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「おまえたち半魔には、燕の恐ろしさがわからないんだよ」
 邑守は鼻で笑った。
「おまえだって、半魔だろ?」
「やめなさいよ、ふたりとも」
 葉子が割って入り、邑守は肩をすくめてこちらに背を向けた。
「そんなに燕がおっかねえなら、いったん死んでガラかわすんだな……」
「邑守さん!」
「はいはい」
 邑守は軽く頭を下げた。いったん死ぬ。その邑守の言葉が、俺の頭の片隅にはりついた。
 

「いけないよ、大哥」
 いきなり冷水を背中にぶっかけられたようだった。黄の声。
 店の入口に、いつのまにか黄が立っていた。
「老板の命令、絶対ね。いまなら見なかった、聞かなかったことにするから、早くその女、連れてくることね」
 畜生! あとをつけられたのか。やっぱり燕の掌からは一歩も外に出ることがかなわないのか。とんだヘマをやった。
「話、全部聞かせてもらったよ。大哥の言うこと、間違ってないね。老板の支配は絶対よ。歌舞伎町から出ようとしたら、間違いなくあの世行き。でも大哥、間違ってるところひとつ。こんなものに──」

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