おもむろに取り出した銃のケツで、黄は壁に並んだ海の写真が収められた額を叩き割った。葉子の悲鳴があがった。スツールから邑守が立ち上がった。
「なにするんだ」
誰が言ったんだ。俺か? 俺の声なのか? 俺はこんな震えた声で、いま、そう言ったのか。
「やめろよ」
「大哥、こんなものに心奪われてるから、正しい判断できないのよ」
「やめろ」
俺の声は、信じられないほどに怖かった。それでも黄は、こちらに近づきながら、一枚一枚額を叩き割っていく。
「このガキ!」
邑守が黄に飛びかかろうとした。だが、できなかった。黄のもう片方の手に、新たな銃が握られており、銃口が葉子に向いていたのだ。
「私は大哥のような魔銃じゃないけど、手先は器用よ」
邑守はそれで動けなくなった。黄は俺に、いつも通りの顔を向けてきた。
「昔、大哥がまだ人間だったころ、たくさん海を見たでしょ。それ思い出して我慢するね。思い出と命を引き替えにする馬鹿、いないよ」
「生憎だが」
俺の腹の底から、熱いマグマのようなものが吹き出してきた。
「そのへんの記憶が、ないんだよ」
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