。騒がしいなか、声を落として短いやり取りを終えると、ミズホは女性に笑いかけ「・・・そういうことだから大丈夫ですよ」といっ て立ち上がった。
 待合室に出してあった大きなお茶の容器を抱えるとミズホはようやく待合室を出て行った。

 [ No.50 ]


【リトルカルカッタ 心霊治療院 Dr.EVE待合室】

Handle : “狂狼”救世 現時朗   Date : 2003/02/22(Sat) 21:22
Style : カリスマ◎ イヌ● クロマク   Aj/Jender : 41/♂
Post : 弁護士(元検察官)


 ミズホが大きなお茶の容器を抱え待合室を出て行くのを見送りながら救世はミズホの言葉を頭の中で反芻した(年を取り頭の回転が鈍くなったことに心中で舌打ちしながらだが)。
[「半 年とちょっと、です。一年経っていませんねー、ここのお手伝いをはじめてから」・・・それ以前は?何故ここでこんな仕事をしている?馴染んでいるようだ が,あまり続かないから人の回転が速いとか・・・?なんだ?なにか変だ?・・・ま,気にしても仕方がない。取り越し苦労としておこうか・・・「いろんな患 者さんがいらっしゃいますけど、できれば御気になさらないでいただければ幸いです。」
・・・騒ぎを起こすなというところか・・・あの耳打ちした女がもう一つの火種というところか・・・]
  そこまで考えて,ふと待合室を見渡す。粗末な待合椅子に押し合うように座っている(痩せているという共通した特徴を持つ)様々な顔たち,無理をすれば体を 押し込めるスペースもあるが,立っている者も少なくない。ただ立って待つにしても,そのまま突っ立っているのではまわり迷惑なので,救世は壁の一角に身を 寄せた(そこが一番人が少なかったこともある)。
 改めて室内を見ると,薄汚れた壁が目だって見えた。小さな焼け焦げ痕や明らかな銃痕,どこの国 言葉か分からないのたうつ様な記号か文字で書かれた落書き・・・貧すれば鈍する・・・そんな言葉が頭をよぎる。劣悪な住環境は犯罪を生み,犯罪は劣悪な住 環境を生み出す。・・・焼け石に水・・・そんな言葉が浮かびかけて慌てて頭で否定する。その時寄りかかっていた壁が反対側に外れかけ慌てて,寄りかかるの を止める。まったく・・・酷い有様だと,壁を左拳で小突くと,期せずして隣室(診察室ではない病室だろうか?)が見えた。
 こちらには気付かない 様子で(他の壁も隙間やらわれめやらが多いので気にもしていないのだろう),中の病人・怪我人は呻き声をあげ,ミズホ達(ラーラと呼ばれた女性と,メスチ ソっぽい10代前半の少年やらサンボっぽい青年の計4名が見えた)が忙しそうに動き回っている。ほどなく全身を包帯で覆われた左手と右脚のない男が必死に なって右手をミズホの臀部付近に伸ばそうとしてそのまま力尽きると,さらに病室内は慌しくなっていった。
(1時間だけ待って帰ろう・・・邪魔しても悪い。なにより死んだ人間より生きている人間の方が大切だしな。)
 救世は覗き見を止め,今度は聴覚に神経を集中した。

 [ No.51 ]


『掛けあい』:バザール近くの人気の無い路地裏

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/02/25(Tue) 00:56
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


「どなたか存じませぬが、何か御用で?」
煙の中を分け入って行くと、様々な雑多なものが散らばってる路地裏のある地点にて、何者かから声をかけられる。
サティは瞬時にマイクごしの声だと悟った。
路地の壁に音が反響して、どこに超小型スピーカーを仕掛けてあるのかまでは、すぐには分からない。
「“仮面”を捜している」
謎の男と掛けあいをしながらサイバーウェアを駆使して慎重に捜す。
「仮面ですか? 仮面と言っても色々ありますからなぁ」
無感情な問い掛けへ、声の主は場に不似合いな朗らかな声で応えを返してくる。
「用があるのは、角がついた古風な仮面だ」
「ほぉ……実は私めの手許にも先程拾ったというか──どちらかというと“拾わされた”──仮面がありまして。奇遇にも角がついてますぞ」
こんな時によくベラベラと舌が回るもんだと、サティは苦笑混じりで感心した。
ようやく仕掛け場所のおおよその見当はついたが、下手に手出しするのは憚られた。
(ちっ、どうも一筋縄ではいかないやつらしい)

「それを渡して欲しいのだが」
「渡すも何も、たまたま私が持ってるものが貴殿の捜しているものと似てるだけかと。それに万が一同じものと仮定しましても、そちらが落とし主または正当な所有者か分かりませんからなぁ。そんな状況で渡すのは無責任の誹りを受けますし」
レナードは、この尋常でない氣を発する相手とのやり取りを楽しんでいた。
短時間のうちにスピーカーの仕掛け場所を捜し出し、しかもトラップの存在を感じ取ったことが、相手が百戦錬磨の戦士であることを証明していた。
(いやはや……黒衣の青年に続いて、また手練の相手とは運が良いのか悪いのか分かりませぬな)
他にもかなりの人数が近づいているようだが、油断しなければ充分対処できる。
用心すべきは、この人物だけだった。
「……素直に引き渡して貰えるとありがたいんだがな。あんたも無理矢理奪い取られるのは嫌だろ?」
「無理矢理はたしかに嫌ですが、脅し取られるのも困りものでしてなぁ。こちらの面子に関わるというもので」
「あんたにとっては、命より面子が大事なのかい?」
仄かに凍土のような殺気を匂わせる声音へ、間髪いれず応答する。
「時と場所によっては、と言ったところかと」

 [ No.52 ]


『撤退準備』:バザール近くの人気の無い路地裏

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/02/25(Tue) 01:01
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


サティとの掛けあいをしてる最中、懐にバイブレーションを感じる。
レナードは、掛けあいを中断することなく器用に電話へ応対した。
「────早かったですな。────なるほど、助かりましたぞ。────また機会があったら宜しく頼みますな。では、また」
宜しくとは云ったものの、想定した時間よりかなり遅かったこの情報屋をまた利用することは、おそらくないであろう。
用がなくなったポケットロン及びK−TAIから、メモリーカードだけ抜き取った後それぞれを粉微塵になるまで握り潰す。
必要な情報を手に入れた今、ここに留まる意味はなかった。
「────いずれにしましても、今の状況では貴殿に引き渡すわけには行きませぬな。大変残念ではありますが」
僅かに笑いを交え、サティへ現時点での事実上の最後通告を行う。
「どうしてもと云うなら、ここまで来られるしかないでしょうなぁ」
自分と応対してる相手は無理にしても、他の連中は振り落としておきたかった。
(レナード・ルービンスタイン特製“まぬけ罠ヴェトコン風味”。こころゆくまで御堪能下され)
あとはCafe Noirのデリバリーが何時になるかということだった……。

 [ No.53 ]


【ディアバラムバザール:30秒前】

Handle : “Innosent Blakk”レフィアラ・イノセンス   Date : 2003/02/25(Tue) 06:56
Style : カブキ◎ ミストレス カブトワリ●   Aj/Jender : 20/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


「それっ。」

 清掃も補修もされず凸凹が目立つ路面をものともせず、レフィアラのインラインスケートが唸りを上げて路地裏を疾走する。レフィアラは路上の物体や通行人を巧みに避けながら、店からの連絡で示されたGPSで指定場所までの距離と時間を計る。

「南東に200。真っ直ぐというわけに行かないから、30秒といったところね。」

 そう言ってしまってからレフィアラの表情が険しくなる。30秒といえばプロ同士の戦闘なら決着がついてしまいかねない。レフィアラはIANUSの回線を開いて店と連絡を取る。

(目標付近の状況に変化があったら伝えて。半径200以内で目標に対して“不審”な接近を続けるものは最優先で。“コード”は23、頼んだわよ。)

 残り100。時間が10秒あまり過ぎたところで店から報告が入る。

(目標へ急進する動点1。2つの同心円を描きながら接近する動点10。レフィは外円と内円の間にいるわよ。)
(ありがと。)
(あまり派手にしてはダメよ。)
(努力するわ。)

 交信を終え、レフィアラは銃を抜くと勢いよく駆け出した。


※不審・・・ここでは通常よりも明らかに速く移動していたりまたはその逆であったりを指す。
※コード・・・IANUSで交信する際に傍受対策として行う暗号化のパターンのこと。他に作戦行動の類型を指すこともある。

 [ No.54 ]


「ただようことのは」【リトルカルカッタ 心霊治療院 Dr.EVE待合室】

Handle : 来院者たち+1   Date : 2003/02/25(Tue) 22:08
Style : マネキン/レッガー/カゲ/チャクラ/エキストラ・・・Etc.   Aj/Jender : さまざま
Post : ガヤ


「ああ、大分楽になったよ。ありがとう・・・」
「ねぇおじちゃん。あのひとだけなんか毛色チガウってやつ?」
「ああ、あのゲロ男かい?麻薬ツアー客の外人だよ。ナカマが運び込んできたんだよ」
「うちのばぁーさんが、しんじまうぅ」
「それでさ、親がさ、泣く泣く売りに行ったらね、病気持ちだからって・・・」
「ふーん、らりらりつあーの外人かー。何かいいもの持ってるかなぁ?そのナカマはどこ?」
「それでここに治しに来てるの?まぁぁ」
「さあねぇ、どこかでツアー続行中なのかもしれないね。あのひとの荷物はさっき看護婦さんが全部もっていっちゃたよ。預かるってさ。」
「高く売れたいんだとさ、家族のために」
「まぁぁ」
「坊やもくすりはやめときな。それから他人の物を勝手にかりちゃいけないよ。こわい看護婦さんが見てるからね」
「妖術じゃねぇか!ここのスタッフにゃあ死人も混じってるって言うぜ?」
「うちのばぁさんが死んぢまったんだー」
「なおりゃいいだろ?腕は確かだ」
「でもカラシニコフのとこなら最先端の医療が、ただ同然で受けられるんだよ。黒魔術なんかに頼らなくても」
「あああぁだからぁ、この病気ぁ、生まれて一年以内のショジョとやればぁチリョウコウカ抜群だってさぁ、ヒ、ヒ、ヒ」
「黒魔術じゃん」
「その医者の噂なら聞いてるぜ、実験段階の最新薬をバンバンうってくれるんだってな」
「変態!死ね!」
「俺、死ぬのかなぁ、死にたくねぇよ・・・」
「それは患者も了解の上で報酬も出る」
「うちのばぁーさんは、死んじまった、ウッ」
「ただ同然でな」
「それでテメェはここになにしに来てんだよ、ジッサイ」
「うちのばぁーさん」「あたしゃまだ生きてるよッ」(ドガッ)
「やばっジジィ白目むいてるぞ、ラーラー」
「せぇ、・・・てェんだよ。だまれ、ッコロス・・・ぞ」
「ああーこらケンカしない!怪我人病人ばっかなんだから考えろって!・・・おとなしくしてないと痛くしちゃうわよー?!」
「看護婦さんの声が一番おっきいよー?」
「坊や、あれは看護夫さんだよ」

 [ No.55 ]


戦場までは何マイル? 【再開発地区東部、至川崎タタラ街】

Handle : “より良い未来[あした]を科学する”元部敦盛   Date : 2003/02/26(Wed) 05:10
Style : タタラ◎ カゼ ハイランダー●   Aj/Jender : 20代後半?/♂
Post : 高機動研究所 所長


 バキッ、グシャッ!!

