「俺はメチャクチャか?」
黄はニッと笑った。
「ふたりで高楽雄を殺しに行くなんて考えるの、大哥だけよ。高、怖いよ。あのとき、ふたりともラッキーだったね」
「俺がメチャクチャなんじゃない。それを命令する燕白天がメチャクチャなんだ」
「老板、確かに大哥以上かもね」
黄はのどの奥で小さく笑っていた。
「だから大哥、老板には逆らわない方がいいよ。じゃないと、大哥ほんとに死ぬ。二度と生き返れないようにね」
その時だけ、黄の眼は異様だった。これが本当のこの男の目つきなのかと思わせるくらいに。
俺はドアを開けて外に出た。冬の冷気が爪先を這い上がってくる。黄が声をかけてきたが、俺は無視した。
燕は俺が「海」の客だということを知らない。俺はそれを分かっていたから、葉子のことを知らないふりでいた。燕白天の命令は絶対だ。俺が事実を隠していたと分かったら、ただではすまない。葉子のことを案じたわけではなかった。彼女がいなくなったら、あの店までなくなりそうな気がしたからかもしれない。俺にとって、あの店で海の写真を眺めることは、それだけ重要なことだった。
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