 案の定、タイヤと路面が擦れる音の次に聞こえたのは、振ったテールがバラックの一角を削り取った音だった。WINZの損害報告と手応えからして、ジェネシスはカスリ傷程度だと判断。いちいち気にはしない。
 ミラー越し後方に視線をやると、何かの店の軒先が滅茶苦茶になったことが見て取れる。それでも人的被害は恐らく皆無だろう。まぁ予想通りだ。矢張り気にはしない。
 素より気になどする訳がない。今はそれどころではないのだから至極当然だ。

  それはスモーキーマウンテンで仕入れをした帰りの事だった。車載チューナーのチャンネルサーチに偶々引っ掛かった海賊電波。聴けば、イセサキ町で大捕物が 始まるらしい。こうしては居られないと直ぐ様フルスロットル。2秒後には黒塗りのリムジンは東に向かって疾走していた。
 白衣の袖を振り回すように右手でステアリングを目一杯切りつつ、その下で軽快なステップの如くペダルを捌く。一般車とは比較にならない程長い車体を、無理矢理捻り込む様にして狭いコーナーに飛び込んだ。
 無理を承知で無茶をする。スラムとは云え、道理も道交法も在ったものではない。

―――そして現在に至る。

 カーブの度に、荒れた路面を通過する度に、無駄に広い後部座席に積まれたプラスチックのカートンがぶつかり合い、ガチャガチャと音を立てる。更に先程の一件でカートンのひとつが中身をぶちまけ、一層喧しくなっていた。
「もう少し大きく」とWINZのバディに指示する。途切れ途切れに聞こえてくる音声の中から或る単語を聴き取った元部の口許は綻んでいた。
「そうか“特車隊”か……」
 独りごちた瞬間、チューナーが拾っていた音声が途絶えた。エリアオーバーだろうか。しかし気にはしない。祭は、既に、始まりつつあるのだから。

 トランスミッションレバーをセミオートに入れる。返す手でうなじからワイア&ワイアを引き出すと、ヘッドレスト横のジャックに挿し込んだ。
『ういんずしすてむ・えんげーじ……すたんでぃんぐ・ばぃ……こんぷりーと』
「ハハッ、ハハハハハ―――ッ」
 結線と同時に起動するシステム。マシーンとの一体感をダイレクトに感じ、口許を再び綻ばせ―――いや、声に出して笑っていた。矢張りカゼなのだろう。
 ずり下がりそうな丸眼鏡を押し上げる。瞬く様に煌く黒いレンズ。
「さぁて、間に合わせないと……いけませんねぇ?」

 [ No.56 ]


【バザールの裏手:強襲作戦】

Handle : “ブラッディ・S”サティ・サティ   Date : 2003/02/26(Wed) 18:26
Style : カタナ カタナ カタナ◎●   Aj/Jender : 32/♀
Post : なし


「時と場合によりけり、か。悪くない答えだ」
被っていた仮面を足元に投げ捨て、踏み砕いた。もう交渉は終わりだ。
「いいだろう。そこまで言うなら私も相応の覚悟はさせてもらおう」
周囲をもう一度確認する。路地には複数のトラップ(あるいはダミー)を仕掛けた痕跡がある。そして全てを察知できていない可能性はある。その危険性が極めて薄いルート――粗末なトタン屋根の上は駄目だ。上を走るにはおそらく屋根の強度が足りない。
(常識的には道がない。非常識な方法で道を作るしかないな)

サティは次の瞬間、コートを翻しバラックの壁に向かい突進した。
壁面に激突する直前、左手をようやくポケットから出すと鉈のごとく振り下ろし吹き飛ばす。体を通すにはやや狭いが、そのままの勢いで体当たりをかまして中に飛び込んだ。
暗い室内をほんの一瞬確認して、斜めに突っ切る。やはりここはセーフだ。多分相手の想定以上の速度で接近できる。
結果的には後続の味方に罠を残してやることになるだろうが、それは仕方ない。もとより、戦力として期待していない。
反対側の壁もヒジとヒザでぶち抜き、弾丸のように外に飛び出す。相手はさらに奥、右折した先か。その道を塞ぐように……牛がいる。寝ている。
さすが傍若無人で有名なリトルカルカッタの牛だが、感心している暇は無い。
「チッ」
舌打ちをするや否やそのまま真っ直ぐに走り、牛の背中を踏み台にして跳ぶ。地元の人間が見たらさぞ顰蹙ものだ。そして比較的頑丈そうな家の屋根の、ちょうど角の場所に降りた瞬間、白獅子の銃が火を吹いた。
足場をショットガンが吹き飛ばす。レナードは発砲と同時に素早く次の曲がり角に姿を消した。サティは寸前で辛うじてもう一度跳んで身をかわし、一回転し地面に片膝付いて着地する。
粉塵となった部分が周囲にパラパラと降ってくる。
「さすがに」
簡単に距離を詰めさせてくれるほど甘くはない。
だが相手は空を飛ぶわけでも、エンジン付きでもないようだ。ならば先回りを狙うことは可能。
立ち上がるや迷わず迂回路を取り、駆けた。薄笑いを浮かべて。

 [ No.57 ]


【リトルカルカッタ 心霊治療院 Dr.EVE待合室】

Handle : “狂狼”救世 現時朗   Date : 2003/02/26(Wed) 20:14
Style : カリスマ◎ イヌ● クロマク   Aj/Jender : 41/♂
Post : 弁護士(元検察官)


 嘆息とともに目を開ける。
 どこかで拾ってきたような板で補修された隙間だらけの内壁のおかげで換気だけはいいのようで,それが救いだった。
 待合室で交わされる会話はごく普通の会話ばかりで興味を引きそうな興味深いものもなかった。ここが治療院という性質もあるのだろうが,来る途中に抜けてきたリトルカルカッタの雑踏で時折,耳に飛び込んできた言葉のような荒んだものはなかった。
 腕時計で時刻を確認すると30分ほど経過したようだ。
 治療院の中は忙しいらしく,待合室から診察室に移動した者はほとんどいない。しかし,順番を待つ者達は(この地域の住人にしてはという意味だが)文句らしい文句を言わずにおとなしく待っていた。
 救世はそれを見て,今更ながらDr.EVEに感心した。

 [ No.58 ]


連絡事項【リトルカルカッタ 心霊治療院 Dr.EVE待合室】

Handle : ”ユーレイ女”比礼瑞穂   Date : 2003/03/01(Sat) 17:00
Style : マヤカシ◎ マヤカシ● マヤカシ   Aj/Jender : 23/♀
Post : フリーター


 気のせいではなく、歓声が聞こえた。バーソロミューの声。診察室の方だ。
 (手術は成功・・・かな?)
 急患が運び込まれて少なくとも半時以上はたっている。
 
 診察室の扉は開いていた。
 ミズホが診察室をのぞくと、患者は別室に運び出された後で、Dr.EVEとバーソロミューが一緒に片づけをしていた。
 治療院中に響くような大声をあげたことをDr.EVEにたしなめられ、バーソロミューはでかい身体をややちぢめるようにしている。
 「ああ、ミズホさん。ご家族の方・・・たしかお姉さん、でしたわね。手術が終わって患者さんは大丈夫ですということを伝えていただけるかしら。
  それからこちらにお連れしてください。」
 Dr.EVEの依頼する声に絡み合うようにして、心配と決意の色合いを持った心情が聞こえてきた。
 (『止めなくては』『今夜中の移動は無謀』・・・?先生の声が漏れてくるなんて珍しいなぁ)
 Dr.EVEの顔がかすかにくもっているのは、心霊治療にしては長丁場だった施術による憔悴のせいばかりでもないようだった。
 「わかりました。それで、ちょっとおしらせすることが」
 ミズホは診察室に入って扉を閉めた。
 
 「救世さんがなにか御用で、先生を訪ねていらしているんですが。あの患者さんが運び込まれる直前くらいに」
 ミズホがそう切り出すと、Dr.EVEは意外そうな顔をした。
 「あら、救世さんが、わざわざこちらへ?」
 待っているたくさんの患者の顔が浮かんでか、一瞬思案していたが、きっぱりと言う。
 「それは、今のうちにお会いした方がよさそうですわ。診療はいつもどおり夜までかかるでしょうから・・・。
  でもミスター・ラームのお姉さんへの経過のご報告を先にしなければ。
  その後で次の診療をはじめる前にこっそりお連れしてもらえる?
  お急ぎのようだったら、私の連絡先をお渡ししてください。そしたら少なくとも今日中には直接お話が出来ますわ」
 「はい、わかりました。お姉さんを呼んできたら、救世さんにこそっとおはなししてきますね」

 うなずいてきびすを返したミズホは、ついでに、廃棄処理するあれこれを抱えたバーソロミューのために扉を開けた。
 「見せたかったぜ!ぐちゃぐちゃでろでろの超スプラッタだった!すげぇよ!でもって先生が全部きれーにつないだ!俺も手伝ったけどな」
 バーソロミューはひょっとしてこっそりささやいているつもりだろうか、Dr.EVEにも全部聞こえている。
 「ですから、患者さんについて話題にする時は配慮をわすれないで、いつも言うことだけれど・・・」
 バーソロミューは皮膚の下で脈打つ生命活動のもろもろを愛するあまり医者を志したらしい。かなりの努力家なのだが、患者を彼の愛するところの「内臓の塊」としてとらえがちな傾向があり、その点についてはいつもDr.EVEにたしなめられていた。
 「Love&Arts!」
 何故か合唱で答え、Dr.EVEのため息に送られるようにして、二人は診察室を出た。

 [ No.59 ]


【ディアバラムバザール:フィールドトライアル】

Handle : “Innosent Blakk”レフィアラ・イノセンス   Date : 2003/03/01(Sat) 23:25
Style : カブキ◎ ミストレス カブトワリ●   Aj/Jender : 20/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 銃声を聞いたレフィアラが急停止する。

(ひょっとして始まっちゃった?)

 内心で呟いてペロリと舌を出した。距離は50。依頼主のレナードとはいまだ合流できていない。

(コレはちょっとヤバイわね。)
(外円から2、内円から1。レフィに接近してるわ。来るわよ。)
(ありがと。こっちはもういいわ。依頼主の状況に変化があったら連絡してちょうだい。)
(了解。がんばってね。)

  通信を終えたレフィアラに仮面の男たちが近づいて来る。徒手であるというのにレフィアラの銃を見ても怯まない。麻薬にせよ催眠にせよ何かしらの強力な暗示 にかかっているのだろう。そう解釈したレフィアラは「遠慮しない」ことに決めて正面の男に発砲した。男の仮面が割れ、膝を折って後ろに倒れる。右側の男が レフィアラに掴みかかろうとしたが、レフィアラは思いきりしゃがみこんで避けるとそのまま脚を払った。倒れかかる男の膝を砕くとそのまま前方へ飛び込んで 後ろの男の攻撃を避け、起き上がりざまに三人目を撃った。

 三人を片付けている間に四人目と五人目が近づく。レフィアラは四人目の攻撃を待たずに胸を穿ち、仁王立ちから拳を振り下ろさんとする五人目の股を潜り抜けると男の後頭部を撃ち抜いた。

「お待ちしておりましたぞ。」

 無言の襲撃者を退けたレフィアラにレナードの声がかかる。驚いたレフィアラが声がした方向に反射的に銃を向けたが、声の主の姿は見えなかった。

「少々立て込んでおりましてな。このままで失礼いたしますぞ。」
「あと6人。ドローイング中の1人とラウンドしているのが5人いるはずよ。」
「5人のミートドッグには退場していただいたところですぞ。しかし、その言われ様ではまるで私がハンティングにあっているようですな。」
「あら。ご注文をなさったときはそう仰ってらしたでしょう?」

 バラックの壁に凭れるレフィアラからはレナードの姿を見つけることは出来なかったが、レフィアラには姿の見えないレナードの笑い声が聞こえたような気がした。

「そろそろ来ますぞ。」

 レナードの声が真面目になる。レフィアラは銃をリロードして周囲の気配を覗った。


※フィールドトライアル…狩猟競技会のこと。単にトライアルということもある。
※ドローイング…獲物の臭いを嗅ぎ取って接近する猟犬の行動。狩猟用語
※ラウンド…獲物に対して円を描きながら捜索すること。狩猟用語
※ミートドッグ…獲物をハンターの前に追い出して「肉」を提供すること以外に才能がない猟犬。狩猟用語

 [ No.60 ]


【リトルカルカッタ 心霊治療院 Dr.EVE待合室】

Handle : “狂狼”救世 現時朗   Date : 2003/03/02(Sun) 19:01
Style : カリスマ◎ イヌ● クロマク   Aj/Jender : 41/♂
Post : 弁護士(元検察官)


奥の方で歓声めいた声が聞こえた・・・興奮した男の声も。
先ほど運び込まれた急患がどうにかなったのだろう。
ここはDR.EVEの治療院なのだ。別に珍しいことではないのだろう。ちらりと待合室の面々を観察するが,無関心に自分達の苦痛に必死に耐えている。
(・・・いいのだろうか?)
 救世とて鬼ではない。自分の用事が他人の苦痛を長引かせる・・・しかも大した用事ではない,死者はもはや苦痛を感じないのだから。
(帰ろう・・・それが今は“正しい”)
 救世が出入り口へ向かうことにしたのは,歓声が聞こえてからしばらくしてのことだった。それは,ちょうどミズホが待合室に姿を見せた時でもあった。無言で帰るのも気が引けた・・・何より彼女には仕事以上の負担をかけたのだから。
待合室で数人の患者(らしき男女)と話し,鬼ごっこをする子供に軽くお説教をする彼女をぼんやり待っていると,彼女の方でも救世に気付いたようで近づいてきた。
「忙しそうなので,今日は帰ろうと思うよ。大した用でもないしな。」
(死んだ男の墓の場所を聞くなんて・・・しかもなんの事件性もない・・・そんな自己満足なロマンチシズムに今を生きる人々を付き合わせるわけにはいかないからな。)
救世はそんな事を考えながらミズホに帰ることを告げた。

 [ No.61 ]


【リトルカルカッタ 心霊治療院 Dr.EVE待合室】

Handle : ”ユーレイ女”比礼瑞穂   Date : 2003/03/03(Mon) 00:26
Style : マヤカシ◎ マヤカシ● マヤカシ   Aj/Jender : 23/♀
Post : フリーター


 救世が帰ることをつげた。
 何か、懐かしみのような自嘲のような気配がして、ミズホは救世がここまでやってきたそのわけに想いをやった。
 「そうですか、ばたばたしていてすいません・・・というのも変ですね。おきづかいありがとうございます」
 ミズホは日本式にぺこりとお辞儀をした。
 「今の患者さんのご報告が終ったらお時間作りますってお伝えするようにDr.EVEにいわれていましたが、」
 と声を落としてつけくわえ、声の調子を戻して
 「救世さんがお帰りになるようだったら、こちらをお渡しするようにと。Dr.EVEのアドレスです。」
 治療院のものともうひとつ、連絡先の書かれた名刺のようなものを救世に差し出した。
 「簡単なご用件でしたら、伝言いたします?私の最初の取次ぎ方が下手だったもので、申し訳ありませんでした。」

 [ No.62 ]


【ディアバラムバザール:鉛色の空】

Handle : “ブラッディ・S”サティ・サティ   Date : 2003/03/03(Mon) 23:50
Style : カタナ カタナ カタナ◎●   Aj/Jender : 32/♀
Post : なし


「どうにも流れが悪いようだね。今回は特に戦略の段階で分が悪かったようだ」
不気味なまでの静寂に包まれた路地裏に、声が響く。聞こえるはずのバザールの喧騒さえ、何かにかき消されたように届いてこない。
「私の雇い主は、どうも人間を甘く見る習性があるらしい。プロ相手にデクノボウをいくらぶつけたところで時間稼ぎにもならないのにな。それに私も戦術が甘かった。これほど早く加勢が来るとは予想外だったよ」
レフィアラが銃口を向けたその先に、サティは立っていた。ポケットに両手を突っ込んだまま身構えもせず、銃口を気にするようでもなく、ただ色あせた曇り空を仰ぎ見ていた。
「一つのミスが流れを決める。それが二つだと挽回は難しくなる。だが」
言葉を止めて、小さくひとつ息を吐く。
「だがこのまま帰るのも勿体無い話だ。不義理にならない程度にはやらせてもらおう」
そしてようやく、視線を相手に向け、一歩踏み出す。
「さァ撃ってみな」

 [ No.63 ]


【リトルカルカッタ 心霊治療院 Dr.EVE待合室】

Handle : “狂狼”救世 現時朗   Date : 2003/03/04(Tue) 19:30
Style : カリスマ◎ イヌ● クロマク   Aj/Jender : 41/♂
Post : 弁護士(元検察官)


「いや,こちらこそ申し訳ない,忙しいところを本当に。」
紙片を受け取りながら救世は言った。
「ちょっとした思い付きで来ただけだし・・・治療院は治療を受けたい者が来るべきであって,そうでない者は来るべきではない・・・そんな初歩的なことすら忘れていた。」
 ここで自分自身が思いのほか饒舌になり始めているのに気付く。話すのが仕事である習癖・・・しかも最近仕事がない・・・やむをえないことかも知れないが,話していることと行動がこのままでは矛盾する。
「では,よろしく伝えてくれ。そして・・・忙しい中,相手をしてくれた君に感謝する。」
 そこまで言うと救世は患者たちを器用によけながら治療院を出て行った。

 [ No.64 ]


了。【リトルカルカッタ 心霊治療院 Dr.EVE待合室】

Handle : ”ユーレイ女”比礼瑞穂   Date : 2003/03/06(Thu) 01:34
Style : マヤカシ◎ マヤカシ● マヤカシ   Aj/Jender : 23/♀
Post : フリーター


「わかりました、Dr.EVEによろしく伝えておきますね。どうぞお大事に。・・・お気をつけて!」
 ミズホは戸口に向かう救世を見送った。その動きを見る限り、本人の言にたがわず不自由するほどの負傷はしていないようだ。
 Dr.EVEはだいたいいつも忙しい。治療院勤務は"Dr.クスハラ"と交替制だが、治療院にいなければ往診か資金調達に行っている。最近はそれ以外の外出はほとんどしていないらしい。
 (会おうと思ったら、やっぱここに来るしかないか・・・)
 つい、思いがさまよう。救世の訪問のわけがなんだったのかが気になった、が、この場合言葉と行動で示された気持ちくらいは汲まないといけない。
 なやまない、はたらく。ミズホは戦線に復帰した。

 [ No.65 ]


【ディアバラムバザール:“Which is the Game?”】

Handle : “Innosent Blakk”レフィアラ・イノセンス   Date : 2003/03/08(Sat) 04:00
Style : カブキ◎ ミストレス カブトワリ●   Aj/Jender : 20/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 レフィアラがサティに向けて放った銃弾は虚空を穿ったに過ぎなかった。サティは弾の軌道を読んで上体を捻り、最小限の動きでそれを避けると一気 に間合いを詰める。同時にポケットから抜かれた左手がレフィアラを逆袈裟に薙いだ。レフィアラは間一髪で飛び退いたが、全く無事というわけにはいかなかっ た。制服の腹の部分が引き裂かれ半分ほど剥ぎ取られてしまっている。黒い布地の隙間から覗く白い肌にサティの爪痕が薄い血条となって残っていた。サティは 左手にもぎ取った布キレを振り払うと無言のままレフィアラに接近してきた。

(レナードはどうしたかしら?)

 銃を続けざまに撃ちながら、レフィアラは依頼主の状況がいまだに判らないことを悔やんでいた。店からの連絡がないところを見ると大きな変化はないようだが、この戦闘をいつまで続けるべきなのか判断できないことはレフィアラを苛立たせた。

 [ No.66 ]


『レフィアラvsサティ』:バザール近くの人気の無い路地裏

Handle : “Innosent Blakk”レフィアラ・イノセンス   Date : 2003/03/08(Sat) 16:38
Style : カブキ◎ ミストレス カブトワリ●   Aj/Jender : 20/♀
Post : Cafe Noir ウェイトレス


錯綜した状況に苛立ちを感じつつも、その感情を幾多の戦場にて培ってきた鋼の意志にて捻じ伏せて、レフィアラは冷静に頭を働かせていた。
(今回の任務は依頼人の逃走の幇助。この手練のカタナと闘って足止めするだけでも充分な手助けとなるはず)
サティが間合いを詰めてくるのを計算された銃撃で妨害するも、徐々に再接近を許していた。
ソロとしての実力では向こうの方が上であることを悟らざる得なかった。

(アシュがいてくれたら、こんなことには……)
いつも壁役に徹して自分を守ってくれる相棒のアシュリール・ガーディアのことを思う。
あらためて自分達は、二人で一人ということを感じる。
己のオフェンス能力もアシュリールがいるからこそ100%力を出し切れるのだ。
こんな事態に陥ったことを誰に文句をいうべきなんだろうか、こんなところへ呼び出した依頼人か、アタシを派遣したオペレーターか、それとも一流のカタナと近接戦をやってしまってる己自身なのだろうか……。

一瞬だったがブロック大の崩れた壁の破片が、足元に転がってるのが目にはいる。
(倒すにはこれしかない!)
何の躊躇もなくサティへ向けて石を蹴り上げ、それを一瞬だけのブラインドとし渾身の一撃を放つ。
レフィアラの一撃は破片を穿ち、サティへ致命傷を与える────はずだった。
(え!?)
微妙にタイミングを外され成す術がないはずのサティが、顔めがけて飛んできた破片を叩き割るついでに銃弾を弾き返すという絶技を見せつける。
「──上手いやり方だったが私には無駄だ。残念だったな」

(やられた!?)
レフィアラは銃弾特有の一瞬身体を焼け尽くすような衝撃を覚悟したが、そんなものはいつまで経ってもやって来なかった。
「……何しにやって来た。ケツ巻くって逃げたんじゃないのか?」
サティは、レフィアラの後方へ声をかけた。
「レディに守られて、そのまま“はい、さよなら”というのはどうにも落ち着かないものでしてな」
レフィアラがサティにも注意を払いつつ後ろを振り向いてみると、左二の腕の銃痕から血を流した白獅子の頭部をもつ大男が立っていた。
「『Cafe Noir』の方ですな? 遅れて申し訳ありませぬ。それでは早速ですが、あちらのつわもの殿を共同で退席させると致しましょうか」
その大男は、つかつかとレフィアラへ近づくと、場に不具合なにこやかな笑顔を浮かべてそう放言した。


※この文章は、WYVERNさんの許可を得て屠竜が作成したものです。
事情により、このような形になりました。(^_^;)

 [ No.67 ]


『“わたくし”の選択』:バザール近くの人気の無い路地裏

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/03/08(Sat) 16:41
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


「私めがディフェンスを務めますので、貴女はオフェンスに集中して下され」
レナードはレフィアラを庇うように歩み出ると、懐より奇妙な装置を取り出した。
「……失望したぜ。わざわざ戻ってくるとはな。期待して損したよ」
二人と相対するサティは、嘲る様に吐き捨てた。
「たしかに“公”のことだったら私はとんでもない愚か者でしょうなぁ。しかし“私事”なら責任を取れる限り何をしようと自由ですぞ」
ブゥゥゥンという音を発てながら奇妙な装置は起動する。
「まあいい。付け焼刃のコンビなら怖れるに足りんな。纏めて片付けてやるよ」
「さて……それはどうでしょうなぁ?」
レナードは手に握ったその装置をまるで盾のように扱い構えた。

猛然と攻め込むサティの一撃を見えない壁が弾き返した。
(何だと!?)
「貴殿に驚いて戴いて嬉しいですぞ。イワサキの新製品でしてな」
一瞬驚いたもののサティは瞬時に気を取り直し猛攻を仕掛けて来る。
その攻撃を的確な防御で防ぎながらレナードは、まるで悪戯を成功させた子供ような笑みを見せた。
奇妙な盾(?)を扱うレナードにも梃子摺らされるが、それ以上にオフェンスに集中し始めたレフィアラの見違えるような鮮やかな銃撃にサティは苦戦を強いられ始めていた。
(さっきとは別人じゃないか。これがこいつの本来の実力か!?)

(やはり彼女は典型的な“タッグプレイヤー”のようですな。まるで動きが違う)
自分が壁役になってからのレフィアラは、まさに水を得た魚のように活き活きし始めていた。
レフィアラとサティの闘いを数十秒観戦していて感じたことは間違ってはいなかった。
レナード自身もある意味タッグプレイヤーなので分かったことではあるが。
(1+1を3にも4にもするタイプですな。こういう人間をソロの評価基準で判断しては失礼というもの。それに私の動きに付いてこれるということは相棒殿もなかなかの実力者と見ましたぞ)
明らかに優勢に成り始めた闘いをこなしながら、ふと思う。
(もしも私が壁役になることを想定して、彼女“だけ”を派遣したのだとしたら──『Cafe Noir』とは?)

 [ No.68 ]


【ディアバラムバザール:見えざる糸】

Handle : “ブラッディ・S”サティ・サティ   Date : 2003/03/09(Sun) 00:21
Style : カタナ カタナ カタナ◎●   Aj/Jender : 32/♀
Post : なし


『――もし仮に、王が自らの意思で動き始めたというのであれば』

「……モノに人が及ばぬとは認めたくはないが」
再び弾丸を後方に跳んで蹴り返す。それもレナードの盾が止める。
これ以上同じことを繰り返しても無駄――サティは間合いを取ってわずかに構えを変えた。
「ようやく“右”も使う気になって頂きましたかな?」
「一回だけな。それで駄目なら諦めよう」
その言葉と同時に3人が動いた。

『――“王の意思”を我々は、貴方も含めて、誰も覆すことはできない』

レフィアラの銃撃がレナードをかすめ、それに真っ向から跳びこんだサティは弾丸をあえて脇腹で受ける。貫通した弾が後ろに抜ける瞬間には、左手での2発の打撃をレナードが押し込まれながらも受け止めていた。
だが、それで終わりではない。
突き抜けた銃弾が後方のあばら家の壁に小さな穴を穿つ前にサティは見えざる盾目がけ、小さく跳んで渾身の前蹴りを放ち、弾かれた反動を利用して上に飛び上がった。
「“右”かっ」
「!」
抜く手も見せず右手から放たれたのは、先端に重りをつけた釣り糸だった。それはほんの一瞬だけ美しい螺旋を描き、レフィアラの銃に絡み付いた。
(もらった)
サティは空中で糸を引いた。例え一本の糸であっても、力が伝わりさえすれば、そして極めて正確に弱点を衝けば鋼を切り裂くことは可能だ。まして銃ごときを無力化するのは5歳の子供でもできることだ。
が。
糸は充分に食い込む前に、ぷつりと音を立てて切れた。
計算外だ。糸の強度は確認済みだ。問題があるはずがない。
「馬鹿なッ」

『――いかに力を尽くそうとも無駄なことだ』
依頼人の言葉が脳裏を巡る。
「これが“王の意思”とやらの顕れだというのか?」
サティは着地すると残りの糸を放り投げ、忌々しげに吐き捨てた。
「王の、意思?」
「さてね――どのみち私の役目は終わりだよ。あとは勝手にしな」
サティは自嘲気味に鼻で笑って、二人に背を向けた。

 [ No.69 ]


【ディアバラムバザール:月夜】

Handle : ”夜の支配者”霞の君   Date : 2003/03/09(Sun) 04:16
Style : アヤカシ◎● カリスマ マヤカシ   Aj/Jender : ?/♂
Post : ”夢幻城”吸血鬼一族領 領主


羽ばたきは一度きりであった。
通り合わせた通行人は微かに巻き起こった風と三日月を隠す黒い影に頭上をふり仰いだが、闇夜を巨大な蝙蝠に似た影がかすめるのを目撃したきりで、それもすぐに視界から遠ざかっていた。

「えっとぉ・・・たしかこの辺だったかな? まったく・・・メンドいものを目覚めさせてくれたもんだね。よりにもよってあの《仮面》だなんて。しばらく静かな夜は迎えられないと思いなよ、人間たち」

「しかし、人間なんかより獣たちのほうがよっぽど賢いな。皆が怯えている・・・闇に潜む未知なる恐怖と戦慄に。こんなときにぐーすか寝てらてるのは人間(おまえら)だけだよ」

妖しい月光を遮る海底の深い蒼が人の形をしていたのを何人の人間が気が着いたであろうか。

 [ No.70 ]


【ディアバラムバザール:戦いが終わって】

Handle : “Innosent Blakk”レフィアラ・イノセンス   Date : 2003/03/12(Wed) 17:39
Style : カブキ◎ ミストレス カブトワリ●   Aj/Jender : 20/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 サティの姿が消え、レフィアラがようやく銃を下ろした。ほっとしたように息を吐くと、既に拳の装置を解除していたレナードに謝意を述べた。

「ありがとう。戻ってくるとは思わなかったからビックリしたわ。」
「戻らぬほうがよろしかったですかな?」
「“ビジネス”としては、ね。でも、来てくれてホントに嬉しかった。」

  レナードが現れていなければレフィアラはあっけなくサティに倒されていたはずだった。レナードとチームを組んでからでさえサティの技量は二人に対して互角 だったのだから。勝敗の帰趨を相手が握っているという絶望感に意志を侵食され尽くす直前に現れたレナードは、レフィアラにとっては天の助けに等しいもので あった。それはレフィアラに感謝以上の感情を持たせるものであったが、当のレナードは懐から奇妙な仮面を取り出して興味があるようなないような曖昧な表情 で眺めていた。拍子抜けしたレフィアラが少し冷ややかな口調で仮面について尋ねた。

「それは?」
「見てのとおり、単なる仮面ですよ。ですが、このように執着されるところを見るとこの『仮面』には何かしらの秘密があるかもしれませぬな。」
「秘密?」
「まぁ、あるのだとしても特に興味があるわけではないのですが。むしろ、できるだけ早く手放してしまいたいというのが本音でしてな。」

 そう言って自分達の目の前に仮面を置くと、レナードは医療
キットを取り出し、自分とレフィアラの怪我の治療をしはじめた。

 [ No.71 ]


【リトルカルカッタ某所:報告】

Handle : “ブラッディ・S”サティ・サティ   Date : 2003/03/14(Fri) 23:00
Style : カタナ カタナ カタナ◎●   Aj/Jender : 32/♀
Post : なし


ラクトダッハが手を銃創にかざすと傷はたちどころに消えてゆく。
「しかし、まさか手傷を負われるとは。早々に戻られると思いましたが」
蜜色の肌と艶やかな長髪、眠たげな瞼と潤んだ瞳。そして甘くかぐわしい香りを漂わせるこの女が今回の依頼人である。つまり羅刹女(ラクシャーシー)ということだ。
「ヴェテラン相手なら仕方もないさ。“釣り”も試したかったしな。しかし、どうもまだ信じ難いな」
見た目以上に遥かな年月を重ねているこのナラカの幹部は、指先に付いた血を愛しげに眺め、そしてゆっくりと舐め取る。そして切なげに息を漏らす。
「フゥン……ああ、何か仰いましたか?」
そう言いながらもう一度だけ己の指に舌を這わせる。人の話を聞かないのは彼女の悪い癖である。あるいは本当は聞こえているのかも知れないが。
「仮面が干渉したというのなら、気配ぐらいは出ても良さそうなものだ」
サティは一応、傷跡を自分の指で確認しながら尋ねた。穴が綺麗にふさがっているのを確かめ、血の付いた上着に袖を通す。
「王の力は遠大なもの。蟻に象の姿を認識することが叶いましょうや?」
コートも確認。これも穴があいてしまったので新調する必要があるがとりあえず着ておく。
「それは結構。だが象が相手だというのなら、蟻を投入するのはやめてくれ」
どうにも、アヤカシの考え方と言うのは付いて行けないところがある。そこらの人間よりはよほど好感が持てるのだが。
「私は、人間の持つ無限の可能性というものに賭けてみたまでのこと」
ラクトダッハは口元を押さえて笑う。眠気を誘うような甘い匂いがより一層広がる。

「それではお約束した通り、お礼はいたしますが」
約束したのは、古い昔の因縁に関する情報だ。しかし今は聞く気にはならない。
「そいつはまた今度だね。今日は川崎に寄ってからN◎VAに戻る」
今回は脚にも少しばかり負荷を掛け過ぎたため、微調整が必要だった。仕事しては完全な赤字だろう。
「承知いたしました。ところでこれ以上はお聞きにならないので?」
サティは何を今さら、という顔をする。
「済んだことに興味はないさ。しかし……仮面に逃げられたにしては、アンタらが妙に嬉しそうな理由ぐらいは聞いておこうか」
目を細め、ほんの少し牙を見せてラクトダッハは微笑む。
「王が我々を選ばなかったのは誠に残念であると言えましょう。しかしながら王の再臨に立ち会えるとあらば、なんと光栄なことか」
それを聞いてサティはフン、と挑発的に鼻で笑う。
「人間には無限の可能性があるのだろう?ならば甘く見ないことだね」
それだけ言い残し部屋を出た。
去り際に「また治療が必要なら遠慮なくいつでもおいでなさい」と言われた気がするが、聞かなかったことにしておく。
外はもう、薄暗闇だった。サティは闇にまぎれるように路地の奥に消えていった。

【サティ・サティ、退場】

 [ No.72 ]


『仮面の胎動』:バザール近くの人気の無い路地裏

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/03/15(Sat) 19:28
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


サティとの闘いの後、時刻は夕暮れ時を迎えようとしていた。
レナードは己の銃痕を後回しとし、レフィアラの刀傷を治療キットを使い診察した。
「ふむ……何箇所か今のうちに応急手当をしておいた方が宜しいですな」
初めてとは思えない慣れた手付きで治療していく。
「手慣れていらっしゃるんですね?」
「この程度はこなせないと生き残れませんからな。まあ身嗜みのようなものですぞ」
あらかた応急手当を済ませ、レフィアラに包帯を巻きながら鷹揚に応える。

「では、銃痕の手当てをするので、念の為に周囲の警戒を頼めますかな?」
レフィアラへそう告げると、高周波メスで傷痕から銃弾を抉り出した。
鬱血していたのか、抉り出す時に思った以上の血が周囲に飛び散る。
その中の数滴が仮面にかかった瞬間、仮面が蠢いたように見受けられた。
──と同時に、かかった血が表面より綺麗に消えていく。
(……やはり生きているようですな。さてさて、どうしたものやら)

『コノモノノチチカラヅヨクナカナカノカンミ。フルキチジントノカイコウマデイマスコシセワニナラン』

 [ No.73 ]


【ディアバラムバザール:夜来る】

Handle : “Innosent Blakk”レフィアラ・イノセンス   Date : 2003/03/16(Sun) 21:54
Style : カブキ◎ ミストレス カブトワリ●   Aj/Jender : 20/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 西の空がかすかに赤みを残すだけとなり、闇が堰を切ったように路地を覆い尽くしていく。遠くにバザールの灯がかすかなざわめきと共に揺らいでいた。昼間よりも盛んに息づいている街はあらゆるものの気配が色濃く感じられた。

 治療を終えるとレナードは仮面を懐に戻した。闇に浸されて精気を取り戻したのか、仮面からは鈍い波動が感じられた。懐の違和感を無視してレフィアラに目をやると、彼女は二の腕を抱え込むようにして心細そうにあたりを窺っていた。

「どうかされましたかな?」
「何か嫌な感じがするわ。人とも獣とも違う、変な気配がする。」
「ふむ。では早々に此処から離れることといたしましょう。」
「そうね。此処にいる理由なんてもうないもの。」

 嫌な雰囲気を払うように勢い良く歩き出そうとしたレフィアラはこのとき足元に全く注意を払っていなかった。インラインスケートが小石を噛み、転びそうになるレフィアラをレナードが咄嗟に抱きとめる。

「ごめんなさい。」
「足元が暗いので気をつけねばなりませんぞ。」

 今度はレナードが先頭に立って歩きだした。レナードの後についたレフィアラは無意識のうちにレナードの位置をアシュリールのいた位置に揃えていた。

 [ No.74 ]


『逢魔が時に』:バザール近くの人気の無い路地裏

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/03/18(Tue) 22:44
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


薄暗い夕闇の中を二人はディアバラムバザールの中央通りに向けて歩いていた。
「おっと……後始末をし忘れていましたぞ」
レナードは懐よりスイッチらしき物を取り出し、ガチッガチッと音をさせる。
するとポンポポンと炸裂音が近くから遠くから鳴り響いた。
「……お優しいんですね」
「そんなものではありませぬ。住民を敵に回すのは得策ではないですからな」
「本当にそうなのですか?」
レフィアラはクスッと微笑みながら問い掛ける。
「もちろんですとも。貴女がどう思おうが勝手ですが、その感想は撒き散らさないで下されよ」
レナードは困ってるような面白がってるような曖昧な表情で応答した。
「もしもそのようなレッテルを貼られたら今後の商売に差し支えますからな」

闇の気配が濃くなり、魑魅魍魎が蔓延る刻が近づく最中、レナードはある三叉路の前で立ち止まる。
「この再開発地区ではそれなりに信用できる場所に限りがあるのは御承知のとおり」
「たしかにそうですね」
「さて、こちらは“裏”の賞金稼ぎが集う店──ライオットインラゴスへ向かう道、あちらはリトルカルカッタ随一の名医がいる心霊治療院Dr.EVEへ繋がってる道。……どちらに行くべきか貴女に選んで欲しいのですが宜しいですかな?」
懐にいれた仮面に触りながら心の中で呟いた。
(レフィアラ殿の怪我の具合も心配だが、それ以上にこの仮面を一旦どこかで落ち着かせたいですぞ。ますます力を増してきているようですからな)

 [ No.75 ]


【再開発地区:ライオットインラゴスへ】

Handle : “Innosent Blakk”レフィアラ・イノセンス   Date : 2003/03/20(Thu) 01:29
Style : カブキ◎ ミストレス カブトワリ●   Aj/Jender : 20/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 治療を優先するか仮面の処理を急ぐかという選択をまかされたレフィアラは東西に伸びる道をを見比べ、東――ライオットインラゴス――へ向けて歩 きだした。この後再び襲撃があるかもしれないと考えたとき、それが心霊治療院Dr.EVEの患者たちを巻き込むようなことになったらレフィアラとレナード の二人では守りきれないことは明らかだった。だとすれば治療は後回しにしても仮面の処置を進めたほうがいい。これがレフィアラの導いた答えだった。

「治療は後でよろしいのですかな?」
「ええ。その前に何か食べておきたいし。消毒液や治療用ジェルのにおいが残ってると食事が満喫できないでしょ。」
「ふむ。しかしライオットインラゴスはレストランではありませんぞ。」
「そうなの? でも、病院で白い壁を見ながら機能性ゼリーを飲むよりはマシだわ。」

 そんな会話をしているうち、通りの前方にライオットインラゴスが見えてきた。廃屋とも見えなくはないその様子にレフィアラの表情が少し引きつった。

「病院で機能性ゼリーを飲んでたほうがよかったかしら。」
「外見と中身が一致しないことはよくあることですぞ。“Cafe Noir”も然り。」
「それはそうだけど。」

 レナードがレフィアラを促す。レフィアラは覚悟を決めて潰れかけたバーの扉をくぐった。

 [ No.76 ]


『ハンター狩り』:ライオットインラゴス

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/03/26(Wed) 07:13
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


今できる範囲内でレフィアラへ治療を施し、化膿止めなどを飲ませ粗末ながらも清潔なベッドへ寝かせると、レナードは階下のバーへ降りて行った。
「モルトウィスキーを一杯貰えますかな? 景気づけ代わりに」
カウンターの“おやっさん”へ意味ありげな笑みを浮かべながら注文する。
「……こちらとしても商売だからな。お前さんには言う必要もないが」
レナードの目の前へ無造作にグラスを置き酒を注いだ。
「良かったらどういう内容だったか教えて戴けると助かるのですがな」
注がれたウィスキーをグイッと一気に呷る。
「“白獅子頭”の確保さ。それ以外のことは“忘れた”よ。……最近物忘れが激しくてな」
おやっさんとレナードは、一瞬視線を交わすと互いに軽く口許を吊り上げた。
「余計な手間を取らせて申し訳ありませぬな。さっさと終わらせるとしましょう。これ以上借りを増やしても困りますし」
「そうしてくれ。それにしても思った以上に“馬鹿”が多かったな。狩るべきものの区別もつかんとは……」
嘆かわしいといった口調で、おやっさんも自分のグラスへ酒を注いで呷った。

もう単なる気配ではなく、レナードの敏感な耳はライオットインラゴスの店の外に二十名前後の足音を拾っていた。
「ご馳走様。それでは、“ハンター狩り”と洒落て来ますぞ」
気負った様子もなく、いつもどりの穏やかな雰囲気で席を立つと入り口へ向かう。
「……まずいないだろうが、もしまだ見込みがあるやつがいたら生かしてやっておいてくれ。お前さんの眼鏡に適うやつなら期待できるしな」
レナードは、おやっさんの言葉に軽く頷くとドアを開け出て行った。

 [ No.77 ]


「ライオットインラゴス:虚ろな目が見通すもの」

Handle : “Innosent Blakk”レフィアラ・イノセンス   Date : 2003/04/02(Wed) 02:50
Style : カブキ◎ ミストレス カブトワリ●   Aj/Jender : 21/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 レナードが部屋を出てから間もなく、店からの連絡が入った。レフィアラは状況を簡単に伝え、その後二つの用件を頼むと通信を切り目を閉じた。ベッドに身体を横たえたことで一気に緊張感が解けていく。数分後にはレフィアラは夢の住人になっていた。

 仮面もまた夢の中にいた――。
 人々の営みの全てが大地と水に根ざし、太陽と風が祝福を与えていた時代。神殿の聖炎、先祖を祀る奉納劇。豊穣と富を感謝する人々の笑顔。
 それらを再び取り戻すことはできるであろうか? 大地と水から切り離され、太陽を失い風を避けるようになった人々を救うことは不遜な願いなのか?
 王が戻ったならば。
 それは夢ではなく、現実になるであろう。

 [ No.78 ]


『猛獣を狙う者達』:ライオットインラゴス

Handle : 店の常連ではない“裏”の賞金稼ぎ   Date : 2003/04/19(Sat) 00:37
Style : カブトワリ◎?   Aj/Jender : ?/?
Post : 賞金稼ぎ


つぶれかけたバーの様相を持つ店の近くの物陰に、二十前後の人影が分散して隠れていた。
彼らは、てんでばらばらの格好で様々な銃器・刀剣を所持していたが、共通して荒んだ雰囲気を感じさせた。
「おい、ここに白ライオン野郎が潜んでいるってのは、本当か?」
「ああ。俺自身の目では確認し損ねたが、ここの常連ってやつから聞いたから間違いねえよ。……ただ、妙なことを言ってたがな」
「妙なこと?」
「『無駄死にしたくなかったら手出しするのは、やめておけ』だとよ。けっ、ヘタレ野郎が!」
「まあ、良いじゃねえか。おかげで競争相手が減ったんだしな」
「そうだな。────賞金の分配の仕方は、さっき言ったとおりだ! 先走ってチームワークを乱すんじゃねえぞ!!」
集団のリーダー格が、なるべく声を潜めながら皆へ伝達した。

もう賞金は俺らのものだと皮算用をしてる連中の中に、如何にも駆け出しという雰囲気の若者がいた。
程好い緊張感を漲らせながら武器を構え、中古のシステムゴーグルで油断なく店を監視していた。
「そこの兄ちゃん、生真面目にゴーグルなんかしてっと疲れっぞ」
近くのベテラン風を吹かしてる賞金稼ぎが、馬鹿にしたように笑いながら、したり顔を忠告してくる。
若者は、御親切にどうもと応答して、元の姿勢に戻った。
そのまま暫く店を監視していると、突然ドアが開いて2メートル近くの人影が出て来た。
出て来ると同時に、その人影は賞金稼ぎ達の方向へ走り寄り、何かを空高く放り投げた。
「そいつだ! 手榴弾を投げつけて来たぞ、気をつけろ!!」
誰かが声を張り上げて、皆へ警戒を呼びかける。
だが、若者は大男が何かを宙に放り投げた瞬間に、別のものをこちらに蹴りつけたことに気付いた。
そして、その大男──白ライオン野郎が自分と同じシステムゴーグルをしていることも。

 [ No.79 ]


『合格者』:ライオットインラゴス

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/04/20(Sun) 23:47
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


白ライオンの頭部をもつ大男──レナードが蹴りつけた物は、爆音と閃光を撒き散らして、ほんの一瞬ではあるが賞金稼ぎ達を麻痺状態にした。
「アンチダズル・サウンドダンパーまでは期待していませんでしたが、耐閃光シャッター付きのツールや耳栓さえも装備されておらぬとは……」
「そんな金があれば別のものを買うような連中であろうよ。“防御”などというものは全く考えておらぬわ」
麻痺状態にあるうちに、素早く走り寄り右へ左へと12mm散弾を浴びせ、弾が尽きると特殊電撃警棒を相手の急所へ叩きこみながら、レナードは腹心の爺様へ賞金稼ぎ達の寸評を洩らす。

麻痺状態から回復しつつあった数秒後、今度は空高く放り投げた煙幕弾が地表へ落下し炸裂した。
煙幕が張られた隙にショットガンの弾倉を交換し、システムゴーグルのパッシブソナーでターゲットを探って散弾を一発撃ちこんだところで、死角からの殺気を察する。
「むっ!?」
「……ほぉ、どうやらまともなやつもおる様じゃな」
背後からの奇襲を振り向きざま弾き返す。
必殺を期した一撃であったのだろう、思いも寄らぬ展開にその賞金稼ぎは驚きの気配を発した。
「なかなかの仕掛けでしたが、それではまだやられるわけにはいきませぬな」
そう言い放って瞬時に間合いを詰め、そうはさせじという攻撃を受け止めながら、相手の懐に潜りこんで鳩尾へ肘を打ちこむ。
グハッと呻き声を漏らすと、その者はレナードへもたれるように崩れ落ちた。
「……どうやら及第点以上は、この者だけのようですな」
そう呟きながら肩に担ぎ上げると、残敵掃討のために12mm散弾を周囲へ撒き散らすのだった。

 [ No.80 ]


『眠れる美女』:ライオットインラゴス

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/04/21(Mon) 07:56
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


つぶれかけたバーの様相を持つ店のドアが開き、二足歩行の白獅子が肩に一人担ぎ上げて入って来た。
「ただいま。おやっさん、申し訳ないがこの若者の介抱をお頼み出来ますかな?」
「やぁ、お帰り。……お前さんの眼鏡に適うやつがいたとはな」
レナードは店内の端っこにある長椅子へ、自分が気絶させた若者を横たわらせる。
「まあ、C+といったところですが」
笑いながら応答すると、そのままレフィアラが休んでいる部屋へ向かう。
「他の連中はどうなったかね?」
「即モルグ行きの者はおらぬと思いますが、この悪徳溢れる地で朝まで無事にいられるかどうかまでは……」
マスターが広い肩幅を誇る男の背中へ問い掛けると、振り返りもせずにそう呟き返した。

「ふむ、お姫さんはどうやら夢の中のようじゃな」
安眠を邪魔しないように音を立てず、男が部屋に身体を滑り込ませると、腹心の爺様が声を潜めながら話しかけてきた。
「……そのようだ。何せ今日は色々ありすぎたしな」
レナードは、いつもとは全く違う口調でローテンイェーガーに応じる。
「それよりも御婦人をこのままにはしておけないだろ? 俺への手助けではないし助力して貰おうか」
「……仕方ないのぉ」
レナードがレフィアラの額へ己の手の平を軽く押し当てると、爺様が何やら呪文を唱える。
すると見る間にレフィアラの傷が塞がっていった。
「終わったぞ。おぬしの方は大丈夫かね?」
「……特に問題はない。思ったよりは傷が深かったがな。どうせ“すぐ”に治る」
男はそう言うと、部屋の片隅にあるソファーに寝そべった。
「それじゃ、俺もそろそろ寝るとするよ。おやすみ」
「おやすみ、“アリエル”」

 [ No.81 ]


『スカベンジャー』:ライオットインラゴス

Handle : 天然臓器回収業者   Date : 2003/04/23(Wed) 05:28
Style : エキストラ   Aj/Jender : ?/?
Post : 街角の掃除屋さん


姫君と獅子が眠りについた頃……。

「おい! 早くそいつをぶっ殺せ」
「で、でもよぉ、いま殺っちまうと鮮度が落ちねぇか?」
「すぐに“先生”のところへ運んでいけば大丈夫だ。さっさと息の根止めろや」
呻き声を上げていたハイエナ達は、別の屍肉食らい達の獲物と化していた。
「今日のやつらは、なかなかの質だぜ。こいつらを量産してくれたやつ様様だな」
回収業者の一人が下卑た笑いを洩らす。
「ああ、全くだな。チャチャッと荷を運んで行って、たんまりと報酬を貰おうぜ」
仲間が今回の大漁を換算しながら、如何にも嬉しそうに応答した。

導き手は、アストラル界からこの光景を眺め呟く。
「まさに、これこそが“サバンナの掟”というものよな……」

 [ No.82 ]


ライオットインラゴス店内

Handle : “Innosent Blakk”レフィアラ・イノセンス   Date : 2003/04/25(Fri) 03:27
Style : カブキ◎ ミストレス カブトワリ●   Aj/Jender : 21/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 IANUSが睡眠からの覚醒を促す信号を全身に送り込み、レフィアラは意識も身体もはっきりと目覚めさせることができた。傍らのソファで眠るレ ナードに毛布をかけると静かに部屋を後にする。洗面所で髪とメイクを整えたレフィアラは部屋へは戻らずに店内へ入った。店内ではマスターが一人黙々と自分 の仕事をこなしていた。

「おはようございます。こんな時間まで起きてらっしゃるんですか?」
「今夜は客が帰らないからね。特別だ。」

 そう言ってマスターが顎をしゃくった先には若者が長椅子に寝かされていた。「帰らない客」という意味ではレフィアラもその若者と一緒だったので返す言葉もなかった。しばらくして店の仕事を終えたマスターはレフィアラに若者を見張るよう頼むと自分の部屋へ戻っていった。

  長椅子に最も近いテーブル席に腰を下ろし、若者を見張りながらレフィアラは前日を振り返った。レナードを襲った襲撃者たちは独自の集団に属し、その集団は サティほどの人物を雇えるだけのコネクションも持っている。そしてその集団が狙っている謎の仮面。もともと彼らのものであればレナードが返さずにいるのは 理に合わない。レナード自身も早く処分してしまいたいと言っていた。ではあの薄汚れた仮面にとてつもない価値があるのだろうか? 美術品としての価値はそ れなりにあるだろうがそれだけでは彼らがあれほど執着する理由にはならないだろう。仮面一枚より効率的に金銭を得る手段はいくらでもあるし彼らがそれらを やっていないとは思えない。ということは。

 やはりあの仮面には金銭以外の別の価値が存在するのだろうか?

 [ No.83 ]


ライオットインラゴス店内2

Handle : “Innosent Blakk”レフィアラ・イノセンス   Date : 2003/05/01(Thu) 04:11
Style : カブキ◎ ミストレス カブトワリ●   Aj/Jender : 21/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 長椅子に寝かされていた青年の身じろぎする音がレフィアラの意識を現実に引き戻した。レフィアラが見ると、その青年は間もなく目を覚ました。気を失う前と周囲ががらりと変わっていることに驚いた青年が飛び起きる。

「おはよう。よく眠れた?」

 青年はレフィアラの呼びかけに答えずひたすら自分の状況を理解しようとしていたが、やがて一つの解が出たのか大きく息をついて長椅子の背にもたれかかった。そんな青年の様子を観察していたレフィアラが再び口を開いた。

「そろそろいいわよね。あなたが何者で何の目的で動いていたのか聞かせてほしいんだけど。」
「あんたは? ライオン野郎の関係者か?」
「聞いてるのはこっちなんだけど。初対面の相手に『あんた』呼ばわりされるのは癇に障るから名前は教えてあげるわ。私はレフィアラよ。あなたの名前は?」
「レフィアラ? マジか!? どうしてあんたがここにいるんだよ?」
「だから聞いているのはこっちだと言ったでしょう? 私の目の前にいるのは言葉もわからないような赤ん坊なの?」
「なんだと?」

 「赤ん坊」呼ばわりされた青年は長椅子から身を起こして今にもレフィアラに殴りかかろうとしたが、レフィアラはそれよりも早く銃口を青年の下腹部に押し当てていた。固まった青年にレフィアラがにっこり微笑む。

「赤ん坊には必要ないわよね。取っちゃおうか?」
「わ、わかった。悪かったよ。」

 青年が両手を広げながら長椅子へと戻る。レフィアラは銃をしまうと真顔に戻って最初の質問を繰り返した。

「俺はハイザキって言うんだ。白ライオン野郎を捕ろうとしたんだがこのザマだ。」
「身の程知らずね。それは誰かに依頼されたの?」
「それは言えないな。一応プロなんでね。」
「クライアントが誰かなんて聞いてないわよ。つまらない功名心なのか人を見る目がない間抜けなクライアントがいたのかが知りたいだけ。」
「くっ。」

 青年の顔が怒りで紅潮する。それを一瞥したレフィアラは半ばあきれるように微笑して椅子から立ち上がった。警戒する青年をよそにバーの出入り口に向かう。

「ところで、彼がどうしてあなたを助けたか分かる?」

 ドアの鍵を外したレフィアラが青年に背を向けたままで質問した。青年からの答えはなく、レフィアラは振り向いて言葉を継いだ。

「殺してしまうには惜しいってこと。もっと経験を積んで腕を上げて出直して来なさいってところかな。」
「マジかよ。」
「アタシには自惚れた子供にしか見えないけど、彼の目には適ったんでしょうね。」
「さ、もう聞くことはないわ。帰りなさい。この時間なら危険も少ないはずよ。」
「いいのか?」
「ええ。居たいのならそれでもいいけど、彼が起きて顔を合わせるのは辛いんじゃない?」
「まあ、そう言えばそうだな。」

 青年が立ち上がって扉をくぐる。青年はレフィアラを振り返ると軽く頭を下げた。

「レフィアラさん、今度レストランのほうに行ってもいいかな。」
「お客としてなら歓迎するわ。」
「ありがとう。腕を上げたら会いに行くよ。」

 そう言って青年はレフィアラにもう一度頭を下げると未明の闇の中を去っていった。

 [ No.84 ]


『夜明けに』:ライオットインラゴス

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/05/01(Thu) 12:10
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


朝日が窓から射し始めた頃、長椅子にて寝そべっていた獣の頭部をもつ大男がむくりと起き上がった。
「おお、やっと起きたかね、寝坊助君」
男の頭部後ろから揶揄するような声が聞こえる。
「……おはよう、嫌味な爺さん。別に起きる必要がないから寝ていただけだがね。たしかに早起きな彼女と比べると、そうなるんだろうが」
白い鬣をもつ獅子顔が首をコキコキ鳴らしながら、まるでいつものことだと受け流すように気の無い様子で応じた。

「…………ふむ、さすがは再開発地区。朝になる頃には見事に“綺麗”になっていますなぁ」
暫く窓の外を眺めていた男──レナードは、先程とは全く異なる口調で話し始める。
その視線の先には相変わらずの薄汚れた路地があった。
もし変化があるとしたら、ところどころに紅い染みのようなものが存在している事であろうか。
「それはそうと洗顔でもしてきたらどうかね? 薄汚れておるぞ」
「……儂は暇で暇で仕方なかったから、始終観察させて貰ったが、なかなかの手際であったよ。そう、あのハンター共より余程な」
レナードは爺さん声の指摘に些かうんざりしたような雰囲気を漂わせながら、それでもそれよりやることはないとでも言いたげに洗面所へ向かい、まず最初に歯磨きをし次に洗顔をし始める。
「まあ、そうなのでしょうなぁ。────この若者以外は見るべき方はいませんでしたからな」
備え付けのタオルで丁寧に滴り落ちる雫を拭い終えたレナードは、眼下に路地を走り去って行く若者の背を捉えていた。

 [ No.85 ]


『まずは“補給”から』:ライオットインラゴス

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/05/01(Thu) 16:19
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


最低限の身だしなみを整えるとレナードは階下へ降りていった。
「やぁ、おはよう。ご機嫌はいかがですかな?」
まるで何事もなかったように、レフィアラとおやっさんへ脳天気に声をかける。
レフィアラは、おはようございますと朗らかに挨拶をし返した。
「……お前さんのおかげでワシはあまり機嫌が良くないがな」
ムスッとした表情を浮かべてマスターは応答したが、声音自体にはさほど棘は感じられない。

白獅子は、若者を寝かせておいた長椅子をチラッと一瞥して、
「……甘いのですかなぁ?」
「さぁ? 私には分かりませんわ。ただ“お仕事中”だったら、あまり誉められないことだと思います」
微笑みながらレフィアラは言外の意味を含ませた。
「……なるほど。将来的に一つ楽しみが増えたわけですし、そういうことにしておきますかな」

「それで、これからどうされるのですか?」
バーのカウンター席に座って、レナードとレフィアラは今後の相談をし始める。
「行き先の目星はつけてありますのでな。とりあえずはそこに行こうかと」
「分かりました。それじゃ、早速出掛けましょう。いつ再度襲撃を受けるかもしれませんし」
席を立って今すぐにも出発しようとする、レフィアラの腕を掴む。
「まあ、落ち着きなされ。我らには真っ先にしなければならないことがありますぞ」
レナードはレフィアラを引き止めながら、茶目っ気たっぷりに喋りかける。
「まずは、お互いの胃袋に“補給”をしませんとな。『腹が減っては戦が出来ぬ』というではありませぬか」
「おいおい、更にワシを働かせるつもりか!?」
苦笑いしながら、おやっさんが口を挟んでくる。
「ここはひとつ『毒を食らわば皿まで』の心境で。それに久々に貴殿の手料理が食べたいですしな」
悪びれた様子もなく、笑いながらマスターの抗議を受け流す。
「…………まったくお前さんには敵わんな。大したものは出来んぞ」
「旧イングランドのメシより美味ければ、文句は言いませんとも」

 [ No.86 ]


ディアバラムバザールへ

Handle : “Innosent Blakk”レフィアラ・イノセンス   Date : 2003/05/09(Fri) 23:17
Style : カブキ◎ ミストレス カブトワリ●   Aj/Jender : 21/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 2時間後。レナードとレフィアラはディアバラムバザールの喧騒の中に足を踏み入れていた。獅子の顔を持った大男とエプロンドレス姿の小柄な女性 という組み合わせは「何でもアリ」のバザールにあってもそう見られないらしく、通行人が訝しそうな視線を送ってきたり露店の客引きが何度も呼び止めたりし ていた。

「ネエちゃんいい肌してるな。ウチの白いヤツと交換しないか?」

 雑踏の中から下卑た声がかかる。レフィアラは振り向いて微笑すると顔に似合わずキツイ言葉で断った。

「要らないわ。このスケベ!」

 あっけにとられて次の句が継げなくなった男に構わずレナードの右側に並ぶ。

「ふう。ここまでになるとさすがに鬱陶しいわね。」
「全くですな。しかしその感覚はここではある意味希少ですぞ。」
「どうして?」
「大抵のよそ者は鬱陶しいと感じる頃には何らかの酷い目に遭っているでしょうからな。」
「まぁ、そうでしょうね。」
「さて、見えてきましたぞ。」

 そう言ってレナードが指差したのは1軒の面屋だった。

 [ No.87 ]


『面屋にて』:ディアバラムバザール

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/05/15(Thu) 01:23
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


「お邪魔しますぞ」
白獅子頭の大男──レナードは、店に入るとまず店主へ挨拶をした。
店主は一瞬驚いた表情を示すが、レナードの身なりを見て上客と判断したか愛想よく応対する。
「いらっしゃいませ。旦那、何かお捜しものでも?」
「いやなに、ちとこの店が気になりましてな。興味深そうな仮面が幾つも飾ってありますし」
レナードはいかにも楽しそうに店内を見回した。
「この界隈一番の面屋ですからね。掘り出し物も沢山ございますよ」
店主は、そう言ってレナードを案内して行く。
メイド姿のレフィアラも物珍しそうに眺めながら、後を付いていった。

『……どうもこの店は違うようじゃのぉ。限度一杯まで“過去視”を試みたが、手がかりになりそうなものは見えんかったわ』
たっぷり1時間弱ほど店主から飾ってある仮面の由来などを聞きながら店内を歩き回っていたレナードの頭の中に、何者かがそう囁く。
レフィアラは、単に仮面鑑賞しているとしか思えないレナードに飽きれ返ったのか、途中で抜け出していた。
『むぅ……再度長時間うんちくを聞かされるという、“拷問”受けに行かねばならないわけですなぁ』
表面上は店主のうんちくへ興味深そうに頷いて応対しながら、苦笑い混じりの思念で腹心である爺様へ囁き返した。

「面白い話を聞けてなかなかに楽しかったですぞ。それでは、これとこれを戴きましょうかな」
先程掘り出し物と言われた、子供うけしそうな仮面を指差し購入する。
「お買い上げありがとうございます。またの御来店を」
店主の声を背中に受けて店を出ると、近くでひやかしをしているレフィアラに呼びかける。
「ここでの用は済みましたので、次に参りますぞ。大変申し訳ないですがな」

 [ No.88 ]


『面屋への道すがら』:ディアバラムバザール

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/05/17(Sat) 09:09
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


情報屋から仕入れた二軒目の面屋への道すがら、このディアバラムバザールでさえレナードの容貌が珍しいからか、ストリートチルドレンが周りにまとわりついてくる。
「バクシーシ! バクシーシ!」
白獅子は歩きながら子供達とたわいもない会話を交えた後、さりげない態度で先程購入した仮面と幾ばくかの金を手渡して立ち去らせた。
「お優しいんですね」
傍らを一緒に歩いていたレフィアラが、口調に僅かながら非難めいたものを滲ませながら話しかけてくる。
「……たしかに偽善かもしれませぬな」
ちらりと彼らが去った方向へ視線を走らせ、レナードは応じた。
「貴女も見られたと思うが、何人か手足が欠けた子がいましたな。あれは、おそらく親が切り落としたものでありましょう──施しをする者の同情をひくために」
なんの感情も交えてない声音で呟く。
「さきほどの喜捨がそういう行為を助長するという意見も聞きますが、それはほんの一面のことだけかもしれませぬし。たしかなことは、先程の子らが今日の稼ぎが少ないと折檻されることがなくなったことだけかと思いますぞ」
そう言った後、軽く微笑んで続けた。
「まっ、私は私の心に従っただけのことですがな。特に他意はありませぬ」

二軒目の面屋での調査は──先程以上の“拷問”に遭ったレナードの表情は、可能な限りポーカーフェイスを装ってはいたものの、かなりウンザリしたものを感じさせていた──二人の願いも空しく見事な空振りに終わっていた。
「なかなか手がかりが見つかりませんね……次はどうしますか?」
「行くしかありますまい。次が当たりであることを願って」
苦笑いを浮かべたレフィアラへそう述べると、レナードは三軒目の面屋に向かって歩き出して行った。

 [ No.89 ]


『とある暗闇での会話』:ディアバラムバザール

Handle : ”夜の支配者”霞の君   Date : 2003/06/10(Tue) 20:31
Style : アヤカシ◎● カリスマ マヤカシ   Aj/Jender : ?/♂
Post : ”夢幻城”吸血鬼一族領 領主


「久しぶりだね、ミス・イザベラ。景気はどうだい?」
『・・・・・・・・』
「そんなイヤそーな顔しないでくれよ。今日は珍しくお客さんとしてきたんだから」
『・・・・・・・・』
「そう、近々仮面舞踏会に参加する予定があってね」
『・・・・・・・・』
「お相手? 褐色の肌を持つ美人だけど・・・とんでもないじゃじゃ馬さ」
「そのじゃじゃ馬をリードできる”面”を買いにきたんだよ」
『・・・・・・・・』
「これがお似合いだって? サイズは丁度いいけど・・・目と鼻の輪郭しかないじゃないか、このお面」
『・・・・・・・・』
「わかったよ、君の見立てを信じるよ。えっと、せっかくだからそっちの鳥みたいな顔したお面もいただいていこうかな?」

 [ No.90 ]


【朝未だき、星幽界は野生の王国】:心霊治療院とディアバラムバザール のあいだのどこか

Handle : ”ユーレイ女”比礼瑞穂   Date : 2003/09/10(Wed) 00:35
Style : マヤカシ◎ マヤカシ● マヤカシ   Aj/Jender : 23/♀
Post : フリーター


 視界が反転し、地面を見失う。気づけばミズホの身体は異界の宙空に放り出されていた。
 無数の牙とか鉤爪とか、はばたきに、けもののにおいと血のにおい。喜びとも恐怖ともつかない昂揚。そんなようなものが延々と連なり渦巻き、先ほどまでミズホが身を置いていたあたりを通り過ぎていく。
 
 未明。心霊治療院での長い一日を終え、仮眠から覚めたミズホは帰宅の途についていた。
 薄暗くまだ人気のない道を歩き、馴染みの曲がり角を前にしてふと立ち止まり、・・・躊躇した。いつもの静かな道ではない。
 この角にはアストラルへとつながる「ずれ」というか隙間のようなもの(※注)があり、足がかりとしてミズホも時々利用することがあった。
 その隙間を抜けた向こうは現実界の喧騒からすれば意外なほどに静謐な空間につながっているはずなのだが・・・。
 漠然とした違和感と不安な予感。
 思わず凝らした感覚が引き寄せたのか、そのとき狭間をこえて一陣の妖風がふいた。
 じっとりと水を含んだけものくさいにおいを感じた次の瞬間、風はミズホを打ち倒した。
 アストラルの地形を変えつつ荒れ騒いでいた妖風の一部は現実界にまで突き抜け、吼え猛りつつどこかへ行ってしまった。
 自然災害にくわえて交通事故にあったようなもの、あるいは質量保存の法則。そんなわけで、ミズホはアストラルへと飛ばされたのだった。

 風と見えたのは、寄り集まったアヤカシ未満のモノたちだった。個々のかたちも定まらないものから多少の属性の明らかになったものまでの有象無象だが、群れなしどよめくその質量が尋常でない。
 百鬼夜行というより野生の王国というかんじ、浮かれ騒いだパレードのようでもあり、浮き足立った逃走のようにもみえる。
 これがどういう現象なのか、ミズホにはよくわからなかった。 
 このばか騒ぎがなにかの先触れとなるであろうことはなんとなくわかった。
 自分としては生命存続の危機的状況であることはとにかくよくわかった。
 彼らがニンゲンに興味を持っているかどうかは不明だが、なんだか嫌なにおいから推測するに、喰らった数は一人二人でもなさそうだ。
 (こんなときは、とりあえず・・・)
 (いないふり、いないふり・・・)
 ざわめく気配がいつしか遠ざかっていくまで、ミズホはひたすら「いないフリ」をしつづけた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※ (注)アストラルゲート(アストラル界への入り口。意識体にならなくても、肉体ごと転移することができる。)は最新のルールでサポートされてはいないよう です、このコンテンツ内では「桃花源」の前などに存在しているようなので、そういう存在があるものとしてこの書き込みを書いています。

 [ No.91 ]


【昼過ぎて、火取り虫とはいかに】:心霊治療院とディアバラムバザール のあいだのどこか

Handle : ”ユーレイ女”比礼瑞穂   Date : 2003/09/10(Wed) 00:49
Style : マヤカシ◎ マヤカシ● マヤカシ   Aj/Jender : 23/♀
Post : フリーター


 アストラルでアヤカシの群れに行きあい、ひたすら隠れてどれぐらいの時間を過ごしたのか。
 荒れた道をたどり、ミズホがようやく現実界に帰り着いたとき、既に日は高く上っていた。
 暑いし、まぶしい。口の中が渇いて血の生臭さで粘ついている。
 (なんか、今日も生きてるんだなー・・・ってかんじでしょうか?今日はいったい何月何日?)
 ミズホはなにやらぶつぶついいながら、コートの内側から、水の入った使い捨て容器を取り出した。いきなり帽子の上から頭に水を注ぎかける。軽く口をすすぎ、まとっていた胡乱なにおいを水と一緒にはらいおとすと、残りの水を飲み干した。
 心霊治療院へ戻らないとすれば、リトルカルカッタで身体に合う水をさがすのは一苦労だが、なにしろ消耗しているのでしかたない。事故現場が半ばアストラル界であったのが幸い、怪我のたぐいは何とかなったものの、やたらと喉が乾いていた。
 空になった使い捨て容器をまたコートの中にしまいこむと、知り合いにメールで渡りをつける。
 自分とすれ違いに現実界へとふきだした妖しの風の痕跡を可能な範囲で見届けておきたかった。今日はもう積極的にアストラルをわたる気分ではなかったし、あまり元気とはいえない状態で探し物をしながらフラフラ歩くつもりなら誰かにサポートしてもらった方がよさそうだった。

 [ No.92 ]


『三軒目の面屋』:ディアバラムバザール

Handle : “紅の狩人”レナード・ルービンスタイン   Date : 2003/10/27(Mon) 00:16
Style : ヒルコ カブト◎ クロマク●   Aj/Jender : ?/♂
Post : フリーランス


レナードは、己の予想どおり三軒目の面屋──マヌーチェフルの面屋にて、薀蓄攻めに遭っていた。
「ほぉ、これにはそのような逸話が……面白いですなぁ」
内心辟易しながらも、やせぎすのタジキスタン人の末裔へ感心してみせた。

そうこうするうちに、腹心である憑依者の爺様から、何やら面白がってるような念波がレナードの脳内に届いた。
『喜べ。どうやら持ち主らしき者を探し当てたぞ。しかも我らの知り合いであるらしい。──まことに世の中は狭いものよのぉ』
『それは重畳。で、どなたなのですかな?』
『イワサキの石目 夷吟よ。ちと素直に返すには厄介な相手じゃのぉ。お主がどちらかといえばイワサキシンパといえども、この仮面を渡すのはな……』
『たしかにそうですなぁ。とはいえ、これ以上地獄の責め苦に遭うよりはマシな気もしますぞ。まあ、どうするかは多少熟慮する必要がありますな』
苦笑混じりの念波を送り返しながら、店主の饒舌な舌を封じるため適当な面を指差し買い取ることとする。
タジキスタン人の店主──マヌーチェフルは、店員であるペルシャ系の少年を呼びつけると、高いところにかけてあった面を梯子を使い取って来させた。

「──お買い上げありがとうございます。市場にお越しの際は又の御来店を」
太陽が西に傾きつつある頃、レナードは店主の挨拶を背に受けながら右手に紙包みを持って店を出た。
「いやいや、本当にお待たせしましたな。ようやく用が済みましたぞ」
待つ間、店員の子と話したり面を眺めていたレフィアラは嫌な顔ひとつもせずに。
「いえ、色々な店を周れて勉強になりましたわ。それよりも、ちょっと遅めですけど昼食になさいませんか?」
「おお、そうですな。しっかり栄養を取らねば良い仕事が出来ませぬし。レフィアラ殿はどういう料理がお好みですかな?」
二人は歩きながら食べ物のことについて、華を咲かせたのだった。

 [ No.93 ]


『〜幕引き〜』:ディアバラムバザール

Handle : “Innosent Blakk”レフィアラ・イノセンス   Date : 2003/12/17(Wed) 04:42
Style : カブキ◎ ミストレス カブトワリ●   Aj/Jender : 21/♀
Post : Cafe Noirウェイトレス


 ディアバラムバザールを離れ、二人は比較的安全な地域のイギリス料理店に入った。レフィアラが二人分のサンドウィッチとホットティーを注文し、 レナードと向かい合って席についた。店内は狭くテーブルもイスも小さめに作られていたためレナードが座るとアンバランスさが一層際立った。まるで学芸会の セットに大人が迷い込んだように見えて、レフィアラはくすくすと笑ってしまった。

「私の顔に何かついてますかな?」

「いいえ。ごめんなさい、もう少しゆったり座れる店にすべきだったわ。」

「…ふむ、確かに。しかし我々はここに長居するわけではないですからな。」

「そうね。日があるうちには戻りたいわ。でないと体が香辛料臭くなっちゃう。」

「まったくですな。私も髪が黄色に染まってしまうのではないかと思っていたところですぞ。」

そんな会話がサンドウィッチの到着によって遮られると、二人は目の前の食べ物を胃の中に入れることを優先させることにした。



「どうやらあれの持ち主はこちらにはいないようですな。」

 カップを手にとり紅茶の湯気を顎に当てていたレナードが呟く。その表情は思案気味で口調もわずかに当惑のニュアンスがこめられていた。

「持ち主が判明したの? だったらすぐにでも渡しに行きましょう。アタシはもう依頼以上のことまでしているし、あなたもこれ以上は正直関わりたくないでしょう?」

  レフィアラの答えは明快でかつ快活だった。レナードはそんな彼女の単純さが羨ましくさえ思う。だが仮面の処置について『持ち主に返しに行く』という単純な 選択はいささか安易に過ぎるとも考えていた。仮面の性質と持ち主のプロファイル、どちらか一方が凡庸でさえあったらレナードも二秒でレフィアラと同じ考え に至ったであろうが、残念なことにどちらも注目に値する特異さであった。

「これ以上関わりたくないのはもっともですが、いささか気がかりなことがありましてな……。ふむ…、しかしいつまでもこのままというわけにも行きませぬし。とりあえずこちらを離れましょう。」

「やっと帰れるのね。」

カップを置いてレフィアラが立ち上がった。レナードも彼を支えることで予定外の苦行を強いられていたイスを解放する。勘定を済ませて店を出ると、二人は午後の太陽の日差しの中を歩き始めた。

(レフィアラ、レナード退場)

 [ No.94 ]


▲ Return to NOVA